【完結】恋人から試し行動され続けるけど僕の愛は揺らがない。

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ご令嬢の頬にキスをする恋人

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    僕は休日だったが騎士団へと報告をしにウォーレンと共に戻った。蘭の宮周りの警備強化に向けて、すぐすぐに団長を含めた何人かとカーティス様で話し合いが行われるだろう。
    僕は子供の時から蘭の宮に詳しいため、交代制の警備員として選ばれる確率は高いというのが団長の意見だったが、逆にウォーレンは僕が選ばれることはないときっぱり言い切っていた。
    不思議そうな顔をする団長に第三王子と会って話せば答えは明らかだと断言していた。

    僕を危険なことに巻き込みたくないというカーティス様の心配りは友人としては嬉しいが、騎士団の一員としては悔しい思いもある。カーティス様に僕も蘭の宮を警護したいと今度会ったときにでも直談判してみようかなと思った。

    ウォーレンが帰るにはまだ少し早い時間だったが、僕との間に流れる異質な空気感を感じ取ったのか、団長から今日はもう帰って休むようにと促され、2人で寮へと戻ることにした。
    こんなに気まずい空気のままなのは嫌で、僕も早く帰って謝りたかったからありがたい。

    仕事上の会話以外、会話らしい会話をすることもせず並んで騎士団の敷地内から出ると、門の前に見覚えのあるご令嬢が馬車の中から顔を出していた。アーバント家のご令嬢だ。

「ウォーレン様!なんという偶然でしょう」

    黄色いドレスの裾を持ち上げながら馬車から優雅に降りてきたご令嬢。本当に偶然なのかと思ってしまうほど出来すぎたタイミングだが、ウォーレンは本来まだ騎士団の中にいるはずだったから僕の考えすぎだと思い直した。

「アーバント様、どうしてここに?」
「嫌だわ、ウォーレン様。そろそろ家名ではなく私の名を呼んでくれてもいいんじゃありませんこと?」

    扇子を広げて口許を隠しながらも美しい笑みを浮かべているのが分かるご令嬢は、数ヵ月前にどこかの男爵と婚約したと聞いたがなぜウォーレンを誘うような目をしているのか。僕の醜い心が見せる幻だろうか。

「…セリーヌ様。本日はどのようなご用件でしょうか」
「もちろんウォーレン様に会いに来ましたのよ。遠くから訓練を眺めるつもりで来ましたのに、もうお帰りですの?」
「ええ、お恥ずかしながら体調があまり良くないので騎士団長の方から早退して休むようにと言われましたので」
「あら!それは大変なことだわ!すぐに帰ってお休みになられて下さいな。良ければ馬車で寮までお送り致しますわ」

    その馬車はどう見ても2人乗りだが、ご令嬢の目にはウォーレンの隣にいる僕の姿は映っていないのだろうか。

「お気持ちは大変嬉しいのですが馬車に乗るほどの距離でもありませんからご安心を」
「そんな遠慮なさらずに。むしろ寮ではなく我が家で休息を取られてはいかが?専属の医師もおりますし彼の手にかかればすぐに体調も良くなりますわ」

    だんだんとご令嬢の愛嬌のある可愛らしいはずの声が耳障りに感じてきた僕は思わず2人の会話に口を挟む。

「恐れ入りますが、アーバント様は数ヵ月前にご婚約されたのでは?婚約中のご令嬢の家に独身男性が出入りするのは問題になるかと」
「…あなたは?」
「失礼致しました。ウォーレンの寮の同室者であり第一騎士団所属のロナ・バイアットでございます」
「あぁ、以前にもウォーレン様の隣にいらした方ね。そういえば、カーティス第三王子の帰還パーティーでカーティス様と熱い抱擁をかわした方のお名前もロナ様だったかしら。噂になっておりましたのよ」
「それは…確かに僕ですが、噂になるほどのことでもないかと…」
「いいえ、それはもう引き裂かれた恋人同士が長い年月を経て再会したときのような抱擁だったと近くで目撃していたご令嬢から伺いましたわ。カーティス第三王子とロナ様はお似合いだとご令嬢たちの中で今一番熱い話題ですのよ。まさかあなただったとは」

    何だその噂は。女性の噂話は回るのが早く尾びれ背びれがつくというが、事実らしい。普通の再会のハグがいつの間にか熱い抱擁をしたことになっている。

「質問の答えですが、私はつい先日婚約を解消致しましたの。あちらが不貞を働いていたことが分かりましたので」
「そう、でしたか…そうとは知らず出過ぎたことを申し上げ、大変失礼致しました」
「全く気にしておりません。私の心配をして下さったのでしょう。感謝しますわ」

    見た目も綺麗な方だが、心まで綺麗なご令嬢らしい。なぜか僕は、嫌なことをされたわけでも言われたわけでもないのに胸が軋むような感覚を覚えた。

「ですので私は今、傷心中ですの。ウォーレン様のお世話をして気を紛らわせたいのです。ご迷惑かしら?」
「…セリーヌ様」

    眉を下げて扇子の奥から上目遣いでウォーレンを見上げる彼女は男の庇護欲をそそるだろう。ウォーレンは彼女の名前を呼び、一歩近付くと扇子を持っていない方の彼女の手をそっと取り、その華奢な指先に唇を落とした。

「実を言うと体調が悪いわけではなく団長からロナと共に別の任務を任されているのです。アーバント家への訪問はまたの機会に」
「そうでしたの?それは失礼致しましたわ。ではいつ我が家にいらっしゃれるかしら?次のお休みを教えて下さいな。傷心中の私の話をぜひお茶を飲みながら聞いてほしいですわ」

    なおも食い下がるご令嬢に女性って強かだなという感想を抱く。このままではウォーレンが約束を取り付けてしまうのではないかと不安になると。
    僕の恋人は、さらに彼女との距離を縮め、扇子を持つ手を下に下ろさせると。

    彼女の頬に、キスをした。

    顔を真っ赤にして固まるご令嬢とは全く逆の意味で、僕も金縛りにあったように全身を硬直させた。

「本日のところはこれでご勘弁を。気をつけてお帰り下さい」

    僕からはウォーレンの表情はすべて見えない。しかしご令嬢の様子からしてウインクの1つでもしたのだろうかと何となく思った。
    さっきまでの饒舌っぷりが嘘のようにルージュがひかれた唇を結び、こくこくと首を縦に動かしながらぎこちなく馬車に乗り込んだご令嬢を見送った。

「やっと帰れるね」
「……うん」

    ご令嬢と会うまでは浮かべていなかったにこやかな笑顔を僕に向けたウォーレンと共に歩き出す。さっきまでの罪悪感は綺麗さっぱり消えていた。

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