【完結】恋人から試し行動され続けるけど僕の愛は揺らがない。

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母上に結婚式へと連れ出される

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   ウォーレンを信じると決めたのに土台を揺らがす不安と日々闘いながら迎えた、結婚式当日。

「それじゃ、行ってくるね。お願いだからいい子で信じて待っていて」
「……行ってらっしゃい。気をつけて」

    こんなに虚しい行ってらっしゃいのキスとハグは初めてだなと思いながら恋人を別の人間との結婚式に送り出す。パタン、と閉じる扉の聞き慣れた音がやけに重々しく感じられた。
    何かをしていないと嫌な考えばかりが浮かんできてしまいそうで、キッチンに立ち無心で野菜を切り始める。包丁がまな板に触れる音だけに集中しているとどのくらい時間が経ったのか。
    突然、ドンドンと扉を叩く音が聞こえ、心臓が跳ね上がった。

    今日この寮にいるのは僕だけのはずだ。僕以外に呼び出されていた二人は寮の門で警備担当らしく、僕のように部屋で待機ではない。なら彼らのどちらかが僕に何かを伝えに来たのだろうかと、玄関に近付く。

「ロナ、いるんでしょう?開けてちょうだい」

    扉の外から聞こえてきたのは、久しぶりに聞く母上の声だった。母上がここに来るなんて初めてのことで何かあったのかと慌てて扉を開く。そこには、明らかに結婚式に参列するような装いの母親が立っていた。

「あら、思ってたより元気そうじゃない」
「は、母上!?どうしたのですか、こんなところまで…」
「今日はロナの親友の結婚式だっていうのにあなたの姿がないから騎士団の方に聞いたら、ほとんど医者にかかったことのないあなたが体調を崩して部屋にいるって言うから心配して様子を見に来たのよ」
「え…あ、そうなんです。でも少し寝たらだいぶ良くなって」
「それなら良かったわ」
「わざわざ来てくれたのにごめんなさい。ありがとうございます。僕は大丈夫なので母上は結婚式に参列されて下さい。父上を待たせてしまいますよ」

    すっかり失念していたが、伯爵家のご令嬢と次期騎士団長の結婚式に国の官僚である僕の両親が招待されていないわけがない。

「その父上から、もしロナが元気そうなら結婚式に連れてくるよう言われているのよ。さ、そんなに元気なら早く支度をしてちょうだい。服装はこの前パーティー用にと送ったものと同じで良いですから」
「えっ…!?いや、実は僕は今日、この部屋から出るなという命令を受けていまして…」
「大切な親友の結婚式にそんな命令をするなんてどんな嫌がらせかしら。後でお父様が何とかするから、早く準備をしなさい」

    どこにそんな力があるのかと思うほど細い腕でぐいぐいと背中を押され、部屋の中に戻される。勝手に僕の部屋のクローゼットから第三王子帰還パーティーの時に着ていた燕尾服を引っ張り出され、僕は説明する間もなく着替えさせられた。
    今回の結婚式が本物ではなく騎士団の任務のためだとは知らない両親が、親友だと紹介しているウォーレンの晴れ舞台に息子が出席しないのは体面が悪いと思うのは当たり前かもしれない。

    僕が体調不良で欠席だと聞かされたのもたとえ国の官僚や両親とはいえ騎士団内の情報を流すなど言語道断だからだ。
    しかし良い言い訳も思い付かず、母上に髪型を軽く整えられながら母上に逆らうか、団長命令を破るかを天秤にかけ、僕は後者を選んだ。
    いつもの僕なら絶対に選ばない後者を選択したのは、心の奥底でずっと燻っていた疑念があったからかもしれない。僕への命令は任務ではなく、僕を結婚式に出席させないための口実だと。

「さすが私の息子、着飾ればそれなりね。さぁ、もう式は始まってるわ。急ぎましょう」

    いつの時代も息子は母親に敵わない。軽く引っ張られる腕、しかし絶対に連れていくという意思をひしひしと感じながら寮の門を出ようとしたとき。

「お待ちください、バイアット様」
「どうしたのかしら、急いでいるのだけれど」

    団長室に共に呼び出された二人が警備として持っている槍を交錯させ、僕たちを逃がさないとでも言うように足止めした。

「こんな物騒なものを私に掲げるとはどういうつもりかしら」
「大変申し訳ございません。ご子息が体調を崩されその様子を見に来られたとのことだったのでバイアット様をお通ししましたので、ここを通せるのはバイアット様だけでございます」
「何ですって?今日が何の日かあなたたちも知っているはずよ。体調を崩しているという息子の様子を見に来たら元気になっていたから、この子の親友の結婚式に間に合わせることの何が問題なのかしら」
「も、申し訳ありません…しかし、本日ご子息をここから一歩も出すなという命令でして…」

    日々王族のそばで国の官僚として働いている母上のピシャリとした声に、二人はたじろぎながらも槍を交錯させる体制は崩さない。
    僕はこの時初めて、この二人に任された任務は僕が外に出ないよう見張ることだったのだと気付いた。

「一体そんな嫌がらせを息子にしてくる意地の悪い人間はどこの方かしら。私の役職をご存知なくて?ここを息子と共に通しなさい。これは命令です」
「し、しかし…」
「あなたたちはおかしいと思わぬのですか。親友であるはずのロナが今日の結婚式に出席出来ず、寮に閉じ込められているなど。騎士団は嫌がらせを容認する組織なのですか」
「…そんなことは、なく…」
「何を言われようと、私たちはここを通ります。それでも通さないと言うのなら国の官僚であるこの私を捕らえてみなさい」

    息子が騎士団内で嫌がらせを受けていると思い込んでいる母親の言葉は強い。さらに地位と権力まで持っている彼女の圧に、二人は視線を交わしながらおずおずと槍を下ろした。

「よろしい。この件で上司に何か言われるようなら私の名を出しなさい。あなたたちが罰せられるようなことにはさせません」
「…バイアット様のご厚情に感謝致します」
「ええ、お勤めご苦労様。ではロナ、行きますよ」

    満足そうに胸を張って足を踏み出す母上の背中は、僕より小さいはずなのに大きく見えた。コツコツとヒールの音を響かせる頼もしい母上と共に、僕は恋人の結婚式へと向かった。

    監視係まで用意して、僕を行かせないようにした結婚式がどんなものなのか、確かめるために。


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