婚活アプリのテスト版に登録させられたら何故か自社の社長としかマッチング出来ないのですが?

こたま

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「ピロロ~ン」
「?なんの音かな?」

 何とも間抜けな通知音が、昼12時のオフィスに響いた。皆、音の出所をキョロキョロと見回している。

 史は、今の音が自分のデスクの引き出しあたりから聞こえたように思って引き出しを開けた。

 すると、スマホが点滅して何らかの通知を示している。

「なんだろう?僕のスマホ?聞いたことない音だけど」

 スマホを開いてみると、あのマッチングアプリのアイコンが表示されている。

「あっ」
「どうしたの?」
「先輩。あのマッチングアプリみたいです」
「えっ、えっ?何だって?誰、誰?っ…て、個人情報だよね。立ち入ったこと言ってごめんなさい。昼休みに一人で確認したいよね。う~ん、私のところにはまだ来てないなぁ。誰か連絡くれないかなぁ。自分から合いそうな人、見つけて送ってみよっかなぁ」

 先輩がぶつぶつ話ながらパソコンを閉じた。

「お昼休憩とりまーす」
「はい、了解です」

 史も、しばらくの作業の後、キリの良い所でセーブするとパソコンを閉じた。さて、どんな人から連絡が来ているのか。友人募集なのか、恋人希望なのか…

 デスクを片付けると自作のお弁当を取り出した。史は、自宅から通勤しており、母と二人で手分けして自分と父、兄の分の弁当を作っている。

 今日は母がハンバーグを焼いてくれている間に、ツナマヨとチーズを乗せて焼いた椎茸と茹でたブロッコリー、ミニトマトを準備した。

「頂きます」

 うん。美味しい。周りの社員がカフェや外食に出て、人が少なくなったのを確認し、食事を進めつつスマホを見た。アプリに来ている通知を開く。

「えっ?!」

 小さい声が出てしまった。その通知は、名前を臥せたりニックネームにする事もせず堂々と本名で送られて来ている。

 何と送り主は辰巳皇成と書いてあるではないか。

(社長?!何で?)

 アプリの起動によって、相手の詳細が本人の許可する範囲で示される。どんな希望なのか、どこまで自分の情報を出すのか、それらは相手一人毎に変えることができる優れものなのだが。

 辰巳皇成から、真剣な恋愛希望、友人からの双方の希望にチェックが入ってマッチングを希望している。
 本人の個人情報は、登録内容を全解除、つまり史に対して趣味とか何とか、入力した内容の全てを公開すると設定されているのだった。
 スクロールしていくと、好きな食事や音楽、趣味、苦手なもの、コト…色々が書かれてあり、概ね史とその嗜好が似通っていて、好意的に感じる内容ではあったが…

 なんとその通知は本日昼12時の運用開始直後に来ている連絡だった。

(ってことは、もしかしてバグ?何かの間違いとか?社長の個人情報が全登録者に公開する設定とかになっちゃってたりして?!どうしたら良いんだろう?何処かに報告したほうが良いのかな)

 まだ入社二年目、若干24歳の史に判断など出来ない。ワタワタしつつ、まず誰に相談するべきかと悩む。

(そうだ。まずは先輩か。それから係長?課長?何か対応が必要になるかも知れないからさっと食べてしまおう)

「あ!先輩。おかえりなさい」
「ただいま。史君」
「大変です。アプリに問題が発生したかも知れません」
「ん?何かあったの?」
「はい。見てくださいこれ!先輩の所にも届いて居ませんか?」
「私のアプリ?起動してみたけど、何も来てなかったよ?」

 二人で史のスマホを覗き込む。

「ん?社長だね」
「ですよね?本名で、登録情報全解除って、何かの間違いですよね?」
「ん?何が?」
「?ですから、何かのバグとか不具合とか?」
「そう?」
「え?」
「普通にマッチングなんじゃないの?」
「え?」
「社長が、史君とマッチングしたいんでしょう?」
「まさか」
「でも、社長は未婚のアルファで史君、未婚のオメガなんだから、充分あり得る話だよね?」
「え?だって、僕ですよ?」

「信じられないなら、誰かに友達募集送って動作確認してみる?」
「あ、そうですね。試しにやってみます」

 アプリの中から、自分の登録内容と趣味の合う相手、恋人ではなく男性の友人募集で探してみる。

「友人で探してみました」
「どう?」
「あれ?」
「ん?」

 検索をかけると、相手の合う男性友人候補は一人だけ。その詳細をタップしてみると、なんと。

「「あ...」」

「社長だねぇ」
「本当ですね。何でだろう?やっぱりバグ?」

「検索内容をまた変えてみるとか?」
「そうですね。異性の恋人希望にして、相性の合う人…」

 またマッチング候補は一人。その詳細を表示してみると

「「また」」

 辰巳皇成のみが表示されてきた。

「今の所、何人が登録されているんでしたっけ?」
「まだ300人くらいかな」
「う~ん…少ないから?それとも問題が?」
「私も、ちょっと検索かけてみるよ」

「あ。友人候補で女性だと48人。異性の恋人希望だと19人いる」
「そんなに?何で僕は社長だけなんですかね?」
「う~ん、アルファとオメガが少ないからかなぁ?でも友人候補でも少なすぎるよね。とりあえず、シムテムに報告してみよう?母数が少ないと、アルファとオメガには使えない仕様ってことになるから」
「はい。先輩、すみませんが一緒に行って貰えませんか?」
「良いよ」

 課長に報告した後、業務の一環であるからと昼休み後の時間にそのままシムテム部門に報告しに行った。

 そちらでも、独身の登録者が試しにアプリを起動してみると、多数の候補が表示されていたし、社長の個人情報が送信されている社員は居なかった。
 そして、実際に友人候補と友人マッチングが出来、公開情報もきちんと選んで表示し合うことが出来ている。製作会社に問い合わせてみるとの結果になった。

 史と先輩は、疑問が解決しないまま経理部に戻って業務を再開した。

「さあて、今日は終業時間だね。お疲れさま」
「お疲れさまです」
「私、予定があるからお先に。史君も遅くならないうちに帰るんだよ」
「はい。ありがとうございます」
「係長、課長、お先に失礼します」
「「オツカレ」」

 残った数人でカタカタとキーボードを打つ。途中、次第に人数が減っていく。お疲れさまでしたと挨拶をしつつ、史もキリの良いところまで進めるとデータをセーブした。気付くと周囲にはもう課長しか居ない。

「課長、お先に失礼します」
「うん、小島君お疲れさま。気をつけて帰って」
「はい、ありがとうございます」
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