二度目の人生は離脱を目指します

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
16 / 105
白銀と元婚約者

15.忠誠心

しおりを挟む
 
 記憶を思い出してから一年以上が経ち、私は八歳になっていた。
 お茶会の誘いを断って以降、マリアンヌが接触してくる様子はない。

 やはり、あの時さっさととんずらしたのが正解だったようだ。
 彼女の取り巻きの一人だった黒と呼んでいたベアティと出会う予想外なことはあったが、それ以外は順調だ。

 違法奴隷商は摘発し、父が子爵領での違法奴隷の禁止を徹底し追い出した。獣人たちとの関係も良好。
 公に立場を示したことで、今後、簡単に濡れ衣を着せられることはないだろう。

 ベアティたちをあんな目に遭わせた人物はわからないままだが、捜査を国全体に広げるとなるとそう簡単なことではない。
 あまり深追いすると厄介な者に目をつけられかねないし、今のところこの子爵領で問題はないのでこれでいい。

 私の目標は、あくまで自分と自分に関わる人たちの平穏である。
 死に戻り前のように、身動きできなくて失うことは絶対にしたくない。

「思わぬ形で時間が空いちゃった。どうしようかな」

 人生二度目となると勉強はそこまで苦労することはなく、むしろ八歳の勉強は私には簡単すぎた。
 そのため本来の予定より授業が早く終ってしまった。

 私の学力が予想をはるかに上回っていたと講師はびっくりして、「次回はエレナ様に見合う課題を作ってきます」とやけに意気込んで帰ってしまった。
 ほどほどでいいのだが、得られる知識は得ておきたいのでやる気があるならお任せする所存だ。

 晴れやかな日にこのまま部屋にこもるのはもったいなくて、私はぷらぷらと廊下を歩いていた。
 窓の外を眺めていると、訓練場がふと目に入る。

「そうだ! ベアティたちの鍛錬を見に行こう!」

 私が勉強の時間は鍛錬に当てている。そのため、意外とその場を見たことがないのに気づき、私は嬉々として訓練場へと向かった。

「あれからもう半年経つのね」

 ベアティは本人が行くところもなく私に非常に恩義を感じていることから、正式に私の従者として子爵家で働くことになった。
 すっかり元気になったベアティは、私を守るのだと身体を鍛え、従者としての勉強にも精力的に取り組んでいる。

 ベアティは護衛騎士から特訓と執事から指導を受けており、彼らが言うにはものすごく優秀なのだそうだ。
 何より、インドラ同様、私への忠誠心が高く、日に日に私の従者としての信頼を周囲から獲得している。

「うわぁ、圧巻」

 空中で激しいぶつかり合いをしているベアティとインドラの姿を見て、ひょいっと訓練場に顔を出した私は思わず声を上げた。
 二人とも能力があることは知っているが、その滞空時間とスピードに圧倒される。

「インドラったら、わりと本気じゃない」

 グレーの耳としっぽを出したインドラの姿に、私は目を見開く。
 身体能力の高い獣人族、その彼女が獣化を解く必要があるほど、ベアティが強い相手だということだ。

 ベアティの能力がすごいことは報告を受け知っていたが、ここまでとは思っていなかった。聞くのと見るのではまったく印象が変わる。
 嬉々として手合わせしている二人の様子に、私は頬を引きつらせた。

 おかしいな。インドラは頼りになる姉的な存在で、そこまで戦闘狂ではなかったはずだ。
 ベアティは同じ人間なのに、インドラに劣らずの身体能力で訓練している。やっぱりおかしいなと、次元が違う戦い方に言葉を失う。

 ――本当に人間だよね?

 ちょっと不安になるが、今更種族を気にしても仕方がない。捕まっていた時にされた実験が影響を及ぼしている可能性もある。
 人間でも、また違った種族でもベアティはベアティだ。
 私にとって、一度懐に入れた者はなんであれ裏切らない限り守るべき対象である。

「何にせよ、ベアティも馴染んだよね」

 私には、身の回りの世話と護衛となる心強い人物が二人になった。
 まさかこんなことになるとは考えなかったけれど、皆楽しそうなので問題ない。
 とにかく元気になってよかったと彼らを眺めていると、私が名を口にしたからか、ベアティがものすごい勢いでぐいんとこちらに顔を向けた。

「エレナ様!」
「エレナお嬢様!」

 私が来たことに気づいた二人が、ぱん、と上空で拳を交えて衝撃を受け流すようにそれぞれ後方に飛ぶと、すぐさま私のもとへと駆けてくる。

「ごめん。邪魔した?」
「いえ。エレナ様に会える以上の喜びはありませんから」

 この半年健康な生活をし、肉付きも顔色もよくなりぐんと背が伸びたベアティは、そこでにこっと微笑んだ。

 ――うーん。花が飛んでそう……

 普段のベアティは、受け答えも端的。雑談することもなくやることだけやったら、私のそばにいようとするのでかなりクール。
 一度覚えた仕事は完璧で、私に忠実であろうとするベアティに周囲も文句をつけようがない。
 周囲とのそういったやり取りを見ている分、ふと浮かべる笑顔は破壊力がすごい。

 しかもこの笑顔、私限定というところが気持ちをくすぐる。
 家族や世話になっている使用人たちには愛想程度はあるが、ここまで笑顔を浮かべるのは私だけ。
 懐かれている自覚はあり、私に対する健気さに情が移ってしまった。

「私たちはエレナ様の護衛兼世話係です。エレナ様が最優先ですから」

 ベアティに続き、インドラが眩しい笑顔で告げる。
 気づけば、インドラとの出会いを含め、死に戻り前では縁のなかったやたらと強い人物が私の周囲に一人増えていた。

しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

婚約辞退いたします。だってこの国、沈みますもの

鍛高譚
恋愛
「婚約はお断りいたします――この国は近い将来、崩壊しますので」 そう言い放ったのは、社交界でも目立たない子爵令嬢、マリン・アクアリウム。 ある日、とある舞踏会に突如現れた王太子ガイア殿下。 誰もが驚く中、なんと彼はマリンに婚約を申し出る。 周囲は騒然。「子爵令嬢が王太子妃!?」「断る理由などないはず!」 ――だが、彼女は断った。「この国は、もうすぐ滅びます」――と。 そんな不吉な言葉を口にしたことで、彼女は“狂言癖のある嘘つき令嬢”と噂され、 家族にさえ見放され、ついには国外追放の身に。 だが、彼女の予言は本物だった―― 数年後、王国に未曾有の大災厄が迫る。 国土が崩れ、海に沈む都市。人々が絶望する中、思い出されるのは、 あの舞踏会でただひとり“滅び”を告げた少女の名。 「彼女なら、この国を救えるかもしれない……」 皮肉にも“追放令嬢”マリンは、再び王都に呼び戻され、 滅びゆく国で最後の希望として担ぎ上げられる。 信じてもらえなかった過去。 それでも人々の命を守ろうと奔走するマリン。 そして、王子ガイアが差し伸べた、あの日と変わらぬ手。 ――たとえ国が滅んでも、あなたとともに歩んでいきたい。

初恋を諦めたあなたが、幸せでありますように

ぽんちゃん
恋愛
『あなたのヒーローをお返しします。末永くお幸せに』  運命の日。  ルキナは婚約者候補のロミオに、早く帰ってきてほしいとお願いしていた。 (私がどんなに足掻いても、この先の未来はわかってる。でも……)  今頃、ロミオは思い出の小屋で、初恋の人と偶然の再会を果たしているだろう。  ロミオが夕刻までに帰ってくれば、サプライズでルキナとの婚約発表をする。  もし帰ってこなければ、ある程度のお金と文を渡し、お別れするつもりだ。  そしてルキナは、両親が決めた相手と婚姻することになる。  ただ、ルキナとロミオは、友人以上、恋人未満のような関係。  ルキナは、ロミオの言葉を信じて帰りを待っていた。  でも、帰ってきたのは護衛のみ。  その後に知らされたのは、ロミオは初恋の相手であるブリトニーと、一夜を共にしたという報告だった――。 《登場人物》  ☆ルキナ(16) 公爵令嬢。  ☆ジークレイン(24) ルキナの兄。  ☆ロミオ(18) 男爵子息、公爵家で保護中。  ★ブリトニー(18) パン屋の娘。

満場一致で削除されましたが、世界は問題なく回っております』

鷹 綾
恋愛
王太子アルベルトは、ある日、貴族全会の満場一致によって廃嫡された。 断罪もなければ、処刑もない。 血も流れず、罪状も曖昧。 ただ「順序を飛ばした」という一点だけで、彼は王位継承の座から静かに削除される。 婚約者だった公爵令嬢エリシアは、婚約破棄の時点で王都の構造から距離を取り、隣国との長期協定を進めていく。 彼女の世界は合理で動き、感情に振り回されることはない。 一方、王太子が選んだ“新たな聖女”は、どこまでも従順で、どこまでも寄り添う存在だった。 「殿下に従わない者は、私が処理しておきます」 その甘い囁きの裏で、王都では“偶然”が重なり始める。 だが真実は語られない。 急病も、辞任も、転任も、すべては記録上の出来事。 証拠はない。 ただ王太子だけが、血に濡れた笑顔の悪夢を見る。 そして気づく。 自分のざまあは、罰ではない。 「中心ではなくなること」だと。 王都は安定し、新王は即位し、歴史は何事もなかったかのように進む。 旧王太子の名は、ただ一行の記録として残るのみ。 婚約破棄のその後に始まる、静かな因果応報。 激情ではなく“構造”が裁く、最強レベルの心理ざまあ。 これは―― 満場一致で削除された男と、最初から無関係な位置に立っていた令嬢の物語。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない

あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。 王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。 だがある日、 誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。 奇跡は、止まった。 城は動揺し、事実を隠し、 責任を聖女ひとりに押しつけようとする。 民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。 一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、 奇跡が失われる“その日”に備え、 治癒に頼らない世界を着々と整えていた。 聖女は象徴となり、城は主導権を失う。 奇跡に縋った者たちは、 何も奪われず、ただ立場を失った。 選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。 ――これは、 聖女でも、英雄でもない 「悪役令嬢」が勝ち残る物語。

【完結】わたしの婚約者には愛する人がいる

春野オカリナ
恋愛
 母は私を「なんて彼ににているのかしら、髪と瞳の色が同じならまるで生き写しだわ」そう言って赤い長い爪で私の顔をなぞる仕種をしている。  父は私に「お前さえいなければ、私は自由でいられるのだ」そう言って詰る。  私は両親に愛されていない。生まれてきてはいけない存在なのだから。  だから、屋敷でも息をひそめる様に生きるしかなかった。  父は私が生まれると直ぐに家を出て、愛人と暮らしている。いや、彼の言い分だと愛人が本当の妻なのだと言っている。  母は父に恋人がいるのを知っていて、結婚したのだから…  父の愛人は平民だった。そして二人の間には私の一つ下の異母妹がいる。父は彼女を溺愛していた。  異母妹は平民の母親そっくりな顔立ちをしている。明るく天使の様な彼女に惹かれる男性は多い。私の婚約者もその一人だった。  母が死んで3か月後に彼らは、公爵家にやって来た。はっきり言って煩わしい事この上ない。  家族に愛されずに育った主人公が愛し愛される事に臆病で、地味な風貌に変装して、学園生活を送りながら成長していく物語です。  ※旧「先生、私を悪い女にしてください」の改訂版です。

白い結婚の行方

宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」 そう告げられたのは、まだ十二歳だった。 名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。 愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。 この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。 冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。 誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。 結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。 これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。 偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。 交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。 真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。 ──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?  

処理中です...