13 / 105
黒と獣人奴隷
13.二度目は
しおりを挟むあまりのことに手が震える。
先ほど精神支配されかけていたと言っていたが、もしかしたら死に戻り前の彼はすでにそういう状態であった可能性もあるのではないか。
――これは……、どういうこと?
ものすごくマズイことに気づいてしまったかもしれない。
私はさぁっと血の気が引くのがわかった。
もし、もしもだ。
彼の今の状態を考えると洞窟から生き延びたベアティはすでに精神支配された状態で、そこでマリアンヌに出会い、取り巻きの一人になったのだとしたら?
あくまで憶測だが死に戻り前の過去と今の状況を考えると、ベアティはベアティの意思で生きていなかったことになる。
――そんなの酷すぎる!
ベアティがマリアンヌにいつ出会ったのかはわからないが、その時の精神状態はどうだったのだろうか。
救われて取り巻きの一人になったのか、精神支配されたまま取り巻きになったのか。
黒い靄が見えていたこともあり状態は正常ではなかったので、後者の可能性も十分にある。
「ベアティはいつから一人だったの?」
「物心がついたころには路地裏にいた」
「そう……」
両親の記憶はあまりないのか、それとも触れてほしくないのか。
「ごめんね。あまり思い出したくないかもしれないけれど、なぜベアティが狙われたのかわかる?」
「あいつらは、俺みたいな孤児や獣人の子供を定期的に攫っていた。それからいろんなことをされて、しばらく経ってから俺だけ違う場所に隔離された」
「ベアティだけ違う場所に?」
ベアティの何を見出したのだろうか。
考え込んでいると、ベアティがおずおずと口を開いた。
「多分だけど、今はこんな状態だけど俺の身体は人より丈夫なんだ」
インドラもそのようなことを言っていた。
「彼らがすることに耐えられる子供ということね」
「そうだと思う。俺が攫われるまでも、何人か行方不明になっていたから。病気のヤツじゃなくて比較的元気そうなの。だから、その中で一番持ちそうなのを選んだのかもしれない」
目ぼしい子供を先に調べておき、定期的に攫っていたということか。その内の一人がベアティで、彼らにとってベアティは求めている素材だった。
「すでに目をつけられた状態で攫われたということね。そのころは自分で物を考えられていたんだよね?」
「うん。両親はいなかったけど、たまにご飯くれる人がいたし、殴られることもなかった」
「もしかして、これまで殴られてたの?」
暴行の痕はないと聞いていたが、驚いてぺらりとベアティの服をめくる。
真っ白な肌はあばらが浮いて細いが、それらしい痕はない。後ろはどうだろうとさらに服を上げようとしたところで、むんずと手を掴まれ止められる。
「恥ずかしい」
「ご、ごめん。つい気になって」
「心配してくれているのはわかってる。だけど、俺、こんなひょろひょろな身体だし……」
「ごめん。配慮が足りなかった。本当にごめんね」
悲しそうに眉尻を下げたベアティに、私は失敗したと落ち込んだ。
ベアティも男の子。身体が細いことを本人はとても気にしているようなので、歳の近い異性にまじまじと観察されて何も思わないはずはない。
「情けないだけだから……。必要なら、エレナ様ならどれだけ見られてもいい。それと、今はこんなだけど暴力で怪我をしたことはないから、そういう意味で俺は丈夫なんだ」
「傷がつかないだけで、殴られたら痛いでしょ?」
「慣れたよ」
表情を消して淡々と告げたベアティの頭を、私はごそごそと身体を移動し抱きしめた。
「ベアティ。慣れても痛いものは痛いの」
「でも、俺のせいで亡くなった子たちもいる……」
まるで自分が生きているからたくさんの子たちが犠牲になったと言わんばかりの言葉に、私はむぎゅうと腕の力を強める。
「それはベアティのせいではない。それを強いた人たちが悪いに決まってる」
一緒に保護した獣人の少年が、ベアティは自分たちを庇ってどこかに連れていかれることはしょっちゅうだったと言っていた。
もしかしてその時に酷い暴行を受けていたのか。
ベアティは自分の身体が丈夫だとわかっていて、彼らの代わりに大人の憂さ晴らしに付き合ったのかもしれない。
――殺してくれ、と言うくらいだもの。
人が傷つくよりは、自分が傷つくほうをよしとするほど優しい人物のようだ。
自分がいなくなったら、実験で亡くなる命も減ると考えたのではないだろうか。
ますます、死に戻り前は精神支配された状態だったのではとの推測が濃厚になってくる。
「エレナ様……」
胸の中で震えるベアティの頭を私は優しく撫で、ずりずりと再び身体の位置を戻して顔を見合わせる。
死に戻り前では見えなかった瞳の動向をすべて捉えるべく、私は覗き込んだ。
「いい? 今後、一切理不尽な暴力は許してはダメよ」
「わかった」
「そのためにもベアティは強くならないと。お父様たちが悪い人たちを捕まえるべく動いているけれど、また狙われないとは限らないし」
私もベアティもこれから力をつけていかなければならない。
理不尽を払いのけるほどとは言わなくても、それを回避するくらいはきっとできるはず。
死に戻り前のベアティの状態に対して推測が間違っている可能性はあるけれど、その可能性がある限りますますベアティを信用ならない相手に預けるわけにはいかない。
私はベアティの手を掴んだ。
「ベアティ。幸せになろうね」
「はい!」
一人思考し意気込んでそう告げると、脈絡なく告げたにもかかわらず、ベアティは頬を上気させ嬉しそうに返事した。
その笑顔を見て、つられるように笑みを浮かべた。
466
あなたにおすすめの小説
婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~
ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」
義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。
父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。
けれど――
公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。
王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。
さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。
そして下されたのは――家ごとの褫奪。
一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。
欲しがったのは肩書。
継いだのは責任。
正統は叫びません。
ただ、残るだけ。
これは、婚約を奪われた公爵令嬢が
“本当に継がれるべきもの”を証明する物語。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
初恋を諦めたあなたが、幸せでありますように
ぽんちゃん
恋愛
『あなたのヒーローをお返しします。末永くお幸せに』
運命の日。
ルキナは婚約者候補のロミオに、早く帰ってきてほしいとお願いしていた。
(私がどんなに足掻いても、この先の未来はわかってる。でも……)
今頃、ロミオは思い出の小屋で、初恋の人と偶然の再会を果たしているだろう。
ロミオが夕刻までに帰ってくれば、サプライズでルキナとの婚約発表をする。
もし帰ってこなければ、ある程度のお金と文を渡し、お別れするつもりだ。
そしてルキナは、両親が決めた相手と婚姻することになる。
ただ、ルキナとロミオは、友人以上、恋人未満のような関係。
ルキナは、ロミオの言葉を信じて帰りを待っていた。
でも、帰ってきたのは護衛のみ。
その後に知らされたのは、ロミオは初恋の相手であるブリトニーと、一夜を共にしたという報告だった――。
《登場人物》
☆ルキナ(16) 公爵令嬢。
☆ジークレイン(24) ルキナの兄。
☆ロミオ(18) 男爵子息、公爵家で保護中。
★ブリトニー(18) パン屋の娘。
白い結婚の行方
宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」
そう告げられたのは、まだ十二歳だった。
名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。
愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。
この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。
冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。
誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。
結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。
これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。
偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。
交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。
真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。
──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?
【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない
あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。
王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。
だがある日、
誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。
奇跡は、止まった。
城は動揺し、事実を隠し、
責任を聖女ひとりに押しつけようとする。
民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。
一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、
奇跡が失われる“その日”に備え、
治癒に頼らない世界を着々と整えていた。
聖女は象徴となり、城は主導権を失う。
奇跡に縋った者たちは、
何も奪われず、ただ立場を失った。
選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。
――これは、
聖女でも、英雄でもない
「悪役令嬢」が勝ち残る物語。
【完結】わたしの婚約者には愛する人がいる
春野オカリナ
恋愛
母は私を「なんて彼ににているのかしら、髪と瞳の色が同じならまるで生き写しだわ」そう言って赤い長い爪で私の顔をなぞる仕種をしている。
父は私に「お前さえいなければ、私は自由でいられるのだ」そう言って詰る。
私は両親に愛されていない。生まれてきてはいけない存在なのだから。
だから、屋敷でも息をひそめる様に生きるしかなかった。
父は私が生まれると直ぐに家を出て、愛人と暮らしている。いや、彼の言い分だと愛人が本当の妻なのだと言っている。
母は父に恋人がいるのを知っていて、結婚したのだから…
父の愛人は平民だった。そして二人の間には私の一つ下の異母妹がいる。父は彼女を溺愛していた。
異母妹は平民の母親そっくりな顔立ちをしている。明るく天使の様な彼女に惹かれる男性は多い。私の婚約者もその一人だった。
母が死んで3か月後に彼らは、公爵家にやって来た。はっきり言って煩わしい事この上ない。
家族に愛されずに育った主人公が愛し愛される事に臆病で、地味な風貌に変装して、学園生活を送りながら成長していく物語です。
※旧「先生、私を悪い女にしてください」の改訂版です。
婚約辞退いたします。だってこの国、沈みますもの
鍛高譚
恋愛
「婚約はお断りいたします――この国は近い将来、崩壊しますので」
そう言い放ったのは、社交界でも目立たない子爵令嬢、マリン・アクアリウム。
ある日、とある舞踏会に突如現れた王太子ガイア殿下。
誰もが驚く中、なんと彼はマリンに婚約を申し出る。
周囲は騒然。「子爵令嬢が王太子妃!?」「断る理由などないはず!」
――だが、彼女は断った。「この国は、もうすぐ滅びます」――と。
そんな不吉な言葉を口にしたことで、彼女は“狂言癖のある嘘つき令嬢”と噂され、
家族にさえ見放され、ついには国外追放の身に。
だが、彼女の予言は本物だった――
数年後、王国に未曾有の大災厄が迫る。
国土が崩れ、海に沈む都市。人々が絶望する中、思い出されるのは、
あの舞踏会でただひとり“滅び”を告げた少女の名。
「彼女なら、この国を救えるかもしれない……」
皮肉にも“追放令嬢”マリンは、再び王都に呼び戻され、
滅びゆく国で最後の希望として担ぎ上げられる。
信じてもらえなかった過去。
それでも人々の命を守ろうと奔走するマリン。
そして、王子ガイアが差し伸べた、あの日と変わらぬ手。
――たとえ国が滅んでも、あなたとともに歩んでいきたい。
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる