【完結】恋人から試し行動され続けるけど僕の愛は揺らがない。

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疑惑の輪郭がはっきりする

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    まだ日が落ちるには早い時間帯だが、再び室内で一人になるとふと寂しさと疑心暗鬼が交互に襲ってくる。思考の渦にのまれると思った僕は、日の下でカーティス様に教えてもらった弓の使い方の復習をしようと、外に出た。
    昼と夕方の間の温もりがある日差しが芝を照らしているが、僕の横髪を攫い、頰を強張らせる風は鋭く尖って冷たかった。

    悴みそうになる両手を擦り合わせ温めながら、弓の的が並ぶ場所まで歩く。最初は矢を弓にかけることすら上手くいかず苦労したが、ようやくその手順も手こずらずに出来るようになってきた。
    弓矢は脇に置き、弓だけを引いて的を狙う体勢を確認する。カーティス様に教えてもらったコツを思い出しながら繰り返していくと、実際に矢を射ってみたくなってきた。

    まだ矢を直接射るところは教えてもらっていないが、復習するなら予習をしたっていいだろう。僕は矢を手に取り、的に向かって狙いを定めた。
    ぷるぷると腕が震え、何度か弓の弦に押し戻されそうになるのを踏ん張りながら、矢を持つ手をパッと開く。すると矢は思っていた方向とは大きくずれ、的の左奥にある茂みに吸い込まれるように飛んでいった。
    僕はまずいと思い、すぐに走って茂みに近付き矢を探す。なかなか見つからず、もっと奥のほうに飛んでしまったのかと思い、どんどんと前に進んで行った。

「あった!」

    結構歩いたところに矢は転がっており、こんな遠くまで飛ばせたなんてもしかして弓の才能があるんじゃないかと自画自賛したところで。
    人の話し声のようなものが微かに聞こえ、思わず茂みにしゃがみこみ、耳をこらした。

「第…子と…ナは順…に……」
「そう……ウォーレン…、」

    会話の内容はよく聞こえなかったが"ウォーレン"という単語だけははっきりと耳が拾い、心臓が無意識に跳ねる。こんなところでこそこそとウォーレンに関する話をしているのは誰だろうかと気になり、そっと茂みから頭だけ出して声が聞こえる方に視線を向けると。

    大きく立派な見覚えのある体格の人間と、一目で王族だと分かる美しい金髪と高貴な服装を見に纏った人間がいた。前者は騎士団長、後者は遠くからしか見たことはないが間違いない。
    ビリンガム王国第一王子、そして王太子であるエイブリー様だ。

    王太子と騎士団長が二人きりで密談をしているのは特に不思議なことではない。王家直属の第一騎士団に王族から命令や任務を下すことはよくあるし、その経過報告や打ち合わせなどを長同士がするのは当たり前だろう。
    しかし気になるのは、こんな辺鄙な場所にいることだ。二人が話すなら王太子専用の執務室をはじめ、王宮内にふさわしい場所がいくらでもありそうなのに。
    先程の母上との会話の内容もあり、この周辺に何かあるのか、一体二人はウォーレンについて何を話しているのか気になり、もう少し近付いてみることにした。そして聞こえてきた会話は、あまりにも衝撃的だった。

「今日、第三王子は杏の宮を出ていますがロナが外に出ようとする気配はありません。ウォーレンは逃げ出さないようにしっかりアーバント家協力のもと、監視を続けています」
「順調なのはいいが、私はさっさと片付けたい。ロナ・バイアットがカーティスの求婚を受けてラディス国に行くことが確定するまで手を弛めるな。早くロナ・バイアットとカーティスをくっつけろ」
「…御意」

    ――――え?なに、言ってるの?

   耳の横に心臓があると錯覚するくらい自分の鼓動の音がよく聞こえる。浅く短く呼吸をしながら、その場に縫い付けられたように動けなかった。

「引き続きここから杏の宮を見張れ。私は隣の屋敷で開かれている博覧会に出席中の身だが、父上と謁見を終えたカーティスも顔を出すよう仕向けてある。奴が合流してからそれとなく結婚の話を匂わせる」
「ウォーレンについてはどうしましょうか。日々監視の目を潜り抜けようと暴れ回り、そろそろアーバント家と第一騎士団数名では抑えきれなくなりそうです」
「頑丈な鎖に繋いだまま、最悪扉を釘で固定しろ」
「しかしそれでは食事などを運べません」
「多めにパンを置いておけば数日持つだろう。たとえ無くなったとしてもしばらく食べなくても頑丈な奴なら心配ない。とにかくカーティスがラディス国に行くことが決定するまでウォーレンとロナ・バイアットが接触しないように徹底しろ」
「御意」

    本当にこの国の王太子から発せられている言葉なのかと思うほど非人道的な内容に頭がくらりと揺れる。何の罪も犯していないのにウォーレンは結婚したはずの相手の家の中で鎖に繋がれ、監禁されているということは分かった。

「もしこの一週間のうちにロナ・バイアットがカーティスの求婚を受けず、カーティスがビリンガムに留まるのなら……アイツの命を狙うしかあるまい」
「エイブリー様、それだけはリスクが大きすぎます故…」
「だから最悪の手段だと言っているであろう。私がそんなことをする必要のないよう、任務を遂行しろ。カーティスの命はお前の仕事ぶりにかかっていることを忘れるな」
「…御意」

    騎士団長が王太子に向けて敬礼の姿勢を取ると、王太子は踵を返して博覧会が行われているという屋敷のある方に向かっていった。
    その場に残され佇む大きな背中を、僕は信じられない気持ちで見つめる。しかしすぐに彼が杏の宮を見張っていることを思い出す。ここに僕がいてはまずい事になると思い、そっと音を立てないように茂みから抜け出して杏の宮の敷地内に戻った。

    弓と矢を放り投げて一目散に僕に用意された部屋に向かう。使用人が探していたとかどうかされましたかとか、声をかけていたことすら耳に入らないくらい、頭が混乱していた。
    室内の空気を少しも逃がさないと言わんばかりに勢いよく開いて閉めた扉。バタンッと大きな音が響き、自分のしたことなのにビクッと肩が跳ねた。

    しばらく扉を背に佇み、バクバクと忙しく動く心臓と呼吸を整える。一旦落ち着いて、先程の会話を整理するべきだ。とても重大なことしか言っていなかったが、こんな時こそ冷静になって考えなければいけない。
    僕は王太子と騎士団長の会話を思い出しながら一つ一つ整理していくことにした。

    王太子と騎士団長があの辺鄙な場所にいたのは、騎士団長は僕がカーティス様のいない間にウォーレンに会いに行かないようにするための見張り。王太子は近くの屋敷で開かれているという博覧会に出席中で、僕に動きがないことを報告するために人目を忍べるあの場所で密談をしていた。
    そしてウォーレンは僕を追いかけて来ていなかったのではなく、結婚したはずのアーバント家に鎖で繋がれ外に出られないよう監禁状態にあるということ。
    王太子はカーティス様をビリンガム王国から早く追放したいようで、カーティス様が僕とラディス国で結婚したい意思を知っているようだ。それを逆手に取り、恐らく僕に求婚を受けさせようとしている。
    騎士団長は僕とウォーレンの関係を知っていた数少ない人間のため、王太子にそれを報告、そして僕とウォーレンを別れさせようと画策した。

    騎士団の任務だと思っていたがあの結婚式は僕とウォーレンを引き離すためだけに仕組まれたということだろうか。
    だとしたら、ウォーレンは騎士団長に騙されたことになる。責任感と誇りを持って仕事をしているウォーレンをどのように言いくるめたのか分からないが、ウォーレンはまんまと任務を罠だと気付かずにはまってしまったというわけか。
    そして僕も母上を使って教会に誘き出され、狙ったのかたまたまなのかタイミングよく誓いの言葉とキスを目撃した。逃げ出す僕を騎士団長や騎士団員が追わず、カーティス様に追わせたのも恐らく仕組まれたものだったんだろう。

    それなら、ウォーレンは本当に心から僕だけを愛しているということ…?
    信じて待っていてという言葉に、嘘偽りはなかったということ…?
    暴れ回ると言っていたが、今も僕の元に来ようと必死に闘っているということ…?

「あぁ……」

    ウォーレンははめられただけで、僕を騙そうとなんてきっとしていない。今も僕の誤解を早く解こうと、僕を早く迎えに来ようと、必死に逃れようとしている。
    怪我はしていないだろうか。暴力は受けていないだろうか。ご飯はきちんと食べられているのだろうか。夜はしっかり眠れているだろうか。

    僕が杏の宮で心穏やかに過ごしていたこの数日間、ウォーレンは一人苦しくて暗い夜の中を踠き、必死に僕を求めていたんだろうか。
    ウォーレンの試し行動を受けて一人暗い部屋で待っていた、あの日の僕のように。

「ウォーレン…!」

    助けにいかなければ。何としてでも、あの暗い底から彼を助けにいかなければ。


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