【完結】悪女を押し付けられていた第一王女は、愛する公爵に処刑されて幸せを得る

甘海そら

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現在、そして

3、執務室にて

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「……あの、彼らはどうでしたか?」

 王宮の執務室である。
 メアリが問いかければ、キシオンは苦笑で首をすくめてきた。

「どうもこうも無いですね。彼らは彼らでした。反省の素振りなどまるで無し。ただ、脅しつけてはおいたので、妙な振る舞いはしないかと思われます」

 メアリは頷きを返す。
 それで十分だった。
 彼らには今までへの後悔などもはや期待していない。
 何もしない以上のことを求めるつもりは無かった。

「しかし、陛下? よろしいですか?」

 不思議そうに首をかしげてのキシオンだった。
 メアリは家族のことを忘れて、首をかしげ返す。

「はい? あの、何かありましたか?」

「えぇ。不思議と言えば不思議な光景が目の前に。何故、壁際なんです? 何故、そんなところで立ち尽くしておられるので?」

 納得の疑問の声だった。
 ここは執務室であり、もちろん執務用の机と椅子がある。
 しかし、メアリは壁際で控えていた。
 その理由はと言えば、

「……えーと、ちょっと身構えてしまうところがありまして」

 メアリは執務机を横目にしながらキシオンに苦笑を返す。
 彼は一瞬「ん?」と首をかしげた上で、「あぁ」と頷きを見せた。

「そういうことですか。ある種、象徴的に感じたと? そこに座る意味をお考えになったと?」

「……はい。あそこに座るということは、つまりそういうことですから」

 女王としてこの国の政務を執る。
 そのことを思うと、おいそれとは腰を下ろせなかったのだ。

 キシオンは苦笑を見せてきた。

「まぁ、そこに座る意味が分からないよりは、はるかに良いでしょうが……いや、そういうわけにはいかないでしょうとも」

 彼は執務机に歩み寄った。
 椅子を引けば、ニヤリだ。
 メアリに楽しそうに笑みを見せ、椅子を手のひらで指し示して来る。

「では、陛下。陛下の女王としての第一歩。このキシオン・シュラネスが見届けさせていただきましょう」

 こうなると、立ち尽くしてはいられなかった。

 諦めて椅子に近づく。
 革張りのされた、格調高い執務椅子。
 王位にある者が座るそこに、メアリはゆっくりと腰を下ろし……思わず苦笑だった。

「何もありませんね?」

 なんてことは無い、普通の椅子の感覚だった。
 とりたての感慨も無い。
 キシオンは「ははは」と楽しげな笑い声を上げてきた。

「それはそうでしょうとも。これ自体はただの椅子ですから」

「ふふ。ですね。本当にそうです」

「はい。女王としての実感は、家臣や国民に女王として向き合ってこそでしょうとも。しかし……本当に良かったです」

 メアリは彼を見上げる。
 キシオンは優しげな笑みを浮かべていた。

「本当、良かったです。ようやく貴女は、貴女にふさわしい立場を得ることになりました」

 メアリはもちろん笑みを返すことになった。

「……ありがとうございます。これが私にふさわしい立場とはちょっと思えませんが」

「ははは。貴女らしい返答ですけど、これで少なくともあのバカ共に悪行を押し付けられることは無くなりましたからね。いやぁ、本当に良かった」

 自分のことのようにという表現がこれほど似合う笑顔は無かった。

 キシオンは屈託ない笑顔で祝福してくれた。
 嬉しかった。
 心の底から嬉しかった。
 しかし、その一方だ。
 彼のおかげでこの状況がある。
 そのことを思うと、どうにもメアリは首をかしげざるを得なかった。

「あー、んん? 一体どうしました?」

 彼に不思議そうに尋ねられたので、せっかくだった。
 胸中の疑問をメアリはキシオンに尋ねることにした。

 「……ここまでのこと。かなり大変でしたよね?」

 キシオンは不思議そうな表情のままに頷きを見せてくる。

「まぁ、はい。下準備はそれなりに。親父殿に納得して法務卿を譲ってもらうのもけっこう骨が折れましたしね」

「……何故です?」

「はい?」

「何故なんです? なんで、私のためなんかにここまでのことをしてくれたのですか?」

 それがはなはだ疑問だったのだ。
 別れてからの4年。
 その少なくない歳月を彼は自分のためにと費やしてくれた。
 それは一体何故なのか?

 にわかに返答は無かった。
 彼は大きく目を丸くしていた。
 その表情のまま、頭を左にゆらり、右にゆらりとして、さらにはアゴをさすって、考えこむように天井を見上げ、

「……え?」

 そんな呟きを漏らし、彼は真顔でメアリを見つめてきた。

「……あの、本気ですか? え、本気でおっしゃってます? 俺が何故貴女を助けたかとか本気で疑問に思っていらっしゃいます? え、本気で察しもついていない感じです?」

 その問いかけには妙な迫力があった。
 メアリはのけぞりながらに頷きを見せることになる。

「は、はい。ほ、本気の疑問ですが」

「……ほぉ」

 キシオンは何故か力なく目元を手のひらで覆った。

「……そうでしたか。言葉よりも行動派の俺ですが、そうか。これだけやっても伝わらないことはあったか。そうか、なるほど。そうかぁ……」

 キシオンは不思議な嘆きを見せてきたが、とにかくそうなのだ。
 疑問でしかないのだ。
 メアリはあらためて彼に尋ねかける。

「どうしてなのですか? 10年前に声をかけてもらった時から不思議だったのです。どうして私のことなんかを気にしてくれたのですか?」

 キシオンは顔から手を下ろせば、「まぁ」と頷きを見せてきた。
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