27 / 29
現在、そして
4、女王としての今後
しおりを挟む
「それは、理由がしっかりとありますが……あの? 10年前? 一体なんの話で?」
キシオンは首をかしげてきたが、確かに10年前。
曖昧すぎたかとメアリは慌てて口を開く。
「え、えーと、初対面の時です。確か、夜会でしたでしょうか? 私が1人でいた時に、貴方が声をかけてくれたと思いますが」
そんな記憶だった。
しかし、キシオンだ。
ん? と大きくを首をひねってきた。
「俺にもそんな記憶はありますが……なんだか、かなり美化されていませんか?」
「え?」
「どうにも、1人で寂しくされていた貴女に、俺が親切から声をかけたように聞こえますが」
メアリは目を丸くすれば首をかしげることになる。
「……あれ? 違いました?」
「全然です。あの時は、親父殿に怒られたばっかりだったので。夜会だからってはしゃぐなと。貴女に声をかけたのはその腹いせですかね。目についたからって、本当それだけです」
10年越しの思わぬ真実だった。
かつてから、メアリは目つきが鋭く、雰囲気は陰気だった。
当然、夜会では孤立していた。
そんな自分を、優しいキシオンが気にかけてくれたのだとばっかり思っていたが、
「そ、そうだったんですか」
「そうです。でも、そうですか。だから貴女はあんな反応だったわけで」
「あんな……ですか?」
自分は一体どんな反応をしただろうか。
記憶を探っていると、キシオンは腕組みでどこか感慨深げに尋ねてくる。
「確かですが、君も目つき悪いなって俺は悪態つきましたよね?」
「えーと、確か」
「そうしましたら、貴女はうんと頷いて控えめな笑みで自身を指差して……まぁ、あれでしょうね。あの笑顔が見ていたくて、俺はずっと……」
不意にだ。
キシオンは真剣な眼差しを向けてきた。
「それで、貴女はどうされるのですか?」
彼のどこか意味深な発言に意識を奪われていたのだった。
尋ねられて、メアリは慌てて声を上げる。
「え、えーと、どうするですか? それは何の話で?」
「一応、尋ねておく必要があるかと思いまして。貴女はこのまま女王を続けられるのですか?」
メアリは一瞬目を丸くすることになる。
だが、すぐに驚きの表情はほほ笑みへと変わることになった。
「……顔に書いてありました?」
キシオンは苦笑で首をかたむけてくる。
「いえ? ただ、先ほど自分が女王にはふさわしいとは思えないっておっしゃっていましたよね? なにか貴女らしい考えがあるんじゃないかと思いまして」
理解してもらえている。
そのことが嬉しければ笑みを深めることになる。
「……はい。ちょっと考えていることがあります。あの、キシオン? 貴方は、私が女王にふさわしいって思えますか?」
彼は苦笑を深めるのだった。
「貴女ほど女王にふさわしい人はいない。そう口にさせていただきたいところですが……」
「違う?」
「ちょっと優しすぎます。本来であれば国王は、諸侯、国民のあらゆる要求にさらされるものです。貴女はそれらに真摯に向き合い過ぎてしまうでしょうし、その分だけ時間が浪費されれば、多くの問題が取り残されることになるでしょう」
厳しすぎる意見だったと思ったのかもしれない。
キシオンは「いや?」と口にして、笑みで軽く首をかたむける。
「しかし、はい。あのバカ王よりははるかに良いでしょうけどね。ただ、えぇ。すみません。貴女が素晴らしい女王になれるかと聞かれましたら、俺は首を横に振ることしか出来ません」
キシオンは少しばかり申し訳なさそうに眉をひそめていた。
もちろん彼に罪は無く、さらには納得しかなかった。
メアリはほほ笑みと共に首を左右にする。
「素直に言ってくれてありがとうございます。私も同じです。優しすぎるかは分からないですけど、私も自分が女王にふさわしいなんて思えません」
「左様ですか。それでどうなんです? 女王にふさわしくない貴女にある考えというのは?」
「まず、すべきことをしたいと思っています。私と、私の家族が迷惑をかけた分だけの償いはしたいと」
キシオンは呆れの濃い苦笑を見せてきた。
「まーた、悪い意味で貴女らしいですね。ただ、本題はその後ですか」
「はい。王位から退きたいと思っています」
反応をうかがう。
キシオンは目を細めての微笑だった。
「なるほど。ふさわしい人物に心当たりの方は?」
「それはまだ。なので、明日明後日の話ではありません。悪女としての清算をして、ふさわしい人物を見つけ、その人物に王位を同意していただいて……それでやっとの話になります」
ともあれ、それがメアリの意思だった。
ふさわしい人物に王位を託す。
それが自身の女王としての最大の仕事であると思っていた。
彼も同意してくれるようだった。
微笑のままに頷きを見せてくれた。
「それがよろしいでしょうな。まぁ、それも簡単な話では無いでしょうが。人物としての出来はもちろん、諸侯にも派閥というものがありますからな。円滑に認められる人物というものはなかなか」
「覚悟はしています。それであの……キシオン?」
上目遣いにうかがうことになる。
彼は心得たものだった。
笑みを深めてくれた。
「それはもちろん。協力させていただきますよ」
メアリはほっと一息をつくことになる。
「ありがとうございます。すみません、何から何まで」
キシオンは首を左右にしてきた。
「いえ、毒をくらわばではありませんがね。これは当然のことですし、正直はい。俺にとっても、その方が都合は良いですし」
メアリは首をかしげてキシオンを見上げることになる。
キシオンは首をかしげてきたが、確かに10年前。
曖昧すぎたかとメアリは慌てて口を開く。
「え、えーと、初対面の時です。確か、夜会でしたでしょうか? 私が1人でいた時に、貴方が声をかけてくれたと思いますが」
そんな記憶だった。
しかし、キシオンだ。
ん? と大きくを首をひねってきた。
「俺にもそんな記憶はありますが……なんだか、かなり美化されていませんか?」
「え?」
「どうにも、1人で寂しくされていた貴女に、俺が親切から声をかけたように聞こえますが」
メアリは目を丸くすれば首をかしげることになる。
「……あれ? 違いました?」
「全然です。あの時は、親父殿に怒られたばっかりだったので。夜会だからってはしゃぐなと。貴女に声をかけたのはその腹いせですかね。目についたからって、本当それだけです」
10年越しの思わぬ真実だった。
かつてから、メアリは目つきが鋭く、雰囲気は陰気だった。
当然、夜会では孤立していた。
そんな自分を、優しいキシオンが気にかけてくれたのだとばっかり思っていたが、
「そ、そうだったんですか」
「そうです。でも、そうですか。だから貴女はあんな反応だったわけで」
「あんな……ですか?」
自分は一体どんな反応をしただろうか。
記憶を探っていると、キシオンは腕組みでどこか感慨深げに尋ねてくる。
「確かですが、君も目つき悪いなって俺は悪態つきましたよね?」
「えーと、確か」
「そうしましたら、貴女はうんと頷いて控えめな笑みで自身を指差して……まぁ、あれでしょうね。あの笑顔が見ていたくて、俺はずっと……」
不意にだ。
キシオンは真剣な眼差しを向けてきた。
「それで、貴女はどうされるのですか?」
彼のどこか意味深な発言に意識を奪われていたのだった。
尋ねられて、メアリは慌てて声を上げる。
「え、えーと、どうするですか? それは何の話で?」
「一応、尋ねておく必要があるかと思いまして。貴女はこのまま女王を続けられるのですか?」
メアリは一瞬目を丸くすることになる。
だが、すぐに驚きの表情はほほ笑みへと変わることになった。
「……顔に書いてありました?」
キシオンは苦笑で首をかたむけてくる。
「いえ? ただ、先ほど自分が女王にはふさわしいとは思えないっておっしゃっていましたよね? なにか貴女らしい考えがあるんじゃないかと思いまして」
理解してもらえている。
そのことが嬉しければ笑みを深めることになる。
「……はい。ちょっと考えていることがあります。あの、キシオン? 貴方は、私が女王にふさわしいって思えますか?」
彼は苦笑を深めるのだった。
「貴女ほど女王にふさわしい人はいない。そう口にさせていただきたいところですが……」
「違う?」
「ちょっと優しすぎます。本来であれば国王は、諸侯、国民のあらゆる要求にさらされるものです。貴女はそれらに真摯に向き合い過ぎてしまうでしょうし、その分だけ時間が浪費されれば、多くの問題が取り残されることになるでしょう」
厳しすぎる意見だったと思ったのかもしれない。
キシオンは「いや?」と口にして、笑みで軽く首をかたむける。
「しかし、はい。あのバカ王よりははるかに良いでしょうけどね。ただ、えぇ。すみません。貴女が素晴らしい女王になれるかと聞かれましたら、俺は首を横に振ることしか出来ません」
キシオンは少しばかり申し訳なさそうに眉をひそめていた。
もちろん彼に罪は無く、さらには納得しかなかった。
メアリはほほ笑みと共に首を左右にする。
「素直に言ってくれてありがとうございます。私も同じです。優しすぎるかは分からないですけど、私も自分が女王にふさわしいなんて思えません」
「左様ですか。それでどうなんです? 女王にふさわしくない貴女にある考えというのは?」
「まず、すべきことをしたいと思っています。私と、私の家族が迷惑をかけた分だけの償いはしたいと」
キシオンは呆れの濃い苦笑を見せてきた。
「まーた、悪い意味で貴女らしいですね。ただ、本題はその後ですか」
「はい。王位から退きたいと思っています」
反応をうかがう。
キシオンは目を細めての微笑だった。
「なるほど。ふさわしい人物に心当たりの方は?」
「それはまだ。なので、明日明後日の話ではありません。悪女としての清算をして、ふさわしい人物を見つけ、その人物に王位を同意していただいて……それでやっとの話になります」
ともあれ、それがメアリの意思だった。
ふさわしい人物に王位を託す。
それが自身の女王としての最大の仕事であると思っていた。
彼も同意してくれるようだった。
微笑のままに頷きを見せてくれた。
「それがよろしいでしょうな。まぁ、それも簡単な話では無いでしょうが。人物としての出来はもちろん、諸侯にも派閥というものがありますからな。円滑に認められる人物というものはなかなか」
「覚悟はしています。それであの……キシオン?」
上目遣いにうかがうことになる。
彼は心得たものだった。
笑みを深めてくれた。
「それはもちろん。協力させていただきますよ」
メアリはほっと一息をつくことになる。
「ありがとうございます。すみません、何から何まで」
キシオンは首を左右にしてきた。
「いえ、毒をくらわばではありませんがね。これは当然のことですし、正直はい。俺にとっても、その方が都合は良いですし」
メアリは首をかしげてキシオンを見上げることになる。
43
あなたにおすすめの小説
殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!
さくら
恋愛
王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。
――でも、リリアナは泣き崩れなかった。
「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」
庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。
「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」
絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。
「俺は、君を守るために剣を振るう」
寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。
灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。
【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜
よどら文鳥
恋愛
伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。
二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。
だがある日。
王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。
ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。
レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。
ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。
もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。
そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。
だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。
それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……?
※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。
※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)
【完結】恋が終わる、その隙に
七瀬菜々
恋愛
秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。
伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。
愛しい彼の、弟の妻としてーーー。
復縁は絶対に受け入れません ~婚約破棄された有能令嬢は、幸せな日々を満喫しています~
水空 葵
恋愛
伯爵令嬢のクラリスは、婚約者のネイサンを支えるため、幼い頃から血の滲むような努力を重ねてきた。社交はもちろん、本来ならしなくても良い執務の補佐まで。
ネイサンは跡継ぎとして期待されているが、そこには必ずと言っていいほどクラリスの尽力があった。
しかし、クラリスはネイサンから婚約破棄を告げられてしまう。
彼の隣には妹エリノアが寄り添っていて、潔く離縁した方が良いと思える状況だった。
「俺は真実の愛を見つけた。だから邪魔しないで欲しい」
「分かりました。二度と貴方には関わりません」
何もかもを諦めて自由になったクラリスは、その時間を満喫することにする。
そんな中、彼女を見つめる者が居て――
◇5/2 HOTランキング1位になりました。お読みいただきありがとうございます。
※他サイトでも連載しています
熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください。私は、堅実に生きさせてもらいますので。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるアルネアには、婚約者がいた。
しかし、ある日その彼から婚約破棄を告げられてしまう。なんでも、アルネアの妹と婚約したいらしいのだ。
「熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください」
身勝手な恋愛をする二人に対して、アルネアは呆れていた。
堅実に生きたい彼女にとって、二人の行いは信じられないものだったのである。
数日後、アルネアの元にある知らせが届いた。
妹と元婚約者の間で、何か事件が起こったらしいのだ。
婚約破棄されました。
まるねこ
恋愛
私、ルナ・ブラウン。歳は本日14歳となったところですわ。家族は父ラスク・ブラウン公爵と母オリヴィエ、そして3つ上の兄、アーロの4人家族。
本日、私の14歳の誕生日のお祝いと、婚約者のお披露目会を兼ねたパーティーの場でそれは起こりました。
ド定番的な婚約破棄からの恋愛物です。
習作なので短めの話となります。
恋愛大賞に応募してみました。内容は変わっていませんが、少し文を整えています。
ふんわり設定で気軽に読んでいただければ幸いです。
Copyright©︎2020-まるねこ
【完結】大好きな婚約者の運命の“赤い糸”の相手は、どうやら私ではないみたいです
Rohdea
恋愛
子爵令嬢のフランシスカには、10歳の時から婚約している大好きな婚約者のマーカスがいる。
マーカスは公爵家の令息で、子爵令嬢の自分とは何もかも釣り合っていなかったけれど、
とある理由により結ばれた婚約だった。
それでもマーカスは優しい人で婚約者として仲良く過ごして来た。
だけど、最近のフランシスカは不安を抱えていた。
その原因はマーカスが会長を務める生徒会に新たに加わった、元平民の男爵令嬢。
彼女の存在がフランシスカの胸をざわつかせていた。
そんなある日、酷いめまいを起こし倒れたフランシスカ。
目覚めた時、自分の前世とこの世界の事を思い出す。
──ここは乙女ゲームの世界で、大好きな婚約者は攻略対象者だった……
そして、それとは別にフランシスカは何故かこの時から、ゲームの設定にもあった、
運命で結ばれる男女の中で繋がっているという“赤い糸”が見えるようになっていた。
しかし、フランシスカとマーカスの赤い糸は……
なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい
木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」
私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。
アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。
これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。
だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。
もういい加減、妹から離れたい。
そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。
だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる