【完結】異世界召喚されたのに命を狙われまくるなんて聞いてない。

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妖怪の襲撃と獣人の助け舟

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    馬車の外から明らかに御者以外の人物の気配がしていた。前の方からドサ、と何かが地面に落ちる音が聞こえ、微かなうめき声も聞こえることから馬車を運転していた御者の身に何かあったのだと分かった。
    緊張と不安から鼓動が早まる。アルウィンに強く肩を抱かれながら彼に身を寄せることで少しでも安心感を感じたい。そっとアルウィンを下から見上げると、アルウィンは外の気配に集中しながら小声で囁いた。

「人間ではない者の気配がする。転移も使えなくさせられているということはかなりの魔力持ちか…妖術の可能性がある」
「…妖怪ってこと?」
「あぁ。ミト、俺にしっかり捕まってろ」

    その言葉と同時に、馬車の床下から鋭いものが突き抜け、俺は縦型のジェットコースターで勢いよく上に持ち上げられたときのような浮遊感にギュッと目を瞑る。アルウィンが瞬時に浮遊魔法を使って空へと飛んだのだと分かった。
    下を見ればさっきまで乗っていた馬車が真っ二つに割れている。地面から鋭い刃がいくつもついている細長い植物のツルのようなものが生えていた。
    アルウィンは腰につけていた剣を抜き炎を纏わせ、ツルに向かって一振する。凄い衝撃音と共にツルの一部が焦げ付いたのも束の間、また新たなツルが地面から生えてくる。
    現実だとは思えない光景と気味の悪さに目眩を感じながらも、何とかアルウィンにしがみつくことで意識を保った。

    次々とアルウィンが剣を振りかざしツルを焼いていくがキリがない。すると次は石よりも大きい岩のようなものを先端につけた矢がいくつもこちらに向かって飛んでくる。それをアルウィンは凄い早さの瞬発力でよけながら剣を使って大風を起こし、矢を薙ぎ払った。

「ソノ異世界人ヲ、ワタセ!」

    浮遊魔法を使いながら空を飛んでいた俺たちの元に、植物のツルがこちらに伸びてくる。その先には見覚えのある岩の顔を持った妖怪が乗っていて声を轟かせた。

「断る!我々はあなたに攻撃しない!なぜ攻撃してくるのだ!」
「マエにイッタはず!異世界人ヲ我々ハ必ズコロス!」
「お、俺は異世界人のミト!どうして俺を殺したいのか理由を聞かせてほしい!あなたたちの力になれるかもしれない!」
「ソンナのムダだ!異世界人コロス!ソレのみダ!」

    獣人のドロモアも最初は聞く耳を持たず攻撃をしていたが、最終的には気が変わって俺の話を聞いてくれるようになった。もう攻撃しないとまで約束してくれた。
    ならば妖怪にも通じるのではないかと期待を込めて話しかけてみるが、何かに取り憑かれたように異世界人コロス!と呟き続けている。その鬼気迫る殺気と異様な見た目がかけあって恐怖心で口が動かなくなった。

「ミト、ヤツの目を見るな。相手は心理的な妖術を使って惑わしてくる可能性が高い。気をつけろ」

    もしかしたらもう手遅れかもしれないけど動く首を動かしてコクコクと肯定の意を示した。
    岩男がツルに生えていた鋭い刃を1つ引き抜くとそれが剣に変わる。その剣がこちらに飛んできたかと思ったら途中でその剣は消え、思ってもみなかった方向から飛んできた剣が目の前を通りすぎていった。アルウィンが咄嗟に軌道を変えてくれていなければ、俺の頭に突き刺さっていたかもしれない。

「今のも妖術だ。まやかしの剣を見せ、本物は見えないところから不意を突く。目に見えるものだけが全てではない。怖かったら目を瞑っていろ」

    こんな緊迫した状況の中でも冷静なアルウィンに惚れ惚れする。妖怪と実践で闘うのは初めてのはずなのに、この様子だと彼は妖怪の戦法についてもしっかり学び、対策を練っていたようだ。

    岩男から繰り出される魔法とは違う攻撃を次々と躱していくアルウィンだったが、岩男の相手に気を取られいつの間にか背後にいた別の妖怪の存在に気付かなかった。

「…!アルウィン、後ろ!」
「ッ…!?」

    俺は咄嗟に叫んで危険を知らせたものの、ほんの少しの遅れが隙を与えてしまう。背後にいたのは頭にうにょうにょといくつもの蛇が髪の毛のように存在している緑顔の女妖怪だった。
    女妖怪が蛇を動かし、アルウィンの右肩に噛みつく。アルウィンは素手で蛇を引き剥がし投げ捨てたが、持っていた剣は地面に吸い込まれるように落ちていった。

「アルウィン…!血が…!」
「ぐっ」
「フフ、毒ガ回っテ死ヌヨ。異世界人ヲ手渡しタラ解毒剤アゲルヨ」
「そんな!」

    蛇の女妖怪が緑色の顔に大きく弧をえがき妖艶に微笑む。俺を抱えているせいで右肩の血を止めることも押さえることも出来ないアルウィンに変わり、俺は左手を伸ばして彼の肩を抱き締めるようにして掴む。ドクドクと脈打つ脈が掌から伝わってくるのと同時に、量はそこまで多くないものの血が吹き出てくるのを感じる。目の前が、暗くなりそうな絶望感に苛まれた。

「アルウィン!だ、ダメだ…!わ、分かった!俺はあなたたちの望む通りにしていいからアルウィンに解毒剤と止血を今すぐしてほしい!お願いだ!」
「やめろミト!!俺なら、大丈夫だ…ッ、」
「フフ、ワカル異世界人ダヨ。早くコロソ」
「毒蛇猫、異世界人をコロしてヨイゾ」
「コノ男ドウスル?モラってヨイ?」
「異世界以外コロスな。解毒剤ヤレ」
「フフ、アイヨ」
「マテ、先ニ異世界人コッチ来イ」

     アルウィンに解毒剤を与えてくれそうでホッと胸を撫で下ろす。アルウィンの浮遊魔法は保てなくなったのか、徐々に地面が近付いてくる。地上におりたら妖怪の元に行こうと覚悟を決める。
    どう殺されるのか分からないが、俺の命よりアルウィンの命が最優先だ。彼には素敵な婚約者との未来がある。孤児院のみんなとの約束がある。国を守る名誉騎士としての役目がある。
    地面に足がついたと同時に足を踏み出そうとして、アルウィンに腕を強く掴まれる。毒が回りだして全身に力が入りづらいのか、しゃがみこむような体勢で肩で辛そうに息をしている。それでも俺の腕を掴む力はどこから湧いてるのかと思うほど、強かった。

「ミト!行くな!」
「…アルウィン、ありがとね。ここまで守ってきてもらったのにごめん」
「っ…くそが…ミト、行くな!ミトを殺すなら俺も殺せ!」
「ダッテヨ。ドウスル?」
「…コイツはコロさない。異世界人ノミ」
「アイヨ。解毒剤ハ1時間後ニ効クヨ」
「妖怪さん、ありがとう。彼が助かるならそれでいいんだ。俺を殺す前に殺される理由くらいは聞いてもいい?」
「言エナイ。言ッタラ我々ガ消エル」
「あぁ…なるほど」

    獣人のドロモアたちも妖怪もどうして俺を殺そうとする理由を言わないのか不思議だったが、そういうことか。異世界人を殺す理由を口に出した瞬間、彼らの身に何かが起こって彼ら自身が死ぬのだ。だからいくら聞いても無駄だと言うことだ。
    そのとき、キィンと耳鳴りのようなものが微かにした。俺がそれに気を取られているとアルウィンの唸り声が聞こえてきた。

「くそが…ッ、なぜ動かない…!何のための名誉騎士なんだ…!」
「…アルウィン、もうじっとしておいて。俺、短い間だったけどアルウィンと一緒に過ごせて良かった。とても楽しかった。本当にありがとう」
「やめろ!!まだ終わっていない…!まだだ!」

    ずっと妖怪村から出てこなかった妖怪との初めての闘いは知らないことの方が多かっただろう。毒を使う妖怪がいたことも初めて知ったのかもしれない。もちろん俺は想像すらしていなかった。妖怪に手を出さないと決めた先人たちは正しかったということだ。
    圧倒的不利な闘いの中でアルウィン自身は助かるすべがあるというのにそれでも尚諦めず闘おうとしているアルウィンに視界がぼやける。
    恐怖からなのか身体の内側に氷水をぶっかけられたように全身は小刻みに震えているし、妖怪の姿を間近で見た今は腰が抜けそうなのを必死に堪えている。しかし一番の恐怖は、アルウィンが俺のせいで死ぬことだ。それが回避されるなら、それ以外の恐怖は甘んじて受け入れられそうだった。

「異世界人ヲ気ニ入ッチャッタみたいヨ」
「…我々ニハ関係ナイ。行クゾ」

    手だと一瞬分からないほどゴツゴツとした岩男の手が伸びてきて、俺に触れそうだった、その時。

「グアッ!?」
「ギャア…!!」

    目の前にいたはずの妖怪たちが一瞬で視界から消えた。変わりに、目の前に現れたのは、一匹の大きな虎だった。

「……ドロモア?」

    俺の右側から虎の体で勢いよく体当たりをして妖怪を吹っ飛ばしたのだと、左側から舞い上がる砂埃で察する。ドロモアは獣化を解き、獣人の姿で俺を高い位置から見下ろした。

「無事か」
「う、うん…!でもドロモア、なんで」
「話はあと。こいつら片付ける」

    妖怪たちが立ち上がった気配を感じ、ドロモアが視線を彼らに向け殺気を放つ。この前まではこの殺気が俺に向けられていたのに、今は俺を助けるために別の者に向けられていることが不思議だった。

「ナ、ナゼ獣人ガ邪魔スル!獣人モ分カッテルはずダロウ!」
「…だまれ。こいつに手出すなら、喰いちぎる」
「ヒェッ!マズイヨ!獣人ハ毒ヲ無効化シチマウ。妖術モ効キニクイ!相性最悪ダヨ」
「我々ハ獣人ト闘ッタ事ガナイ。ソノ強さハ計リ知レナイ」
「殺るなら殺るぞ」
「…今日ノ所ハ退散スル!次コソ必ズ異世界人コロス!」
「コロスヨ!」

    妖怪にとって獣人と闘うことは分が悪いのか、そそくさと姿を消した妖怪たち。彼らの姿が見えなくなった途端、一気に押し寄せる安堵とアルウィンの怪我が心配で泣きそうになった。
    涙を堪えてうずくまるアルウィンの元に駆け寄る。蛇の女妖怪が解毒剤だと言ってアルウィンの肩に何か差していたが、本当に効くのかどうかはまだ分からないしアルウィンの痛みも続いているはずだ。

「アルウィン!痛そう…痛いよね、ごめん、俺のせいで…本当にごめん…っ」
「ミト…謝るな…」
「喋らない方がいい」
「ドロモア!助けてくれて本当にありがとう。さらに申し訳ないんだけどアルウィンを安静に出来る場所に運びたいんだ。血も止めたい」
「血はほぼ止まってる。解毒待つだけ」
「え?分かるの?」
「匂いで分かる」
「そっか…きちんと解毒されるってことだよね?アルウィンは助かるよね?」
「ミト…大丈夫、だ…安心し…」
「アルウィン!?アルウィン!」
「うるさい。解毒の痛みで気を失っただけ。運ぶぞ」
「…!ドロモア、ありがとう…!」

    苦しそうに息をしていたアルウィンが気を失い焦ったが、ドロモアの説得力のある言葉に冷静さを少し取り戻す。191㎝もあるアルウィンを軽々と肩に担いだドロモアに、ついでで倒れていた御者も運んでもらうよう頼む。無表情で作業のように淡々とこなすドロモアを見ていたら、次第に頭も心も落ち着いていった。
    鼻の奥にアルウィンの血の匂いがまだ残っていて、ドロモアくらい俺も強ければと思わずにはいられなかった。

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