23 / 110
もしかして気付かれてる?
しおりを挟む赤い顔をして仁王立ちになっているライナス王子に乾いた笑みを向けてみる。ゴオオという地鳴りが空耳で聞こえてくるようだった。
「お、ま、え!!!バカ者が!!!」
「ごめんって!助けてもらったのに俺もバカだとは思うけどさ!またいつ嫉妬して殺されようとするか分からないじゃん?なら仲良くなって殺意消してもらうしかないじゃん?友は近くにおけ、敵はもっと近くにおけって言うじゃん?」
「異世界の常識など知らんわ!こんのドアホとんちんかんのちんちくりん異世界人が!!」
ずかずかと俺の目の前まで来て耳元で叫ばれ、思わず手で耳を覆う。大きい図体なのに怒っている顔も人形のようだからか、シャーシャーと威嚇する猫にしか見えない。彼は真剣に怒っているんだろうけど申し訳ないが全然怖くない。
「うんうん、俺はドアホとんちんかんのちんちくりん異世界人でーす。ごめんなさーい」
「全然反省してないな!?お前は僕が助けに来なければ本当に死んでいたんだぞ!それを分かっているのか!?」
「…うん、それは本当にそう。助けに来てくれてありがとう」
「ま、まぁ…分かってるなら、いい」
素直にお礼を言うと照れたのかツンデレになる王子。彼がここに来て助けてくれなかったら俺は今頃雷に焼かれて死んでいた。想像するだけで身の毛もよだつ。
「でもどうして助けに来てくれたの?たまたま通りかかったとか?」
「獣人が初めて王都に現れたと報告があったから王宮に急いで来たのだ。玉座の間でアルウィンが報告している最中にミトの探知魔法が扉の外を出たとアルウィンが焦って言ってな。報告が終わっていないアルウィンにかわり僕が転移して見にきてやったのだ」
「そうなんだ。やっぱりアルウィンに奇襲ってのはマルセルの嘘だったんだね。よかった…」
「奇襲されたのはお前だろうが!人の心配をするより自分の心配をしろ!」
「ずっと思ってたけどライナス王子って実は優しいよね。優しくする理由がないって言ってたけど本当に優しい人って優しくしようと思ってしてるわけじゃなくて自然と優しさが滲み出るもんだし」
「う、うるさい!またお前に女抱いてるとこ見せてやってもいいんだぞ!」
「おえっ、それだけはやめて…」
前言撤回、全然優しくない。何か暗い理由があるにせよ、この王子はヤリチン不潔野郎だったのを思い出した。命の恩人だからもう面と向かって気持ち悪いとは言わないけど。無神経な王子と違って。
「ねぇ、国王に今回のこと報告する、よね…」
「当たり前だろうが!マルセルには相応の罰を下して頂く。お前も簡単にあいつと仲良しこよし出来ると思うなよ」
「国王に減刑してもらうようお願いしようかなぁ」
「なんだと?」
「だってもし重い罪に問われて逆恨みされてまた命を狙われるようになったら嫌なんだもん」
「それは、まぁ、一理あるが。ふむ…そうだな、僕からも重い罰にはならないよう助言してやってもいい」
「さっすが王子!話が分かるなぁ」
「ふん、マルセルなど僕の敵ですらないからな!」
せっかく友達になれそうなのに罪状を突きつけられてまた殺意をぶり返されたらたまったもんじゃないからな。王子の助言があればそれなりですむだろうと安堵した。
「ミト、何があった」
するとそこへ転移で戻ってきたアルウィンが険しい表情で俺の元に来る。ライナス王子が思いの外距離が近かったからか、アルウィンはピタッと止まり、その場で敬礼した。
「殿下、本来なら私の役目だったはずなのに引き受けて下さり誠にありがとうございました」
「ふん、お前に出来て僕に出来ないことなどないからな!このバカによく言い聞かせておけ!敵と友達になろうとするなと!」
「…ミト、お前また」
「あーはいはい!分かってるって!とりあえず部屋の中に入ろうよ。王子、本当にありがとね」
「またピーピー泣きながら僕に抱き付くなどしたら次は氷漬けにしてやるからな!」
「あ、それなら今度王子の氷魔法見せてよ。まだ見たことなかったし」
「ふん、僕の氷魔法は美しすぎて度肝を抜くぞ。お前の美的感性では1割もその美しさが分からないだろうが見せてやってもいい」
「やった!楽しみにしてるね!じゃあまた明日訓練で!」
「ふん、よく寝て熱など出すなよ!」
前言撤回の撤回、やっぱりライナス王子は優しいかもしれない。
王子を見送り俺とアルウィンは室内に入る。今日だけで2人から殺意を向けられ攻撃されたからか、一気に疲れがドッと押し寄せてきた。ベッドに勢いよくだいぶして全身を伸ばす。ぬぉーと変な声が出た。
「あ~疲れた!アルウィン、おかえり。報告は無事終わった?」
「…あぁ。獣人も妖怪と同じく異世界人に殺意を持っていることは報告しておいた。今日の2人は大丈夫そうだが他の獣人が現れたとき用に獣人村の近くにも監視塔を作るべきだと言っておいた。今後会議するそうだ」
「そっか。ドロモアはもう攻撃しないって約束してくれたから大丈夫だろうけど確かに他獣人は分からないもんね」
「ミトもまだあいつに油断しないでくれ。それで、今は何があった?なぜ部屋の外に出た?敵と友達になるとはどういうことだ?」
ベッドに寝転ぶ俺の頭の横に手をついて、押し倒すような体勢で畳み掛けてくるアルウィン。精巧な顔がどんどん近付いてくるのと比例して、俺の体温はどんどん上がっていく。
このままだと俺のうるさすぎる心臓の音がアルウィンにも聞かれてしまうと思い、アルウィンの厚い胸板に手をやり、彼の身体を押し戻しながらベッドから身を起こした。
「せ、説明するから!ソファに座って!」
火照る顔を誤魔化すように手のひらでおさえながら、俺はソファに座って同じように隣に座ったアルウィンに先ほどあったことをすべて説明する。話が進めば進むほど、彼の眉間には深い皺が刻まれていく。いよいよ最後の友達のくだりで、アルウィンは綺麗な額に手を当てて深々とため息を吐いた。
「つまり、王子を好きな子爵令息に殺されそうになったのにもかかわらず、その子爵令息と友達になった、だと?」
「そ、そういうことー…」
「ミト…お前なぁ…」
「あー!やめて!怒んないで!王子からもうこっぴどく怒られたんだよ…耳が痛くなるほどに。でもアルウィンもそりゃ怒るよな…頑張って命はって守ってる相手がこんなバカな人間なんだもん」
アルウィンの気持ちを考えたら俺の行動ってすごく失礼な気がしてきて気分が落ち込む。仲良くなればまた狙われたりしないだろうという安直な考えだが、俺なりに一生懸命自分の命を守るための行動でもある。
それを否定されるのは悲しいが、俺の行動一つでアルウィンも大きく振り回されるのだから怒って当然だ。
「アルウィン、ごめん…」
「違う、ミト。お前はバカなんかじゃない。しっかり自分なりに考えて前を向くための行動なんだろう?俺はそれを否定はしない。ただ、お人好しすぎて心配になるだけだ」
「じゃあ、いつも心配かけてごめんね」
「それは本当に反省してくれ。だが俺のいないときに怖い思いをさせてしまった。ずっとそばにいてやれなくてすまなかった」
「それは俺が考え無しに扉を開けちゃったからでアルウィンが謝るようなことじゃないよ!」
「二度と俺がいないときにこの部屋の扉を開けないと約束してくれるな?」
「うん、もちろん。本当にバカだったなって思う」
「俺の名前を出されて冷静な判断が出来なくなるようではダメだ。どんなに俺の名前を使われても、不安なことを言われても、俺を信じて扉は開けるな。もう王宮内の犯人が分かったとはいえ、また次誰が、何が来るか分からない。すまないが安全なのはこの室内だけだと分かってくれ」
神妙な顔つきで真剣に真っ直ぐ言葉をぶつけてくれるアルウィンに、俺も真面目な面持ちで大きく頷いた。
俺に何かあったら護衛騎士であるアルウィンが何してたんだとみんなから責められるのだ。自分の命を守ることはアルウィンの名誉を守ることに繋がるのだと忘れずに行動しなければ。
「……ライナス王子に泣きながら抱きつくほど怖かったんだろう?」
「あー…うん、そうだね。あの王子が一瞬天使に見えて救世主だなと思うほどには怖かった。逃げたくても身体が動かなくて絶体絶命ってこのことを言うんだなって。ドロモアに攻撃されてるときの方が凄い剣幕だったはずなのにアルウィンがそばにいるのといないのとじゃ、全然違うんだね…」
「常に俺がそばにいるべきなのにそうもいかない時がこれからもあるかもしれない。1人の時は迂闊な行動はしないように。だがなるべく1人にはさせない。ずっと俺のそばにいろ」
少し掠れたセクシーな声で言われながら、そっとアルウィンの胸に抱き寄せられる。安心させようと子供にするようなハグだと頭で分かってはいるものの、鼓動は思い通りにならない。
耳に当てた胸から聞こえてくるアルウィンの鼓動は当然俺よりもゆっくりで。その動きの差が、俺を空しくさせた。
あまり長くくっついていると緊張と嬉しさと切なさで頭がおかしくなりそうだから、そっとアルウィンの胸を押して顔を上げる。すぐ近くに彼の顔があり、また心臓が暴れだした。
「ミト…」
俺の頬にアルウィンのかさついた指が触れる。そんな腰に響くような声で、俺の名前を大切そうに呼ばないでほしい。これ以上、婚約者がいるあなたを好きにさせないでほしい。そんなに熱い眼差しを向けないでほしい。
「お、お腹すいた!夕食まだだったし、食べに行こう!」
俺の心臓が勘違いを起こしそうになる前に、俺は空気を変えるべくわざとらしく腹をおさえながらソファから立ち上がった。アルウィンを見下ろすことは少ないから見上げてくる彼の何か言いたげな瞳が新鮮だけど居心地悪い。
俺はスッとなるべく不自然にならないように意識してアルウィンに背を向けた。彼が後ろで立ち上がる気配がして、俺に話を合わせてくれる。もしかして、と頭を過ったことがある。
―――もしかして、彼は俺の気持ちに気付いているんじゃないか、と。
46
あなたにおすすめの小説
平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法
あと
BL
「よし!別れよう!」
元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子
昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。
攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。
……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。
pixivでも投稿しています。
攻め:九條隼人
受け:田辺光希
友人:石川優希
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグ整理します。ご了承ください。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
よく効くお薬
高菜あやめ
BL
昼はフリーのプログラマー、夜は商社ビルの清掃員として働く千野。ある日、ひどい偏頭痛で倒れかけたところを、偶然その商社に勤める津和に助けられる。以来エリート社員の津和は、なぜか何かと世話を焼いてきて……偏頭痛男子が、エリート商社マンの不意打ちの優しさに癒される、頭痛よりもずっと厄介であたたかい癒し系恋物語。【マイペース美形商社マン × 偏頭痛持ちの清掃員】
◾️スピンオフ①:社交的イケメン営業 × 胃弱で塩対応なSE(千野の先輩・太田)
◾️スピンオフ②:元モデル実業家 × 低血圧な営業マン(営業担当・片瀬とその幼馴染)
親に虐げられてきたβが、Ωと偽ってαと婚約してしまった話
さるやま
BL
◆瑞希(受け)語り
□アキ(攻め)語り
攻め→→→→←←受け
眞鍋秋人(攻め)
優秀なα。真鍋家の次期当主。本質は狡くて狡猾だが、それを上手く隠して好青年を演じている。瑞希にはアキさんと呼ばれている。
高宮瑞希(受け)
Ωと偽っている平凡なβ。幼少期の経験からか自己肯定感が低く、自分に自信がない。自己犠牲的。
有栖蕾
花の精のように美しいと名高い美少年のΩ。アキさんの元婚約者(と言っても、正式な婚約関係になく、幼少期の口約束程度)であり、アキさんのことをまだ好いている。瑞希のことを秋人の婚約者として紹介され、許せない相手になった。
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
αが離してくれない
雪兎
BL
運命の番じゃないのに、αの彼は僕を離さない――。
Ωとして生まれた僕は、発情期を抑える薬を使いながら、普通の生活を目指していた。
でもある日、隣の席の無口なαが、僕の香りに気づいてしまって……。
これは、番じゃないふたりの、近すぎる距離で始まる、運命から少しはずれた恋の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる