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王子から頬にキスをされる
しおりを挟む一気に警戒を解き、肩の力を緩める。しかしまだ日が落ちる前なのにどうして彼がここに、と驚きながら僕は恋人の名前を呼んだ。
「ウォーレン…!」
僕に名前を呼ばれるのが心底嬉しいという柔らかい笑顔を浮かべながら、ウォーレンは一気に黒馬で僕たちの元まで駆け上がってくると、軽やかな身のこなしで地面に足をつけた。
「カーティス第三王子にウォーレン・コークがご挨拶致します」
「…崩せ、必要ない」
「ありがとうございます」
「ウォーレン、どうしてここに?まだ終わりの時間には早いよね?」
「蘭の宮の近くで不審者がいると通報があった。今日ロナが蘭の宮にいることはみんな知っているから、団長にすぐ様子を見てこいと言われて来たんだ」
「不審者?」
「カーティス王子、既に不審者の身柄は確保しているためご安心ください。どうやら帰国された第三王子の姿を一目見ようとした民が蘭の宮にどうやって忍び込むか偵察していたようです」
「そうか、私たちが出るときにはいなかったから、すれ違いで良かったな。私はともかくロナを危険なことに巻き込みたくない」
とんでもない不届き者がいたもんだなぁと思っていたが、カーティス様が僕の肩を抱いて身を寄せたことに敬礼の姿勢を取っていたウォーレンの眉がぴくりと動く。
第三王子の手を振り払うのは不敬に値するため、やんわりと身体をウォーレンのほうへと戻しながら蘭の宮のある方角へと視線を向ける。ウォーレンはさらに淡々とした口調で続けた。
「カーティス様、念のため蘭の宮に戻られた方が良いかもしれません。不審者の侵入を防いだとはいえ、ここでは奇襲にあったとき遮蔽もないので危険です」
「一理あるな。警備の見直しも必要だし使用人たちの緊急時の動きも確認しなければいけなさそうだ」
「蘭の宮まで護衛させて頂きます。これからは常に護衛の者を側につけたほうが良いかと。今回は一般市民でしたが、カーティス王子が帰国されたことで王太子派閥や第二王子派閥に不審な動きがあるかもしれませんので」
「…そんな危険な第三王子のそばに大切な恋人をいさせたくないからもうロナを蘭の宮に招待するな、と言いたげだな」
「……」
カーティス様のじとりとした声と視線にウォーレンは思わずといったように黙る。図星なのか、と僕は内心彼に心配されているという嬉しさで胸が高鳴った。
「まぁ、私としてもロナを王族のいざこざに巻き込むことは絶対にしたくないからしばらく蘭の宮に誘うのはやめておこう。ウォーレンと言ったな」
「ハッ」
「ロナとお前の関係は聞いている。二人とも騎士団に所属している優秀な騎士だと分かっているが、お前はロナを必ず守れ。常に盾となり矛となれ」
「仰せのとおりに」
さっきまで僕の隣で屈託なく笑っていたカーティス様は今や完全に王子としての尊厳に満ちた顔つきでウォーレンに命令を下す。二人きりでいるときとそうじゃないときの差が激しくて感心してしまった。
「私は蘭の宮に一人で戻る。お前はロナを連れて騎士団に戻れ」
「しかしカーティス王子、」
「蘭の宮は目と鼻の先だ。この距離で襲われる心配は低いしされたとて易々やられるような鍛え方はしていない」
「…かしこまりました」
「ロナ、今日は夜まで共にいられなくて残念だが、またすぐに会いに行く。今日のことも他言無用だからな?」
「はい、心得ております。でも本当にお一人で大丈夫ですか?」
「シッパの足の早さも強さもお前はもう分かってるだろ?心配するな、ラディス国で鍛えた技術がある」
「…そうですね。本日は楽しいお時間を共に過ごせて至極光栄でした。どうかお気をつけて」
「あぁ、ロナも」
そういってカーティス様はぐいっと僕の肩を再び引き寄せたと思ったら、ちゅっと音をたてて僕の頬にキスを落とした。
僕は面喰らって全身の筋肉が固まったように動けなくなるが、彼はしてやったりの顔でシッパに飛び乗ると颯爽と丘を下って行った。
取り残された僕と僕の恋人の間に気まずい空気が流れる。先に動いたのは、ウォーレンだった。
「…帰るよ」
舌の先に氷を載せたような冷たい口調で言われ、結構な強さでカーティス様にキスをされた頬をごしごしと制服の袖でふかれる。
ただの挨拶程度のキスだとしても恋人の前で別の男に触れられてしまったことへの罪悪感から、僕は俯いてウォーレンの黒馬に乗った。
黒馬に揺られながら、お互い無言のままだった。
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