【完結】悪女を押し付けられていた第一王女は、愛する公爵に処刑されて幸せを得る

甘海そら

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現在、そして

4、女王としての今後

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「それは、理由がしっかりとありますが……あの? 10年前? 一体なんの話で?」

 キシオンは首をかしげてきたが、確かに10年前。
 曖昧すぎたかとメアリは慌てて口を開く。

「え、えーと、初対面の時です。確か、夜会でしたでしょうか? 私が1人でいた時に、貴方が声をかけてくれたと思いますが」

 そんな記憶だった。
 しかし、キシオンだ。
 ん? と大きくを首をひねってきた。

「俺にもそんな記憶はありますが……なんだか、かなり美化されていませんか?」

「え?」

「どうにも、1人で寂しくされていた貴女に、俺が親切から声をかけたように聞こえますが」

 メアリは目を丸くすれば首をかしげることになる。

「……あれ? 違いました?」

「全然です。あの時は、親父殿に怒られたばっかりだったので。夜会だからってはしゃぐなと。貴女に声をかけたのはその腹いせですかね。目についたからって、本当それだけです」

 10年越しの思わぬ真実だった。
 かつてから、メアリは目つきが鋭く、雰囲気は陰気だった。
 当然、夜会では孤立していた。
 そんな自分を、優しいキシオンが気にかけてくれたのだとばっかり思っていたが、

「そ、そうだったんですか」

「そうです。でも、そうですか。だから貴女はあんな反応だったわけで」

「あんな……ですか?」

 自分は一体どんな反応をしただろうか。
 記憶を探っていると、キシオンは腕組みでどこか感慨深げに尋ねてくる。

「確かですが、君も目つき悪いなって俺は悪態つきましたよね?」

「えーと、確か」

「そうしましたら、貴女はうんと頷いて控えめな笑みで自身を指差して……まぁ、あれでしょうね。あの笑顔が見ていたくて、俺はずっと……」

 不意にだ。
 キシオンは真剣な眼差しを向けてきた。

「それで、貴女はどうされるのですか?」

 彼のどこか意味深な発言に意識を奪われていたのだった。
 尋ねられて、メアリは慌てて声を上げる。

「え、えーと、どうするですか? それは何の話で?」

「一応、尋ねておく必要があるかと思いまして。貴女はこのまま女王を続けられるのですか?」

 メアリは一瞬目を丸くすることになる。
 だが、すぐに驚きの表情はほほ笑みへと変わることになった。

「……顔に書いてありました?」

 キシオンは苦笑で首をかたむけてくる。

「いえ? ただ、先ほど自分が女王にはふさわしいとは思えないっておっしゃっていましたよね? なにか貴女らしい考えがあるんじゃないかと思いまして」

 理解してもらえている。
 そのことが嬉しければ笑みを深めることになる。

「……はい。ちょっと考えていることがあります。あの、キシオン? 貴方は、私が女王にふさわしいって思えますか?」

 彼は苦笑を深めるのだった。

「貴女ほど女王にふさわしい人はいない。そう口にさせていただきたいところですが……」

「違う?」

「ちょっと優しすぎます。本来であれば国王は、諸侯、国民のあらゆる要求にさらされるものです。貴女はそれらに真摯に向き合い過ぎてしまうでしょうし、その分だけ時間が浪費されれば、多くの問題が取り残されることになるでしょう」

 厳しすぎる意見だったと思ったのかもしれない。
 キシオンは「いや?」と口にして、笑みで軽く首をかたむける。

「しかし、はい。あのバカ王よりははるかに良いでしょうけどね。ただ、えぇ。すみません。貴女が素晴らしい女王になれるかと聞かれましたら、俺は首を横に振ることしか出来ません」

 キシオンは少しばかり申し訳なさそうに眉をひそめていた。
 もちろん彼に罪は無く、さらには納得しかなかった。
 メアリはほほ笑みと共に首を左右にする。

「素直に言ってくれてありがとうございます。私も同じです。優しすぎるかは分からないですけど、私も自分が女王にふさわしいなんて思えません」

「左様ですか。それでどうなんです? 女王にふさわしくない貴女にある考えというのは?」

「まず、すべきことをしたいと思っています。私と、私の家族が迷惑をかけた分だけの償いはしたいと」

 キシオンは呆れの濃い苦笑を見せてきた。

「まーた、悪い意味で貴女らしいですね。ただ、本題はその後ですか」

「はい。王位から退きたいと思っています」

 反応をうかがう。
 キシオンは目を細めての微笑だった。

「なるほど。ふさわしい人物に心当たりの方は?」

「それはまだ。なので、明日明後日の話ではありません。悪女としての清算をして、ふさわしい人物を見つけ、その人物に王位を同意していただいて……それでやっとの話になります」

 ともあれ、それがメアリの意思だった。
 ふさわしい人物に王位を託す。
 それが自身の女王としての最大の仕事であると思っていた。

 彼も同意してくれるようだった。
 微笑のままに頷きを見せてくれた。

「それがよろしいでしょうな。まぁ、それも簡単な話では無いでしょうが。人物としての出来はもちろん、諸侯にも派閥というものがありますからな。円滑に認められる人物というものはなかなか」

「覚悟はしています。それであの……キシオン?」

 上目遣いにうかがうことになる。
 彼は心得たものだった。
 笑みを深めてくれた。

「それはもちろん。協力させていただきますよ」

 メアリはほっと一息をつくことになる。

「ありがとうございます。すみません、何から何まで」

 キシオンは首を左右にしてきた。

「いえ、毒をくらわばではありませんがね。これは当然のことですし、正直はい。俺にとっても、その方が都合は良いですし」

 メアリは首をかしげてキシオンを見上げることになる。
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