【完結】異世界召喚されたのに命を狙われまくるなんて聞いてない。

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獣人は黒い瞳が不思議らしい

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    馬車が壊されてしまったため近くにあった狩猟小屋に入り、気を失っているアルウィンを床に寝かせる。同じく気を失っている御者はドロモアによると眠り薬のような匂いがするからしばらくは起きないだろうという見解だった。
    アルウィンの血は止まっていると言うが念のため、俺は自分の服の裾を破いてアルウィンの肩に巻いてきつく縛る。額に滲んでいるアルウィンの汗を腕の袖で軽く拭い、少しずつ顔色が良くなっているのを確認してホッと息を吐いた。

「これで大丈夫そうかな…」
「そいつ強い。大丈夫」
「ドロモア、本当にありがとう。でもどうして助けてくれたの?獣人としては妖怪と同じく俺に死んでほしいんでしょ?」
「……」

    小屋の壁に寄りかかりながら座った俺は真向かいに片足を立てて座るドロモアに真っ直ぐ視線を向けて問う。しかしドロモアは黄金に輝く瞳と黒い縦長の瞳孔でじっと俺を見つめるばかりで、無表情のまま無言を貫いた。

「助けてくれたのも気まぐれ?」
「…そんなところだ」
「そっか。でもどうしてあそこにいたの?」
「……」

    また無言。ドロモアとの会話が全然続かなくて困ってしまった。質問してもじっと見つめてくるだけで何かを探る様子も考え込んでいる様子もない。元々話すのがあまり得意ではないのかもしれないと思いながら沈黙は気まずいから俺は口を動かし続けた。

「妖怪と獣人は直接闘ったことがないんだね。獣人には毒が効かないの?」
「…免疫力が人間の何百倍も高い。勝手に解毒する」
「なるほど、そういうことなんだ。元々の能力値が人間とは比べ物にならないほど全部高いもんね。あんなに凄い勢いで体当たりしてもドロモアは全然痛くないの?」
「痛くない」
「凄いなぁ。虎の姿のドロモア、めっちゃかっこいいよね。獣人って寿命が約500年って聞いたけどドロモアは何歳なの?」
「132歳。人間でいう25歳くらいだ」
「若いって言っていいのかどうか分からないや…」

    132年も生きているのに人年齢だと俺とそんなに変わらないのが不思議な感覚だ。ドロモア自身のことを質問すれば答えが返ってくることに味を占めた俺は、会話を持たせるためにもドロモアについていろいろ聞くことにした。
    王宮まで帰るにはアルウィンが目覚めるのを待って転移魔法で帰るか、ドロモアが俺たちを抱えて走っていくかだ。ドロモアが獣人の姿で王宮周りに現れたら騒ぎになるしまだ解毒されきっていないアルウィンを安静にさせておきたいから彼が目覚めるのを待つことにした。それまでずっと2人で沈黙の時間を過ごすのは苦痛でしかない。

「今日は獣人村からドロモアが出てるのは知られてるの?許可取ってきた?」
「取ってない」
「え、大丈夫なの?ウィルマとかドロモアを探して追っかけてきたりしない?」
「ウィルマ、女豹と遊んでる。心配ない」
「へ~豹の獣人かぁ。あ、もしかしてウィルマの好きな子だったりする?」
「知らん。興味ない」
「お兄ちゃんなのに興味ないのかぁ。ドロモアは結婚してたり恋人とかいないの?」
「いない。面倒なことになる」
「面倒?」
「女同士の喧嘩」
「あぁ…ドロモアがかっこよすぎて誰の夫にもならないでくれみたいな?確かに閉鎖的な村の中でモテるドロモアが誰かのものになったら女同士の戦い凄そう。獣人なら尚更」
「興味ない」
「ドロモアって基本的に無関心なんだねぇ」

    切れ長の目は冷たさを帯びていて無表情なのがさらにそれを助長している。そこが女獣人にとってはクールでかっこいいとモテはやされそうだなと思った。

「お前、どこから来た」
「え?異世界だよ、知ってるでしょ?」
「異世界とはどこだ」
「えー?どこって言われてもなぁ、俺にも分からないよ。とにかくこの世界とは全然違うところかな。この世界は三角の形してるけど俺のいた世界は丸かったもん」
「まる?」
「そう、丸い世界。動物はいるけど獣人はいないし、妖怪は言い伝えとして知られてはいるけど実在しないし」
「…そうか。鳥はいたか」
「鳥?もちろんいたよ。カラスとか雀とか鳩はどこにでもいる世界かな。いろんな種類の鳥がいたけどこの世界にいるスロラックみたいなカラフルな鳥はいなかったかも。初めてスロラックを見たときびっくりしたなぁ」
「スロラックは底辺界にしかいない。獣人界にもいないと聞いた」
「え、そうなんだ」

    数百年前から獣人界から人間界に降りてきたという獣人たち。ドロモアが生まれる前の話だから彼も獣人界については身内の話でしか知らないらしい。

「雀や鳩は分かる。カラスとは何だ」
「カラスは黒い鳥だよ。そういえばまだこの世界に来て見たことないけど底辺界にも獣人界にもいないのかな?」
「黒い鳥…底辺界に黒い鳥はいない。獣人界は知らん」
「カラスいないんだ…やっぱりあの時に見た黒い鳥のようなものは蝙蝠だったのかな」
「こうもり?何だそれは」
「え、蝙蝠もいないの?羽が変わった形をしている黒い翼を持つ空を飛ぶ生き物だよ。鳥とは種族が違うんだよね」
「…底辺界に黒い生物いない」
「え、でもこの前見かけたよ?」
「いない」
「そうなの…?じゃあ黒いゴミが舞っているのを蝙蝠と見間違えたのかなぁ」

    確かにあれはカラスか蝙蝠だと思ったんだけど底辺界に黒い生物がいないのなら何か黒い物体を鳥だと勘違いしたのだろうか。
    そんなことを考えているとドロモアが立ち上がって反対側にいる俺の元まで近付いてくる。2mも越えた大男に見下ろされると迫力も凄いし見上げる首が垂直になるから若干痛い。

「どうしたの?座ってくれないと首が痛いよ。ドロモアって身長いくつあるの?」
「…207㎝」
「でか!でも獣人の平均身長って2~3mなんだっけ…」
「象や麒麟、熊の獣人は3m越えるのも多い」
「ひぇ~ちょっと目の前で見たら怖いかも」

    想像して少し顔を引きつらせていると目の前に来たドロモアが俺と視線を合わせるようにして長い足を折り畳みしゃがみこむ。
    そして顔を首筋に近付け、すんと一度鼻を鳴らしたあと、視線を合わされた。獣人ならではの瞳にじーっと見つめられると背筋が勝手に伸びた。

「ど、どうしたの?」
「…ミト」
「わ、初めて名前呼んでくれた?」
「ミト、目を見せろ」
「え、今すっごい見てたじゃん。てかずっと見てるじゃん」
「…黒いな」
「そうだよ、異世界人というか俺の生まれ育った国はみんな黒いんだよ。ドロモアみたいな黄金の瞳も、アルウィンみたいなシルバーの瞳も誰一人いないよ」
「……」
「黒色が不思議?」
「…不思議だ」
「まぁ今まで見たことないならそうだよね」

    ドロモアがよく無言で俺をじっと見下ろすのは黒色の瞳が珍しいからなのかと納得する。この世界は髪色から瞳の色、何から何までカラフルな色合いで溢れている。黒色を身につけているのは騎士の制服くらいだ。
    黄金の瞳が俺の黒を覗き込むようにして顔を近付けてくる。仏頂面で強面だけどこうして間近で見ると凛々しくて野性味溢れるイケメンだなと改めて思った。

「……」
「ドロモア…?」
「……」
「な、なに…怖いよ…」
「……」

    石のような沈黙を押し通すドロモアの大きな手が、こちらに向かってくる。爪が鋭く伸びていて何かされるのかと身体を固くして身構えてしまいそうになる。しかし彼は指の腹でそっと俺の目の下を撫でた。何かをなぞるように数回、同じ場所を撫でた。

「…何をしている?」
「っ!アルウィン!」

    突如そこに目が覚めたアルウィンの声がして俺はすぐにアルウィンが寝ていた方向に向かって顔を向ける。その時、スッとドロモアの爪が頬を切った感覚があったが些細なことだと気にせず、立ち上がってアルウィンの元へと駆け寄った。
    アルウィンは上半身を起こした状態で眉間にシワを寄せている。顔色はだいぶ元に戻り、汗もひいていた。

「アルウィン、調子はどう?毒の感覚はもうない?」
「大丈夫だ。解毒はしっかりされたようで肩も見た目ほど違和感がない。ミト、こっちに来い」

    アルウィンの手がさっきまでドロモアに触れられていたところに伸び、さっき切れた感覚があった箇所を親指で撫でられる。体調が良くなったはずなのにアルウィンの表情は険しかった。

「…獣人と何をしていた?」
「獣人村のこととか目の色のこととか話してたよ。ここまでドロモアが担いで運んでくれたんだ」
「それは感謝する。だがミトのこの傷はなんだ?」
「これは今立ち上がったときにドロモアの爪が当たって切れちゃっただけだと思う。全く痛くないから気にしないで」
「……ミトの服が破れてるのは?」
「血は止まっているって言われたんだけど心配で念のためまた出血しても止血出来るように俺の服を破いてアルウィンの肩に巻いたんだ。きつく縛りすぎてない?大丈夫?」
「そういうことか…全然大丈夫だ。ありがとな」
「うん!アルウィンが生きてて本当によかった…」

    俺のせいでアルウィンが殺されるかもしれないと思ったときは自分の命が狙われているときとは全然違うとてつもない恐怖心でいっぱいだった。
    今こうして彼が息をしていて俺と目を合わせて話せていることに心から安堵感を感じている。

「不甲斐ない姿を見せてしまった。これでも妖怪襲撃があってからミトが寝た後、妖怪の妖術や攻撃態勢を勉強して対策を練っていたんだが…実践は思っていた以上に相手の攻撃が一枚上手だった」
「それでも俺を守ろうとしてくれてありがとう。ずっと頼もしかったよ」
「…それでも、ミトが俺を救うために妖怪の元に向かおうとしたのは肝が冷えた。あんなことは二度とやめてくれ。俺を盾に取られても自分の命を犠牲にしようとしないでくれ」
「うーん…何回同じ状況になっても同じ選択をすると思うから約束出来ないかも…」
「…そうか。ならば、もう二度とあんな状況を俺が作らなければいいだけの話だな。今回は獣人に助けられたがもっと鍛練を積んでさらに強くなってみせる。俺一人でミトを守れるように」

    何があっても俺を守り抜こうとしてくれるアルウィンの騎士としての責任感の強さに胸を打たれる。ドロモアに助けられたことが騎士としてのプライドに傷をつけたのか、そのシルバーの瞳には炎が燃えて見えるようだった。

「俺は帰る」
「あ、うん!ドロモア、本当にありがとう!気をつけて獣人村まで帰ってね」
「命を助けて頂いたこと、恩に着る」
「どうでもいい。ミト、気を付けろ。傷を作るとウィルマが悲しむ」
「うん、これからも十分警戒しながら生活していくよ。本当にありがとう。またね」
「ん」

    先に小屋を出ていったドロモアを見送り、俺たちはまだ眠りから覚めていない御者と共にアルウィンの転移魔法で王宮へと帰った。御者は使用人に世話を任せ、念のため治癒師を呼んでアルウィンの治療もしてもらった。
    帰りが遅かったことを心配していた宰相にアルウィンが妖怪の襲撃にあったことを告げれば、それによってまたアルウィンは玉座の間に呼び出され残業のようなことをする羽目になった。
    俺はその間も部屋で1人、アルウィンの帰りを待ち続けていたが、いつの間にかことことと石段を降りるように眠りに落ちてしまった。

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