【完結】異世界召喚されたのに命を狙われまくるなんて聞いてない。

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勘違いしそうになるからやめてくれ

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    温かな温度で頭を撫でられている感覚があった。ふわふわと意識が宙に浮いたような気持ちよさがあった。ふわり、ワインの甘さとほろ苦さが混ざったような匂いが鼻腔を掠めて、彼が側にいるのが微睡みの中でも分かった。

「……ミト」
「ん…」
「ミト」
「…ぅ?アルウィン…」

    優しく頬を撫でられながら目を開けるように促され、その流れに任せて瞼をゆるく開く。アルウィンの帰りを待っているうちにいつの間にかソファでうたた寝をしていたらしい。

「あれ…俺が寝てた…?」
「あぁ。いろいろあって疲れたんだろう。夕食を食べなければ回復も遅くなる。起きて夕食にしよう」
「うん。アルウィンの方が怪我して疲れているはずなのに俺だけごめん…」
「謝るな。夕食は部屋に用意してもらうことにした。食べられそうか?」
「もちろん。言われてみたらお腹空いてる」
「よかった」

    アルウィンの掛け声で部屋に入ってきた使用人たちが夕食をテーブルの上に用意してくれる。俺はソファから起きて身体を思いっきり伸ばした。変な体勢で寝ていたからか首がポキポキと音を鳴らした。
    夕食の準備が終わると使用人は部屋から出ていき、アルウィンと席について食事をしながら気になってたことを聞いていく。

「また妖怪の襲撃があったことを報告したの?」
「そうだ。なぜ妖怪村の近くから監視台で見張っていたはずなのに妖怪の襲撃を予期出来なかったのか、俺の命を囮にされたこと、獣人に助けられたことなどについて報告をまとめてきた」
「確かに妖怪村は見張ってたはずだよね?何で分からなかったんだろう?」
「おそらく妖怪の妖術による幻影に惑わされたのだと思う。ミトも幻影は飛んできた剣と実際に目の前に来た剣で見ただろう」
「あぁ、あれか。妖術ってめちゃくちゃ厄介だね…あれを使われたらみんな騙されてそりゃ監視の意味も無くなるよ」
「そうだな。これについてはどうやって対策していくか、ボードン先生とライナス王子が考えてくれるそうだ。ボードン先生は珍しい影魔法を使えるお方だからな。何か策があるようだ」
「本当?それは心強い」

    スープを飲みながらいろんな人の手を煩わせてしまっているのが申し訳ないなと思いつつ、そう言えばまだドロモアから聞いた話をアルウィンにしていなかったと思い出し、獣人は毒を自然に解毒出来ることや妖怪は獣人と闘いたくなさそうなこと、ドロモアは132歳など伝えていく。

「なるほど。妖怪と獣人は闘ったことがないのか」
「そうみたい。ドロモアが協力してくれて国王からも許可が出るなら近くにドロモアにいてほしいけど…さすがに無理だよね」
「…獣人の力は必要ない。ミトのことは俺が守る」
「もちろんアルウィンが強いのは分かってるよ?でもアルウィンの危険を少しでも減らしたいんだ。俺を守ろうとして一番に傷付けられるのはアルウィンだと今回のことで身に染みて分かったからさ」
「気持ちは嬉しいが二度と同じ轍は踏まない。ボードン先生から妖術についてもっと詳しく教えをこう」
「それは俺も知りたい。そういえば前に蝙蝠っていう黒い鳥のようなものを王宮から見た気がするんだけど黒い生物はこの底辺界にはいないって本当?」
「黒い鳥?そんなものはいないな。基本的に色鮮やかな生き物ばかりだ」
「ドロモアも同じこと言ってた。じゃあやっぱりあれも妖術だったのかな?それともゴミと見間違えたのかも」
「妖術なのだとしたら何のためにそんなものを見せたのか気になるな。王宮で見たということは妖術の及ぶ範囲が思ったよりも広い可能性がある」
「まだまだ知らないことはたくさんあるってことだね」

    数百年前の闘い以来、妖怪村から出てこなかったのだから知らないことの方が多くて当然だが、知識や情報は誰からも奪われない武器になる。前情報を知っておけば対策が練れるし被害も最小限に抑えられる。
    魔力がなく魔法も剣も使えない俺は知識しか武器になりえるものがない。どうしたら少しでもアルウィンを守れるだろうかと考えに耽っていると。

「ミト」
「んー?どうしたの?」
「…あの獣人はなぜミトを殺そうとしていたのに今日は助けたのか、聞かなかったのか?」
「もちろん聞いたよ。でもじーっと見つめるばかりで無言のまま答えてくれなかった。ただの気まぐれっぽいよ」
「本当にそうか?…ミトのことを、その…気に入った、とかじゃないのか」
「さぁ…どうなんだろ?でも俺の黒い瞳が珍しいのかめっちゃ見つめてくるなとは思った。匂いも嗅がれたかも?」
「…ミトは、あの獣人をどう思ってるんだ?」
「ドロモアのことはそうだなぁ…無表情で無口ででっかくて、俺を殺そうとしてきたけど俺の命を助けてくれた命の恩人?虎?でもあるって感じ」
「それは分かっている。そうではなくて…あの獣人のことは好きなのか、嫌いなのか、どっちだ」
「えー?どっちと言われると嫌いではない、けど一度あの殺気を向けられているから好きとも違うような…一言で表すのは難しいかも」
「…そうか」

    俺がドロモアを好きか嫌いかなんてどうして知りたいんだろうと不思議に思う。何となくアルウィンの様子がおかしい気がする。視線は定まらず目の中をシルバーの瞳が小刻みに揺れているし、言葉の歯切れも悪い気がする。

「アルウィン、どうしたの?俺に何か聞きたいことや言いたいことがあるなら遠慮なくはっきり言って大丈夫だよ」
「そう、ではないのだが…その、自分でもよく分からないが気になって仕方なかったんだ。その…小屋で目覚めたとき、ミトとあの獣人が…親しくしていた気がして」
「まぁ、殺そうとしてきた相手と守っていた相手が突然仲良くなっていたら不審に思うよな。ドロモアは謝ったりしなさそうだし…アルウィンはドロモアを好きになれなさそう?」
「そうだな…好かないと思う」
「そっか。今回は助けられたけど一度は殺そうとした相手だもん。そう思うのは当たり前だよ」
「なるほど、攻撃をしてきた相手だからミトと距離が近いところを見て嫌な気持ちになったのか」
「そうだと思う。俺も気を配れなくてごめんね」
「ミトが謝ることはなにもない。最近、なぜか突然苛立ちを覚えたり胸がムカムカしたりするからどうしてなのだろうと考えることが多くてな」
「そうなの?」

    そういえば孤児院にいたときにアルウィンには休みが1日もないのだと気付いたばかりだった。もしかしたら休みがないことで無意識に体調不良やストレスになっているのではと心配の芽が出てくる。

「アルウィンって俺が召喚されてからずっと俺といるじゃん?俺にとっては授業や訓練が休みの日でもアルウィンにとっては俺の護衛という仕事が常にある。もしかしてきちんと休めていないのかもしれない」
「それはない」
「いや、アルウィンは優しいから俺に気を遣わせないためにそうとしか言えないだろうけどさ、国王様か宰相に行って1日だけでも俺から離れて休みを貰うのはどう?その休みに故郷に帰ってリジーさんに会ってきなよ。リジーさんも全然帰ってこないんだからって寂しそうだったし」

    自分で提案しておきながら胸の中に苦い気持ちがじわりと広がる。苦い葉物を咀嚼したからなのか、孤児院で聞いた話のせいなのか、やたらと苦かった。
    しかし俺は苦さを感じている素振りを表情に出さないようにつとめ、なるべく自然な笑みを向けなから言った。

「俺が召喚されていなかったら今頃リジーさんとアルウィンの結婚式が行われていたかもしれないんだし。婚約者を放っておいたらダメだよ」

    にこり、なるべくいつもの笑顔を見せたつもりだったが、アルウィンは苦い薬を目の前に出された小さな子供のような顔をした。初めて見るアルウィンの表情に、彼はこんな顔も出来るのかと新しい発見に胸が高鳴る。しかしアルウィンは固い声で反論した。

「何を言っているんだミト。俺とリジーの結婚式だと?あり得ない」
「え、だって婚約者って将来結婚する人のことを言うんでしょ?」
「それはそうだが、俺とリジーは親同士が決めた婚約者なだけで俺もリジーもお互いのことを姉弟のように思っている。夫婦になる気はさらさらない」

    どこにも暗い陰などない真昼のようにはっきりした口調で言いきったアルウィンに俺は一瞬嬉しさが顔を出す。しかしすぐにリジーさんと会ったときの様子と孤児院での話を思い出して複雑な気持ちになった。
    きっとアルウィンは今言った通りなのだろう。しかしリジーさんは違うと思う。彼女はきっとアルウィンのことを好きだと思うし、親同士が決めた婚約者とはいえアルウィンとの結婚を望んでいるはずだ。
    孤児院を卒業していった子でリジーさんと直接話した子が完敗だったと言うくらいなのだから、リジーさんのアルウィンへの思いを聞いたんだと思う。完敗だと思わせるほどの熱い思いを語ったんだと思う。
    でもアルウィンはリジーさんの気持ちに気付いていないのだろう。なんて罪な男だと思わずにはいられなかった。

「…アルウィンもリジーさんも結婚適齢期でしょ?婚約解消していないってことは少なからずリジーさんはアルウィンと結婚したいと思ってるはずだよ」
「リジーの父親であるマクラウド男爵がなかなかの頑固者でな。何度婚約を解消したいと俺が申し出ても突っぱねるんだ」

    婚約解消をアルウィンは申し出ていたのかと、新しい情報に目を見開く。アルウィンは苦虫を噛み潰したような表情を崩さず言葉を続けた。

「今はミトの護衛という名誉ある仕事を任せられているから男爵も大人しいが…故郷に帰ったらいろいろ結婚について言われるのがオチだ。だから俺は休みなんていらない。ずっとミトのそばにいたい」

    あぁ、やめてくれ。そんな真っ直ぐな目で見ないでくれ。そんな真っ直ぐに口説くような言葉を言わないでくれ。ちょろい俺の頭は勘違いしそうになるから。

「…分かった、婚約についてはアルウィンとリジーさんたちの問題だから俺は何にも言わないよ。でも休息は絶対に必要だと思う。故郷に帰るのが嫌なら1日アルウィンの好きなことをして過ごしてみたら?気分転換にさ」
「俺にとって一番の癒しはミトのそばにいることだ。それは間違いない。それに俺がいない間、ミトはどうするんだ。誰がミトを護衛するんだ」
「えー…頼めばライナス王子とか文句言いながらも引き受けてくれそうじゃない?ライナス王子も強いしもれなく王子の護衛も着いてくるし」
「……ミトは、俺より王子と一緒にいたいのか」
「え?それはないない!」

    どこか暗く沈んだ声で言ったアルウィンの言葉を俺は手を振りながら笑い飛ばす。しかしアルウィンは全く笑っておらず、顔にほんの少し深い影を落としながら俺を見つめていた。

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