【完結】異世界召喚されたのに命を狙われまくるなんて聞いてない。

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気が変わった獣人

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「ころす」

    一言、憎悪の漲る声が耳に届いたあと、一瞬で目の前にドロモアの姿が近付く。黄金に光る憎しみのこもった瞳とスローモーションのように目が合い、神経に悪寒が走って心の中まで青ざめる。太くて筋張った腕が凄い勢いでこちらに向かって振り下ろされる。それを、アルウィンの剣が受け止めた。

「くそ…っ!転移が、出来ないだと…!」

    ドロモアの腕力や脚力による攻撃を俺を抱えながらも躱しながら、思わず出たというような言葉に俺は冷や汗をかきながらもアルウィンにしがみつくことしか出来ない。
    長く鋭い爪が目で追えないほどの速さで迫ってくる。浮遊やジャンプしながら後ろへ後ろへと逃げるアルウィンに、ドロモアが逃がさないという覇気を持って向かってくるたびに、辺りに砂埃が舞う。俺は恐怖におののきながらも、何とか対話を試みようと声を張り上げた。

「ドロモア!やめてくれ!前の異世界人に何をされたんだ!教えてくれ!決して俺はしないと誓えるから!」
「だまれ。異世界人は、敵だ」
「お願いだ!攻撃をやめてくれ…!俺は前の異世界人とは全くの別人だ!」
「異世界人は…敵だ」
「兄ちゃん!やめてよぉ…!」

    まるで合言葉のように、同じ言葉を繰り返すドロモアは鬼気迫るものがあった。約600年前に召喚された異世界人へ、並々ならぬ憎悪を抱えているんだと分かる。あぁ、ご先祖様!何をしでかしたんだ!

「ミト、しっかり捕まれ!対話は諦めろ!」
「嫌だ!諦めない!」

    さすがの名誉騎士であるアルウィンも獣人相手に、しかも俺を抱えながらでは攻撃を受け止めるのにいっぱいいっぱいで攻撃を仕掛けることが出来ない。そのことが彼を苛立たせているようだった。

「騎士、死にたくなければ、そいつを寄越せ」
「ミトを守るのが俺の役目だ。そちらこそ弟が懐いているミトを本当に殺す気か」
「…だまれ」

    魔法は使えない素手のみの攻撃を仕掛ける獣人と、剣も魔法も使えるが今は片手しか使えない騎士。戦闘力が上なのは明らかにドロモアだった。

「ころす!」

    迫真の殺意を込めて繰り出されたパンチは、受け止め続けていた剣を粉々に砕いた。俺は唖然としたが、アルウィンは予想していたかのようにすぐ剣を放り投げ、右手から炎の玉を次々と投げつける。それをドロモアは素早い身のこなしで避ける。刃のように鋭い風がドロモアに向かう。それすらも跳び跳ねるようにして避ける。

    一進一退の闘いは、永遠に続くかと思われた。しかし、終止符を打ったのはドロモアの獣化だった。

「ぐあっ…ミト…!」
「うあぁ!?」

    大きな虎に真っ正面から体当たりされたアルウィンは、俺を衝撃から逃がすために俺の身体を横に投げ飛ばす。俺はごろごろと地面で数回横に回転し、頭だけは打たないように手で守った。

「アルウィン…!」

    口の中に砂のざらつきがあるのも気にせず、虎の体当たりをくらい数百メートルほど吹っ飛ばされたアルウィンの姿を探す。空中で体勢を整え着地をしたのか、腹は押さえているものの倒れてはいなかった。
    しかし余程の衝撃だったのか、地面に膝をついて大きく肩で息をしている。すぐには、動けなさそうだった。
    それを確認したドロモアが、俺の元に近寄ってくる。投げ飛ばされたことで靴が脱げ、裸足で砂を蹴りながらじりじりと後ろに後ずさる。

「兄ちゃん!ミトを苛めないで!」

    ここで殺されるのかと思ったのも束の間、ウィルマが獣化の状態で俺とドロモアの間に入った。俺を守ろうとしてくれているウィルマに胸を打たれつつも、兄が弟を攻撃するような場面は見たくなくて叫んだ。

「ウィルマ!危ないからどいて!俺は大丈夫だから!」
「どこが大丈夫なの!?兄ちゃんは本気でやるつもりだよ!僕、兄ちゃんがミトを傷付けるようなことがあったら二度と獣人村に帰らないから!」
「ウィルマ…」
「お前、それでも獣人か。異世界人のこと、分かってるだろうが」
「わかってる!わかってるよ!でも…!僕は聞いただけで見たわけじゃないもん!直接見たのも感じたのも、ミトの優しさだもん!」

    幼いのになんて良い子なんだと感動する。俺は情けなくも地べたに這いつくばっているが、ウィルマの獣化姿はドロモアと比べてとても小さいが、凄く頼もしかった。

「邪魔だ、どけ」
「ぎゃんっ!」

    ウィルマの首根っこを素早く口で噛んでポイッと捨てるように軽々しく投げたドロモアに、ウィルマの背中を見たのは一瞬だったなと気が遠くなる。
    じりじりと近付いてきた大きな虎は俺の前まで来ると獣人の姿に戻り、俺に向かって手を伸ばしてきた。
    殺される、と思いながらギュッと目を強く瞑ると、突然身体が持ち上げられる感覚と頭に血が上る感覚。ドロモアが俺の片足だけを掴み、俺は逆さまの状態で宙ぶらりんになっているのだと察した。

「……」
「……へ?」
「……」
「…え、なに、なんなの」

    逆さまに持ち上げられたまま、何のアクションもないドロモアが不気味になり思わず気の抜けた声が溢れる。頭に血が上りすぎてそろそろ痛い。掴まれている足首もめちゃくちゃ痛い。
    殺すなら一思いにやってくれ、と早く解放されることを願っていると。

「いでっ」

    パッと離された足首。それと同時に地面に頭をぶつけるようにして落ちる。痛い…めちゃくちゃ痛いんだけど。俺が石頭じゃなかったら出血してたぞ。
    掴まれていた足首から止まっていた血がドクドクと勢い良く流れるのを感じる。頭に上っていた血がさーっと下に下がっていくのを感じる。
    俺はぶつけた頭を抑えながらも、ドロモアを恐る恐る見上げた。こちらをじっと見下ろしていた大きな巨体が初めて無表情を崩した。

「ミト…!大丈夫!?」

    ウィルマが獣化をといて獣人の姿で駆け寄ってくる。俺は身体を起こしながら、アルウィンのいる方へと顔を向けて、彼も腹をおさえ足を引きずりながらこちらに向かってきているのが見えて少しホッとした。
    とどめを刺されるかと思いきや、攻撃は止み、ずっと放たれていた殺気も霧散している。なぜ、と思いながらドロモアを見上げると、彼は長い足を曲げて俺の足元にしゃがみこんだ。
    黄金の瞳が、じっと俺の黒い瞳を覗き込むように見つめる。何かを探るような、怪訝そうな、困惑したような、なんとも言えない感情を彼から感じた。

「こ、殺さないの?」
「…気が変わった」
「え……よ、良かったぁ…ありがとう…!」
「殺そうとしたのに、ありがとう?バカか」
「だって話をしてくれるってことだろ?」
「…オレも、聞きたいことある」
「!うん、聞いて!何でも聞いて!」

    少しバツが悪そうに頬をかいたドロモアをウィルマが横から不機嫌そうに見ていた。俺は対話出来ることに感激して、痛みも忘れて前のめりになる。黄金に黒い縦長の瞳孔をはめこんだ瞳が思ったよりも近い距離にあったが、俺は殺されなかった喜びと興奮で気付けなかった。

「…ミト」
「アルウィン!だ、大丈夫!?そうだ、早くアルウィンの手当てをしないと!治癒魔法師を呼ぶ!?」
「獣人たちよ、早くここから去れ。俺たちの闘いに気付いた王宮の騎士たちが遠巻きに見ている。獣人村から出ないはずの獣人がここにいては騒ぎになってしまう」
「確かに…!アルウィンの傷も心配だし…ドロモア、ウィルマ、今日はもう帰ったほうがいいよ。アルウィンを傷付けたことが広まったら君たちに攻撃する人間が出てくるかもしれない」
「…すまない、やりすぎた」
「本当だよ!兄ちゃんのバカ!ミト、ごめんね…せっかく遊んでくれたのに…」
「いや、いいんだ。何か獣人側にも理由があるんだろうし。今度それについてゆっくり話を聞かせてよ」
「ミトのこともミトの騎士のことも傷付けたのにまた会いに来てもいいの!?」
「もう二度と俺たちに攻撃しないと約束してくれるなら、ね」
「うん!僕は約束できる!…兄ちゃんは?」
「…約束する」
「よかった!ありがとう。さ、早く人が集まる前に行って。またね!」

    獣化して素早くその場から消えていく、自分を殺そうとしてきた獣人に笑顔で手を振るなんて自分でもお人好しすぎないかと思うが、こうして今生きているだけで結果オーライだと思えてしまう。好きな人が傷付いているのは心苦しいことこの上ないが。

「アルウィン!傷は?どこがどう痛む?」
「少し…内蔵をやられたな」
「ミト様!アルウィン様!どうなされましたか!」
「アルウィンが怪我をしました!すぐに治癒師を連れてきてもらえませんか!?」
「かしこまりました!」

    俺たちが今いる公園広場は人こそほとんどいなかったが、近くには騎士の駐在所があり闘いの不審な音で様子を見に来た騎士に向けて俺はお願いする。
    アルウィンは額に大粒の汗を滲ませながら苦しそうに息をしていて、俺は今になって恐怖と罪悪感が押し寄せてきた。

「ごめんね、アルウィン…俺のせいで…」
「いや、俺こそミトを守れなかった。あれほど守ると言っておきながら…彼の気が変わったから良かったものの、そうでなければ今頃…」

    自分の傷よりも"もしも"のことを考えて苦痛そうな表情をするアルウィンに俺は唇を噛む。守られてばかりで何も出来なかった無力さと、俺のせいで身も心も傷付けてしまったアルウィンに申し訳なさが募る。それでも、彼が生きていてくれたことに心から感謝した。

「獣人と戦ったのなんて初めてでしょ?決して攻撃を仕掛けてはいけないと言われている獣人相手にあそこまでやりあえたのはアルウィンだからこそだよ。アルウィンが時間稼ぎしてくれたおかげで俺の言葉がドロモアに届いたのかもしれないし」
「…そうだといいんだがな。乱暴に放り投げてしまってすまない。ミトも痛かっただろう。怪我や痛むところは?」
「ちょっと足首と腕のかすり傷が痛むくらいだよ。あ、頭にたんこぶも出来ていそうだけど…アルウィンと比べたら全然大したことない。アルウィンが必死に守ってくれたからこの程度ですんだんだ。本当にありがとう」
「よかった…ミトに何かあったら俺は…」

    うん、俺に何かあったらアルウィンにとっても孤児院にとっても大変だもんね。分かってるよ、大丈夫。

    心の中だけでそう思っていると騎士が治癒魔法が使える治癒師を連れてきてくれてその場でアルウィンの治療をしてもらう。結構なダメージを受けていたようで治癒師の魔力の消耗が激しかったため、俺は王宮専属治癒師に治してもらうことにした。
    獣人の姿を初めて見たという騎士たちから何があったのかしきりに尋ねられたが、王家に報告するとアルウィンが言ってその場を凌いだ。

    公園でご飯を食べて砂場で遊んでいたことが遠い昔のことのようだと思いながら、俺たちは馬車に揺られながら王宮に戻った。アルウィンは、ずっと険しい顔をしていた。

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