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恋人と王子の初対面
しおりを挟む仲直りをしたその日の訓練終わり、寝不足により若干の気だるさを感じながら、僕以上に寝不足であろうウォーレンと寮に帰ろうとしていたところへ。
馬の蹄が奏でる音がどんどん近付いて来たと思えば、突然現れた第三王子の姿に騎士団内はざわついた。
僕は昨日の今日で顔を合わすのは少し気まずいが、騎士団に王子じきじきに来るなんて何かあったのだろうかと危機感を持つ。しかしそれは全くの杞憂だった。
「ロナ!」
何の濁りもなく澄んだ声で名前を呼ばれて心臓が跳ねる。隣にいたウォーレンからピリピリとした空気が出ているのをうっすらと感じながら、シッパから降りて走り寄ってきたカーティス様に敬礼の姿勢を取る。
「どうかされましたか、カーティス様」
「俺たちが離れていたこの10年を埋めるには昨夜の時間じゃ寸分の一にも満たないだろ?本当はこれからすぐにでもと言いたいところだが、訓練終わりで疲れているだろうし、ロナの休みの日を聞きに来たんだ」
「僕の休みは3日後ですが…」
「そうか!なら3日後の12時に蘭の宮に来てくれ。良い腕のシェフにご馳走を作ってもらうから。夜までたくさん話をしよう。何ならシッパに乗ってどこかに出掛けるでもいいな」
確かに昨夜求婚をされ、これから僕の幸せを教えるとか何とか言われたが、まさかここまで積極的に来るとは思ってもみなかった。
僕と第三王子が子供の頃の学友だということは隠してないから騎士団内でも知る人は知ってるだろうが、好奇の視線にさらされるのは居心地が悪い。
しかし注目を浴びている中で第三王子からの誘いを断ることも出来なかった。
「カーティス様、」
「第三王子にご挨拶申し上げます。第一騎士団所属、ウォーレン・コークと申します。以後お見知りおきを」
「あぁ、君が次期団長とも言われているウォーレンか。優秀な剣術を持っていると聞いた。ロナとは親しいのか?」
「ロナとは騎士学校時代から親しくさせて頂いております。学生時代も今も寮の同室者です」
お誘いを承諾しようと口を開きかけた僕に被せるように隣のウォーレンが胸に手を当て敬礼を取りながら第三王子へ挨拶をする。
カーティス様も最初はウォーレンに王子としての顔で挨拶を返していたが、寮の同室者と聞くと目を細め、明らかに敵意を滲ませる瞳でウォーレンを見た。
昨夜の時点で僕の恋人は寮の同室者だと伝えていたから気付いたのだろう。
「そうか、お前が……ロナ、昨夜のことは伝えたか?」
「憲法に則ってカーティス様から許可を頂いておりませんのでもちろん他言は一切しておりません」
「ロナは本当に真面目だな。私とロナの会話を他言することを許可はしない。引き続き2人だけの"秘密"だ」
何か含みのある言い方をしたカーティス様は、流れるような仕草で僕の手を取り、指先にそっとキスを落とした。
一体何が起こってるのかよく分からず呆然と立ち尽くす。隣から小さく、歯の軋むような音が聞こえた気がした。
「それではロナ、3日後に会えるのを楽しみにしている。くれぐれも怪我はしないように訓練や仕事に励んでくれ」
凛としたハリのある声でそう言い残し、カーティス様はシッパに軽やかにまたがり、嵐のようにあっという間に去っていった。
帰国したばかりの第三王子が突然登場したことにより、静まり返って僕とカーティス様のやり取りを見ていた騎士団内がざわつき始める。
僕は強引なところも昔と変わっていないなと思いながら、隣のウォーレンを見上げた。
「…突然でびっくりしたね。帰ろっか」
僕の言葉にウォーレンは強張った表情をしながら無言で頷く。とても機嫌が悪そうに見えるのは、王子との会話を話す許可がおりないと分かったからだろうか。
そういえばどうしてあそこまでしつこく会話の内容を知りたがっていたのかまだ聞いていなかったなと思い出し、寮に向かいながらそれとなく話してみることにした。
「昨日王子と話したことは他言無用のままになりそうだから何も教えられなくてごめんね」
「…いや、第三王子の命令なら仕方ない」
「でもどうしてあんなに聞きたそうにしていたの?」
その質問に返事は返ってこなかった。
言いたくないのか特に理由はないのか分からないが、僕は昨夜の彼のように無理に聞き出すようなことはしたくないから話題を変えた。
「次の休み、ウォーレンと被ってない日だったから逆に良かったかも。同じ休みの日に王子に誘われたら断り文句を考えるの大変だったろうから」
「…3日後、行くの」
「そりゃあ断れるような雰囲気じゃなかったし、僕もまだまだカーティス様に聞きたいことあるからさ。ビリンガムとラディスの違いとか」
「……俺も同席しようかな」
「え?でもウォーレンは明日が休みで3日後は出勤日でしょ?」
「訓練終わりなら行けるから。もし俺が終わる時間より早く解散したなら騎士団まで来てよ。もし来なかったら蘭の宮まで俺も行く。俺も王子と話したいことがある」
「うーん…カーティス様なら嫌とは言わないだろうけど、一応先触れを出しておくね」
もしかしてウォーレンはずっとカーティス様とお近づきになりたかったのだろうか、と思いながらそこからはいつもと同じように他愛ない話をしながら寮までの道のりを歩いた。
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