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現在、そして
2、そしての彼ら
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そうして、彼らは屋敷へと案内された。
「……こ、ここなのか?」
足を踏みいれた屋敷にて、デグは呆然と視線をさまよわせた。
彼はかなりのところ楽観していたのだ。
蟄居を命じられたところで、自らは王族なのだ。
しかるべき待遇が用意されると思い込んでいた。
そして、そこでゆるりと心労を癒やしている内に王位に復することが出来るとも思っていた。
なにせメアリなのだ。
悪女に王位が勤まるはずが無い。
その内に、貴族たちが戻ってくれと泣きついてくる。
それが自然の流れであると確信していた。
だが、違った。
まずだが、しかるべき待遇などどこにも無い。
見渡すところでは、そこは王家が暮らしても良い場所ではなかった。
玄関なのだが、彼にはそれが玄関だとは思えなかった。
2人がすれ違うのがやっとの狭さなのだ。
彼の常識では、これは玄関では無い。
通路ですらありえず、形容の言葉が思い浮かばないほどだった。
(こ、ここに暮らす……暮らす? 暮らせるのか?)
デグは呆然とするしかなかったが、彼女は違った。
彼の妻は、悲鳴に似た声を上げる。
「な、なんなのですか、これは!? 違いますよね? ここは間違いですよね!?」
その疑問に答える者があった。
開け放たれた扉の外。
衛兵を連れたキシオンが苦笑で首をすくめた。
「いえ? 間違いはありませんな。ここです。ここが貴方たちがこれから暮らすお屋敷です。どうです? なかなか居心地が良さそうでしょう?」
これにデグの息子だった。
ロイが顔を真っ赤にしての怒声を上げる。
「ふ、ふざけるなっ!! こんな馬小屋にも劣るような狭さで暮らせるかっ!! それになんだ? ボロボロではないか!? 一体どういうことだ!?」
彼の言うとおりだった。
ボロボロなのだ。
手入れをされていた気配は欠片も無い。
床は黒ずんでおり、沈んでしまっている場所もある。
匂いも最悪だった。
ホコリ臭く、カビ臭さも濃厚にある。
キシオンはニコリとほほ笑みを見せてきた。
「でしょうな。10年はそのままにされていた屋敷ですから。まぁ、直せば十分に生活にはこと足りるでしょう。もちろん、材料程度は用意させてもらいます」
は? と声が上がる。
それはデグの娘のものだ。
エミルがいぶかしげに首をかしげる。
「ざ、材料を用意する……? 何それ? まさか、修繕を私たちにやれって言ってるの?」
キシオンは引き続きの笑みだった。
「それ以外の意味に聞こえましたかな?」
「な、何よそれ!? 私たちは王家よ!? なんでそんなことをしなきゃいけないのよ!!」
「ははは、ご不満のようですな。ただ、この程度で怒っていては先がもたないかと思いますが。なにせ、これからの貴方たちは自分の身の回りのことは全て自らでこなさなければならないのですから」
家族と同様だ。
デグもまた、すぐにはその言葉の意味を理解出来なかった。
「……ど、どういうことだ? それは一体?」
率直に疑問を口にする。
キシオンは「ふん」と鼻を鳴らした上で答えてきた。
「そのままの意味です。この屋敷には使用人はおりませんから」
これはデグとその家族にとって衝撃的だった。
服を着替えるのにだって、人の手が必要。
そんな彼らにとって、使用人がいない生活など考えられなかった。
「……もういい」
ロイだった。
彼は荒々しい足取りで扉へと向かっていく。
「まったく、もういいっ! 付き合っていられるかっ! なんで俺がこんな目に会わなきゃいけないんだっ!」
当然のこと、その行動はキシオンに止められる。
そうデグは思った。
だが、現実は違う。
キシオンは不敵な笑みと共に道を開けた。
「では、ご自由にどうぞ」
そんな許しの言葉もあった。
不思議であり不気味だった。
気圧されたようにロイが立ち止まる。
次いで、デグは思わず声を上げた。
「な、なんだ? なんだその妙なふるまいは?」
キシオンは残念そうに目を細めた。
「おや? 立ち去られませんか? それは残念です。せっかく、厳罰を処す機会だったのですが」
ビクリとしてロイが後退る。
「げ、厳罰だと……?」
「えぇ。蟄居先を脱走するとなればです。それはもちろん厳罰に値すると思いませんか? 十分な前科もあるのです。城下の広場で吊らされるぐらいのことにはなるでしょうね」
そうして、キシオンだった。
執務室におけるものと同じだ。
彼は冷え冷えとした憎悪の視線を向けてきた。
「……女王陛下は貴方たちに死罪までは望まないでしょうがな。ですが、私は違います。貴方たちに相応の罰を与えてくてウズウズしている」
彼は笑みに戻った。
そして、ひらりと頭を下げてくる。
「それでは失礼いたします。ご期待に沿っていただければ幸いです」
扉が締まれば彼の姿は見えなくなった。
だが、それでも残るのだった。
絶望感が残った。
しかるべき待遇など期待出来ない。
王位に復する未来など、きっとあの男が許さない。
「……う、うぅ……」
すすり泣く声が響く。
デグの妻のものだった。
その場にしゃがみ込めば、両手で顔を覆っている。
エミルも同じだった。
泣いている。
ロイもまた歯ぎしりをもらしながらに涙をこぼしていた。
(……一体何が悪かったのだ?)
デグはそこから分からなかった。
しかし、実感はある。
自分は、このボロ屋敷で死ぬまで過ごさなければならないのだ。
デグは泣いた。
家族と共に泣き続けた。
「……こ、ここなのか?」
足を踏みいれた屋敷にて、デグは呆然と視線をさまよわせた。
彼はかなりのところ楽観していたのだ。
蟄居を命じられたところで、自らは王族なのだ。
しかるべき待遇が用意されると思い込んでいた。
そして、そこでゆるりと心労を癒やしている内に王位に復することが出来るとも思っていた。
なにせメアリなのだ。
悪女に王位が勤まるはずが無い。
その内に、貴族たちが戻ってくれと泣きついてくる。
それが自然の流れであると確信していた。
だが、違った。
まずだが、しかるべき待遇などどこにも無い。
見渡すところでは、そこは王家が暮らしても良い場所ではなかった。
玄関なのだが、彼にはそれが玄関だとは思えなかった。
2人がすれ違うのがやっとの狭さなのだ。
彼の常識では、これは玄関では無い。
通路ですらありえず、形容の言葉が思い浮かばないほどだった。
(こ、ここに暮らす……暮らす? 暮らせるのか?)
デグは呆然とするしかなかったが、彼女は違った。
彼の妻は、悲鳴に似た声を上げる。
「な、なんなのですか、これは!? 違いますよね? ここは間違いですよね!?」
その疑問に答える者があった。
開け放たれた扉の外。
衛兵を連れたキシオンが苦笑で首をすくめた。
「いえ? 間違いはありませんな。ここです。ここが貴方たちがこれから暮らすお屋敷です。どうです? なかなか居心地が良さそうでしょう?」
これにデグの息子だった。
ロイが顔を真っ赤にしての怒声を上げる。
「ふ、ふざけるなっ!! こんな馬小屋にも劣るような狭さで暮らせるかっ!! それになんだ? ボロボロではないか!? 一体どういうことだ!?」
彼の言うとおりだった。
ボロボロなのだ。
手入れをされていた気配は欠片も無い。
床は黒ずんでおり、沈んでしまっている場所もある。
匂いも最悪だった。
ホコリ臭く、カビ臭さも濃厚にある。
キシオンはニコリとほほ笑みを見せてきた。
「でしょうな。10年はそのままにされていた屋敷ですから。まぁ、直せば十分に生活にはこと足りるでしょう。もちろん、材料程度は用意させてもらいます」
は? と声が上がる。
それはデグの娘のものだ。
エミルがいぶかしげに首をかしげる。
「ざ、材料を用意する……? 何それ? まさか、修繕を私たちにやれって言ってるの?」
キシオンは引き続きの笑みだった。
「それ以外の意味に聞こえましたかな?」
「な、何よそれ!? 私たちは王家よ!? なんでそんなことをしなきゃいけないのよ!!」
「ははは、ご不満のようですな。ただ、この程度で怒っていては先がもたないかと思いますが。なにせ、これからの貴方たちは自分の身の回りのことは全て自らでこなさなければならないのですから」
家族と同様だ。
デグもまた、すぐにはその言葉の意味を理解出来なかった。
「……ど、どういうことだ? それは一体?」
率直に疑問を口にする。
キシオンは「ふん」と鼻を鳴らした上で答えてきた。
「そのままの意味です。この屋敷には使用人はおりませんから」
これはデグとその家族にとって衝撃的だった。
服を着替えるのにだって、人の手が必要。
そんな彼らにとって、使用人がいない生活など考えられなかった。
「……もういい」
ロイだった。
彼は荒々しい足取りで扉へと向かっていく。
「まったく、もういいっ! 付き合っていられるかっ! なんで俺がこんな目に会わなきゃいけないんだっ!」
当然のこと、その行動はキシオンに止められる。
そうデグは思った。
だが、現実は違う。
キシオンは不敵な笑みと共に道を開けた。
「では、ご自由にどうぞ」
そんな許しの言葉もあった。
不思議であり不気味だった。
気圧されたようにロイが立ち止まる。
次いで、デグは思わず声を上げた。
「な、なんだ? なんだその妙なふるまいは?」
キシオンは残念そうに目を細めた。
「おや? 立ち去られませんか? それは残念です。せっかく、厳罰を処す機会だったのですが」
ビクリとしてロイが後退る。
「げ、厳罰だと……?」
「えぇ。蟄居先を脱走するとなればです。それはもちろん厳罰に値すると思いませんか? 十分な前科もあるのです。城下の広場で吊らされるぐらいのことにはなるでしょうね」
そうして、キシオンだった。
執務室におけるものと同じだ。
彼は冷え冷えとした憎悪の視線を向けてきた。
「……女王陛下は貴方たちに死罪までは望まないでしょうがな。ですが、私は違います。貴方たちに相応の罰を与えてくてウズウズしている」
彼は笑みに戻った。
そして、ひらりと頭を下げてくる。
「それでは失礼いたします。ご期待に沿っていただければ幸いです」
扉が締まれば彼の姿は見えなくなった。
だが、それでも残るのだった。
絶望感が残った。
しかるべき待遇など期待出来ない。
王位に復する未来など、きっとあの男が許さない。
「……う、うぅ……」
すすり泣く声が響く。
デグの妻のものだった。
その場にしゃがみ込めば、両手で顔を覆っている。
エミルも同じだった。
泣いている。
ロイもまた歯ぎしりをもらしながらに涙をこぼしていた。
(……一体何が悪かったのだ?)
デグはそこから分からなかった。
しかし、実感はある。
自分は、このボロ屋敷で死ぬまで過ごさなければならないのだ。
デグは泣いた。
家族と共に泣き続けた。
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