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違和感のきっかけ
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最初に違和感を覚え始めたのは、付き合ってから3ヶ月が経った頃だった。
念願の騎士団に入団してようやく規則や規律、仕事内容を覚え、先輩方や同期との交流を深め、騎士団の空気に慣れてきた時期。
騎士学校時代と同じく、場所が変わっただけで僕とウォーレンは第一騎士団の寮に一緒に住んでいた。
毎日の日課である武具の点検作業を一番親しくなった先輩と終え寮の部屋に戻ると、おかえりのハグでウォーレンに出迎えられた。
しばらく無言でハグされいつもより長いなと思ったところで離され、ウォーレンが作ってくれた夕食を一緒に食べる。その時にウォーレンはおずおずと話し始めたのだ。
「ロナ、実は週末に従姉妹が王都に遊びに来るんだ。繁華街を案内してほしいと頼まれたんだけど…その日、新しい鞘を見に行こうと言ってただろう?」
「あぁ、それはまた今度で良いよ。はるばる王都まで遊びに来てくれるんだしせっかくだから案内しておいでよ。僕がいたら家族内の話もしづらいだろうし」
「……そう、ありがとう。なるべく早めに帰ってくるようにするから待っててね」
「ウォーレンほどじゃないけど美味しいものを作って待ってるよ」
そうしてにこやかに送り出した当日の夜、いつものようにおかえりのハグをすると。ウォーレンから嗅ぎなれないバニラのような香りがして僕は一瞬固まった。
しかしすぐにこれは従姉妹さんの匂いだと察する。案内をしてたなら同じ馬車にも乗るだろうし、人の多い場所で話すには近付かなければ声が届かない。匂いが移るのも仕方がない、と自分を納得させ特に何も言わなかった。
最初は、それだけのことだった。
次に違和感を持ったのは、騎士団の訓練で馬に2人組で乗り、1人は手綱を握り馬を走らせ、もう1人はポイントに立っているかかしを剣で切っていくという練習をした後のことだった。
馬に乗るペアはなるべく身長が近い者同士で組まれたため、僕はたまに話す程度だがやけに馴れ馴れしい同期の子とだった。
僕は5体あるかかしの内3体切り刻むことは出来たが、ウォーレンのように全てを綺麗に切ることは出来なかった。ペアの子は2体だったため、お互い次はどうしたらいいかと話し合う。
そして何度目かの挑戦で2人とも全て切り刻み、訓練内容をクリアしたのだ。その時は達成感でハイタッチを交わし、そのまま手を引っ張られて軽いハグまでされたのには驚いたがそれも男同士ならよくあることだと気にしなかった。
汗をふきながら次の訓練までのお昼休憩を食堂で過ごそうとウォーレンがやって来て、一緒に向かう。その道中で、とある令嬢が「ウォーレン様!」と声をあげて近付いてきた。
どうやらその日、後宮で第二王妃主催の小規模なお茶会が開かれていたらしく、その帰りだという令嬢は騎士団の訓練を遠くから見学していたらしい。
ふわりと桃色に白のフリルをこしらえたドレスを靡かせ、令嬢はウォーレンの前で丁寧な挨拶をする。それを僕はざわざわと落ち着かない心のまま、隣で眺めていた。
「ずっとあなたのファンでしたの。良かったら今度、我が家のパーティーに出席なさらない?過去随一の剣術を持ち、麗しい未来の騎士団長と噂のあなたがいらっしゃったらきっと皆喜びますわ」
「お誘い頂き大変恐縮です。しかしお恥ずかしながら、私はパーティーなどの華やかな場は不慣れなもので粗相をしてアーバント様にご迷惑をかけてしまうかと」
「そんなこと気にしなくて大丈夫ですわ!何なら私が軽いマナーをお教えしますので今度我が家に食事がてらおいでいらして?」
「……考えさせて頂きますね」
「もちろん訓練などでお忙しいでしょうし日時はウォーレン様に合わせますので。お返事はアーバント家にお手紙を頂ければ大丈夫ですわ。良いお返事、期待してますわね」
優雅に一礼して去っていった令嬢をぼんやりと見つめた僕の顔を覗き込みながら、ウォーレンは困ったように笑いながら言った。
「どう言い訳して断ればいいかな…」
「…失礼に当たらないように断らないといけないから難しいよね」
「パーティーなんて卒業パーティーくらいしか参加したことないし興味ないんだけどね。ロナはあるんだっけ?」
「うん、でも僕もあまり好きではなかったよ。美味しいものはたくさんあるけど気が休まらないから」
「…そのパーティーって第三王子の付き添いとかで?」
「そうそう。ウォーレンが行きたくないなら僕も一緒に断りの内容考えるよ」
「ロナは俺にパーティーに行ってほしくない?」
「え?僕の気持ちじゃなくてウォーレンが行きたいか行きたくないかだと思うよ。将来のために交遊関係を広めたり経験を積めるっていう意味では行く価値が全くないわけじゃないと思うし」
「…でもパーティーに出席するならマナーを教えるために家にまで誘われたんだよ?」
「それはパーティーに出席するとしても変な噂が立ちかねないから断った方がいいと思う。マナーなら僕が軽く教えられるし」
「……それなら、ロナにマナー講師お願いしようかな。どんな家柄の人たちが来るか分からないパーティーで恥をかきたくないしね」
そう返してきたウォーレンに内心驚いていた。パーティーに出席するメリットはあると僕が説明したとはいえ、なんだかんだウォーレンなら断るだろうと思っていたからだ。
僕の気持ちとしては、もちろん行ってほしくはない。あの令嬢の態度を見れば、隙あらばウォーレンを自分の婚約者にしようと企んでいることは明々白々だったから。
敏いウォーレンもそれに気付いているはずだから令嬢に期待を持たせないためにも断るかと思ったのに。
「そう、だね。僕が責任を持って、ウォーレンをどこに出しても恥ずかしくないマナーを教えるよ」
本音を笑顔の奥に隠しながら、僕は言った。
ここから違和感が不安に変わり、幸せとの大きさが逆転してきた思う。
念願の騎士団に入団してようやく規則や規律、仕事内容を覚え、先輩方や同期との交流を深め、騎士団の空気に慣れてきた時期。
騎士学校時代と同じく、場所が変わっただけで僕とウォーレンは第一騎士団の寮に一緒に住んでいた。
毎日の日課である武具の点検作業を一番親しくなった先輩と終え寮の部屋に戻ると、おかえりのハグでウォーレンに出迎えられた。
しばらく無言でハグされいつもより長いなと思ったところで離され、ウォーレンが作ってくれた夕食を一緒に食べる。その時にウォーレンはおずおずと話し始めたのだ。
「ロナ、実は週末に従姉妹が王都に遊びに来るんだ。繁華街を案内してほしいと頼まれたんだけど…その日、新しい鞘を見に行こうと言ってただろう?」
「あぁ、それはまた今度で良いよ。はるばる王都まで遊びに来てくれるんだしせっかくだから案内しておいでよ。僕がいたら家族内の話もしづらいだろうし」
「……そう、ありがとう。なるべく早めに帰ってくるようにするから待っててね」
「ウォーレンほどじゃないけど美味しいものを作って待ってるよ」
そうしてにこやかに送り出した当日の夜、いつものようにおかえりのハグをすると。ウォーレンから嗅ぎなれないバニラのような香りがして僕は一瞬固まった。
しかしすぐにこれは従姉妹さんの匂いだと察する。案内をしてたなら同じ馬車にも乗るだろうし、人の多い場所で話すには近付かなければ声が届かない。匂いが移るのも仕方がない、と自分を納得させ特に何も言わなかった。
最初は、それだけのことだった。
次に違和感を持ったのは、騎士団の訓練で馬に2人組で乗り、1人は手綱を握り馬を走らせ、もう1人はポイントに立っているかかしを剣で切っていくという練習をした後のことだった。
馬に乗るペアはなるべく身長が近い者同士で組まれたため、僕はたまに話す程度だがやけに馴れ馴れしい同期の子とだった。
僕は5体あるかかしの内3体切り刻むことは出来たが、ウォーレンのように全てを綺麗に切ることは出来なかった。ペアの子は2体だったため、お互い次はどうしたらいいかと話し合う。
そして何度目かの挑戦で2人とも全て切り刻み、訓練内容をクリアしたのだ。その時は達成感でハイタッチを交わし、そのまま手を引っ張られて軽いハグまでされたのには驚いたがそれも男同士ならよくあることだと気にしなかった。
汗をふきながら次の訓練までのお昼休憩を食堂で過ごそうとウォーレンがやって来て、一緒に向かう。その道中で、とある令嬢が「ウォーレン様!」と声をあげて近付いてきた。
どうやらその日、後宮で第二王妃主催の小規模なお茶会が開かれていたらしく、その帰りだという令嬢は騎士団の訓練を遠くから見学していたらしい。
ふわりと桃色に白のフリルをこしらえたドレスを靡かせ、令嬢はウォーレンの前で丁寧な挨拶をする。それを僕はざわざわと落ち着かない心のまま、隣で眺めていた。
「ずっとあなたのファンでしたの。良かったら今度、我が家のパーティーに出席なさらない?過去随一の剣術を持ち、麗しい未来の騎士団長と噂のあなたがいらっしゃったらきっと皆喜びますわ」
「お誘い頂き大変恐縮です。しかしお恥ずかしながら、私はパーティーなどの華やかな場は不慣れなもので粗相をしてアーバント様にご迷惑をかけてしまうかと」
「そんなこと気にしなくて大丈夫ですわ!何なら私が軽いマナーをお教えしますので今度我が家に食事がてらおいでいらして?」
「……考えさせて頂きますね」
「もちろん訓練などでお忙しいでしょうし日時はウォーレン様に合わせますので。お返事はアーバント家にお手紙を頂ければ大丈夫ですわ。良いお返事、期待してますわね」
優雅に一礼して去っていった令嬢をぼんやりと見つめた僕の顔を覗き込みながら、ウォーレンは困ったように笑いながら言った。
「どう言い訳して断ればいいかな…」
「…失礼に当たらないように断らないといけないから難しいよね」
「パーティーなんて卒業パーティーくらいしか参加したことないし興味ないんだけどね。ロナはあるんだっけ?」
「うん、でも僕もあまり好きではなかったよ。美味しいものはたくさんあるけど気が休まらないから」
「…そのパーティーって第三王子の付き添いとかで?」
「そうそう。ウォーレンが行きたくないなら僕も一緒に断りの内容考えるよ」
「ロナは俺にパーティーに行ってほしくない?」
「え?僕の気持ちじゃなくてウォーレンが行きたいか行きたくないかだと思うよ。将来のために交遊関係を広めたり経験を積めるっていう意味では行く価値が全くないわけじゃないと思うし」
「…でもパーティーに出席するならマナーを教えるために家にまで誘われたんだよ?」
「それはパーティーに出席するとしても変な噂が立ちかねないから断った方がいいと思う。マナーなら僕が軽く教えられるし」
「……それなら、ロナにマナー講師お願いしようかな。どんな家柄の人たちが来るか分からないパーティーで恥をかきたくないしね」
そう返してきたウォーレンに内心驚いていた。パーティーに出席するメリットはあると僕が説明したとはいえ、なんだかんだウォーレンなら断るだろうと思っていたからだ。
僕の気持ちとしては、もちろん行ってほしくはない。あの令嬢の態度を見れば、隙あらばウォーレンを自分の婚約者にしようと企んでいることは明々白々だったから。
敏いウォーレンもそれに気付いているはずだから令嬢に期待を持たせないためにも断るかと思ったのに。
「そう、だね。僕が責任を持って、ウォーレンをどこに出しても恥ずかしくないマナーを教えるよ」
本音を笑顔の奥に隠しながら、僕は言った。
ここから違和感が不安に変わり、幸せとの大きさが逆転してきた思う。
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