せっかく家の借金を返したのに、妹に婚約者を奪われて追放されました。でも、気にしなくていいみたいです。私には頼れる公爵様がいらっしゃいますから

甘海そら

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5、提案

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「ありがとうございます。でも、正直家に戻ろうって気持ちにはなれませんから」

 あそこまで邪険にされてしまったのだ。

 戻れるようになったとしてだった。
 そこに居場所があるとも思えなければ、居場所を求めようという気にもなれない。

 ケネスは納得の表情で頷きを見せた。

「まぁ、そうだな。くだらない私情で大功労者を貶めようとするバカに、その口車に容易く引っかかるバカ共の巣となればな。お前が戻ってやる価値など無いだろうさ」

 セリアは思わず苦笑を浮かべた。

「本当、この公爵様は。相変わらず口が悪いですねぇ」

「自覚はあるが、今回に限っては俺に非は無い。全てはとんちんかんなお前のバカ家族が悪い」

「あははは、だから口が悪いですって。でも……ありがとうございます」

 セリアは思わず頭を下げていた。
 全面的に肯定してもらえたことが何よりも嬉しかったのだ。
 
 ケネスは仏頂面で頷きを見せてきた。

「そうか。喜んでもらえて何よりだが、それよりもだぞ? だったらお前、これからどうするんだ?」

「これから? へ?」

「へ? じゃないだろうが。実家に戻るつもりは無いのだろう? であれば、どこで暮らして何をして生きるのかと考えばならないだろうが」

 呆れた調子で告げられれば、セリアは今度は「あ」だった。

 確かにだ。
 考える気力が無ければ横に置いていたし、ケネスとのやり取りが楽しければ忘れていたがそうなのだ。

 身分も失えば住む家も無い。
 それが自分の現状だった。

「……あー、ですよねー。これからかぁ」

 セリアは眉をひそめて腕組みだった。

「……そうですね。一応実績はありますし、どこかの商家で雇っていただけないでしょうかね」
 
 人脈にはかなりのところ自信はある。
 手当たり次第に当たれば、住まいと働き先を見つけることはそう難しい話では無いように思えた。

「まぁ、そうだな」

 ケネスは納得の頷きを見せてくる。

「お前の実績があれば、どこの商家であっても喜んで迎え入れるだろう。ただ……多少、思案が足らないような気はしないこともないが」

 セリアは首をかしげることになる。

「えーと、思案ですか?」

「お前はヤルス家では商才なんてさっぱりの放蕩ほうとう娘になっているのだろう? そして、お前の妹はお前にそうであってもらわないと困るわけだ」

 これでセリアにも分かった。
 思わず「あ」と声を上げることになる。

「……裏から手を回されてますかね?」

「お前に実力を示す機会を与えたくは無いだろうな」

「あー」

「まぁ、バカの考えることは分からん。商売なんぞ誰でも出来ると思って無策でいる可能性もあり得るが」

 セリアは眉をひそめて腕組みをする。
 難しいところだった。
 妹であるヨカから、セリアは一度として称賛の言葉を聞いたことは無かった。
 
 商売が……この場合はほとんど投資だが、それがどれだけ大変であるかを彼女は理解していない可能性は大いにある。
 ただ、ケネスの話した通りだ。
 ヨカは自身に反撃の機会を与えたくはないはずなのだ。

(……止めといた方が良いかなぁ?)

 仮に裏から手が回っていなかったとしても、後からということも考えられた。
 その時には、自分を拾ってくれた商家に多大な迷惑をかけることになるだろう。

 はぁ、だった。
 
 何故自分がこんな目に会わなければいけないのか?
 ケネスとの出会いで忘れていた憂鬱さを再び味わうことになる。

「しかし、お前もなかなか水くさいな」

 陰鬱な気分を再び忘れることになる。
 ケネスの妙な発言にセリアは思わず首をかしげた。

「あの、なんでしょうか? 水くさい?」

「お前な、目の前の男が何者か覚えているのか? 公爵様だぞ? 呆れるほどに広い屋敷を持てば、空き部屋なんぞ数え切れんほどにあるんだぞ?」

 ヘルミナは目を丸くすることになった。
 どうやらだ。
 彼は屋敷で面倒を見てやると言ってくれているようだった。

(……優しいなぁ)

 思わず笑みが浮かぶ。
 素直に嬉しかったのだ。
 家族に裏切られた心に、友人の優しさが暖かく染み込むようだった。

 しかし、素直に頷くのは難しかった。
 セリアは笑みのままに首を左右にする。

「ありがとうございます。ただ、それはご遠慮させていただきます」

「は? 遠慮だと?」

「はい。ケネス様に変な噂が立っても嫌ですから」

 ケネスは傍若無人な振る舞いで敵も多い。
 婚約者でも無い女を屋敷に泊まらせたとなれば、それだけで何を言われるか分からなかった。

「……なるほど。俺の評判を気にしているのか?」

 察してもらえれば、セリアは頷いて同意する。

「差し出がましいようですが、その通りです」

「確かに、好色公爵など妙なことを言い立てる輩は出てくるかもしれんな。ふむ。だったら、そう言えないようにしてやればいい話ではあるが」

 セリアは思わず眉をひそめることになった。

「か、閣下? 何か物騒な響きがあると言いますか、あの、脅迫などされるつもりで? まさか実力行使を?」

「さすがに、俺もそこまで自由人じゃ無い。簡単な話だ。お前が妻として屋敷に来ればいい。これで妙な噂話など立つまい?」

 にわかに理解しかねた。
 セリアは首をかしげてケネスを見つめることになる。
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