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初恋が実ったはずなのに
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キィン、キィンと刃と刃がぶつかる音が何重にも重なり、分厚い層となって僕の耳に押し寄せてくる。
首筋に伝わって流れる汗が喉の窪みにたまったのを手ではじき、目の前の刃先に集中をこらそうとしたところで、訓練終了の合図がなり集中の糸が切れた。
ここは第一騎士団の訓練場である。大陸一とまではいかないが、そこそこに大きな領土を持つビリンガム王国の。
隣国には血の気が多いヤンクート国があり、虎視眈々とビリンガムの西部領土を狙っているため、いつ何時何があってもいいように訓練はいつだって本気の熱量だった。
由緒正しい家柄であり両親が国の官僚である僕は両親に言われるがまま、騎士学校に入学した。
当時16歳で155㎝だった僕の未成熟さを心配した両親が立派な男になるためにと進めたのだ。
運動は好きだったが剣術には特に興味もなく、騎士学校といえば180㎝越えの筋肉隆々な大男たちが行くようなイメージだったため、最初は嫌々だったが今思えばその時の両親に感謝している。
僕はそこで、ウォーレン・コークというかけがえのない存在と出会ったのだから。
「ロナ!お疲れ様」
彼の汗は花の匂いがするんじゃないかと思ってしまうほど、訓練終わりだというのに疲れを全く見せない輝かしい笑顔で側に駆け寄ってきたウォーレン。
ありふれた黒髪の僕とは違い、シルバーブロンドのさらさらな長髪は訓練中は後ろで1つにまとめられ、ウォーレンが近付いてくるたびに毛先がちらちらと見える。
185㎝の高身長に細身のスラリとした体型に一見見えるが、制服の下は鎧をまとっているような筋肉があることを僕はよく知っていた。
騎士学校で血の滲むような経験をしたにも関わらず、身長は163㎝止まりで筋肉もそこそこにしかつかなかった僕には眩しいほどカッコいいこの人が、2年半付き合っている僕の恋人だ。
「お疲れ、ウォーレン」
「水浴びしたら一緒に帰ろう。パエリアが美味しい店を見つけたから食べに行ってもいいし」
「パエリア?」
「そう。名前は忘れたけどどこかの令嬢に誘われて先週行ってきたんだ。本当に美味しかったからロナも気に入ると思うよ。海鮮が好きだろう?」
「……うん」
恋人だ。彼は確かに僕の恋人だが、またか、と諦念にも似た気持ちがせり上がってくる。
ウォーレンはその美貌と軟派な雰囲気からとにかく女性にモテる。本人もそれは自覚していて、良いように利用している節がある。
そしてそれを、わざわざ僕に見せつけるのだ。それがウォーレンによる試し行動だと気付いたのは一年ほど前だった。
ウォーレンとの出会いは騎士学校で寮の同室になった時。気さくで優しい彼と朝から夜までずっと一緒だったのだから、彼を好きにならない方がおかしな話だ。
初めての恋が同性だったことに動揺し、この気持ちがバレたら寮の同室でいられなくなると思った僕は必死にウォーレンの友人を装った。
たとえ恋が実らなくても、たとえ一生片想いのままだとしても、友人として彼のそばにいられればそれでいいと納得していた。
だから、ウォーレンが王国一精鋭揃いと言われる第一騎士団に入団希望だと知ったときは、何としてでも彼のそばにいたくて無謀だと言われながらも僕も第一騎士団を目指したのだ。
ウォーレンも最初は僕が第一騎士団を目指すことにいい顔はしなかった。大男揃いの騎士たちの中に小柄な僕がいるのも、どんな時でも一番に危険な場所に行くことも心配なようだった。
だけど僕がウォーレンと同じ場所で働きたい、ウォーレンの背中を守れるようになりたいと2時間にわたり熱弁したことで彼は共に死に物狂いで頑張ろうと応援してくれるようになった。
それからはウォーレンの厳しい個人指導も入り、とにかくがむしゃらに頑張った。
小柄なことを生かした身体の使い方、相手の動きを予測する力、筋力トレーニング。毎日毎日、練習に明け暮れた。
そして騎士学校3年の卒業前最終試験で技術力・精神力・判断力全てでAの判定をもらい、第一騎士団に所属する能力があると認められたときは本当に嬉しかった。
ウォーレンと共に第一騎士団に入団することが決まった夜は2人で祝杯をあげ、初めてお酒を飲んだ。
そこで酒に弱かった僕は思わずずっと隠していたウォーレンへの恋心を本人に溢してしまったのだ。
それに気付いたとき、冷や水を浴びせられたように酔いは一瞬でさめ、絶頂から絶望へと叩き落とされた。
これでウォーレンに気持ち悪いと軽蔑されたらどうしよう、もう友人としてすら一緒にいられなくなる、どうしよう、どうしたら…と焦っていた僕をウォーレンは抱き上げて、その場でくるくると踊り出すように回った。
視界が回り上下左右が分からなくなり混乱していたら、ウォーレンは言ったのだ。俺も同じ気持ちだと。ずっと僕を好きだったのだと。
そして、絶対に叶わないと思っていた僕の初恋は実り、僕とウォーレンは騎士団入団前に恋人同士となったのだ。
なったはず、なのに。
首筋に伝わって流れる汗が喉の窪みにたまったのを手ではじき、目の前の刃先に集中をこらそうとしたところで、訓練終了の合図がなり集中の糸が切れた。
ここは第一騎士団の訓練場である。大陸一とまではいかないが、そこそこに大きな領土を持つビリンガム王国の。
隣国には血の気が多いヤンクート国があり、虎視眈々とビリンガムの西部領土を狙っているため、いつ何時何があってもいいように訓練はいつだって本気の熱量だった。
由緒正しい家柄であり両親が国の官僚である僕は両親に言われるがまま、騎士学校に入学した。
当時16歳で155㎝だった僕の未成熟さを心配した両親が立派な男になるためにと進めたのだ。
運動は好きだったが剣術には特に興味もなく、騎士学校といえば180㎝越えの筋肉隆々な大男たちが行くようなイメージだったため、最初は嫌々だったが今思えばその時の両親に感謝している。
僕はそこで、ウォーレン・コークというかけがえのない存在と出会ったのだから。
「ロナ!お疲れ様」
彼の汗は花の匂いがするんじゃないかと思ってしまうほど、訓練終わりだというのに疲れを全く見せない輝かしい笑顔で側に駆け寄ってきたウォーレン。
ありふれた黒髪の僕とは違い、シルバーブロンドのさらさらな長髪は訓練中は後ろで1つにまとめられ、ウォーレンが近付いてくるたびに毛先がちらちらと見える。
185㎝の高身長に細身のスラリとした体型に一見見えるが、制服の下は鎧をまとっているような筋肉があることを僕はよく知っていた。
騎士学校で血の滲むような経験をしたにも関わらず、身長は163㎝止まりで筋肉もそこそこにしかつかなかった僕には眩しいほどカッコいいこの人が、2年半付き合っている僕の恋人だ。
「お疲れ、ウォーレン」
「水浴びしたら一緒に帰ろう。パエリアが美味しい店を見つけたから食べに行ってもいいし」
「パエリア?」
「そう。名前は忘れたけどどこかの令嬢に誘われて先週行ってきたんだ。本当に美味しかったからロナも気に入ると思うよ。海鮮が好きだろう?」
「……うん」
恋人だ。彼は確かに僕の恋人だが、またか、と諦念にも似た気持ちがせり上がってくる。
ウォーレンはその美貌と軟派な雰囲気からとにかく女性にモテる。本人もそれは自覚していて、良いように利用している節がある。
そしてそれを、わざわざ僕に見せつけるのだ。それがウォーレンによる試し行動だと気付いたのは一年ほど前だった。
ウォーレンとの出会いは騎士学校で寮の同室になった時。気さくで優しい彼と朝から夜までずっと一緒だったのだから、彼を好きにならない方がおかしな話だ。
初めての恋が同性だったことに動揺し、この気持ちがバレたら寮の同室でいられなくなると思った僕は必死にウォーレンの友人を装った。
たとえ恋が実らなくても、たとえ一生片想いのままだとしても、友人として彼のそばにいられればそれでいいと納得していた。
だから、ウォーレンが王国一精鋭揃いと言われる第一騎士団に入団希望だと知ったときは、何としてでも彼のそばにいたくて無謀だと言われながらも僕も第一騎士団を目指したのだ。
ウォーレンも最初は僕が第一騎士団を目指すことにいい顔はしなかった。大男揃いの騎士たちの中に小柄な僕がいるのも、どんな時でも一番に危険な場所に行くことも心配なようだった。
だけど僕がウォーレンと同じ場所で働きたい、ウォーレンの背中を守れるようになりたいと2時間にわたり熱弁したことで彼は共に死に物狂いで頑張ろうと応援してくれるようになった。
それからはウォーレンの厳しい個人指導も入り、とにかくがむしゃらに頑張った。
小柄なことを生かした身体の使い方、相手の動きを予測する力、筋力トレーニング。毎日毎日、練習に明け暮れた。
そして騎士学校3年の卒業前最終試験で技術力・精神力・判断力全てでAの判定をもらい、第一騎士団に所属する能力があると認められたときは本当に嬉しかった。
ウォーレンと共に第一騎士団に入団することが決まった夜は2人で祝杯をあげ、初めてお酒を飲んだ。
そこで酒に弱かった僕は思わずずっと隠していたウォーレンへの恋心を本人に溢してしまったのだ。
それに気付いたとき、冷や水を浴びせられたように酔いは一瞬でさめ、絶頂から絶望へと叩き落とされた。
これでウォーレンに気持ち悪いと軽蔑されたらどうしよう、もう友人としてすら一緒にいられなくなる、どうしよう、どうしたら…と焦っていた僕をウォーレンは抱き上げて、その場でくるくると踊り出すように回った。
視界が回り上下左右が分からなくなり混乱していたら、ウォーレンは言ったのだ。俺も同じ気持ちだと。ずっと僕を好きだったのだと。
そして、絶対に叶わないと思っていた僕の初恋は実り、僕とウォーレンは騎士団入団前に恋人同士となったのだ。
なったはず、なのに。
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