二度目の人生は離脱を目指します

橋本彩里(Ayari)

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黒と獣人奴隷

12.信頼と好意

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 ――可愛い。

 マリアンヌの取り巻きの一人だったからといって、これだけ懐いてくれた相手を今更放り出すことはできない。
 正直なところ同情もあるとは思うが、短時間で彼の見せる全幅の信頼と好意にほだされてしまった。

 だって、他人を信じられないようなことがこれまでたくさんあったのに、私だけに懐いているんだよ?
 これを振りほどくのはできそうもない。そんなの鬼畜の所業だ。

 もともと好意を寄せられ頼られると、嬉しくて好意的に接してしまうほうだ。ちょろいのかもしれないが、やっぱり好意的な態度には好意的に返したい。
 死に戻り前はそれで失敗したから、全面的にほいほいといくわけにはいかないけれど、私もいろいろ学んだのでその辺は普通の七歳児よりは冷静に判断できるはずだ。

 ――あと、スキルがあるからそう悪いものに引っかからないような気がするし。

 ベアティの状態についてもなんとなくあの場で解決したほうがいいと勘みたいなものが働いたし、スキルの影響なのではないかと思っている。
 それにいちいちびくびくしていたらできることもできないし、これからも信頼できる人は信頼して心を軽やかに楽しく過ごしていきたい。

「大丈夫。ベアティは私が責任を持ってサポートするわ」
「ほんと?」

 私は大きく頷いた。
 死に戻り前では知らなかったベアティの過去。知ってしまったからには無視はできない。
 この件がこの後どう影響するのかはわからないが、私の目的は被害者の救済と悪徳奴隷商の壊滅だ。その被害者のベアティを救うことは決定事項である。

「ベアティの人生だから頑張るのはあなただし、したいことを見つけるのもあなた。だから、言葉通りサポートね。それと、私も子供だしできることとできないことがあるから、その範囲になっちゃうけど」
「それで、いいです」

 最初に大きく出たけれど無責任なことは言えないので正直に告げると、ベアティは神妙に頷ききらきらと希望に満ちた眼差しを私に向ける。
 信頼を乗せた瞳にくすぐったくなり、私はもぞもぞと身体を動かした。
 さっきより楽な体勢を見つけ、満足する。

「少なくとも私の手を取ってよかったなと思うようにはしてあげる。今もベアティが安心するならくっついていいよ。それで話の続きだけど、様、やっぱり取らない?」
「でも、お世話になっている方にそのような無礼はできません。それに、生意気だと思われて追い出されても困るので」
「それもそうね。あなたが悪く見られちゃうか。もし縁があってあなたがこの領地に過ごすことになって周囲が認めたら、そう呼ぶのはどう?」

 今すぐは彼の言う通り、周囲から生意気に見える可能性もあるので強制するのは可哀想だ。だけど、今後のこともあるので敬称呼びは避けておきたい。
 そう告げると、こくこくと可愛く頷き熱のこもった目で私を見た。

「そうします。ありがとうございます。エレナ様!」

 嬉しそうに名を呼ばれ、私も自然と頬が緩んだ。

「よかった。年も近いし、ここにいる間は仲良くしてくれたら嬉しい」
「はい! よろしくお願いします!」

 これまでになく顔を輝かせ、目元を潤ませたベアティは、私の名を馴染ませるように何度も口にした。

「エレナ様。エレナ様。エレナ様。エレナ様」

 おおぅ、と私はその勢いにおののいた。
 彼は獣人ではないが、しっぽがあったらぶんぶんと風が出てくるくらい振られていただろう喜びようだ。

「ベアティ」
「はい。エレナ様」

 話しかけようとすれば、嬉しそうに返事され苦笑する。

「ちょっと落ち着こうか。ベアティが私を慕ってくれるのはわかったから」

 和みはするが圧が強いので静止をかけると、もっと呼びたいのにと上目遣いで見つめられ、私は首を振った。

「これから何度でも呼ぶ機会があるでしょ? だから、今はここまで」
「わかりました」

 ぱちぱちと長い睫毛を瞬き、嬉しそうに「これから」と私の言葉を反芻する
 素直な反応と態度は、死に戻り前の彼とは似ても似つかない雰囲気だ。
 死に戻り前はマリアンヌの取り巻きで彼女にものすごく気に入られていたが、彼は自発的に何かを発するということはなかった。
 ただ、マリアンヌに言われるがままそばにいた。

 マリアンヌはちやほやされたいタイプなので、積極的に動かないベアティにとても不満そうだった。
 だけど、ベアティを連れ歩くことができる女性はマリアンヌだけだったので、自尊心は満たされていたようだ。

 多少の混乱はあるが、もともとマリアンヌの取り巻きというだけで私は顔、つまり表情もわからなかったし、あまり話したことはない人物だ。
 最後はマリアンヌの取り巻きというだけで、嫌なイメージを持っていた。逆に言えば、個人に対して強く思うことはない。

 ――あれっ。ちょっと待って。

 そこで私はあることに気づき、愕然とした。

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