【完結】異世界召喚されたのに命を狙われまくるなんて聞いてない。

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王子のお姉さんもちょっとおかしい

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    1日に2人から命を狙われるという恐ろしいほど濃厚な休日とも言えない休日を終えて、また再び授業と訓練の日々を繰り返す。
    マルセルの処罰は理由が恋心だったので当人の王子が減刑を望んで1ヶ月自宅謹慎かつ3ヶ月無報酬ということになったらしい。彼と次話せるのがいつになるか分からないが、きちんと反省したら本当に友達になってほしいと思っている。

    そしてどうやら獣人村の近くに監視塔を設置しようとしたが獣人の視力、聴力は俺たち人間の何十倍、下手したら何百倍とあるので監視塔の状況が筒抜けな可能性があるとして却下されたようだ。
    妖怪と同じようにはいかないがドロモアの豹変した態度を見るに、もしかしたら他の獣人たちを説得してくれるかもしれないと僅かな期待を込めて現状維持となっている。

    そんなこんなで俺が召喚されたときは春の日差しだったのが、初夏の日差しへと変わっていく。そろそろ中庭で訓練するのは暑いなと思い始めていた、とある日。

「今日は急遽、授業も訓練も無くなった。ライナス王子の姉でありウィンストン公爵家に嫁いだエレノア様が王宮に来られるそうだ」
「ライナス王子のお姉さん?ああ、王子がたまに自慢してる綺麗なお姉さんね。めっちゃシスコンだけどお姉さんもブラコンなの?」
「しすこん?ぶらこん?」
「あー、お姉ちゃん大好き!弟大好き!みたいな感じのやり取りを見せられたらどうしようかなって。何の用で王宮に?やっぱり王子に会いに来るとか?」
「いや、ライナス第一王子ではなくお身体の弱い第二王子に効きそうな薬を後宮に持ってこられるついでに顔を出すそうだ」

    そういえばライナス王子には姉の他に3人の弟王子がいるんだったなと思い出す。彼らは後宮に住んでいてあまり王宮にはやってこないため、まだ一度も会ったことがない。
    後宮は王宮の北塔よりさらに北の奥まったところにあり、合計5つの後宮があるという。第一後宮にはエレノア様とライナス王子のお母さんである正妃、第二後宮は身体の弱い第二王子の治療専用、第三後宮には双子の王子とその母親である側妃、第四後宮にそれ以外の側妃、第五後宮に妾が何人か住んでいると習った。
    国王様、もう結構ないい年なのに何人奥さんいんねんって突っ込みながら吐き気を何とか抑え、授業を聞き終えたあの日の俺は偉かった。

「久しぶりにエレノア様がご登城されるから王宮中が浮き足立っている。エレノア様は王宮の使用人みんなから愛されていたと聞いた。俺も会うのは今日が初めてだが」
「俺も会えるの?」
「もちろんだ。むしろエレノア様が会いたがっている。彼女は第二王子の体調を心配して頻繁に後宮には行かれているそうなんだが、あまり王宮に顔を出さずに素通りして帰られるそうだ。しかし今回はミトに一目会いたいからと東塔にわざわざ来て下さる」
「え、こっちに?玉座の間とかじゃなくて?」
「挨拶程度はするだろうがミトとゆっくり話してみたいからこの部屋での面会をご希望だと使用人からの伝言だ」

    ライナス王子のお姉さんが俺に会いたいと思ってくれているのは嬉しいけど少し緊張する。どんな人物なのか王子から聞いた話でしか知らないが、とにかく素晴らしい人だと彼は言っていた。
    俺は重度のシスコンだなとあまり真剣に聞いていなかったが、ライナス王子のようにナルシストだったり横暴でなければ仲良くなれそうだなと思っている。

「あともう少しで着く頃だな。玉座の間で挨拶を終えてからここに来られる」
「え、すぐじゃん!俺はこの格好でいい?失礼じゃない?」
「いつも通りで大丈夫だ。少し寝癖がついてるな。直してやるからそばに来い」

    手招きされてすすすとアルウィンに近寄る。こんなの水をつけてちゃちゃちゃと直せるのにと思いながらも、嬉しさは隠せない。
    アルウィンの手のひらが温かな熱をおび、ゆっくりその熱を推し当てるようにして寝癖の位置に触れる。慣れたその手付きに、誰かに、リジーさんにやったことがあるのかもしれないなと思って胸が苦しくなった。

「ん、これで大丈夫だ」
「…ありがとう。なんか、上手だね。やっぱり婚約者のリジーさんにやってあげてたりしたの?」

    やめておけばいいものを、気付いたら勝手に出ていた言葉。自分の耳に届いてすぐに何でこんなバカな質問をしたんだと自分を殴り付けたい衝動に駆られる。笑顔が引きつっていないか、不安だった。
    俺の言葉にアルウィンは少し眉を寄せ、複雑そうな表情をする。やっぱり困らせてしまったじゃないかと心の中で自分の頭を殴った。

「なんでリジーが出てくるんだ。孤児院の子供たちにやってあげたことはあるが、リジーになどしたこともされたこともないし、する予定もない」
「あ…そうなんだ。ごめん、変なこと聞いて」
「リジーが気になるのか?」
「んえ?いや、全然!そういうことじゃないから!人様の婚約者さんにどうこう思わないから!」

    慌てて手も首も横にふって全力で否定する。オーバーリアクションすぎて不自然だっただろうかと思いながら、俺はなんとか笑顔を取り繕った。

「ミトは元の世界に恋人や…婚約者などはいなかったのか」
「いないいない!いたら初日に帰らせろって喚いていたと思うよ」
「…そうか。そういう存在を…ほしいとは思わないのか。今、気になる人はいないのか」
「へ…?」

    考えたこともなかった質問に間抜けな声が漏れる。そういう存在って恋人ってことだよな…こんなことを聞いてくるということはやはり、俺のアルウィンへの気持ちがバレているのだろうか。
    もしかしてアルウィンは今の質問を否定してほしいんじゃないだろうか。もしくは、他に恋愛対象になりえる人物の名を出してほしいんじゃないだろうか。俺には婚約者がいるんだからこれ以上その気持ちを向けてくれるな、と遠回しに伝えるために。

「あー…えっと、気になる人は、いる。最初は嫌なやつだったけど最近可愛く見えてきてさ」

    だから俺は、アルウィンが欲しいであろう期待通りの言葉を吐いた。言葉に偽りの匂いがしないように、それらしく照れた表情までして見せる。
    大丈夫、俺はきちんと他に気になる人がいるよ、だからアルウィンは安心して俺の護衛騎士としてそばにいて。そんな想いを込めて、嘘をつく。

「……」
「……」

    鼓膜を圧迫しそうな深い沈黙がおりる。作っていた照れ顔の筋肉がひきつる。早く何か言って欲しかった。ちらり、アルウィンに視線を向けると見たことのない不機嫌そうな、不愉快そうな顔をしていてギョッとした。

「あ、あれ?俺なんか変なこと言った…?」
「……すまない、自分でもよく分からないがなぜか不愉快だと感じた」
「へっ!?ご、ごめん!何が気にさわった!?」
「いや、俺にもよく分からないから気にしないでくれ」
「本当に…?」
「本当だ。そういえば、来週の休みは定期的に訪問している孤児院に行く日だが、ミトも行くか?」
「え!俺もいいの!?もちろん行きたい!」

    アルウィンが不愉快だと感じた部分が何なのかは気になるが、孤児院に行けると聞いてすぐに思考が切り替わる。

「孤児院の院長からミトもぜひにと手紙を貰ったんだ。子供たちも異世界人と会うのはもちろん初めてだから楽しみにしているそうだ」
「嬉しいなー!アルウィンが育った孤児院に行けるなんて!院長や子供たちからアルウィンの話、たくさん聞いちゃおーっと」
「おもしろい話など何も出てこないぞ」
「いいのいいの!アルウィンが育った場所を見れるだけで価値がある!」

    テンションが一気に上がった俺を見て、さっきまでの不愉快そうな表情はなりを潜め、苦笑しながらも柔らかな笑みが戻ってきたアルウィンに安堵する。

    楽しみだねと言い合っていると、使用人がエレノア様の到着を知らせに来た。俺は忘れていた存在の登場にソファから立ち上がり、ピンと背筋を伸ばす。
    アルウィンが扉を開き、中にエスコートするように現れたのは、ライナス王子と似たプラチナブロンドのふわふわした長い髪の女性。ターコイズブルーの瞳は丸く、睫は影をつくるほどに長い。ライナス王子の姉だと一目で分かる、お人形のように整ったすごい美貌の持ち主だった。

「あなたがミト様…!お会いしたかったですわ…!」

    淑女らしく挨拶されるのかと思いきや、部屋に入って俺の姿を見つけた途端、凄い早さで走って俺の目の前まで来たエレノア様に背筋がのけ反る。ライナス王子と初めて会ったときも似たようなことがあったなと思い出し、さすが姉弟だと感心する。

「初めまして、この国の元王女であり、現ウィンストン公爵家夫人、エレノアと申します。ミト様のお噂はかねがねお聞きしておりましたわ。お会いできてとっても嬉しい…!」
「は、初めまして!異世界人のミトです。いつもライナス王子には大変お世話になっております!こちらこそお目にかかれて光栄です!」

    フローラルのいい香りが彼女から漂ってくる。こんなに美しい女性と対面して話すのは初めての経験だから声がひっくり返りそうになりながらも何とか自己紹介をした。
    彼女は俺より身長が5cmほど高く、花で例えるなら桜のような華やかさと慎ましやかな雰囲気を併せ持っている。ターコイズブルーの瞳が細められ、花びらが溢れるような笑顔が眩しかった。
    ライナス王子より8歳年上の30歳だと聞いていたが、三十路には全くもって見えない。瑞々しい若さと大人の落ち着きを兼ね備えた彼女は不思議な魅力の持ち主で、ライナス王子が自慢したがるのもシスコンになるのも納得した。

「ふふ、本当に幼いお顔ですのね。あまりに可愛いらしくて持ち帰りたくなってしまったらどうしようかと思っていたのだけれど…やっぱりウィンストン邸に持ち帰りたくなってしまいましたわ」
「え?」
「エレノア様、ミト様は王宮で暮らすようにとの国王の命ですので」
「もちろん分かっておりますわ。でもこのあどけなさが残る童顔っぷりはなかなかこの世界の人間にはないものなのです。私は可愛いものを集めるのが趣味でして、ミト様も私の大好きなお人形たちと共に飾ったら絶対に素敵ですわ」

    ライナス王子の姉だから癖はありそうだなと思ってはいたものの、何だろう、ちょっと怖さを感じる。女性が可愛いものを好きなのは普通のことだとは思う。しかし可愛いものを集めるとはどこからどこまでの可愛いものを集めているんだろうか。まさか人間を人形化して集めてるんじゃあるまいな、と若干背筋がひんやりとする。

「エレノア様、席にお座りになってお話いたしましょう。急遽だったので大したものはご用意出来ませんでしたがお茶とお菓子をお召し上がり下さい」
「突然のお知らせとなってしまったのに申し訳ありませんわ。あなたが名誉騎士のアルウィン殿ね。剣術は国一番、魔力はライナスに次ぐ持ち主だとお聞きしましたわ」
「もったいないお言葉です」
「ミト様、よかったら…ミトちゃんとお呼びしてもよいかしら?」

    み、ミトちゃん…?そんな女みたいな呼び方されたことないし若干抵抗あるが…エレノア様のキラキラと期待に輝くターコイズブルーを前に否と言える勇気はなかった。

「も、もちろん。お好きにお呼びください」
「ありがとう!ミトちゃん、あなたは前の異世界人様のように治癒魔法を使えるようにはならないのかしら?」
「それは…なんともまだ。毎日ライナス王子のご協力のもと、訓練しているんですがまだ魔力すら芽生えておらず申し訳ないです」
「謝ることなどないですわ。毎日頑張っていらっしゃるのね。えらいえらい」

    子供を褒めるときのように俺の頭を撫でるエレノア様にいよいよ顔がひきつる。この世界の人たちからしたら俺は子供のように見えているのは分かっているが、本当の子供に接するように俺を扱う人はいない。
   やはりこの女性、ライナス王子とは別ベクトルにひと癖もふた癖もありそうだなと感じていた。

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