【完結】悪女を押し付けられていた第一王女は、愛する公爵に処刑されて幸せを得る

甘海そら

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現在、そして

1、女王として

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【──現在】

 そう、全てはキシオンのおかげだった。
 
 よってメアリはここにいた。
 生きて執務室に立っている。
 生きて、悪女であった自らの責任に向かい合うことになっている。

 メアリは一歩前に出る。
 その先には対立すべき家族がいる。
 
 全員が顔を蒼白にしていた。
 父も母も、兄も妹もだ。
 最悪の予感があればに違いなかった。
 もちろん、その予感は正しいものであり、それを告げるためにメアリはここにいる。

 簡単なことでは無かった。
 自らを悪女として喰い物にしてきた彼らと対峙する。
 鼓動は早鐘を打つようであり、手足には震えが如実にある。
 
 だが、視界にはキシオンの姿があった。
 彼が笑いかけてくれば、メアリはひかえめにだが笑みを返す。

(……そうですね)

 自分には彼がいるのだ。
 メアリは一度深呼吸をする。
 震えは止まった。
 家族を視界に収める。
 そして、静かに口を開く。

「……私から言えることは1つです。これがブラント王国、その家臣ら国民の決定です。粛々として、その意に従って下さい」

 表舞台から退けば、屋敷の内にてその一生を過ごせ。
 そういうことだった。
 すでにキシオンが伝えていれば、十分に理解しているはずだった。
 そして、この状況で頷く以外の選択肢は無い。
 そうとも彼らは理解しているはずだった。
 
 だが、

「……な、なんということでしょう! 嬉しいです、お姉様! まさか生きていて下さるなんて!」

 不意にだ。
 妹が引きつった笑みで喜びを叫んだ。
 それをきっかけにしてだろう。
 家族は次々に出来損ないの笑みを浮かべる。

「そ、そうだ! メアリ、よくぞ生きていてくれた! 兄は嬉しいぞ!」

 兄が続く。
 次は母だった。

「本当にそう! 母としてこんなに嬉しいことはないわ!」

 そして、父だった。

「これは奇跡だっ! 嬉しいぞ、メアリっ! お前に再び会えるとは……っ!」

 藁にもすがる思い。
 そうに違いなかった。

 キシオンはどうにも手強い。
 だが、メアリを籠絡さえ出来れば窮地を脱するのではないか?
 そう期待しているに違いなかった。

(……この人たちは)

 懐柔する笑みを浮かべている家族たち。
 彼らにメアリが覚えたものは、当然喜びなどではない。
 かと言って、怒りでも無い。
 ただただである。
 ただただメアリは……心の底から悲しかった。

「……悪いとは思っていないのですか?」

 ポツリと問いかけることになる。
 父は「へ?」と声をもらした上で、慌てたように頷きを見せる。

「あ、あぁ、そうだな。お前にはその、多少……悪いことをしたような気はする。だが許してくれるな? 家族であればな? な?」

 残りの家族も口々に謝罪を口にしてきた。
 許してくれ。
 本心じゃなかった。
 本当は悪いと思っていた。

 言い訳以外の何物でもなかったが、それはどうでもいいことだった。
 悲しくもあり、無性に寂しかった。
 メアリは彼らに首を左右にして見せる。

「……違います。それは違います。貴方たちが口にすべきはそれでは無いはずです」

 どうやら分かってはくれていないらしい。
 家族たちは困惑の表情で顔を見合わせている。
 
「ど、どういうことなのだ? お前は何を言っている?」

 デグが首をかしげて問いを発してきた。
 その心底困っている様子にメアリは……もはや我慢出来なかった。

「……な、なんで? なんでそうなるのですか!? 違いますよね!? 私のことなどどうでもいいのです!! 貴方たちは何故今排除されようとしているのか理解しているのですか!?」

 彼らは首をかしげるばかりだった。
 その様子に、メアリは思わず泣きそうにながらに言葉を続けることになる。

「貴方たちには見えていないのですか!? 私の背後で、家臣の皆様がどんな顔をされているのか? 想像出来ないのですか? 貴方たちの行いに国民の方々がどんな思いを抱いているのか?」

 これでも分かった様子は無かった。
 メアリは声を振り絞ることになる。

「全ての人々の期待を裏切ったからですっ!! だからこそ、貴方たちはこのようなことになっていると言うのに……すべきことは私に媚びることでしたか? 違いますよね? 真っ先にすべきは、国民への反省の弁を述べることでした。それを貴方たちは……っ!!」

 結局、無駄のようだった。
 彼らは戸惑っていた。
 何故自分たちが叱られているのか分からない。
 そんな子供の表情でうろたえていた。

 メアリはいよいよ泣きたくなった。
 こんな私利私欲の塊が自分の家族である。
 血のつながった紛れもない家族である。
 分かりきっていたことではあった。
 だが、そのことが妙に虚しく悲しいものに思えたのだ。
 
 不意にだった。

 肩に暖かい感触があった。
 隣を向けば、そこにはキシオンがいた。
 彼は呆れの表情で首を左右にしてくる。

 無駄だと、そういう意味に違いなかった。
 メアリは頷きを見せる。
 これ以上、言葉を費やす意味など無かった。
 口にすべきものがあるとすれば、それは1つだ。
 
 メアリは荒い息を整えれば、彼らをにらみつける。

「……私がその器だとは思っていません。ですが、貴方たちにこの国を任せるわけにはいかない。蟄居ちっきょしなさい。これは命令です。女王としての私の命令です」
 
 ようやく悟ってくれたようだった。

 自分たちに助かる道はない。
 彼らは一様に絶望の表情で黙り込んだ。
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