【完結】恋人から試し行動され続けるけど僕の愛は揺らがない。

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第三王子は強引さも成長した

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   カーティス様との約束の日。
    騎士団に向かうウォーレンは行ってきますのハグをなかなか離さず大変だったが、昨夜もたっぷりと愛されたときにつけられた首のキスマークを念入りに確認してから部屋を出て行った。
    言葉にはしていないがどうやらウォーレンはカーティス様に対抗心があるようで、僕と王子が2人きりになるのが嫌らしい。

    ウォーレンの要望をカーティス様に伝えるよう先触れを出すと彼からは了承の返事が来た。
    仕事も訓練もやること全て終わったら合流すると息巻いていた恋人だが、今日の二人の対峙は問題なく終わるだろうかと少し心配だ。

    迎えを寄越すと伝えられていた通り、寮を出ると門の前には蘭の宮に描かれているものと同じ紋章をつけた馬車が止まっていた。
    シッパに乗って騎士団や寮に行ったことを王宮に報告され、宰相から注意を受けたらしい。むくれるカーティス様の顔が簡単に想像できるなぁと思いながら馬車に揺られ、蘭の宮へと到着すると。

「ロナ!待ってたぞ!」

    馬車のカーテンが勢いよく開かれ、犬の耳と尻尾が見えそうなほど嬉しさを全面に出したカーティス様の顔が現れた。

「カーティス様、本日はお招き頂きありがとうございます」
「第一声がそれかよ~…ほら、手を貸して。足元気をつけてな」

    馬車の御者が聞き耳を立てているかもしれないから念のため形式上の挨拶をすると、嫌そうな顔を隠しもしない彼に思わず笑いそうになる。
    支えられながら馬車を降り、早速食事をしようと手を引かれる。
    周りには数こそ多くはないがカーティス様が帰国してから蘭の宮を担当しているであろう侍女や執事たちが頭を垂れている。そんな彼らの前でカーティス様の手を拒むことも出来ず、されるがまま歩を進めた。
    夜に来たときには気付かなかったが、蘭の花が植えられた花壇が入り口扉の近くにあり、花たちも主人の帰還を喜んでいるようだった。

    食事の間に案内されると、そこには円形状のテーブルの上に色鮮やかな料理たちがぎっしりと並べられていた。

「わぁ…!」
「驚いたか?本来なら二人きりで食事するときは長机で端と端に座るのが王族だが、俺とお前にはそんな距離、必要ないだろ?料理も運ばれてくるコース式じゃなくてご馳走をテーブルいっぱいにしたいってシェフに頼んだんだ」
「ありがとうございます、カーティス様。とても美味しそうです」
「…あぁ、そうだった。お前たち、もう下がっていいぞ。何かあれば呼ぶから二人きりにしてくれ」

    僕が人前では態度を崩せないことを察して、彼は使用人たちを全員下がらせた。僕たち以外誰もいなくなった空間にようやく気を緩める。

「ティス、本当にありがとう。でもこんなに食べれるかな」
「俺が大食いなのを忘れたか?」
「えぇ…確かに昔からたくさん食べる子だとは思ってたけど今はこんなに食べれるの?」
「余裕だぜ。ほら、冷める前に食べよう。今のロナの好みが分からなかったらとりあえずいろんな種類の料理を用意してもらったんだぞ。俺が取り分けてやる。どれから食べたい?」
「王子に仕給してもらうなんて不敬罪にもほどがあるよ…」
「気にするな気にするな!俺とロナの仲だろ」

    彼は先日、俺に求婚したことを忘れてるんじゃないかと思うほど昔と変わらず気さくで、昔よりも強引さに磨きがかかっている。
    王子命令だと思い込むことにして、いくつかの料理を指差してカーティス様に取り分けてもらった。がさつなように見えて思いの外キレイに盛り付けられた皿を受け取り、対面ではなく隣に並んで食事を始めた。

    カーティス様からは離れてからのことやラディス国での出会いや出来事のこと、僕からはビリンガム王国で起こった主な事件や、騎士学校時代の話をする。
    しばらくそうして先日のことにはお互い触れずにいたが、ご馳走に舌鼓をうち程よい満腹感を得たところで王子の方から切り出された。

「で、恋人とはどうなんだ?俺と会ったときに隣にいたウォーレンというやつがそうなんだろ?」
「うん。実はティスと会った後にちょっとしたいざこざがあってさ」

    あの日、初めて別れの危機をむかえ、それを乗り越えたことの一連を話せば、次第にカーティス様の表情は曇っていく。それと同時に僕の動かす口も重くなっていくが、きちんと伝えなければいけない。

「だから今は上手くいってるよ。その…求婚のことなんだけど…」

    意を決して言葉にしようとしたとき、バンッとテーブルに手をつき突然立ち上がったカーティス様。寝起きの顔へ水をかけられたような衝撃を受け、彼を驚きの表情で見上げた。

「食事のあとは運動しなきゃだよな!シッパに乗りに行こうぜ!」

    無理やり作ったような笑顔で話題を急旋回した彼に何も言えず、目をぱちくりさせながらまたしても彼にされるがまま手を引かれ、後を追うしかなかった。

***

    夜の暗がりで見るよりも日の下で目にするシッパの艶やかな毛並みは見事なものだった。厩舎から近い丘まで乗馬しようと提案され、シッパに股がる。
    静かで慰めるような秋の日光が樹木の間に差し込んで気持ちのいい乗馬日和だった。
    さっきまでの話題を避けるようにカーティス様の口はよく回る。僕も彼に合わせるようにしていつもより多く相槌をうった。

    ゆるやかなカーブを描く芝生で覆われた丘の上まで来ると、シッパから降りて芝生の上にごろんと寝転んだカーティス様に見習い、僕もおずおずと彼の横で身体を倒した。

「ん~~!こうして思いっきり空気を吸い込みながら身体を伸ばすと気持ちいいぞ、ロナ」
「うん、すっごく気持ちいい!蘭の宮の裏にこんな場所があったなんて知らなかったよ」
「俺も帰国してから知ったんだ。どうやら昔は立ち入り禁止になっていたらしい」
「そうなんだ。入れるようになって良かった」

    そこまででぶつりと会話の糸が途切れる。そよ風に揺らされた木々の葉が擦れる音が小さく聞こえるだけで、しばらく無言が続いた。

「……ロナ」
「うん、なぁに?」
「今日、ウォーレンってやつは本当に来るのか」
「ウォーレンの訓練が終わるまでに僕が騎士団に行かなければ、蘭の宮に来るだろうね」
「でっかいキスマ一つじゃ、安心できなかったか」
「えっ!?」

    僕は慌てて襟を上げて隠したはずのキスマークをつけられた首もとを手で擦る。見えていたのか、と羞恥心でどぎまぎするのを抑えられなかった。

「シッパに乗っているときに見えた」
「変なもの見せてごめん…」
「試し行動をするなんて本当にロナを愛してるのか疑ってたが、この前の挨拶の時といい、キスマといい、牽制はしっかりしてくる奴なんだな」
「牽制…?」
「牽制じゃなかったら何だっていうんだよ。ま、ロナを好きなら何で傷付けるようなことをしてたのか全く理解出来ねぇけどな」

    何に対しての牽制だ?と内心首を傾げながらカーティス様の横顔を見つめた。

「せいぜい、俺とロナの会話を知りたくても知れない状況に苦しめばいい」
「ティス…いい性格になったね」
「こんな俺は嫌か?俺はお前が傷付くのも泣くのも嫌なんだ。幸せだけに包まれていてほしい」
「…ありがとう。僕だってティスの幸せを願ってるよ」
「それなら俺の嫁になってくれよ」
「それとこれとは話が別!」
「ひっでぇ!」
 
    軽やかな温度で言われたから、僕も軽く冗談交じりに答えるとカラカラと笑うカーティス様。涙黒子がくしゃっとつぶれるのを穏やかな気持ちで眺める。

「まぁ、まだ俺は帰国したばかりだからな!時間はたっぷりあるしこれからもロナと恋人が順調だとも限らない。地道にアピールしていくよ」
「諦めるって選択肢はないの?縁談もたくさん舞い込んで来てるんじゃない?」
「俺の15年の片思いなめんなよ!恋人がいるくらいでそう簡単には諦めねぇ。あいつよりも俺の方がいい男だって時間をかけて証明していくさ」
「15年!?」
「一目惚れだって言っただろ。ロナと出会ったときから俺の心はずっとロナに掴まれてる」

    15年も僕を想い続けてくれていたなんて…国の第三王子が特に秀でたところのない平凡な僕を。
    カーティス様の気持ちを受け入れたらきっと僕はずっと幸せでいられるんだろうという確信はある。
    だけど"幸せでいられる"からそちらを選ぶのではなく、選んだ人と"幸せになりたい"のが僕の考えだ。

「好きだ、ロナ」
「……」
「ハハッ!困らせたいわけじゃないんだ。今日はこの辺にしとくか」
「…ありがとう」
「たくさん話せたし幸せな時間を過ごせたからな。次は繁華街にお忍びで行くのもいいな。王子だとバレたら面倒なことになるから」
「まさか護衛なしで行くつもり?」
「第一騎士団に所属しているロナ・バイアットがいるんだから十分だろ?それに俺も剣はそこそこだが弓矢と拳は誰にも負けない自信があるぜ」
「…ラディス国でサバイバルしてたんじゃないよね?」
「あはは!それに近いことはしたな!」

    高貴な身分であるはずなのにビリンガム王国では考えられないような生活を送っていたのかもな、と乾いた笑いが漏れた。
    そんな僕の顔を見てさらにツボにはまったのか、カーティス様の笑い声が丘の上で響く中。
    遠くから、しかし確実にこちらに近付いてくる馬の蹄の音が聞こえ、瞬時に身を起こし騎士団の一員として臨戦態勢へと切り替える。
    カーティス様も気配を察知したのか、表情を険しくさせながら僕と同じ方向を見つめた。

    木々の合間から丘に続く芝生の境目に現れたのは、黒馬に乗り臙脂色の騎士団の制服に身を包んだ、シルバーブロンドを靡かせる美しい僕の恋人だった。


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