婚活アプリのテスト版に登録させられたら何故か自社の社長としかマッチング出来ないのですが?

こたま

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 史は経理部を出て、エレベーターホールに向かった。一階に降りるべく、下向きのボタンを押して待っていると上階からエレベーターが降りてくる様子だった。

(このまま乗れるといいな。混んでいるとまた次のを待たないといけなくなる)

「どうぞ。乗って?」
「はい。失礼します」

 幸いエレベーターは、通りすぎずに停止してドアが開いたのだが。中には社長の辰巳と社長秘書の二人だけが乗っていた。

 一瞬乗って良いものか躊躇する史に対して、社長が声をかけ秘書は開ボタンを押しながら待ってくれていたため、史は失礼しますと声をかけ身を小さくして乗り込んだ。

 アプリの事があったので、社長に対して、社長であるという存在感以上に気後れしてしまう。何か言ったほうが良いのか、既にシステムから伝わっているのか。

(僕が社長の個人情報を見てしまったこと、ご不快に感じていらっしゃらないと良いけど。何か叱責されたりはしないよね?不可抗力だし。社長は仕事に厳しくリーダーシップがあっても、優しく理不尽なことは言わないって聞いてる)

 チーンと音を立て、エレベーターが一階に到着した。

「先に降りて?」
「はい。失礼します。ありがとうございます」

 社長がまたも声をかけて、秘書が開ボタンを開けて待ってくれた。史が降りると二人もホールに出た。降り際秘書から

「では、社長お疲れさまでした」
「ああ、お疲れさま。気をつけて」
「はい」

「あ、小島君。小島史君。ちょっと良いかな?」
「え?っと、はい。何でしょうか?」

 辰巳皇成が史を呼び止めた。

(何でしょうかなんて、マッチングアプリの件だよね?どうしよう)

「少し話をさせて貰えないかな?時間ある?」
「はい」
「もし良かったらこのまま夕食でもとりながらどう?近くに行きつけのイタリアンがあるんだが、イタリアン食べられる?」
「はい。イタリアンは好きです。大丈夫です。自宅に連絡だけさせて頂いてよろしいでしょうか?夕食をとって帰宅する旨伝えたいです」
「ああ。もちろん待つよ。ご実家住まいだったね?」
「はい。そうですが…」

(一介の社員である僕が自宅から通勤していることまで把握しているなんて。社長ってすごい記憶力なんだな。そういえばフルネームも知っていらした。社長とお会いしたのなんて、就活の最終面接と入社式くらいなのに)

 史は、母に会社の人と食事をしてから帰宅するので遅くなるとメッセージをポチポチ送りながら不思議に思っていた。

「お待たせ致しました」
「いや。こちらこそ急にゴメン。付き合ってくれてありがとう」

 史は、にっこりと笑顔を浮かべた皇成を見上げた。

(社長って、10歳年上だったよな。でも見た目は若々しくって、でも相応の雰囲気はあって、スリーピースのスーツも似合うし、背が高くて身体も厚くて格好良い)

 頭一つ分見上げる感じからすると、185cmくらいありそうだと史は思った。そう言えばアプリで身長や体重まで公開されていたかもしれないと思い出す。

(黒髪が少しウエーブして、鼻も高いし彫りが深い。色白だけど、筋肉があって、少しエキゾチックだ。外国の血が混じっていそうな雰囲気で、なんだろう。凄く良い匂いの香水を着けていらっしゃるのかな。流石。スーツも時計と靴も高級感がある)

「どうかした?」
「いえ。すみません」
「こっちだよ。徒歩5分」
「はい」
「荷物持とうか。重そうだ」
「あ。タブレット端末が入っているので。でも大丈夫です。いつも持ち歩いていますのでどうぞお気遣いなく」
「そう?辛くなったら代わりに持つから何時でも言って?」
「気にして頂いてすみません」
「いや」

 皇成は歩きながらスマホを叩いていた。

「さあ、ここだ。今予約のメッセージを送ったから直ぐに通して貰えるだろう」
「今スマホを操作してらしたのは、予約してくださったんですね」
「ああ。知り合いだから、基本的に直ぐに入れて貰える。個室を頼んだよ」

「いらっしゃいませ、皇成様。奥の個室にどうぞ」
「急にすみません。宜しくお願いします」

(本当に直ぐに通してくれた。こじんまりして、あたたかみのある素敵な店だな。カップルの利用が多そうだけど、ご家族連れもいる)

 ちょうど金曜日の夜だ。仕事終わりの二人連れが多く入店していた。皆、騒ぐことなく食事を楽しんでいる。

 案内された個室は一番奥まって、四人がけのテーブルに柑橘柄の綺麗なテーブルクロスがかけられていた。
 窓からはライトアップされた中庭の自然な木々と花が臨める。中庭にも小さなガーデン用のテーブルと椅子が二脚置いてあるようだった。
 店員の引いてくれた椅子に腰掛けながら、昼間であれば外でお茶をするのも楽しそうだ、と史は口角を上げた。

「どう?気に入りそう?」
「はい。とても良い雰囲気ですね。あたたかみがあって。昼間なら外でお茶をしてみたいです」
「ふふ。そう。良かった。今度は天気の良い昼に外で食べに来ようか。とりあえず今日は何が食べたい?」

 皇成は、史にメニューを差し出す。日本語で書いてあるメニューには、写真も着いていてとても選びやすい。しかしどれも美味しそうで迷ってしまう。

「このカプレーゼ、それと薄いマルゲリータピザば是非頂きたいです。出来ればこのクリームパスタも少し食べてみたいですが」
「良いね。私も好きな物ばかりだ。頼んでシェアしよう。食べられそうなら後でドルチェを追加しよう。ワインは?」
「今日はやめておきます」
「わかった。ノンアルコールワインがあるはずだからそれも頼むよ?」
「はい。ありがとうございます」

 注文を終えると、水を一口飲んでから皇成は話の口火を切った。

「小島史君。今日はどうもありがとう。君と食事が出来てとても嬉しいよ。マッチングアプリも登録に協力してくれて深く感謝している。さて君は、システム部門に不具合では無いかと確認してくれたようだけれど。私は対象候補に上がった登録者達の中から君だけただ一人にマッチング希望を出した。名前も登録内容の全ても君にだけ公開したいと考えた。だからバグではないんだ」
「え?」
「君にとっては迷惑かも知れない。だが私は史君と恋人になりたいし、そのために友人から始めることも厭わない。もし良かったらだが、私を知って欲しい。君のことを知りたい。君が好きだ。愛している。私は君の視界にも入らない?どうだろう?」
「えっ。光栄ですが突然過ぎて、びっくりしています。あと、僕が検索してみたら候補者が社長しか出ないのはどうしてですか?社長は僕以外にも候補者が表示されたということ何でしょうか?」

「元々アルファとオメガは人数も少なく、未婚者がとても少ない。その組み合わせを優先しているマッチングでは組みにくいんだ。母数が足りないからね。もしかすると私以外に候補者が本当に居ないかもしれない。または社長である私の権限が強くなっていて、先に私が君に希望していると他の候補者との適合をブロックしてしまう仕様になっているのか。そこは製作会社に問い合わせしてみないとわからないが」
「そうですか。アルファの方はモテますもんね。独身のアルファでマッチング登録者なんて、あんまり居ないのかな。でも僕、男性の友人候補を探しても社長しか出ませんでした。それだとベータの男性も候補になりそうなのに」
「そうだね。ちょっとその辺りは確かめておくけれど。私が本気で君を好きな事はわかってくれた?」
「う…はい。恐縮します」
「ふふ。かしこまらないで。入社時の面接の時からとても気になっていたんだ。私の理想的な人だと思った」
「僕がですか?」
「そう。なんならエントリーシートから。真面目で良い子だな、可愛くてとても綺麗だ。互いに抑制剤を飲んでいる筈なのに、こんなにフェロモンがわかるなんて、私は長い間きっと君を探していたんだと実感した。恥ずかしながら夢見がちで運命とか、相性の合う相手と添い遂げたいって、親の勧める見合いを断ってきたからね。でも入社直後にお付き合いを迫るのも気が引けた。今回はとてもラッキーなことだと、それこそ運命的な仕事だと思って取ってきたんだ」
「そうだったんですか。あ。では、僕が香水だと感じた社長の香りって、フェロモンでしょうか」
「香水は着けていないよ」
「そうですか…」
「どう?お友達から」

(こんなに格好良い素敵な社長をお断りする理由なんて見つからない。これがフェロモンなら、本当に運命を感じる。でも、僕なんかで良いの?)

「僕は普通のベータ家庭で育って、何も取り柄はありません。こんな僕で本当に?大丈夫ですか?」
「入社してから君の仕事もきちんと評価しているよ。周囲からの評判も良く、人当たりも良い。取り柄だらけだ。良く今の今まで独り身でいてくれたと感激しているくらいだ」
「わかりました。僕は恋愛経験ゼロで、初心者なんです。お友達からお願いします」
「嬉しいよ。宜しくね。ではまず社長は止めて?名前で呼んで欲しいな」
「はい。…辰巳さん?」
「うちのグループは辰巳が沢山いるから名前で。知ってる?」
「はい。皇成さん」
「ありがとう。いずれはも取って欲しいけれどね」
「う。ハードルがまだ高いです」
「可愛い。史。頬がピンクだ。さあ、食事が来るよ。楽しく頂こう」
「はい」

 そこからは、趣味や仕事のことを話して会話が盛り上がり、食事を美味しく楽しんだ。
 マッチングで史が感じた趣味や食の好みなどの好印象は、やはり間違いでは無いのかもしれないと考えていた。

 最後にはドルチェを少しずつシェアし、コーヒーの好みも一緒で、心地よい満腹感の史は呼んでもらって支払いも済んでいたタクシーで帰宅した。

(怒涛の展開だったけど、とても楽しかったな。連絡先も交換して、これで本当にお友達からのお付き合いがはじまるのか…)
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