【完結】異世界召喚されたのに命を狙われまくるなんて聞いてない。

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豹変する獣人

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「ウィルマ、そこまでだ」

    突如、その場にいなかったはずの声が静かに響く。どこから現れたのか、身長2m超えの大男、ドロモアがフードつきのローブを来た姿でウィルマの前に立っていた。

「それ以上何も言うな。消えるぞ」
「ドロモア…!びっくりしたぁ、驚かせないでよ」
「兄ちゃん、でも人間は」
「ウィルマ。黙れ」

    海の底のように深い響きを持った声が、ピシャリと叩きつけるように言葉を投げる。黄金に輝く冷たい瞳が弟であるはずのウィルマに注がれていて、俺は慌てて間に入った。

「と、とにかく!座って話そうよ。ドロモアでかすぎて目立つし。この銅像が嫌ならあっちの壁があるベンチはどう?」
「…うん、ミトと遊ぶ!」
「そうしよう!」

    ビリビリと総毛立つ雰囲気を変えるため、俺は指差した方向にウィルマと手を繋いで向かう。アルウィンとドロモアも無言だがしっかり着いてきたのを確認して、俺たちはコンクリート壁を背に、ベンチに座った。

「ドロモア、彼は俺の護衛騎士のアルウィン。この大きいのがウィルマの兄のドロモアだ」
「……」
「アルウィンだ。成人の獣人を見たのは初めてだが自分より大きな男はなかなかいないから見下ろされているのが新鮮だ」
「どうでもいい」

    お互いの紹介をすればアルウィンはなるべく社交的に挨拶をして神経を逆撫でないようにしているのが分かる。しかしドロモアは一瞬アルウィンを視界に捉えただけで、すぐに興味がなさそうにそっぽを向いた。

「ミト、さっきの話、忘れろ」
「何か事情があるのか?」
「忘れろ」
「わかったわかった、忘れるよ。だからあんまウィルマを怒らないでやってくれ。ドロモアもせっかく来たんだし人間の料理、食べてみるか?」
「…ん」

    さっきの話もウィルマの雰囲気も、ものすっごく気になるがドロモアの気迫に押されて俺は思わず了承していた。
    シェフに包んでもらった料理が入っている箱を見せながら聞くと、ピクピク、とドロモアの鼻が動いたのが分かる。もしかしたら箱から漂ういい匂いをずっと気にしていたのかもしれない。

「包んでもらったばかりだから冷めてなくて美味しいぞ。冷めても美味しいけど」
「この匂い、食べ物だったんだ!ずっとミトからいい匂いがすると思ってた!」
「ウィルマも食べやすいものばかりだと思うよ。今日も美味しそうだなぁ」

    箱から紙に包まれた料理を出してそれぞれに渡していく。早速かぶり付いたウィルマはその美味しさにピコンと電球に明かりがついたときのような反応を見せ、むしゃむしゃと食べ始めた。
    アルウィンも俺も食べなれたサンドイッチのようなものを口に含む。ドロモアは無表情でありながらも少し戸惑っているのが気配で感じる。俺が食べてみるよう促すと、たっぷり間を置いてから食べ始めた。

「…!」
「2人とも、美味しいでしょ?」
「うん!とってもうまい!人間って毎日こんなに美味しいもの食べてるの!?」
「これよりもっと美味しいもの毎日食べてるぞ。この国の料理は見た目は色鮮やかで口にするのを最初は躊躇するんだけど食べてみたら極上なんだよな」
「いいなぁ。僕たちと大違いだ」
「獣人って普段はどんなものを食べてるの?」
「毎日魚丸のみとか動物を狩った肉を焼いて食べてる。狩った動物が猪なら猪の獣人が、兎なら兎の獣人が怒っていつも大変なんだよ」
「あぁ…確かに共食いみたいなもんだしね…」

    ウィルマの言葉を聞いて難なく想像できてしまい、獣人も大変なんだなぁと思いながらサンドイッチを咀嚼した。

「はは、ドロモアの口回りにたくさんタレがついてる。ってもう食べ終わったの!?結構な大きさだったのに」
「…少ない」
「あー…俺の食べかけで良ければ食べる?」
「食べる」
「兄ちゃんだけずるい!」
「お前、まだ残ってる」
「ウィルマはそれ食べたらデザートのフルーツあるぞ。だから焦らずゆっくり食べな」
「フルーツ!あの瑞々しくて甘いやつでしょ?食べたい食べたい!」
「残しておくから先にそれ食べてからな」

    身長も図体もでかいドロモアには俺たちと同じ量では全然物足りなかったんだろう。俺が2口くらい食べたやつをドロモアに手渡す。フードを被っているから虎耳は見えないが、若干フードが動いたような気がして無表情だけど嬉しいんだろうなと微笑ましくなった。

「ミト、ほとんど食べてないだろう。俺のを少し食べるか?」
「ううん、フルーツがあるし今日朝の目覚めが悪かったからまだ胃も起きてきてないみたい」

    全然そんなことはなかったが、身体が資本のアルウィンにはしっかり食べてほしくて遠慮する。シェフには申し訳ないけど帰ったらまた何か作ってもらえばいいだけの話だ。

「無理してないか?やはりまだ体調が悪いんじゃないのか?」
「ミト体調悪かったの?僕たちのせいで無理させちゃった…?」
「ううん、体調は全然大丈夫だよ!本当に無理なんてしてないからアルウィンもそんなに心配しないでくれ。ウィルマもありがとな」

    ウィルマの頭をフード越しにだが撫でる。虎耳の形が少し浮き出て見えて慌てて手を離した。
    気にした様子もないウィルマが食べ終わるとデザートのフルーツを一緒に堪能する。獣人村ではなかなか食べられないフルーツに、目を輝かせてご満悦そうだったのがとても可愛いかった。

    食事を終えて遊びたいというウィルマと共に公園内の砂場で遊び始める。アルウィンとドロモアは近くのベンチに座って俺たちの様子を見守っていた。2人がどんな会話をするのか気になるが、会話をする素振りがあまり見られないから少し心配しながらも楽しそうなウィルマに俺は癒されていた。

    しかし、それは突然のことだった。

「だからここを…こうして……え?ミト?」
「うん?どうした?ここを作ればいいか?」

    久しぶりの砂遊びに四苦八苦しながらも砂を固めながらウィルマを見ると、なぜかウィルマが目を鈴のように大きく見張って俺を凝視していた。黒く縦長の瞳孔が大きく深くなっていく。
    アルウィンがこちらに駆け寄る気配がしたのと、ウィルマが口を開いたのは、ほぼ同時だった。

「ミト……なんで、髪の毛と瞳が黒くなってるの?」

    え、と言葉が出る前に、俺の身体はアルウィンに抱えられ後ろに飛んだかのように砂場のあった場所から離れる。恐ろしいほど雰囲気を変えたドロモアもウィルマを片手に抱えて俺たちから距離を取ったように見えた。
    突然何が起こったのか俺だけが理解出来ていない。唖然とする俺にアルウィンが耳元で囁く。

「何者かが認識齟齬魔法を解いた。今のミトはパッと見てすぐに異世界人だと分かってしまう。彼らの銅像を前にしたときの様子を思い返せ。異世界人に並々ならぬ負の感情を持っている。危険だ、今すぐ王宮に転移するがいいか?」
「っ…!?ちょ、ちょっと待って!話せば何か分かるかもしれないから!」
「しかし危険だ。ドロモアの目には殺気が宿っているのがお前には分からないのか」
「お願い、アルウィン。話さなければどうして殺気を向けられてるのかも態度が豹変したのかも分からない。話をさせてほしい。絶対に近づかずこの状態のままでいいから。アルウィンが危険だと思ったらすぐに転移していいから」
「…分かった」

    状況を理解した俺は、このチャンスを逃してはならないと瞬時に判断した。妖怪と同じく異世界人に殺気を向けるのなら、彼らから"大変なこと"の内容を聞けるかもしれない。

「ドロモア、ウィルマ、ごめん!俺は認識齟齬魔法をかけてもらって髪と目の色を変えていた。俺の本来の色は黒なんだ」
「…黒は、異世界人の証拠。最近召喚されたと聞いた。お前だったのか」
「ミト…僕たちを騙してたの?」

    ドロモアから重い殺気が込められた声を、ウィルマから困惑と悲しみの声をかけられる。さっきまで一緒にご飯を食べて話して楽しく遊んでいた彼らが、俺は異世界人だと知り豹変した。その事実が悲しく、胸に暗いものが広がっていく。

「騙すつもりは全然なかった!俺が王宮の外を歩くには認識齟齬魔法をかけないとダメなんだ。異世界人だと周りに知られたら騒ぎになるからって」
「どうでもいい。お前が異世界人なら…俺たちは…」
「に、兄ちゃん!ミトは異世界人かもしれないけど、前の異世界人とは別人なんでしょ!?だったらミトは前のと違うかもしれないじゃん!攻撃したらやだよぉ!」

    ウィルマの言葉を聞いて、うすうす感じていたことを確信する。やはり、人間が知っている約600年前の異世界人と、妖怪や獣人が知っている前の異世界人は、大きく認識が異なっている。
    治癒魔法が突然発現し、多くの人々の命を救ったとされている異世界人は、本当に実在したのだろうか。
    妖怪の平均寿命は1000年、獣人の平均寿命は500年とされているなら、妖怪の中には直接当時なにがあったのか見ている者もいるだろう。獣人も親や祖父母が異世界人を見ていてどんな人物だったか語り継いでいるのかもしれない。

「ドロモア!俺が異世界召喚された理由は王家の事情だ。それは獣人や妖怪には決して害を及ぼすものではないし、俺は君たちと人間がいつか交流出来る世界になったらいいと思っている!」
「馬鹿なことを」
「今はそう思っていていいよ。だけど今の俺は何の力もないただの人間だ。魔力があるわけでも魔法が使えるわけでもない。君たちが恐れるような存在では全くないし、君たちを傷つけるようなことは絶対にしないと誓える!」
「ほら兄ちゃん!やっぱりミトは違うんだよ!ずっと僕たちに優しかったもん!」
「…異世界人は、敵だ」

    俺の思いを伝えても、ウィルマの言葉を聞いても、ドロモアから漂う殺気は健在だった。アルウィンからピリピリといつでも攻撃や防御が出来るような気配を感じる。

    風が、揺れた。

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