3 / 14
嫌われているようなので出て行きます③
しおりを挟むそれから私の行動は早かった。
もともと一か月後に出て行く予定でいたので、タイラーには話を通して時期を早めてもらい三日後には荷物もまとめ終えた。
小柄な自分でも持てるくらいの大きめの鞄を二つ。
平民としてでも着られる、華美ではない衣装などを詰め込むだけ。
それでも、ここに来なければ決して着ることのできない贅沢な衣装ばかりだけれど、まったくないのも困るし愛着がある。
それと、宝石などの類いは置いていくことにした。
侯爵やクリフォードから貰った誕生日プレゼントは分不相応だし、盗難に遭って後悔するのも嫌だったので机の上に置き持っていかないつもりだ。
そもそも二年間だけだとわかっていたのでなるべく荷物は増やさないようにしていた。
侯爵は母にも血の繋がらない私にも非常に甘く、いろいろ買い与えようとしてくれた。侯爵にとっては微々たる金額なのかもしれないけれど、連れ子でありいつかは出て行く身の私はそれに甘えるのは気が引けた。
毎晩寝るふかふかのベッドを始め、ここでの贅沢に慣れすぎて以前の生活に戻れなくなるのも怖かったというのもある。
母の娘だからといって我が物顔で振る舞うなんてことができる性格でもないし、むしろ私にお金をかけてもらうのは申し訳なかったくらいなので、卑屈と捉えられない程度に生活に必要な物は甘えさせてもらい必要以上の贅沢はしないように心がけていた。
義兄の言葉を聞いてから一週間経った本日、荷物を持つと私は最後に部屋を見回した。
この私に当てがわれた部屋だけでも、母と二人で暮らしていた家の広さがある。
当初広すぎて落ち着かないと思っていたけれど、優しい白と柔らかなピンクを基調とした部屋の大きな窓の向こうは庭園があり、この二年で色とりどりの花々を見させてもらった。
その景色を見ているだけで、贅沢さと心の安らぎを感じて、いつの間にかこの部屋が落ち着く場所となった。
私がこの部屋を使うことになったことや壁紙の色もクリフォードの提案(使用人がこっそり教えてくれた)だそうで、そういうところ! と冷たくされても憎めないし、じゃあと嫌われているようだからと完全に義兄のことを割り切れなくなる要因であった。
――ほんと、ずるいというか。できれば仲良くなりたかった。
そう思わずにはいられない。
何度冷たくされても、仲良くなりたいと思う要素がちりばめられていた二年間。
それでも決定的に嫌われたと知った今は感謝こそすれ期待はなく、もう会うこともないだろうと寂しさのみとなってしまった。
現在、母と侯爵は二日前から仕事で王都のタウンハウスにいるため、今日出て行くことは直接話していない。
話せば引き留められることは目に見えていて、手紙を書いた。約束の二年よりは少し早いけれど、成人すればという話であるし不義理ではないだろう。
むしろ、次期侯爵となるクリフォードに嫌われている私は出て行くほうがここにとってはよい。
母とは縁を切るわけでもないので、二人には感謝の手紙とともに改めて連絡するとしたためた。
なんとなく使用人たちに気づかれないようにこそこそしているのは、義兄に知られ反応を見るのが怖かったのもあった。
出て行くのにもあの冷ややかな視線を向けられると思うと、せいせいしたという顔をされると思うと、嫌われているとわかっていても気持ちがへこんでしまう。
当初から屋敷では居心地がいいように配慮されていたし、使用人たちにぞんざいな扱いを受けたことはないので、それは侯爵、そして義兄のおかげだということはわかっている。
恵まれた環境だった。
そんなことを日々感じていたから、冷たくされても私は最後まで嫌いになれなかった。だから、もうすぐお別れとなること、誕生日だったこと、プレゼントに嬉しかったことも含め、あの言葉にショックを受けたのだ。
最後まで打ち解けられず、嫌われたままであったけれどここでの生活は贅沢で夢のようだった。
「ありがとうございました」
私は部屋に向かって深々と一礼し扉を開けた。
寂しくもありやり残したことがあるような後ろ髪を引かれる気分だったけど、いつまでも感傷的なのはいけないと一歩踏み出した、――と同時に視界を阻まれてたたらを踏んだ。
296
あなたにおすすめの小説
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。
四季
恋愛
本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。
英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。
幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
醜女の私と政略結婚した旦那様の様子がおかしい
サトウミ
恋愛
この国一番の醜女である私と結婚したイバン様。眉目秀麗で数多の女性と浮き名を流した彼は、不祥事を起こしたせいで私なんかと結婚することになってしまった。それでも真面目な彼は、必死に私を愛そうと努力してくださる。
──無駄な努力だ。
こんな色白で目と胸の大きい女を、愛せるはずがない。
下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~
星森
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。
王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。
そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。
これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。
⚠️本作はAIとの共同製作です。
拾った指輪で公爵様の妻になりました
奏多
恋愛
結婚の宣誓を行う直前、落ちていた指輪を拾ったエミリア。
とっさに取り替えたのは、家族ごと自分をも売り飛ばそうと計画している高利貸しとの結婚を回避できるからだ。
この指輪の本当の持ち主との結婚相手は怒るのではと思ったが、最悪殺されてもいいと思ったのに、予想外に受け入れてくれたけれど……?
「この試験を通過できれば、君との結婚を継続する。そうでなければ、死んだものとして他国へ行ってもらおうか」
公爵閣下の19回目の結婚相手になったエミリアのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる