【完結】異世界召喚されたのに命を狙われまくるなんて聞いてない。

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最近王子がかわいく見える

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    女性に頭を撫でられた記憶なんてなく、どぎまぎしながらも彼女が満足するのを待つ。1秒、5秒、10秒……全然終わらない。そろそろ撫でられすぎてそこの部分だけ絶壁になっていないだろうか。

「…エレノア様、その辺で」
「あら、やだわ。あまりにも艶々の黒髪が触り心地良くて手が離れてくれなかっただけなのです。ごめんね、ミトちゃん」
「いえ、大丈夫です」
「ぜひミトちゃんには第二王子にも会って頂きたいわ。あの子も私に似て可愛いものが好きなのよ。中々外に出られなくて寂しい思いをしているから遊んであげてほしいですわね」
「第二王子のお体の調子はどうでしたか?今日もお薬を届けて来られたんですよね?」
「ええ。今日は比較的気分が良さそうで前に持ってきた薬がよく効いているそうなの。今回のは前回のものをさらに良くしたものだからきっともっと元気になると信じてますわ」
「お薬はどこで調達を?」
「私が作っておりますわ。こう見えて私、薬草などを使って薬を作る薬師なのです」
「えっ、そうなんですか?」

    元王女であり公爵家夫人でありながら中々地味な役職についているんだなと驚く。しかし治癒師がいるのに薬師は需要があるのかと疑問がわく。

「治癒師は身体の傷を治すことは出来ます。しかし熱や風邪などは治せません。そういうものは薬師の作る薬剤で治療するのです。第二王子の体調不良も治癒師に何度か試して頂いても良くならなかったので生まれつきのものか精神的なものだろうと診断されましたわ」
「なるほど…もしかして第二王子のために薬師になられたんですか?」
「その通りです。彼の慢性的な体調不良を治してあげたいのです。生まれたときからベッドの上ばかりで生活してきた彼に、外で走ったり良い景色を見せたり共に観劇を観に行きたいのです」
「エレノア様も弟思いなんですね。ライナス王子もエレノア様をよく褒めて自慢していますよ」
「弟思い…そうですわね、ええ、そうですとも。ライナスも可愛い弟なのですわ。ちょっと自信家で横暴に振る舞うところがありますけど、それにも理由があるのです」

    長い睫をふせて物憂げな様子のエレノア様に、俺もライナス王子の暗い影の片鱗を見たときのことを思い出す。信じていた人に裏切られた経験があるらしいが、内容までは王子が言わなかったから聞かなかった。姉である彼女は事情を知っているようだった。

「信じていた人に裏切られた経験がありそうでしたね」
「あら、知っていらしたの?ライナスから直接聞いたのかしら?」
「内容までは聞いていません。人に優しくする必要がないって言ってたのでもしかして優しくした結果裏切られたことがあるのかもなと質問したんです。そしたら肯定してました」
「それはすごい進歩ですわ…あのライナスが人に弱味を見せるなんて…」
「王子は図星をつかれて嫌そうでしたけどね」
「それでもあなたにはそこまで見せるほど気を許しているということでしょう?まぁまぁまぁ、ライナスもここに呼べないかしら!」
「え」

    俺は余計なことを言ってしまったのかもしれない。あのシスコン王子が大好きな姉を前にしてどんな甘えた声を出すのか見たいような見たくないような…いや、王子の弱味は握れるだけ握っておくにこしたことはない。いつか絶対に役立つ素材だ。

「いいですね、ライナス王子に連絡してもらいましょうか?」
「ええ、ぜひ!さっき玉座の間では顔を合わせたのだけれど人前だったしゆっくりお話出来なかったわ。ライナスもここに来ようとしていたのを国王に止められて一緒に来れなかったのです。そろそろ国王との話も終わってるでしょうし、呼びましょう」
「アルウィン」
「今使用人に伝えます」

    俺が名前を呼んだだけですぐに動いてくれるアルウィン。扉の外にいた使用人に遣いを出し、返事が来るか王子が直接来るかまで待つことにした。

「ライナス王子って知れば知るほど優しいのかもと思わされるんですよね。この前も命の危機を救ってもらって、口ではこっぴどく怒られたんですけどその怒りの中に優しさが滲んでいるというか、ほっこりしたんですよ」
「ミトちゃんはよくライナスを見てくれているのね。姉としてとっても嬉しいですわ。最初はとても失礼な態度だったでしょう?」
「まぁ、それなりに。吐き気を催すくらいには」
「あらあら、それはごめんなさいね。彼も悪気があるときとないときがあるのよ。本当は誰よりも頑張り屋さんで研究熱心で不器用な優しさも持っているのよ」
「はい、それは知ってます。家族を大切に思っていることも魔力や魔法に関して決して妥協しないところもかっこいいなと思いますよ」
「ふふ、この後直接ライナスに言ってごらんなさい。顔を真っ赤にして照れ隠しに怒り始めるわ」
「あはは、絶対猫みたいでおもしろそうですね」

    2人で和やかに笑い合っていると王子がこちらに向かっていると使用人から報告があった。報告を受け取ったアルウィンの表情は心なしか暗く見えて、具合でも悪いのかと心配になる。
    声をかける隙間もなく、エレノア様からしきりに話しかけられ答えているうちにアルウィンは淡々とした表情になっており、気のせいだったかと思い直した。
    数分後、王子は二枚扉をバンッと勢いよく開いて王子らしいご登場の仕方で俺たちの前に現れた。

「姉上!お待たせ致しました!」
「ライナス、来てくれてありがとう。待っていましたわ」

    今日もキラキラと光を散らしている王子様は真っ直ぐ姉のところにいき、なぜか彼女の隣ではなく俺の隣に座る。エレノア様の対面にいた俺を隣に押し寄せ、姉の正面に座った王子は初めて見る満面の笑みだった。
    姉の美しい顔を真っ正面から見たかったんだなと内心苦笑しながらも、本当に大好きなんだなぁと微笑ましくなる。

「今ちょうど、ミトちゃんがライナスをべた褒めしていたところですのよ」
「…ミトちゃん、だと?」
「あ、いやー、ほら、可愛い響きだから可愛いものが好きなエレノア様にぴったりな呼び方だろ?」
「ふん、まぁいい。で、お前が僕をべた褒めしていた?姉上をたらしこんで何を企んでいる!」

    さっきまで王子を褒めていた時間を返してほしい。そういえばこいつは面倒な言いがかりをつけてくるやつだったと思い出す。

「そんなんじゃないって。褒めたら褒めたで照れるくせに」
「なっ、なんだと!」
「でも褒めてたのは本当だよ。あとライナス王子がお姉さんを自慢したくなる気持ちはよく分かった」
「ふん、まぁそうだろうな!僕も姉上も素晴らしいだろう!」
「あーはいはい」
「まぁまぁ、本当に2人は仲良くなったのね。国の将来は安泰かしら」

    お姉さん、それどういう意味で言ってます?これのどこが仲良く見えるのか分かりませんが俺たちは結婚して子供をつくるなんてしませんからね?それを回避するために毎日訓練しているんですからね?
    なんてことは言葉にせず、エレノア様に言われた言葉が気まずいのか、そっぽを向く王子とにこにこ嬉しそうなエレノア様に乾いた笑みを向けた。

「それより姉上がお元気そうで良かったです。義兄と甥もお元気ですか」
「ええ、もちろん元気ですよ。息子も5歳になって毎日元気に走り回っているわ。今度機会があれば王宮に連れて参りますわね」
「ぜひそうされて下さい」
「エレノア様、息子さんがいらっしゃるんですか?お子さんを産んだようには見えないスタイルの良さですよね」
「まぁ、ありがとう。これでも乳母や侍女たちばかりに任せないで子育てを頑張っているのですよ」

    桜の花びらが舞うような微笑み浮かべる彼女が出産して育児に励んでいるとは想像もできなかった。世の女性は自分の美貌を保ちながら怪獣のような子供の相手をしているのかと思うと尊敬でしかない。

「しかし姉上、あまり無理はなされず。姉上は昔、1年以上床に臥せったこともあるのですから」
「…あぁ、そんなこともありましたわね。まだライナスは幼かったはずなのによく覚えているのね」
「大好きな姉上と長い間会えなかった日々はよく覚えておりますとも。あれから元気になられて久しぶりにお会いできたときは本当に嬉しかったのです」
「そう…あのときのことは病におかされていたせいか、記憶が朧気なの。でもあなたが泣いて抱きついてきたときのことは覚えていますよ」
「え、ライナス王子も泣くことあったんだ…」
「ぼ、僕が7歳くらいのときの話だ!子供なら泣くことの1つや2つあるだろう!」
「うそうそ、からかっただけ。泣いている王子もさぞかし可愛いかったんだろうなぁって想像しちゃった」
「かか可愛いとはなんだ!僕は可愛いくない!どこをどう切り取ってもかっこいいだろう!」
「はいはいかっこいいかっこいい」
「ふふふ、本当にあなたたちのやり取りはおもしろくて飽きませんわね」

    頬を少し染めて口を尖らせるライナス王子についいつもの雑な返しをしてしまうが、それもエレノア様は楽しんで見ているようで何より。
    王族を前にしているからか、やけに大人しいなと扉の近くに立つアルウィンをちらりと見やると、無表情だった。ドロモアもびっくりな無表情だった。

「さて、そろそろ公爵家に戻らないといけませんのでこの辺でお暇いたしますわ。ミトちゃん、本日は楽しい時間をありがとう。今度、公爵家にもご招待するわ。夫と息子を紹介させて下さいな」
「え!あ、ぜひ!ありがとうございます!俺もエレノア様とお話出来て癒やされました」
「それなら良かったですわ。生意気な弟ですけどこれからもライナスと仲良くしてあげて下さいね」
「あ、姉上!」
「あー、もちろんです。良い"友達"としてこれからもライナス王子にはお世話になります」
「お前と誰が友達になど…!いや、な、なってやらんことも…ない」
「ふふ、良かったわね、ライナス。初めてのお友達じゃない」
「初めてなんだ…一生友達でいような、ライナス王子!」
「姉上に免じて許してやるだけだからな!調子にのるなよ!」

    俺の"一生友達"の裏には"だから絶対に結婚もしないし子供も産まない"が含まれている。それを気にも留めなかった姉弟は最後の別れの挨拶をして、俺は2人が室内から出ていくのを見送った。
    最近本当にライナス王子がかわいく見えるときがある。ツンデレ属性が日本で大人気だったのも分かるなと思いながら、彼らのプラチナブロンドが見えなくなるまで俺は手を振り続けた。

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