14 / 64
黒と獣人奴隷
14.影響
しおりを挟む洞窟からベアティたちを助けて三週間が経った。
その間、獣人の子供たちは両親が迎えにき、それぞれ無事引き渡しが完了している。
彼らが生きて家族と再会できたこと、それだけで二度目の人生に大きな意味が持てたような気がして胸がすっと軽くなった瞬間だった。
最後まで皆を守ろうとしていた少年とは打ち解けることができ、ベアティとともに再会の約束をした。
ベアティはまだ本調子ではなく、私が定期的に回復魔法をかけていた。
魔法をかけると成人男性並みの体力で動き回り元気になるが、かけた夜は熱に魘される。
子爵領の洞窟に閉じ込められる前から、ベアティは実験という名で様々なことをされてきたようだ。
洞窟で出会った獣人の子たち以外の血も入れられ、長期間に亘る実験のせいで回復も時間がかかっているとみられた。
何より精神支配による精神への影響が強力で心身に負荷がかかり、ベアティを苦しめていた。
一気にかけるのは、魔法を使い出したばかりの私の体調を家族が心配する。
そのため話し合いの結果、最悪の事態は逃れベアティの調子が改善しているので、現在は三日置きにしている。
聖女スキルの中には回復魔法のほかに身体鑑定というものがあり、身体のどこの部分がどう悪いのかわかる。
初めはスキルからくる勘で動いていたが、ベアティの様子を見ながら回復魔法をかけていたらいろいろわかるようになった。
熱が下がれば必ず前の状態より精神汚染度が薄れているので、着実に成果は出ている。あと数回ほどかければそちらは大丈夫だと思われた。
私はベアティが寝ているベッドの横に椅子を置き、彼の様子をうかがう。
うう~んと唸っていたが、私の気配に気づいたのかゆっくりと目を開いた。ベアティは私の姿を目に留めると、ふにゃりと表情を崩す。
「エレナ様、いつから?」
「少し前よ」
「もうちょっとここにいる?」
ゆっくりと瞬きし、観察するような視線を私に向ける。
じっと見つめるその眼差しの奥には、縋るような弱気と私の挙動をすべて観察するような鋭さも孕んでいた。
こういった目をするときのベアティは、私に強い要望を抱えている。
「うん。ベアティが眠れるまでいる」
彼が望む言葉を口にすると、ほっと息をついたベアティはようやく希望を口にする。
「どこにもいかないで」
「うん。ここにいるよ」
熱で魘されるととても不安になるようなので、目を覚ますたびに私の姿を探し少しでも長く引き留めようとする。
羽化した雛鳥の親になった気分ってこんな感じかなと私は小さく笑うと、ベアティがくしゃりと顔を歪めた。
「いつも、ごめん」
「ううん。ベアティが頑張っている証拠だもの。そこは謝らないで、できたらありがとうと言ってほしいかな」
弱っているときは気持ちが不安定になるものだ。
少しでも気分が上がるようにと声をかけ、額に浮かんだ汗を拭き、新しく冷えたタオルに替える。
気持ちよさそうに息を吐き出したベアティは、熱に潤んだ瞳で私を見上げた。
「……ありがとう。でも、寝込んでばかりでお世話になりっぱなしなのは申し訳なくて」
「病人は世話されるものだもの。もし、私が弱ったときはベアティが助けてくれたら。助けてくれるでしょ?」
「もちろん」
力強く告げるベアティに、私はゆっくりと語りかけた。
「できる人ができることをしているだけ。頼れる人がいるときは素直に頼ったらいいの。元気になったら、ベアティにもできることが見つかるわ」
死に戻り前のベアティは、自分の望むように生きられなかったのかもしれないと気づいてから、私は立ち向かう者同士のような親近感を勝手に抱いていた。
心からベアティのこれからに実りがあることを願う。
眉間にしわを寄せて難しい顔をしているベアティの鼻をつんと押し、私は目を合わせた。
逃れるように視線をずらしたベアティの頬を、私は逃げるなと挟み込む。
「ベアティ、私の目を見て」
「……エレナ様」
おずおずと視線を合わせたベアティの頬をよしと撫で、こつんとおでこを当てて言い聞かせる。
「いい? ベアティは今でも十分頑張っているわ。それにこの状態になったのはベアティのせいじゃないでしょ?」
「でも……」
「でも、じゃない。悪いのはそいつら。ベアティは何も悪くない。気が引けるなら今はたくさん甘えて、元気になったら世話になったと思う人のために恩返ししたらいいじゃない。それにベアティをこんな目に遭わせた奴らがまた狙ってくるかもしれないし、とにかく元気になることが一番よ」
話を聞く限り、ベアティは実験体として特別のようだった。丈夫というのが選ばれた理由の一つようだが、ほかにも理由があるかもしれない。
丈夫というだけでどうして他人の血を受け入れさせられていたのかわからないし、死に戻り前のことを思うとベアティにはほかに何かあるような気がした。
ベアティは身体能力も高いため、元気になり稽古をつけたらそう簡単に人に攫われるようなことはないはずだ。
やはりまず元気になるのが一番だと頷いていると、考えるように目を伏せていたベアティはゆっくりと頷いた。
「わかった。元気になって恩返しする。そして、エレナ様のことは俺が守る」
白皙の美貌にふさわしい、冴え冴えとした瞳が私を捉える。
美しい双眸に見つめられ、私は神秘的な輝きに魅入られるように見つめ返した。あまりにもまっすぐな目に、ベアティの気持ちを疑う余地はない。
「楽しみにしているわ」
恩返しを期待しているわけではないが、元気になった後に目的があるほうがベアティも気持ちを立て直しやすいだろう。
この時のやり取りが後に大きな影響を及ぼすとは知らず、私は前向きになったベアティの状態に自分も頑張ろうと気合を入れた。
391
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
四の五の言わず離婚届にサインをしてくれません?
白雲八鈴
恋愛
アルディーラ公爵夫人であるミレーネは、他の人からみれば羨ましいと思える立場にいた。
王妹の母譲りの美人の顔立ち、公爵夫人として注目を集める立場、そして領地の運営は革命と言えるほど領地に潤いを与えていた。
だが、そんなミレーネの心の中にあるのは『早く離婚したい』だった。
順風満帆と言えるミレーネは何が不満なのか。その原因は何か。何故離婚できないのか。
そこから始まる物語である。
弁えすぎた令嬢
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。
彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。
彼女は思った。
(今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。
今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。
小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。
公爵令嬢ルチアが幸せになる二つの方法
ごろごろみかん。
恋愛
公爵令嬢のルチアは、ある日知ってしまう。
婚約者のブライアンには、妻子がいた。彼は、ルチアの侍女に恋をしていたのだ。
ルチアは長年、婚約者に毒を飲ませられていた。近年の魔力低下は、そのせいだったのだ。
(私は、彼の幸せを邪魔する障害物に過ぎなかったのね)
魔力不足に陥った彼女の余命は、あと一年だという。
それを知った彼女は自身の幸せを探すことにした。
第二王女と次期公爵の仲は冷え切っている
山法師
恋愛
グレイフォアガウス王国の第二王女、シャーロット。
フォーサイス公爵家の次期公爵、セオドア。
二人は婚約者であるけれど、婚約者であるだけだった。
形だけの婚約者。二人の仲は冷め切っているし冷え切っている。
そもそも温度など、最初から存在していない。愛も恋も、友情も親しみも、二人の間には存在しない。
周知の事実のようなそれを、シャーロットもセオドアも否定しない。
お互いにほとんど関わりを持とうとしない、交流しようとしない、シャーロットとセオドアは。
婚約者としての親睦を深める茶会でだけ、顔を合わせる。
親睦を深める茶会だというのに、親睦は全く深まらない。親睦を深めるつもりも深める意味も、二人にはない。
形だけの婚約者との、形だけの親睦を深める茶会。
今日もまた、同じように。
「久しぶりに見る君が、いつにも増して愛らしく見えるし愛おしく思えて、僕は今にも天に召されそうなほどの幸福を味わっている。──?!」
「あたしのほうこそセオ様とお顔を合わせること、夢みたいに思ってるんですからね。大好きなセオ様を独り占めしているみたいに思えるんですよ。はっ?!」
顔を合わせて確認事項を本当に『確認』するだけの茶会が始まるはずが、それどころじゃない事態に陥った。
【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない
春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。
願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。
そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。
※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
【完結】恋人にしたい人と結婚したい人とは別だよね?―――激しく同意するので別れましょう
冬馬亮
恋愛
「恋人にしたい人と結婚したい人とは別だよね?」
セシリエの婚約者、イアーゴはそう言った。
少し離れた後ろの席で、婚約者にその台詞を聞かれているとも知らずに。
※たぶん全部で15〜20話くらいの予定です。
さくさく進みます。
攻略対象者の婚約者を持つ姉の代わりに、エンディングを見てきました
犬野きらり
恋愛
攻略対象者の婚約者を持つ姉の代わりに、エンディングを見てきました…
というタイトルそのままの話です。
妹視点では、乙女ゲームも異世界転生も関係ありません。
特に私(主人公)は出しゃ張たりしません。
私をアピールするわけでもありません。
ジャンルは恋愛ですが、主人公は恋愛していません、ご注意下さい
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる