【完結】異世界召喚されたのに命を狙われまくるなんて聞いてない。

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もし召喚されていなかったら

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    サムの言う護衛の仕事、とは俺の護衛で間違いないだろう。彼は名誉騎士という特別な立場であり、異世界人の護衛という重要な仕事を任された。
    もし、俺が召喚されていなければ、異世界召喚が行われていなければ、今頃アルウィンとリジーさんは結婚していたということだろうか。

「その言い方はミトに失礼じゃない。ミト、ごめんなさい。サムの無神経さにはほとほと呆れるわ」
「う、ううん!全然!気を遣わせてごめんね、ベス」
「ベスは細けーなぁ」
「その…アルウィンと婚約者さんの結婚する日がもう決まっていたとか?」
「いや?そこまでではないと思うけどよ、もう結婚しててもおかしくない年なのにずっと婚約者のままなのも変だろ?アルウィンもそろそろなんじゃねぇかって噂だったんだ」
「私はミトに感謝してるよ~!あなたが来てくれたおかげでアルウィンの結婚が延期になってるからね!もうこのままずーっとミトの護衛をして一生結婚なんかしないでほしい~!」
「サリー、少しは慎みなさい」

    3人の言葉が身体を通り抜けてその冷たさに呆然とする。確かに24時間毎日アルウィンは俺の側にいる。俺にとっては休みの日でも、アルウィンにとっては護衛という仕事があり今まで一度もアルウィンがゆっくり出来る休みがなかったことに今さら気付く。
    俺のせいでアルウィンは婚約者といつまでたっても結婚出来ず、ゆっくり好きなことも出来なければ行きたいところにも行けない。俺のお守りをずっとしていなければならない。その事実に、血の気が引いた。

「どうしたぁミト。すんげぇ顔色悪いぜ?」
「ミト大丈夫~?子供たちの相手に疲れちゃったんじゃない?」
「あら本当だわ。何か温かいものでも用意するわよ」
「いや全然大丈夫!お気遣いなく!ありがとう」
「…そう、ならいいわ」

    ベスが立ち上がろうとしたところを止めて俺は無理やり笑顔をつくる。子供というほど年齢が下なわけではないが年下に気を遣わせてしまうなんて情けない。
    そこへ院長との話が終わったのかアルウィンが戻ってきて、サリーが嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。アルウィンは俺と目が合うと眉をしかめ、まっすぐに俺の元に来た。

「ミト、どうした。具合があまり良くなさそうだが。お前ら、ミトに何か言ったのか」
「違う違う!誤解しないでアルウィン。みんなとは楽しくお話ししてたよ。子供たちと遊んではしゃぎすぎたのか、ちょっと疲れが出てるだけ」
「本当か?やはり元気な子供の相手はしんどかったか?無理させてすまない」
「そんなことないって!本当に楽しかったし来れて良かった。連れてきてくれてありがとうね。帰って休めばすぐに元通りになるから心配しないで」
「ならいいが…」

    申し訳なさそうな顔をしたり心配そうな顔をしたりと忙しいアルウィンの表情に、俺はなるべく自然な笑顔を意識して向ける。彼の大きな掌が俺の頬を包み、額に手を当て熱をはかろうとするのをやんわりと止めた。
    俺たちのやり取りを黙ってみていた3人がなぜか目を丸くして穴があきそうなほど凝視していることに気づき、首を傾げた。

「ん?どうかした?」
「なんか…アルウィン、ミトにだけ対応違くない~?」
「対応っていうか声が甘くね?すんげぇ甘くね?」
「……サリー、サム、2人はずっと一緒にいてお互いを信頼してあってるんだから違くて当然よ」
「え、そ、そうかな…?アルウィン、俺にだけなんか違うの?」
「いや、全く意識していない。何かを変えているつもりもないし声が人によって変わるなど初めて指摘された」
「…まぁ、無自覚ってことよね」

     ベスが無表情で意味深な言葉と視線をアルウィンに向けている。彼女の言葉の意味が俺もよく分からないが、俺に対してアルウィンの声が甘くなっているなんて俺も気付かなかった。本物の子供よりも子供扱いされているってことだろうか。

「アルウィン、ミト様、今日は来てくれてありがとうございました。子供たちも大興奮でたくさん遊んでもらえて楽しそうでした」
「こちらこそ歓迎してもらってありがとうございました!俺もとても楽しかったです!」

    アルウィンの後ろから大部屋に戻ってきた院長がふっくらとした頬をゆるめながら穏やかな声で言う。俺は立ち上がってペコリと頭を何度か下げながら笑顔を返した。

「馬車で来ているのならそろそろ帰りませんと。夜はごく稀に山賊や盗賊が出ることがありますからアルウィンがいるとはいえ、帰り道気をつけて下さいね」
「え~アルウィンもう帰っちゃうの~?全然しゃべれてない!」
「また来月も来るからその時にな。ミト、そろそろ日も暮れるから帰ろう」
「ミト!俺はミト気に入ったからまた次もアルウィンと来てくれよな!」
「本当?院長、また俺が来ても大丈夫ですか?」
「もちろんですよ。むしろ迷惑じゃないかしら」
「いえいえ!院長が許して下さるなら俺もまた来たいです!アルウィン、いいよね?」
「あぁ、また一緒に来よう」
「…ふふ、次回はどうなっているのか楽しみね」

    やはり意味深な言葉を残すベスと快活に笑うサム、アルウィンの帰りが残念そうなサリー、そして丸々とした院長に手をふって俺とアルウィンは馬車に乗り込み出発した。

    茜色した細長い雲が色づいた西空に向かって進み始めた馬車の中で、隣に座るアルウィンの腕に俺の肩が触れる。ただそれだけのことが嬉しいのに、さっき聞いた話がずっと頭から離れなくて苦しい。
    自然と視線が下に落ち、自分の膝を見つめる俺をアルウィンが気にする気配を感じているが目を合わせられない。俺だけが気まずく感じている。

「…ミト、疲れたか」
「……孤児院は楽しかったよ」
「じゃあ何があった。どうしてそんなに暗い顔をしている?」
「それは…」

    こうして心配そうなアルウィンの声を聞くと直接聞いてしまおうかという気持ちがむくむくと顔を出す。俺が1人で悩んだところでアルウィンに聞かなければ事実は分からないし、アルウィンの想いも分からない。俺は覚悟を決めてアルウィンを見上げた。

「アルウィン」
「どうした」
「あのさ…もし俺が召喚されていなくて俺の護衛をする仕事がなかったら今頃…何してた?」

    リジーさんと結婚してた?とは聞けなかった弱気な自分に苛立ちを覚える。答えを恐れる自分がいることに、俺って恋愛が絡むとこんなに弱虫だったんだと情けなくなった。
    俺の質問が意外だったのか、片眉を上げて訝しむ様子のアルウィンを斜め下からじっと見つめる。彼の厚くも薄くもない唇がゆっくりと動いた。

「それは……分からない、としか答えられない」
「じゃあ俺が召喚される前はどこで何をしてたの?」
「ミトの護衛の仕事を任される前は要人警護という仕事を引き受けていたな。デロリー様からこの人の護衛をするようにと命を受けてその通りにしていた」
「確か俺の護衛もデロリーさんがアルウィンを指名したって言ってたよね。アルウィンってデロリーさんの部下なの?」
「まぁ、たぶん大枠でいうとそうだな」
「たぶんって…」
「そこはあまり気にするな。名誉騎士は自立した職業だから基本的に自分の仕事は自分で選べる。俺は特にやりたいこともなかったから孤児院のためになる旨味のある仕事を引き受けてきたって感じだ」
「そうなんだ。ベスからアルウィンは昔から人気者だったって聞いたよ。アルウィンの育った場所を見れて本当に嬉しかった」

    俺が本当に知りたかったリジーさんと結婚していたかどうかは聞けなかったが、聞かなくて良かったと思い直す。聞いたところで、俺が自立出来ないうちはアルウィンをリジーさんに返すことが出来ないのだから。

「大したものはないが子供たちの思い出と夢や希望がつまった孤児院だからな。俺もあの孤児院で育ててもらって心から感謝している」
「うん、とても素敵な孤児院だよね。みんな素直で可愛いし歓迎してもらえてよかった」
「…ミトは子供が好きか」
「うん、もちろん好きだよ。あまり触れあえる機会が今までなかっただけで好きだとはっきり自覚したのは今日だけど」
「なら…ライナス王子との子供はほしいと思わないのか」

    ……なんで、そんなことを聞くんだろう。俺がライナス王子に抱かれたくないから訓練を頑張っていることをアルウィンは知っているはずなのに。
    これは遠回しに、聖魔法を取得しようとするのをやめて早く王子と子をなして召喚された役目を果たしてくれということだろうか。そうすれば、アルウィンも俺の護衛という任務を終えて自由になれるから。

「俺が一夫多妻が大嫌いだって分かってるよね?」
「あ、いや…そうだったな。ならばもし、ライナス王子がミト以外の妃は娶らないしミト以外は抱かないと言ったら……どうするんだ」

    考えたこともなかった話を出され、きょとんとしてしまう。パチパチと瞬きを繰り返し、俺は呆気にとられた表情でアルウィンを見つめている自覚があった。

「えー…考えたこともなかったし想像が全く出来ないや」
「…そうか。でもあり得ない話ではないと思うぞ」
「ないない!ありえない!あの王子にかぎって誰か1人だけを愛して抱くなんてこと絶対にできっこないって!考えるだけ無駄だと思う」
「……」

    一瞬アルウィンの言ったことを想像しかけたが出来ずに終わる。どう考えてもあの王子が俺だけを愛する日なんて来るはずがないと自信を持って言える。まぁ愛されたからと言って抱かれるかと言われれば無理なんですけど。俺が抱かれたいと思うのは目の前の彼だけなんで。

    俺の答えに何を思ったのか、口を噤んだアルウィンの頬の傷跡を眺めていると、彼の纏う気配が一瞬にして変わった。それと同時に、ガタ、と馬車が変な音を立てて止まる。不穏な空気が漂い、嫌な予感が背筋を冷たく流れた。

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