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王子から突然の求愛
しおりを挟むつつがなく執り行われた第三王子帰還パーティーの緞帳が降り、両親を乗せた馬車を見送ったところで背後に人の気配がして振り向いた。
一切の疲れを滲ませない微笑みで僕を迎えに来たという恋人に向かって、おずおずとカーティス様に呼び出されたことを伝えると。
「…どこで会うの?」
「蘭の宮だよ。昔、そこにある砂場でよく一緒に遊んでたんだ」
「へぇ……そう」
「今日は早く帰って一緒にいれると思ったのにごめんね。なるべく早く帰してもらうよ」
「本当は行かせたくないけど王子の命令だもんなぁ、仕方ない。俺は飲みにでも行ってくるよ」
「……うん、わかった。今日はお疲れ様。じゃあ行ってくるね」
早く帰れるようにすると言っているのに、飲みに行こうとしている恋人に内心気が滅入る。
僕はどんなに帰りが遅くてもいつも寝ずに彼を待ち続けているのに、彼はそうしてくれないのか。
重く沈んだ気持ちになり、このままではまたいつものやり取りが始まるかもしれないと思い、僕は早々に踵を返して恋人の元から立ち去った。
彼は行ってらっしゃいとも、気をつけてとも、一言も僕の背中に向かって投げかけることはしなかった。
蘭の宮はカーティス王子が産まれたときに建てられた小さめの宮殿で今まで定期的に管理はされてきたものの、使われてはいなかった。
子供の頃以来足を踏み入れていない蘭の宮までの道のりをとぼとぼと歩く。踏張って見ても、泥沼に落込んだように足搔きがとれず、気持は下へ下へ沈むばかりだった。
これから久しぶりにカーティス様と2人で話すというのに、こんなんではダメだと気合いを入れて前を向く。
懐かしい風景を味わうこともないまま蘭の宮に着き、奥まったところにある小さな砂場に近付くとすでにそこには第三王子の姿があった。
足音で気づいた彼がパッと顔を上げ目が合うと、パーティーで高貴な佇まいで凛々しく挨拶をしていた顔とは打ってかわって、子供の時のように愛嬌がある笑顔を満面に浮かべながら足早に近付いてきた。
「ロナ!来てくれたんだな!」
「お待たせしてしまい、申し訳ありません」
「おい、やめろよそれ。パーティーでのロナが別人みたいに話すから夢だったのかと思っただろ。ここは俺たち以外誰もいないから大丈夫だ、前みたいに話してくれ」
「…久しぶり、ティス」
「うん、久しぶり!めっちゃロナに会いたかった!」
「僕もまた会えて嬉しいよ。あまりにかっこよくなっているから中身も別人になったのかと思ったら、全然そんなことなかった」
「当たり前だろ?この10年、ロナとの再会だけを楽しみに頑張ってきたんだから」
砂場の横にある石造りのベンチに並んで座りながら、昔に戻ったかのような気さくさで言葉を交わす。
成長したカーティス様の姿を見たときは遠い人になってしまったんだなと寂しく思ったが、こうして2人きりで肩を並べれば成長の差はあるものの、僕たちの関係は変わっていないような気がした。
「突然何も言わずにいなくなるんだもん。あのときの僕の涙を返してほしい」
「それは本当にごめん…俺だって何がなんだか分からないまま船に乗せられて気付いたら知らない国にいたんだよ。もうロナに会えないと言われたときには帰してくれって泣き叫んだ」
「もちろんティスの意思じゃなかったことは分かってる。今まで大変だったでしょ?知らない国で10年も過ごすなんて」
「まぁ、それなりにな。でも大きな学びもたくさんあったし目標も出来たから」
僕には想像も出来ないような苦労があっただろうに、それを感じさせない自信に満ち溢れた活気ある笑みに自然と僕も明るい気持ちになる。
「ロナは俺と離れてからどう過ごしてた?今は第一騎士団にいるんだって?」
「そうだよ。小さくてひ弱な僕がって驚いたでしょ」
「確かにロナは文官の道に進むと思ってたから驚きはしたけど、お前は昔から雑草のような精神力で強かっただろ。第一騎士団に入れるなんて、たくさん血の滲むような努力をしたんだな。かっこいいし尊敬するよ」
「あ、ありがとう」
「心配は心配だけどな。むさ苦しい男たちの中に可憐なロナがいるのも、仕事で常に命の危険があるってこともさ。そもそもなんで騎士団に入ろうと思ったんだ?」
「それは…」
純粋な質問にどう答えるべきか迷って言いよどむ。
僕が第一騎士団に入ろうと思ったきっかけは友人としてウォーレンの近くにいたいという下心からで、決して国を守りたいだとか誇れるような動機じゃない。
ウォーレンのことを思い浮かべ、さっきまでのやり取りを思い出してしまい、再び表情に暗い影を落としてしまった僕を敏い第三王子は見逃さなかった。
「何か悩んでるならロナの力になりたい。何でも話してくれ。全部受け止めるから」
その言葉に引っ張られるようにして、喉の奥から今まで誰にも話せなかったウォーレンとの関係、試し行動されていることに悩む思いを吐露していた。
「……そのウォーレンという男と、付き合ってるのか」
「うん」
「そして試し行動とやらをされていると。今も俺たちがこうしてる間にそいつはロナの帰りを待つでもなく飲みに行ってると」
「…うん」
「ロナの恋人という立場にありながらロナにこんな顔させやがって…」
眉間に皺を寄せ、ギリギリと奥歯を噛み締めながら唸るように溢したカーティス様の表情は、さっきまでの明るさが嘘のように暗かった。
苦悶しているようにも見えて男同士の恋愛話なんて気持ち悪かっただろうかと気後れする。
つい昔のような感覚で話してしまったことに後悔しそうになったところで、ガッと両肩を力強く掴まれグッと顔を近付けられた。
突然のことに目を白黒させていると、カーティス様は真剣な表情で僕を見つめ、言った。
「ロナ、俺は子供の頃からずっとロナが好きだった。ロナと結婚したくて、この国に帰ってきたんだ。お前を大切にしない恋人なんてやめて、俺と共にラディス国で幸せになろう」
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