【完結】恋人から試し行動され続けるけど僕の愛は揺らがない。

u

文字の大きさ
21 / 37

令嬢と恋人の結婚式があるらしい

しおりを挟む
 

    ウォーレンを信じて待つと決めてから二週間後。
    それは相変わらず騎士団では呼び出されることが多く、一緒に帰れない日の方が多くなってきた頃だった。

「来週の週末、アーバント家のセリーヌ嬢と我が第一騎士団のウォーレン・コークが急遽結婚式を挙げることとなった」

    敬礼を取る騎士団員の前でそう声高らかに放った騎士団長の言葉に、団員たちはざわつく。僕は隣に立つウォーレンの気配を右肩で感じながら、カーティス様の言う通りになるんだなと落胆する気持ちを隠せなかった。
    しかしすぐにこれは大切な任務なのだろうと思い直し、真っ直ぐ前を向く。僕はウォーレンを信じる。だから、大丈夫。

「挙式を挙げる場所は聖セントレス教会だ。これから参列者として内部から警備するメンバーと参列せず外側から警備するメンバーに分けるため名前を呼んでいく」

    まずは、と参列者メンバーから名前が呼ばれていく。僕は当然ここで呼ばれると思っていたが、僕の名前が騎士団長から告げられることはなかった。
    もしかしたら、例え任務だとしても恋人の結婚式なんて見たくないだろうと僕とウォーレンの関係に気付いている団長の配慮かもしれないし、ウォーレンが言い出したことかもしれない。
    どちらにせよ、ウォーレンと一番仲が良いと周知されている僕が参列者ではないということに、団員の間からは困惑の雰囲気が滲み出ていた。

    残りのメンバーが騎士団として正式な警備を任されるのかと思いきや、またしても僕の名前が呼ばれることはなかった。ずっと堂々としていた表情が崩れそうになるのを必死におさえながら、団長の説明を待つ。

「今、どちらにも名前を呼ばれなかった者はその日、別の任務についてもらう。この後、団長室に集まるように。みなお祝い事だからと言って気を緩めず自分の仕事を全うするように!」

    人を従えまとめる、覇気のある声。その声に応えるように騎士団内に「ハッ!」と厚い壁のような声が響き渡った。
    解散を言い渡され、団員たちがウォーレンの元へとやって来て肩を叩いていく。結婚が事実なのか任務なのか口にはしないものの、激励によるものなのは確かだった。
    僕は言われた通りに早速団長室へ向かおうとしたら、隣のウォーレンに手首を掴まれてつんのめる。真剣な面持ちで見下ろす彼を、僕は無表情で見上げた。

「ロナ……帰ったら、ゆっくり話そう」
「うん、もちろん。団長室に行ってくるね」

    笑おうとしたが上手く笑えなくて張り付けたような笑みになってしまったかもしれない。ウォーレンの反応を見たくなくてサッと背を向け歩き出した。

    団長室の前まで来ると、さっき名前を呼ばれていないのは僕を含めて三人だけだと分かった。なぜか一人一人呼ばれたら室内に入るよう団長から言われ、廊下で待つ。僕は一番最後だった。
    無駄のない整頓された団長室に入ると、椅子に座らず後ろに手を組んで執務机の前に立っていた団長と対面する。
    熊のように血色のいい大柄ながっしりとした体つきの団長と二人きりでこの部屋にいると、圧迫感を感じて無意識に呼吸が浅くなった。

「ロナ・バイアット」
「ハッ!」
「ウォーレンとセリーヌ嬢の結婚式当日のお前の任務を伝える」
「ハッ!」

    一体どんな難問を突きつけられるのか、と後ろで組んでいた手に汗を滲ませながら団長の続きの言葉に耳を集中させ、聞こえてきたのは。

「寮の部屋で、一日待機を言い渡す。その日、寮から一歩も出ないように」
「……え?」

    膨らませていた風船が突如空気が抜けたように、室内に気の抜けた僕の声が落ちる。そんなことを言われるとは夢にも思わず、困惑の色を隠せなかった。

「返事は!」
「は、ハッ!」
「一見、なんだそれはと思うかもしれん。だが一番大切な任務だ。いいか、お前は何があってもその日、寮の部屋から一歩も外に出るな。これは団長命令だ」
「か、かしこまりました!」

    理由を聞きたかったがそんな空気も隙間も少しもなく、問答無用といった雰囲気の団長に一礼をして部屋を出た。
    他の二人も僕と同じように待機を命じられたのか確認しようと思ったが、すでにその二人の姿はなく、拍子抜けした気持ちと何か不吉な予感の板挟みになる。廊下を歩きながら思考を巡らせた。

    何かしらの任務で恋人であるはずのウォーレンがご令嬢と婚約し、結婚式を挙げること。
    その結婚式を僕は内側からも外側からも関与せず、待機を命じられたこと。
    カーティス様からウォーレンとなるべく早く離れるべきだと忠告されたこと。

    僕の知らないところで何が起こっていて、ウォーレンや団長は何をしようとしているのか。少しも理由を聞かされないのは、僕が知る必要がないからなのか。それとも。

    僕だけには、必死に隠さなければいけない理由があるのか。

「ロナ、帰ろう」

    気付けば階段の前まで来ていたらしい僕を待っていた、恋人のウォーレン。僕は返事をせず無言で彼を見上げて、その新緑の瞳の奥を探るように見つめる。僕の気持ちを、察してくれないかと願いを込めて。

「…こんな場所でそんな目で見たらダメだよ。押し倒したくなる」

    頬を赤らめるウォーレンに我慢が出来ず、僕は彼に向かって勢いよく抱きつき、珍しく狼狽えたウォーレンの襟を掴んで引き寄せ、強引にキスをした。
    波のように押し寄せる不安を振り払うように。問い詰めたくなる口を塞ぐ自戒のために。ここが騎士団の建物内だということも忘れ、押し付けるような拙いキスをした。

「……ごめん、帰ろっか」

    ウォーレンが僕を引き離そうとした雰囲気を手の動きから感じ取り、その前に自分から身体を離す。ここで彼に拒まれたら、必死に保っている自尊心が崩れそうだったから。
    明らかに様子のおかしい僕に気付きながらも何も言わない恋人と並んで階段を下りる。部屋に帰ったらきっと何かしら説明してくれるはずだと、期待していた。

***

    心がどんどん冷えていく感覚に苛まれるのは、短い秋が終わり、夕暮が灰色に侘しくなる冬に入ったからだろうか。寂しさを感じて心に隙間風が吹いているからだろうか。

「…ロナ」

    何度もただいまとおかえりのハグをした玄関に入ると幾分か冷えていた心と身体が本来の動きを取り戻す。恋人に名前を呼ばれながらその横を通りすぎ、早く温まりたくて暖炉に火をつけた。

「ロナ」

    暖炉の低い焔が、ひらひら燃え上って、あたりをぼんやり赤く照らす。その動きを無心で見つめていたい、そんな気分だった。

「ロナ……」

    身体を包んだ温かさは暖炉の火の陽炎のおかげか、背後から抱き締められた腕のせいか。

「寂しい思いをさせてしまってごめんね…心から申し訳ないと思ってる」

    僕が聞きたいのは、そんな言葉じゃない。

「でも俺たちがずっと一緒にいるために必要なことだから。ロナが安心して過ごせる日々を必ず得るために、すべて終わらせるから」

    僕との未来のために、あなたはご令嬢と結婚式まで挙げなくてはいけないの?

「だから、この部屋で、俺の帰りを待っていて」

    僕には帰りを待つことしか出来ないの?僕の知らないところで、僕の見えないところで、何をしようとしているの?

「狂おしいほどに君を愛しているよ」

    本当に信じて待っているだけで、いいの?

「ロナだけを愛してる」

    その愛は……僕と同じ形をしている?

    何一つ、言葉に出来やしない僕のちっぽけな不安。心の中だけで彼に問いかけて、返ってこない返答にまた空しさが募る。

    心の隙間は、広がっていくばかりだった。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

婚約者変更で傲慢アルファの妃になりました

雨宮里玖
BL
公爵令息のハルは突然の婚約者変更を告げられ戸惑う。親同士の約束で、ハルは第一王子のオルフェウスと婚約していた。だがオルフェウスの病気が芳しくないため王太子が第二王子のゼインに変更となり、それに伴ってハルの婚約者も変更になったのだ。 昔は一緒に仲良く遊んだはずなのに、無愛想で冷たいゼインはハルのことを嫌っている。穏やかで優しいオルフェウスから、冷酷なゼインに婚約者が変わると聞いてハルは涙する。それでも家のために役に立ちたい、王太子妃としてゼインを一途に愛し、尽くしたいと運命を受け入れる覚悟をする。 婚礼式のときからハルに冷たく傲慢な態度のゼイン。ハルは負けじと王太子妃としての役割を果たすべくゼインに迫る。初夜のとき「抱いてください」とゼインに色仕掛けをするが「お前を抱く気はない」とゼインに一蹴されてしまう——。

昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…? タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。 歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け

処理中です...