せっかく家の借金を返したのに、妹に婚約者を奪われて追放されました。でも、気にしなくていいみたいです。私には頼れる公爵様がいらっしゃいますから

甘海そら

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3、再会

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「……あーあ」

 セリアは王都の通りでへたりこんでいた。
 膝を抱えて座り込み、口から出るのは「あー」だの「うわー」だのと意味の無い呟きばかり。

(……夢じゃないかな)

 そう思って頬をつねってみても、相応の痛みが返ってくるだけだった。
 セリアは思わずため息をつく。

「はぁ……本当、なんでかなぁ」

 雑踏を眺めつつに思い返す。
 記憶には鮮明にあった。
 婚約者を妹に奪われ、さらには家を追い出された。

「……みんなのためにがんばってきたんだけどなぁ」

 借金を無事に返済出来たのであれば、空回りしていたのでは無いはずだ。
 間違いなく家族のためになったはずだった。

 しかし、その結果がこれだ。
 あまりに不条理に思えれば、ため息は尽きることはない。

「はぁ。本当なぁ。なんだかなぁ。何がいけなかったかなぁ」

 うつろに呟き続ける。
 セリアの理性は、今後について考えるべきだと囁いてきていた。
 地位も家も何もかも失ったのだ。
 せめて、今晩の宿ぐらいは探すべきだった。
 しかし、そんなことをする気力も無ければ、セリアは地べたで膝を抱え続ける。

 すると、だった。

「おい」

 声をかけられたような気はした。
 ただ、応える気力もなければ膝に顔を埋める。
 
「おい」

 再びの声かけだった。
 誰か知らないが放っておいて欲しかった。
 しかし、この調子であれば次もあるだろうとして、セリアは仕方なく顔を上げ……

「へ?」

 唖然と目を丸くすることになった。
 
 ほんのすぐ目の前だった。
 しゃがみこんで来ている男性があれば、その顔がある。
 精悍だが、どこか無気力のようにも見える。
 そんな不思議な顔つきなのだが、非常にだった。
 セリアには非常にその顔に見覚えがあった。

「け、ケネス?」

 思わず呟けば、男は軽く首をかしげてきた。

「ほう? 俺を下の名前で呼び捨てにするとは。お前も良い身分になったもんだな?」

 そうして皮肉げに応じられ、セリアは慌ててその場で立ち上がった。

「こ、これは失礼いたしました! ユーガルド公爵閣下!」

 慌てて頭を下げることにもなる。
 そうするだけの相手だったのだ。
 大国シェリナを代表する大貴族、ユーガルド公爵家。
 その当主が、しかめ面でセリアを見上げてきている男だった。

 もちろんのこと、呼び捨てなど不遜ふそん極まりない。
 ただ、ケネスだ。
 彼は立ち上がりながら、ふっと愉快そうに笑みを浮かべる。

「冗談だ。呼び捨てにしたければ勝手にすればいいさ。しかし、久しぶりだな。学院を出て以来か?」

 その通りであればセリアは思わず頷く。

 借金まみれながらにもセリアの生家には貴族の意地があった。
 よって、セリアは3年ばかりを貴族学院で過ごすことになったのだが、ケネスはその時の知り合いだ。
 
 いや、知り合い以上だった。
 妙に気が合えば、多くの時間を共に過ごした仲ではあるが。

「ど、どうしたんですか? 何故、こんなところにいらっしゃるので? お勤めでしょうか?」

 まさか、わざわざ自分に会いに来たわけでは無いだろう。
 案の定だった。 
 ケネスはしかめ面で頷いてくる。

「内務卿なんぞを陛下から仰せつかっているからな」

 周囲に文官らしき姿が複数があったが、城下の視察かそれとも大商人との折衝せっしょうなりか。
 セリアは納得した。
 納得して、思わず苦笑を浮かべた。

「ん? どうした?」

 尋ねかけに、セリアは「いえ」と首を左右にする。
 まさか、傷心の自分をわざわざ探し出してくれたのではないか?
 一瞬でもそう期待した自分がいたのだが、恥ずかしければ口に出せるはずも無かった。

「さすがは内務卿閣下。ご多忙なのですね」
 
 当たりさわりの無い返答に終始すれば、ケネスは頷きを見せてくる。

「まぁな。忙しくしようと思えば、いくらでも忙しくなれる。しかし、お前はどうした?」

「え? 私ですか?」

「路上でうずくまる変な女がいると思えば、それがお前で驚いたがな。本当、どうした? 風の噂じゃ借金を返済したと聞いたぞ。婚礼も間近なのだろ? なんでこんなところで膝を抱えている?」

 セリアは愛想笑いで困ることになった。
 情けない話といってこれ以上のことは無いのだ。
 なかなか気づかいに甘えて話そうという気分にはなれなかった。

 ただ、セリアの内心をケネスはどう思ったのか。
 彼は不意に周囲の文官たちに声を上げた。

「おい。今日は仕事じまいだ。もう帰っていいぞ」

 あるいは慣れたものなのかも知れなかった。
 文官たちは粛々しゅくしゅくと内務卿の言葉に従ったのだが、

「え? ちょ、ちょっと!? いいんですかこれ!?」

 あまりに唐突な職務放棄に、セリアは戸惑いの声を上げざるを得なかった。
 一方で、ケネスは平然として頷きを見せる。

「いい。別に大した用件は無かったからな。どうにでも出来る範囲だ」

「で、でも、内務卿としてのお仕事なんですよね? それをこんなに簡単に……」

「さっきも言ったろ? 忙しくなろうと思えばいくらでもだ。であれば、逆もしかりだ。俺は内務卿閣下様だぞ? だから、うむ。何の問題もない」

 事実か否かはともかく、あまりにも傍若無人ぼうじゃくぶじんな物言いだった。

 セリアは目を見張って呆れ……そして、思わず吹き出すことになった。
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