【完結】恋人から試し行動され続けるけど僕の愛は揺らがない。

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第三王子からの忠告

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   ご令嬢に自分で帰れると息巻いたものの三十分歩いても見覚えのある景色にならず、僕は自分の愚かさに辟易していた。
    冬に入りかけの夜はどんどん気温が下がっていき、冷たい空気が頬を刺していく。住宅街やお店も周りには見当たらず、闇雲に歩き回っても余計に帰りが遅くなると思い、馬車が通りかかるまで石壁に背をつけて待つことにした。

    ウォーレンがアーバント家のご令嬢と婚約したということを証明する婚約証書が頭から離れない。きっと僕には言えない何か重大な理由があるはずだと確信しているが、それでも今の状況も相まってか気分は落ち込む。
    もうウォーレンは帰ってきているのだろうか。そういえばご令嬢にどうしてウォーレンの帰りが遅くなることを知っていたのか聞きそびれたなとぼんやりと思っていると。
    遠くから馬の蹄が地面を蹴る音が聞こえてきて、僕はやっと道を聞けると安心して壁から背をはなし、道に躍り出た。

    次第に音と共に近付いてきた一台の馬車は、シンプルだが高貴な雰囲気を纏っていた。描かれている紋章は見覚えがありすぎるもので、僕は余計に安堵して両手を大きく広げて馬車を止めた。
    御者が怪訝そうな顔で僕を見下ろすのを申し訳なく思いながら後ろに向かって声をかける。

「突然申し訳ありません。僕は…」
「ロナ!?」

    僕の声を聞くと一目散に荷台から顔を出したカーティス様と目が合う。御者に手を上げて合図をすると、馬車から下りて驚いた表情のカーティス様と対面した。

「本当にロナだった!こんなところで何してるんだ?というか、冷えきっているじゃないか!」
「カーティス様、お久しぶりでございます。実は…」

    アーバント家からの帰り道で迷ってしまったことを歯切れ悪く説明をすると、カーティス様は眉を垂れ下げて僕の冷たい手を引いた。

「知らない道を歩いて帰ろうとするとはバカなのか?こんなに寒い夜道を…さ、早く馬車に乗るぞ。寮まで送っていく」
「申し訳ありません。ありがとうございます」

    頭を下げて引かれるがまま馬車に乗り込むと、温かい空気に包まれてホッと息を吐いた。

「小さな声なら御者に聞こえないからもう崩してくれよ。偶然にも俺の馬車が通りかかって幸運だったな」
「本当に。でも久しぶりにティスの元気そうな顔を見れて嬉しいよ。最近は忙しそうで姿を見ることもなかったから」
「俺もロナにずっと会いたかった。会いに行きたくても行けない事情があってな…少しは聞いているだろ?」
「うん。僕を護衛の任務につかせてくれればよかったのにティス直々に外したって聞いたよ」
「ごめんって!ふてくされた顔も可愛いな…でも危険だと分かっている任務に愛する人をつかせたい男がどこにいる?」

    御者に聞こえないように肩を寄せて顔を近付けながら気障なことを言われて思わず目が泳ぐ。膝が彼の膝に当たらないように、少しお尻の位置をもじもじとずらした。

「ハハッ、そう意識されると逆に俺を喜ばせるだけだぞ」
「からかわないでよ」
「からかってない。いつだって俺は本気だ。それにしても、なぜアーバント家に行ってたんだ?」
「それは…」

    どう話せばいいのか分からずに口ごもる。半ば強制的に馬車に乗せられてアーバント家に連れていかれたが、その理由まで話すとなるとウォーレンとご令嬢の婚約話を言わないわけにはいかない。
    しかしそれは僕に好意を寄せているカーティス様に隙を見せることになると思い、躊躇した。

「いや、何となく理由は分かるぞ。あの令嬢から強引に招待されたんだろう?ウォーレンとの婚約話について」
「…知ってたの?」
「お前の恋人であるはずのウォーレンとアーバント家のご令嬢が婚約したという噂は蘭の宮まで届いている」
「そうなんだ…僕も噂は知ってたんだけど全然気にしてなかったんだ。でも今日、婚約証書を見せつけられて…」
「自信がなくなった?」
「いや、たぶん何か僕にも話せない理由があるんだと思う。僕はウォーレンの僕への愛を信じているから」

    確かに婚約証書の衝撃は結構あった。しかし僕が一番気にしているのは、ウォーレンが何か変なことに巻き込まれていて僕に何も言えない状況の中、彼が一人で背負い込むことだ。

「……へぇ、前と随分顔つきが違うな」
「二人でたくさん話し合ってより深い関係になれたからだと思う。ウォーレンが何をしようとしているのか今はまだ分からないけれど僕はただ彼を支えたい」
「ふーん…」

    おもしろくなさそうな乾いた相槌を打つカーティス様に申し訳ない気持ちはありつつも、この際だからずっと伝えなければと思っていたことを口にした。

「だからティス。僕は君からの求婚を受けられない。こんな僕を好きだと言ってくれてありがとう。気持ちは本当に嬉しかったんだよ」
「…俺は今、ふられているのか?親切にお前を乗せて寮まで送っている最中なのに?」
「それは…本当にごめん。自分でもひどいやつだと分かってる。でも期待を持たせ続けるのもティスの時間を奪っているようで嫌だし、君はもっとふさわしい人と一緒になるべきだ。僕以外の人間にも目を向けてみてほしい」
「それは無理な話だな。今のロナが幸せなら俺もそれを壊すようなことは本意ではない。だがはりぼての幸せは呆気なく崩れるときがくる」
「…どういうこと?」

    カーティス様の言い方に含みがあり、この人はどこまで知っているのだろうと疑念がわく。もしかしてウォーレンとご令嬢の婚約も彼が企てたんじゃないかと思いそうになり、慌ててその考えを振り払った。

「婚約証書まで交わしたということは、そう簡単には婚約解消出来ないということだ」
「それは知ってるけど…」
「いや、お前は分かっていない。ウォーレンとご令嬢は間違いなく結婚式を挙げるぞ」
「え…?」
「たとえ何か理由があったとしても、恋人が他の人間と結婚式を挙げるのをお前は黙って見てられるのか?許せるのか?」

    そんなまさか、と信じられない気持ちでカーティス様の問いから逃げるように視線を足下に落とす。何を根拠に二人は間違いなく結婚式を挙げると言っているのか聞きたいが、なぜか聞くのが怖くて言葉が出てこなかった。

「俺はロナが傷付くところを見たくない。あいつとは、なるべく早めに離れるべきだと忠告しておく」

    いつの間にか寮に着いたのか馬車の揺れは止まっており、馬車の外には静かな夜が舞い降りているであろうことが分かる。

「それでも僕は……ウォーレンを信じるよ」

    僕は最後に強がってみせて、送ってくれたことへのお礼を言って馬車をそそくさと降りた。最後に見たカーティス様の瞳が、僕を痛ましそうに見ていたのが気になって仕方がなかった。

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