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4、友人
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「……ふふ、あははは。な、なんですか、それ? そんな物言いってあります?」
ケネスは仏頂面で首をかしげてきた。
「無しだと思うか?」
「ふふふ、そりゃ無しですよ。歯にきぬ着せぬって言うか、偉そうって言うか、無駄に反感を買いそうって言うか……本当、ちっともお変わりじゃありませんね」
セリアは笑顔で学院時代を懐かしむことになった。
彼はいつもこうだったのだ。
上流貴族にありがちな、迂遠でかしこまったふるまいなど欠片も無かった。
率直で無愛想で偉そうで。
そんな彼は「ふむ」としかめ面であごさすった。
「まぁ、それはお前もだがな。ユーガルド公爵閣下に対して、偉そうなとはなかなかの物言いだぞ?」
「ははは、仕方ないじゃありませんか。だって、ケネス様なんですから。しかし、大丈夫ですか? 文官の方々に嫌われていたりは?」
「まーた不躾な物言いだな。心配するな。むしろ働き過ぎだと諌められているぐらいだからな。だからこそ、こんな振る舞いも許されるわけだ」
セリアは笑みで首をかしげる。
「えー? 本当ですか? 本当に許されてます?」
「疑うな。本当以外の何物でも無いが……しかし、俺のことはいいんだよ。お前だよ、お前。せっかく人払いをして、時間も作ってやったんだ。もったいぶらずにさっさと言え」
セリアは笑みを苦笑に変えることになった。
(この人って、本当損してるよなぁ)
偏屈で無愛想な男。
そんな周囲の評価とは裏腹に、実はこうして気づかいの人なのだ。
内務卿などを任されていることからして、しかるべきところからは評価はされているのだろう。
だがやはり、その点はもったいないようにセリアには思えて仕方がなかった。
ともあれ、こうも気づかいをされてしまったのだ。
無下にはしにくかった。
セリアは苦笑のままで口を開く。
「あー、その……じゃあ素直に話させていただきます。あの、笑わないで下さいね?」
「なんだ? それは俺に大笑いをさせられる自信がある話なのか?」
「えーと、あるいはそうなるかもです。私なんですけど……あの、婚約を破棄されちゃいまして」
ケネスは真顔で首をかしげてきた。
「……は? 婚約を破棄?」
「はい。それで家を追い出されることにも」
「……追い出された? お前がか?」
「それはもちろん」
ケネスは「ふむ」と呟いて腕組みをした。
「とりあえずだが言わせてもらうぞ。今の話に笑える要素がどこにあった?」
「だって情けない話じゃないですか」
「情けないも何も意味が分からん。どうしてそうなった? ヤルス家を立て直した女丈夫が何故そんな目にあわされている?」
あまり思い出したくは無いことだったが、打ち明けた手前セリアは苦笑で答えることになる。
「多分ですけど、私の婚約者に妹が恋しちゃったみたいで」
「まさかだが、それでお前を追い出そうってなったのか?」
相変わらず賢明な人でもあった。
セリアは苦笑を濃くして頷く。
「そうみたいです。私のやってきたことは全部あの子がしてきたことってなって、私は今まで遊び呆けたことになっていて」
「それで婚約破棄に勘当か? おい、なんだ? そんな与太話を、お前の両親と婚約者は本当に信じたのか?」
「みたいです。両親はあの子のことを溺愛していましたから。婚約者殿も、日頃会うことの無い私よりもあの子の方が良かったんでしょうね」
ケネスは嘆かわしげだった。
眉間に深い谷を作って、「はぁ」と大きく息をついた。
「そいつはまったく。あまりお前の身内についてこういうことは言いたくないが……なんだ? お前の家族にはバカしかいないのか?」
同意はしにくかったが、正直嬉しかった。
セリアは小さく笑みを浮かべる。
「ははは。まぁ、私もその一員なんですけどね」
「安心しとけ。お前がその例外であることは俺が保証してやる。しかし、どうする?」
「え?」
「俺はユーガルド公爵にして内務卿閣下だ。俺が怒鳴りつけてやれば、お前の家族も気を変えるとは思うが」
やはりこの人は優しい。
嬉しかった。
だが、セリアはこの申し出に笑顔で首を左右にする。
ケネスは仏頂面で首をかしげてきた。
「無しだと思うか?」
「ふふふ、そりゃ無しですよ。歯にきぬ着せぬって言うか、偉そうって言うか、無駄に反感を買いそうって言うか……本当、ちっともお変わりじゃありませんね」
セリアは笑顔で学院時代を懐かしむことになった。
彼はいつもこうだったのだ。
上流貴族にありがちな、迂遠でかしこまったふるまいなど欠片も無かった。
率直で無愛想で偉そうで。
そんな彼は「ふむ」としかめ面であごさすった。
「まぁ、それはお前もだがな。ユーガルド公爵閣下に対して、偉そうなとはなかなかの物言いだぞ?」
「ははは、仕方ないじゃありませんか。だって、ケネス様なんですから。しかし、大丈夫ですか? 文官の方々に嫌われていたりは?」
「まーた不躾な物言いだな。心配するな。むしろ働き過ぎだと諌められているぐらいだからな。だからこそ、こんな振る舞いも許されるわけだ」
セリアは笑みで首をかしげる。
「えー? 本当ですか? 本当に許されてます?」
「疑うな。本当以外の何物でも無いが……しかし、俺のことはいいんだよ。お前だよ、お前。せっかく人払いをして、時間も作ってやったんだ。もったいぶらずにさっさと言え」
セリアは笑みを苦笑に変えることになった。
(この人って、本当損してるよなぁ)
偏屈で無愛想な男。
そんな周囲の評価とは裏腹に、実はこうして気づかいの人なのだ。
内務卿などを任されていることからして、しかるべきところからは評価はされているのだろう。
だがやはり、その点はもったいないようにセリアには思えて仕方がなかった。
ともあれ、こうも気づかいをされてしまったのだ。
無下にはしにくかった。
セリアは苦笑のままで口を開く。
「あー、その……じゃあ素直に話させていただきます。あの、笑わないで下さいね?」
「なんだ? それは俺に大笑いをさせられる自信がある話なのか?」
「えーと、あるいはそうなるかもです。私なんですけど……あの、婚約を破棄されちゃいまして」
ケネスは真顔で首をかしげてきた。
「……は? 婚約を破棄?」
「はい。それで家を追い出されることにも」
「……追い出された? お前がか?」
「それはもちろん」
ケネスは「ふむ」と呟いて腕組みをした。
「とりあえずだが言わせてもらうぞ。今の話に笑える要素がどこにあった?」
「だって情けない話じゃないですか」
「情けないも何も意味が分からん。どうしてそうなった? ヤルス家を立て直した女丈夫が何故そんな目にあわされている?」
あまり思い出したくは無いことだったが、打ち明けた手前セリアは苦笑で答えることになる。
「多分ですけど、私の婚約者に妹が恋しちゃったみたいで」
「まさかだが、それでお前を追い出そうってなったのか?」
相変わらず賢明な人でもあった。
セリアは苦笑を濃くして頷く。
「そうみたいです。私のやってきたことは全部あの子がしてきたことってなって、私は今まで遊び呆けたことになっていて」
「それで婚約破棄に勘当か? おい、なんだ? そんな与太話を、お前の両親と婚約者は本当に信じたのか?」
「みたいです。両親はあの子のことを溺愛していましたから。婚約者殿も、日頃会うことの無い私よりもあの子の方が良かったんでしょうね」
ケネスは嘆かわしげだった。
眉間に深い谷を作って、「はぁ」と大きく息をついた。
「そいつはまったく。あまりお前の身内についてこういうことは言いたくないが……なんだ? お前の家族にはバカしかいないのか?」
同意はしにくかったが、正直嬉しかった。
セリアは小さく笑みを浮かべる。
「ははは。まぁ、私もその一員なんですけどね」
「安心しとけ。お前がその例外であることは俺が保証してやる。しかし、どうする?」
「え?」
「俺はユーガルド公爵にして内務卿閣下だ。俺が怒鳴りつけてやれば、お前の家族も気を変えるとは思うが」
やはりこの人は優しい。
嬉しかった。
だが、セリアはこの申し出に笑顔で首を左右にする。
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