15 / 105
黒と獣人奴隷
失敗 sideマリアンヌ
しおりを挟む受け取った手紙を読み終えると、マリアンヌ・スタレットはくしゃくしゃと握り腹立ちまぎれに床にぽいっと捨てた。
せっかくこちらから誘ってやったのにド田舎のランドール子爵家令嬢ごときに断られたと、ひどく気分を害していた。
「生意気ね! ――ああ、そのリボンの色は気に食わないからやめて」
「お嬢様がお選びになったもので楽しみにしていらっしゃったと思うのですが、今から変更なさいますか?」
「つべこべ言わず、私の言う通りにしていたらいいの」
「かしこまりました」
午後からの同じ派閥のご令嬢たちとのお茶会のため、新しく買ってもらったばかりのドレスを着て見せびらかすのを楽しみにしていた。
似合うと思って一緒に購入したリボンだが、今日はやけに縁取る水色が腹立たしく映り変えさせ、マリアンヌはこんな気持ちにさせたエレナに苛立ちを募らせた。
用意が整い、メイドと入れ替わるように従者のステファンが部屋に入ってくる。
「お嬢様、とても可愛くて似合っておいでです。お茶会の主役はお嬢様ですね」
「そう」
気分は優れないままぶすっと返すと、ステファンが眉を上げた。
「どうされたのですか?」
「……そこにあるものを読んでみたらわかると思うわ」
マリアンヌが視線を先ほど投げ捨てた手紙に向けると、ステファンはマリアンヌが捨てた手紙を拾い、丁寧に広げ目を通した。
「なるほど。件のご令嬢は欠席と。体調が優れないと書かれていますね」
「あれから半年は経っているのよ。軟弱だという話は聞いたことはないわ」
「王都まで一週間かかりますし、前回のことで何かしら心身に影響があったのかもしれません。体調が理由であれば、さすがに無理強いすることはできないでしょう」
ぷりぷりと怒っているそばで冷静に返され、マリアンヌはじろりとステファンを睨んだ。
「そもそも、あなたがあの子のスキルがいいって言ったんじゃない!」
「回復スキルは見たことがないレベルだったためお勧めはしましたが、こちらとしてもまさか失敗されるとは思いませんでしたので」
マリアンヌはそう言われ、ぷくぅと頬を膨らませた。
ステファンの能力が自分のスキルには必要だということは、両親から説明されずとも七歳のマリアンヌは承知していた。
教会の洗礼を受けなくても侯爵家は内々にスキルを知ることができるようになったのは、鑑定スキル持ちのステファンのおかげだ。
マリアンヌが強奪スキル持ちであることも、ステファンの鑑定スキルで知ることができた。
そのため前回の茶会ではいてもおかしくないように会場で仕事をさせ、自分に見合うスキル持ちを探させていた。
だけどこんなことになるなんて、と失敗の痛手に半年経った今でも思い出しては憤っていた。
「私は悪くないもの。あの子がおかしいの」
「そうですね。惜しいといえば惜しいですが、彼女とは縁がなかったと思うしかありません。もともと他人のスキルの全容はわからず、レベルももちろんですが付属効果も人によって違いますので。私のスキルも万能ではないので、見るだけでは細かな情報はわかりませんから」
「わかっているわ」
スキルの詳細を知るためには、触れる必要があるとステファンが言っていた。
それでも触れてもわからないことは多く、見るよりは少し理解できるといったものだと説明を受けている。
スキルが見るだけでわかること自体がすごいことだというのは、聞いて知っている。
「そもそもあの場では、候補の一人を見つけたとのご報告だったのですが。強奪スキルは三回の行使のみ。そのため慎重に決められるものだと思っておりましたから」
「だって、ちやほやされていたあの子から奪ったら気持ちがいいと思ったんだもの」
田舎から出てきたくせに、自分より注目を浴びているエレナが鬱陶しくてしょうがなかった。
その上、かなり上等なスキル持ち。マリアンヌにこそ相応しい、回復スキルという周囲にありがたがられ敬われるものを奪うのに迷いはなかった。
「そうですか。一回が無駄になってしまったのであと二回。次は慎重に行われなければなりません」
言われるまでもなく、スキル表示のところには残り二回と書かれてある。
教会で洗礼を受ける十歳までに、なんとしてでも自分に相応しいスキルを見つける必要があった。
「わかっているわ。次はまず手堅いのをお願い」
「はい。相手のスキルレベルの上限に影響するようなことはないはずですが、もしかするとあまりにレベルが高すぎたからということがあるのかもしれません。次はそこそこの高ランクでお嬢様に見合うものを見つけます」
高位貴族であるほど、スキルを得た時に開示する風潮がある。
やましいことがないこと、力の誇示のためなど理由は様々だが、そのため侯爵家の子女であるマリアンヌもスキルありと判定されれば開示することが決まっていた。
執事長の息子であるステファンが鑑定スキル持ちとわかってから、侯爵家ではあらゆる可能性を考慮し、教会の洗礼よりも前に子供たちのスキルをステファンに鑑定させることになった。
持っている者からしたら欲しいスキルを手に入れられる美味しいスキルだが、ほかの者からしたら他人のスキルを強引に奪う忌まわしいものだ。
だから、教会の洗礼を受ける前に強奪スキルを使い切って三つスキルを獲得し、そのうちの一番いいスキルを発表する方針になっていた。
だが、その一つはエレナのせいでなくなってしまった。
「つくづく、気に食わない子ね」
可愛いとちやほやされていたこと、いいスキルを持っていること。
そして、せっかく誘ったのに断ってくる生意気さ。
何より、前回発動の失敗のせいかその場で倒れたマリアンヌは、しばらく頭痛でまともに動けなくなった。
そのため、その後の王家が催す第三王子が参加する茶会に出席できなかったりと散々だった。
「まあ、スキルを奪えなかったけど、もしその失敗の影響で今も体調を崩しているのならいい気味だわ」
せいぜい田舎で療養して、周囲から取り残されたらいい。
その間にいいスキルをゲットして、交流関係を含め自分の取り巻く環境を完璧に整えるつもりだ。
次に出会った時には圧倒的な差を見せつけてやるのだと、マリアンヌはにんまりとほくそ笑んだ。
✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.
黒と獣人奴隷はここまでです。
お付き合い、本棚、いいね、エールとありがとうございます!
たくさんの方に日々お付き合いいただき励みをいただいてます!
次章は白銀と元婚約者
また一人増えます♪
515
あなたにおすすめの小説
婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~
ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」
義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。
父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。
けれど――
公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。
王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。
さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。
そして下されたのは――家ごとの褫奪。
一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。
欲しがったのは肩書。
継いだのは責任。
正統は叫びません。
ただ、残るだけ。
これは、婚約を奪われた公爵令嬢が
“本当に継がれるべきもの”を証明する物語。
婚約辞退いたします。だってこの国、沈みますもの
鍛高譚
恋愛
「婚約はお断りいたします――この国は近い将来、崩壊しますので」
そう言い放ったのは、社交界でも目立たない子爵令嬢、マリン・アクアリウム。
ある日、とある舞踏会に突如現れた王太子ガイア殿下。
誰もが驚く中、なんと彼はマリンに婚約を申し出る。
周囲は騒然。「子爵令嬢が王太子妃!?」「断る理由などないはず!」
――だが、彼女は断った。「この国は、もうすぐ滅びます」――と。
そんな不吉な言葉を口にしたことで、彼女は“狂言癖のある嘘つき令嬢”と噂され、
家族にさえ見放され、ついには国外追放の身に。
だが、彼女の予言は本物だった――
数年後、王国に未曾有の大災厄が迫る。
国土が崩れ、海に沈む都市。人々が絶望する中、思い出されるのは、
あの舞踏会でただひとり“滅び”を告げた少女の名。
「彼女なら、この国を救えるかもしれない……」
皮肉にも“追放令嬢”マリンは、再び王都に呼び戻され、
滅びゆく国で最後の希望として担ぎ上げられる。
信じてもらえなかった過去。
それでも人々の命を守ろうと奔走するマリン。
そして、王子ガイアが差し伸べた、あの日と変わらぬ手。
――たとえ国が滅んでも、あなたとともに歩んでいきたい。
初恋を諦めたあなたが、幸せでありますように
ぽんちゃん
恋愛
『あなたのヒーローをお返しします。末永くお幸せに』
運命の日。
ルキナは婚約者候補のロミオに、早く帰ってきてほしいとお願いしていた。
(私がどんなに足掻いても、この先の未来はわかってる。でも……)
今頃、ロミオは思い出の小屋で、初恋の人と偶然の再会を果たしているだろう。
ロミオが夕刻までに帰ってくれば、サプライズでルキナとの婚約発表をする。
もし帰ってこなければ、ある程度のお金と文を渡し、お別れするつもりだ。
そしてルキナは、両親が決めた相手と婚姻することになる。
ただ、ルキナとロミオは、友人以上、恋人未満のような関係。
ルキナは、ロミオの言葉を信じて帰りを待っていた。
でも、帰ってきたのは護衛のみ。
その後に知らされたのは、ロミオは初恋の相手であるブリトニーと、一夜を共にしたという報告だった――。
《登場人物》
☆ルキナ(16) 公爵令嬢。
☆ジークレイン(24) ルキナの兄。
☆ロミオ(18) 男爵子息、公爵家で保護中。
★ブリトニー(18) パン屋の娘。
満場一致で削除されましたが、世界は問題なく回っております』
鷹 綾
恋愛
王太子アルベルトは、ある日、貴族全会の満場一致によって廃嫡された。
断罪もなければ、処刑もない。
血も流れず、罪状も曖昧。
ただ「順序を飛ばした」という一点だけで、彼は王位継承の座から静かに削除される。
婚約者だった公爵令嬢エリシアは、婚約破棄の時点で王都の構造から距離を取り、隣国との長期協定を進めていく。
彼女の世界は合理で動き、感情に振り回されることはない。
一方、王太子が選んだ“新たな聖女”は、どこまでも従順で、どこまでも寄り添う存在だった。
「殿下に従わない者は、私が処理しておきます」
その甘い囁きの裏で、王都では“偶然”が重なり始める。
だが真実は語られない。
急病も、辞任も、転任も、すべては記録上の出来事。
証拠はない。
ただ王太子だけが、血に濡れた笑顔の悪夢を見る。
そして気づく。
自分のざまあは、罰ではない。
「中心ではなくなること」だと。
王都は安定し、新王は即位し、歴史は何事もなかったかのように進む。
旧王太子の名は、ただ一行の記録として残るのみ。
婚約破棄のその後に始まる、静かな因果応報。
激情ではなく“構造”が裁く、最強レベルの心理ざまあ。
これは――
満場一致で削除された男と、最初から無関係な位置に立っていた令嬢の物語。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない
あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。
王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。
だがある日、
誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。
奇跡は、止まった。
城は動揺し、事実を隠し、
責任を聖女ひとりに押しつけようとする。
民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。
一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、
奇跡が失われる“その日”に備え、
治癒に頼らない世界を着々と整えていた。
聖女は象徴となり、城は主導権を失う。
奇跡に縋った者たちは、
何も奪われず、ただ立場を失った。
選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。
――これは、
聖女でも、英雄でもない
「悪役令嬢」が勝ち残る物語。
【完結】わたしの婚約者には愛する人がいる
春野オカリナ
恋愛
母は私を「なんて彼ににているのかしら、髪と瞳の色が同じならまるで生き写しだわ」そう言って赤い長い爪で私の顔をなぞる仕種をしている。
父は私に「お前さえいなければ、私は自由でいられるのだ」そう言って詰る。
私は両親に愛されていない。生まれてきてはいけない存在なのだから。
だから、屋敷でも息をひそめる様に生きるしかなかった。
父は私が生まれると直ぐに家を出て、愛人と暮らしている。いや、彼の言い分だと愛人が本当の妻なのだと言っている。
母は父に恋人がいるのを知っていて、結婚したのだから…
父の愛人は平民だった。そして二人の間には私の一つ下の異母妹がいる。父は彼女を溺愛していた。
異母妹は平民の母親そっくりな顔立ちをしている。明るく天使の様な彼女に惹かれる男性は多い。私の婚約者もその一人だった。
母が死んで3か月後に彼らは、公爵家にやって来た。はっきり言って煩わしい事この上ない。
家族に愛されずに育った主人公が愛し愛される事に臆病で、地味な風貌に変装して、学園生活を送りながら成長していく物語です。
※旧「先生、私を悪い女にしてください」の改訂版です。
白い結婚の行方
宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」
そう告げられたのは、まだ十二歳だった。
名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。
愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。
この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。
冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。
誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。
結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。
これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。
偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。
交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。
真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。
──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる