【完結】異世界召喚されたのに命を狙われまくるなんて聞いてない。

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暗殺者と友達になる

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    王宮の東塔に帰ってから部屋に治癒師を呼び、一応俺の傷も治してもらう。足首の骨に少しヒビが入っていると言われたときにはさすが獣人の握力だと戦慄した。治癒魔法をかけてもらうのは初めてだが、痛みもなく綺麗に治してもらいとてつもなく便利な力だなと思う。
    俺の前の異世界人は治癒魔法が使え、当時は奇跡の力だと言わしめるくらい貴重な魔法だった。しかし今はこうして治癒師があちこちに駐在しているほど治癒魔法を使える人間が多くいる。
    最初は異世界人が結婚してその子供が治癒魔法を遺伝してまたさらに…という風に遺伝的に使える人間が増えていったのだと思っていた。むしろそうでないならどうやって増えたんだ?という感じだ。

    妖怪と獣人の間では、異世界人は英雄とは真逆の扱いをされていると思う。それは妖怪と獣人にとって治癒魔法が驚異となったからなのだろうか。それとも異世界人に何かされたのだろうか。

    そんなことを考えながら、国王に今回の報告に行ったアルウィンの帰りを部屋で待つ。俺も行こうかと提案したが、まだ王宮内に潜む俺の命を狙う輩が誰なのか分かっていないから危険だと留守番を言い渡されたのだった。
    妖怪から命を狙われ、王宮内で姿の見えない者に命を狙われ、仲良くなろうとしていた獣人に命を狙われ。

「俺…命、狙われすぎじゃない?」

    平和で殺人事件がほとんどない日本生まれ日本育ちの俺にはあまりにも非現実的で、今日ドロモアから殺されそうになるまではまだ脳内お花畑だったかもしれない。
    あそこまで強い殺気と攻撃を真っ正面から向けられ、しかもアルウィンが小さくはない怪我をしたことで俺はいよいよ異世界で生きていくのが怖くなってきた。

    ふと、どうしてドロモアは突然気が変わったのだろうと不思議に思う。本当に気まぐれであれだけの殺気を綺麗さっぱり失くしたとでもいうのだろうか。しかし無表情でぶっきらぼうなドロモアの思考を考えようとしたところで分かるはずがない。
    ひとまずドロモアはもう攻撃しないと約束してくれたから大丈夫だとしても、まだ俺の命を狙うやつは目に見えないところにいる。いつ狙われるか、いつ殺されるか分からない恐怖に押し潰されそうだった。

    ソファに横になりながらクッションを胸に抱き締めて楽しいことを考えようとしたところで、コンコン、と扉をノックする音が聞こえてきた。
    アルウィンがいない部屋に静かなノックの音がやけに大きく響く。それが不気味さを伴っていて、背筋に緊張がはしった。

「ミト様」

    名前を呼ばれたが、聞いたことのないテノールの声だった。俺は恐る恐る扉に近付いて、開くことはせずに扉越しに応答する。

「…はい」
「ミト様、お休みのところ失礼致します。アルウィン様が何者かに奇襲を受けました。本日はこの部屋に戻らないとのことでご報告致します」
「アルウィンが!?」

    思わず勢い良く扉を開けて叫ぶ。アルウィンに奇襲があったなんて無事なのか、怪我はどの程度なのか、じっとなんてしていられなかった。
    扉を開けた先にいたのは翠色のマッシュヘアをした、ひょろりと細い男の人だった。高貴な身分だと分かる服装をしていて、どう見ても使用人ではない。彼は狐目のような細い目をにっこりと細めて小さく頭を下げると口を開いた。

「私はヘンダーソン子爵令息のマルセルと申します」

    どこかで聞き覚えがあるな、と思ったところでただならぬ殺意を彼から感じて、身体がカタカタと震えはじめる。震えながら、金縛りにあったように動けない。上級基礎魔法、緊縛魔法だと当たりをつけた。
    目の前の彼を見上げることしか出来ない。マルセルと名乗ったひょろ長い彼は、ニヤリと不気味な笑みを口角に浮かべ、ねっとりとしたねばつくような声色で言った。

「異世界人ミトよ…あなたには死んでもらいまァす」

    彼の手のひらの上には、バチバチと小さな雷のようなものが動いている。それを見てようやく、ライナス王子が言っていた上級基礎魔法かつ雷魔法を使える人物の名前に上がっていたヤツだと気付いた。
    気付くのが遅すぎるし迂闊に扉を開けた自分のアホさ加減に頬が引きつる。動きたくても動けない中、俺は必死にアルウィンの名前を心の中で呼んでいた。

「ふふ、怖いですかァ?怖いですよねぇ…私の雷魔法はライナス王子ほどではないですが強力なので一瞬で死ねますよ。安心して下さァい」

    俺は今日すでに一度殺されかけ、何とか生き延びたというのにまた死が向かってくるのか。あーやだやだ、もう今日の運は使い果たしているから無理だって。

「本当はあの獣人に殺させたかったんですがねェ。せっかく認識齟齬魔法を解いて転移魔法一時無効化までやったのに、途中でやめてしまうなんて…獣人も使えませェん」

    どうして俺にかけられていた認識齟齬魔法が解けたりアルウィンの転移魔法が使えないのかと思っていたがこいつのせいだったのか!という思いを込めてマルセルを睨み付ける。身体も口も動かないが、目で感情を表すことは出来る。

「そォんなに睨まないで下さいよォ」

    ネチャネチャと耳障りな喋り方だ。唇の端から唾液が溢れ出るのではないかと、いらぬ心配をさせられる。気持ち悪くて今すぐこいつの勝ち誇った顔を殴り付けたかった。

「あなたは生きる価値などない人間なんでェす。だから……」

    1オクターブ低くなった声。にっこりしていた狐目が開き、瞳孔が露になる。そして。

「死ね」

    目の前に白い光が飛んできて、咄嗟に目を瞑ることしか出来なかった。その後に来る衝撃をそのまま待つ。……が、いつまで経っても衝撃はおとずれず、俺はゆっくりと片目ずつ開けていく。

「お前だったのか、マルセル。雷魔法をこんなことに使うとは見損なったぞ」

    目を開けた先にいたのは、攻撃をしようとしていた手を焼かれたのか、苦痛に顔を歪め座り込む姿のマルセルとその背後からやれやれと言うように首をふりながらやって来たライナス第一王子だった。

「ライナス王子…!」
「お前も簡単に扉を開けるとは相変わらずバカな細胞しか詰まっていない脳ミソだな!ったく、僕が助けに来なかったら本当に死んでいたぞ。感謝しろ!」
「するする!めっちゃ感謝する~…!」

    緊縛魔法が解けて動けるようになった身体を一直線にライナス王子に向ける。俺は今日再び死のピンチから救われたことに涙目になりながら王子の腰に抱き付いた。

「なっ!?」
「ありがど~…王子ありがどう…めっちゃ怖かったぁ…!」
「わ、わ、分かったから離れぬか!ぼく、僕は第一王子だぞ!無礼者め!」
「だって今度こそ本当に死ぬと思ったんだもん~…アルウィンはいないし身体動かないし声出ないし…救世主の王子様だ~!」
「ううううるさい!!こ、これしきのこと当然だからな!お前は無力でバカで間抜けだから僕が守ってやらんといかんからな!」

    絶対絶望のピンチを王子に助けられ、俺は今までの嫌悪感が吹っ飛ぶほどの恩義を王子に感じていた。アルウィンほどではないが185㎝あるという王子の腰に腕を回し、胸に顔を付けて涙を隠す。命を狙われ過ぎて、今日だけで本気の攻撃を何度も受けて、自分が思っていた以上に精神的にボロボロだった。

「なぜ…なぜですかァ…」

    俺を引き剥がそうとする王子と、引っ付き虫になった俺の攻防の間を、マルセルの不気味な声が通る。王子は俺を背後にやるとマルセルを真っ直ぐ見つめた。こちらを向いたマルセルの表情は、虚ろで暗くおどろおどろしい。妖怪より妖怪らしく見えた。

「なぜこいつを狙った?王宮内でも何度か狙ったようだがバレないとでも思っていたのか?」
「私は…私は、王子が…ライナス様が私以外の男なんかと結婚して交わうなどォ…到底許せません!!」

    顔を真っ赤にしてこちらを睨み付けるマルセルの表情を見て俺はピンと来た。こいつは、ライナス王子のことが恋愛的な意味で好きなのだと。
    そのことに気付いてげんなりする。マジか、俺は恋のいざこざに巻き込まれて命を狙われたのかよ、と。

「毎日毎日ライナス様の魔力をその忌々しい身に流され、軽口叩いて一緒に昼食まで過ごすなど…殺してやりたいと思う私はおかしいのですか!?」
「マルセル、何を言っている?僕だってこいつと結婚するのもこいつを抱くのも嫌だから毎日こいつの魔力を芽生えさせるために訓練しているのではないか。殺さずともこいつが聖魔法を使えれば万事休すだと王宮で働くお前なら分かることだと思うが?」
「分かっておりまァす!しかし!嫌なものは嫌なのです!!」
「何が嫌なのだ?」

    あ、この鈍感王子、マルセルの気持ちに全然気付いていないっぽい。俺は背後からこそっと王子に耳打ちした。

「王子、彼は王子のことが好きなんだよ。恋愛感情でね。だから俺と王子が毎日一緒にいるのも魔力流されてるのも全部嫉妬して嫌だったってこと。俺を殺したくなるくらいに」
「……は?」

    王子の声色が硬くなったのを感じる。しばらく沈黙を貫いたあと、彼の口からノンデリ発言が飛び出した。

「気持ち悪い!僕は男なぞに好かれたくない!その顔を二度と見せるな!」
「え……」

    おぅまぃがぁ……俺は余計なことをしてしまったようだ。絶望を顔に張り付けたような、打ちのめされた様子のマルセルが気の毒に思えて俺は王子を睨む。なぜ睨むのだと言わんばかりに怪訝な顔をされ、俺は王子を追い越しマルセルの元に近付いた。

「おい!貴様!」
「マルセル、って呼んでもいいかな。あの王子、ひどすぎない?無神経にもほどがあるよな。あんな王子のどこを好きになったの?」
「…ライナス様を悪く言わないで下さァい。彼は…彼の雷魔法と氷魔法は本当に強くて美しくて清らかで…素晴らしいのです」
「あぁ、魔法を好きになったんだ。まだきちんと王子の攻撃魔法を見たことがないんだけどそんなに綺麗なの?」
「それはもう!すごいのでェす!見たことがないなんて可哀想に!ふふ、見たことないのですかァ…ふふふ…」

    その不気味な笑い方、怖いからやめてほしい。とは口に出さずになるべく刺激しないように俺は提案した。

「なぁ、よかったら俺と友達になってくれない?」
「は?」
「はァ?」

    前と後ろの声がユニゾンを奏でる。信じられないと思うが、俺は今日すでに殺されそうになった相手を許して逃がすような人間だ。命を狙ってきた相手とその理由が分かったのならもう怖くない。

「俺、まだこの王宮内に友達っていう友達がいないんだよ。マルセルは魔法に精通してそうだしいろいろ知識が豊富そうだから俺の知らないこと、たまに教えてほしいなって。王子との魔力訓練にだって一緒にやる?見学して助言もらえたら嬉しい」
「なっ!おい貴様!僕の許可無しになに勝手なことを!」
「い、いいのですか!?ライナス様と過ごせる時間が増えるのなら喜んで!命を狙ったりなどして大変申し訳ありませんでしたァ!」
「ううん!俺は王子のことこれっぽっちも好きじゃないし君の敵になりえないから安心して!」
「勝手に嫉妬に狂って素晴らしい心の持ち主を危うく殺してしまうところでしたァ…」
「さっきから僕を置いて話を進めるな!!!」

    王子が今までに聞いたこともないような大声を出して俺たちの会話を止める。俺は一瞬王子のほうを見て、にっこり笑って、また顔を戻して、会話を再開。

「とりあえず早くその手を治してきなよ。君曰く強くて美しい王子の雷魔法をくらったんだから早く治療しないと悪化してマルセルの魔法の質が落ちちゃうかもしれない」
「ハッ…!それはなりませェん!今すぐに治癒師の元に行ってまいりまァす!今回は誠に申し訳ありませんでした!ライナス様、このマルセル・ヘンダーソンはいかなる罰も喜んでお受け致しますので!」
「…俺の前に二度と現れないのがお前への罰だ」
「えェ!?」
「あー…大丈夫大丈夫。王子には上手く言ってたまに見学に来れるようにしておくから。マルセル、任してよ」
「本当ですか?約束ですよォ!」
「うん、じゃあお大事にね」
「心の友よ!それではまたァ!」

    めちゃくちゃ痛そうな手だったのに全然元気だなと思いながら去っていくマルセルに手を振った。後ろからすごい怒気を感じる。振り向きたくないなぁと思いながら振り向いたら、やっぱりそこには般若がいた。

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