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孤児院訪問したら
しおりを挟む煌びやかな美貌の姉弟がいなくなり、室内にはいつものように俺とアルウィンの2人きりになる。今日は授業も訓練もなくて何をやろうかなと考えながらアルウィンを振り返ると、彼はまた感情のよめない複雑な表情をしていた。
今日はエレノア様が来てからずっと変な顔をしているが一体どうしたんだろうかと気になって尋ねる。
「アルウィン、さっきっから様子がおかしいけどどうしたの?何かあった?」
「……分からない」
「分からない?どういうこと?」
「自分でもよく分からないが…なぜかずっと胸がムカムカするんだ」
「え、大丈夫?朝食で身体に合わないものがあったとか?同じものを食べた俺は何ともないからアルウィンにだけ合わない…あっ、アレルギーとかだったり!?」
「いや、違う。今日の朝食は何度も食べたことのあるものだし俺にアレルギーなどはないはずだ」
「じゃあ何で胸が…まさか、何か大きな病気の前兆!?やばいよ!早く医師に見てもらおう!」
「…それもありえない。しかし念のため見てもらうに越したことはないか…孤児院に行く次の休みまでには体調を万全にしておかなければいけないからな」
「うんうん、そうだよ!俺も孤児院に行けるの楽しみだし、体調管理はしっかりしなきゃ!」
治癒師は目に見える傷や内部損傷などの傷を治せるが病気を探知することは出来ない。日本と同じように医師がおり、怪我などは治癒師、風邪などは薬師の元に向かうよう診断されるのだ。
その後アルウィンは医師に診てもらったものの五体満足超健康優良児だと診断され、どこも悪いところなどなかった。それなら何よりだと思ったがならば一体何だったんだろうと2人で顔を見合わせて首を傾げたのだった。
***
また授業と訓練の日々をこなし、次の休みの日。今日は約束通りアルウィンと彼の育った孤児院に行く日だ。
アルウィンも俺が召喚されてからいろんなことがあったせいで2ヶ月ぶりの訪問だという。この前もらった手紙は早くアルウィンに会いたいと子供たちが騒いでいるから次は必ず来てくれとの催促だったそうだ。
孤児院は神殿方面にあり、馬車で1時間くらいだというが転移と馬車どちらで行くか迷い、やはり馬車を選んでしまった。転移なら早いし道中で妖怪などに襲われる心配もないが、やはり馬車でアルウィンと過ごす時間が好きなのだ。
流れていく風景や初めて見るものを尋ね、その説明をしてくれるアルウィンの声を隣で聞けるのも、知識が増えていくのも、新しいものを見るのも、全部好きで馬車に乗るのはやめられない。
付き合わせてしまうアルウィンには申し訳ないと思いつつも、馬車を選ぶのはアルウィンのためでもある。転移魔法は上級基礎魔法であり、かつ距離が長ければ長いほど魔力を消耗する。有事の際になるべく温存したい魔力だし、どんなに便利だからといって無駄遣いはするべきじゃない。
「ミト、もう少しで着くぞ」
「あ!もしかしてあの建物?」
「そうだ。あまり大きくないが0歳から15歳までの子供たちが住んでいる」
「遊べる広場みたいなのもあるんだね。孤児院に行ったらいつもどんなことをするの?」
「勉強を教えてやったり遊びたいやつの相手したりいろいろだな。あっちもこっちもって呼び出されるから身体が5つくらい欲しくなる」
「あはは!それは大変だ!2人で手分けして子供たちの要望をなるべく叶えようね」
「なるべくミトに負担はかけないようにするが…元気な子達だから頼む」
「任せて!」
アルウィンからお願いされると頼りにされているんだと感じれてとても嬉しい。子供の相手はほとんどしたことがなく上手く対応できるか不安だが、いつも子供のような我が儘暴君王子を相手にしているし彼と接する時のことを思い出しながらやれば大丈夫だろうと息巻いた。
馬車の揺れが到着を知らせ、先に降りたアルウィンにエスコートされながら降りる。いつもさりげなく差し出されるこの手を取る瞬間が、いつだって大好きだった。
俺が地面に足をつけたのと同時に、目の前の建物の扉が勢いよく開き、待ってましたと言わんばかりの勢いで小さな子供たちが走り寄ってきた。
「アルウィン!」
「アルにぃだー!」
「久しぶりのアルウィン嬉しい!」
「アル~遊ぼうよ~」
「アルくん、やっと来たー」
カラフルな髪色の子供たちがこれまたカラフルな声でアルウィンの名前を呼ぶ。アルウィンは高い身長をかがめ、一番小さな子を片腕に抱き上げると反対の腕に2人の子がしがみつく。それも楽々と持ち上げれば、子供たちのキャーという可愛らしい悲鳴に包まれた。
「みんな、順番にな。今日は俺の……友達も連れてきているんだ。中に入って紹介する」
「この人だれー?」
「黒色だ!黒色だ!」
「え、もしかして異世界人!?」
「院長が言ってた異世界人じゃない!?」
「わー!異世界の話してー!」
一気に話しかけられて誰が何を言っているのか全く聞き分けられずあたふたしてしまう。今だけ聖徳太子の力をくれと切に願った。
馬車の中では念のため認識齟齬魔法をかけてもらっていたが、院長の要望で異世界人の姿のまま来てほしいとのことだったから馬車を降りる前に認識齟齬魔法は解除してもらっていた。案の定、子供たちは初めて見る俺の黒髪に興味津々だ。
「みんな、彼らを困らせてはダメよ。異世界人ミト様、ようこそ我が孤児院へおいでなさいました。どうぞ中にお入り下さい」
この孤児院の院長だという60代くらいの女性は柔らかそうな丸い頬にえくぼを浮かべて中へと案内してくれた。俺はアルウィンと共に子供たちを引き連れながら建物の中へと入る。
パッと見ると質素な印象を受けるが、至るところに子供たちの落書きや身長が伸びたときの印、アルウィンや院長を描いたとすぐに分かる似顔絵などが目に入り温かな匂いが滲んでいる空間だった。
「ミト、みんなに挨拶を」
「う、うん!初めまして!異世界から来たミトって言います!アルウィンにはいつもお世話になっていて孤児院のみんなのこともよく聞いてました!こうして来れてみんなに会えて嬉しいです!よろしくね!」
なるべく大きな声でハキハキと笑顔を意識して自己紹介すると、年齢も髪色も身体の大きさもバラバラな20人くらいの子供たちがワッと俺を一斉に囲む。子供の熱量を初めて間近で感じて、そのパワフルさと温かさに驚いた。
「ミトー!」
「ミトは何歳なのー?14歳くらい?」
「どう見てもミトも子供じゃん」
「ミトは何して遊ぶのが好き~?」
「アルウィンと仲良しなの?子供なのに?」
…俺、子供たちにも子供だと思われるくらい童顔なのかと少しへこむ。しかし子供たちに悪気がないのは分かっているため、俺はなるべく1人1人の声に耳を傾けて丁寧に返答していった。
そんな俺と子供たちの様子をアルウィンが優しげな眼差しで見守っていることに気付いてしまい、頬が熱くなる。しかしアルウィンもすぐに子供たちに右に左に引っ張られ、苦笑しながらも頭を撫でたり抱っこしてあげたりしている。
俺は、その光景を見て、なぜかちくりと胸が痛んだ。子供相手にまで嫉妬しているのかと思ったが、たぶん違う。気付いてしまったからだ。
きっとアルウィンは、子供が好きで将来とても良いお父さんになると。
「ねぇ聞いてるのミトー?」
「この絵本読んで~!」
「えー!こっちの方がおもしろいよ!」
吸い込まれそうになっていた思考を子供たちの声に引き戻される。今はアルウィンのことではなく、目の前の子供たちを楽しませることに集中しようと気持ちを切り替えた。
それから俺とアルウィンはそれぞれ子供たちに囲まれながらカーペットの上に座り込み、絵本を読んだり積み木をしたり、クイズを出してあげたりして楽しい時間を過ごした。
お昼寝の時間になると12歳以下の子供たちはお昼寝部屋に行ったため、数人の大人びた子供たちだけが残る。
アルウィンは院長に相談があると言われ別部屋に行ったため、俺と年齢が高めの子供たちは残され輪になって話し始めた。
「アルウィンとミトはいつも一緒にいるの?」
「うん、いるよ。アルウィンは僕の護衛をしてくれているからね」
「羨ましい~!アルウィンってすっごくかっこいいじゃない?優しくて真面目で男前!アルウィンみたいな人と結婚したい!」
胸の前で手を組み、恋する乙女のような願望を赤裸々に語るピンク髪、13歳のサリーに俺は内心強く共感する。無意識にうんうんと首を縦に何度もふっていた。
「アルウィンは男から見ても漢の中の漢って感じで憧れる!ミトもアルウィン見習ってもう少し鍛えなきゃダメだろ。そんなひょろひょろじゃ、この国の子供にも勝てねぇぞ」
「あははー…本当だよねぇ」
俺の手首を掴んで指で太さをはかっているのは緑髪で14歳のサム。この国の14歳は日本でいうところの20歳くらいに見えるなと思いながら苦笑を溢す。
「でもアルウィンは昔から大きくて強かったのよ。ミトは異世界人なのだし、骨格や強さに違いがあるのは仕方ないわ」
淡々と抑揚のない声で擁護してくれたのは水色髪で15歳のベス。彼女はアルウィンが孤児院を出ていく10年前の時点ですでに孤児院にいたそうだ。だから当時のアルウィンの様子も幼いながら少し覚えているそうで語ってくれた。
「アルウィンは昔からずっと大人気よ。そういえば孤児院までアルウィンに会いに来る青髪の女性がいたの。それが今のアルウィンの婚約者らしいわ」
チクリ、心臓を安全ピンで刺されたような痛みが走る。リジーさんという、アルウィンが孤児院に入る前からの婚約者。アルウィンが孤児院に入ってからも会いに来ていたという事実が、彼らの親密さを物語る。
「も~なんでアルウィンに婚約者がいるの~!私があと10年早く生まれていれば…!」
「サリーが生まれていても婚約者は今の彼女だったと思うわよ」
「なんでよ!」
「アルウィンの親と婚約者の親は親友でお隣さんだったらしいわ。妊娠が分かって2人が生まれる前から男の子と女の子だったら婚約者にしようって約束していたんですって」
「それ、アルウィンから聞いたの?」
「いいえ。ミトも知らなかったのね。婚約者さんから直接聞いた猛者がいてその子から聞いた話よ。成人してもう孤児院を出た私より5歳上の子だけどアルウィンが好きで婚約者さんに挑んだらしいわ」
「女ってまじこえぇ!」
「でも完敗したって泣いていたわね。婚約者さんがいい人すぎてアルウィンとお似合いだって」
「そりゃアルウィンほどのいい男にはいい女が隣にいなきゃダメだろ!」
「うわ~ん!私も挑みたかった~!」
うん、サリー。気持ちは分かるよ。俺は挑むことも気持ちを伝えることも出来ない立場にいる。この行き場のない恋心をずっと心臓にぶら下げている。
「アルウィンも護衛の仕事がなきゃ今頃結婚してたかもなのにな!」
え……?サムの言葉に、俺は固まった。
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