二度目の人生は離脱を目指します

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
17 / 64
白銀と元婚約者

16.隣の領地

しおりを挟む
 
 二人は私に予定がないのなら、自由時間はそばにいたいと迷いなく告げた。
 私が待ったをかける間もなく訓練を切り上げたので、ならピクニックにでも行こうと山へと出かけた。
 ベアティたちを発見して以降、定期的に騎士たちが巡回をしているが、私自身も理由をつけて回るようにしている。

 一度目の人生で衝撃的なことは覚えているが、ベアティのことを知らなかったことといい、当時に見逃していたこと、忘れてしまっていることもあるかもしれない。
 ほかにも思うことがあって、できるだけ自身で足を運び子爵領の状態を確認しておきたかった。

「あっ、そういえば……」

 景色のいい場所でシートを広げ、のんびりとお茶をしていると黄色い花が目に入る。
 それは死に戻り前、婚約者だったケビンとの思い出の花だった。

 その当時はただの子供。婚約が決まり恥ずかしそうにこれから一緒だねとプレゼントされと、ほのぼのとした思い出である。
 だが、その花を見て今まで忘れていたことを思い出した。

「どうされたのですか?」
「もうすぐ隣の領主一家と会う時期だったなって」

 春の収穫を終え、本格的に夏が始まる前のこの時期、隣の領地、オニール伯爵家との交流が定例となっている。
 オニール家には、同じ歳の伯爵家長男のケビンがいる。

 これまで何度か顔を合わせてはいるが、記憶を思い出してからは会っていない。
 昨年はちょうど私が倒れた時期と重なったため、頭を整理したかったのと病弱設定で私は顔を出さないことにした。

「ああ。エレナ様と同じ歳の子供がいるのでしたっけ。奥様が婚約者候補の話をされていましたね」

 インドラのセリフに、ベアティがカチャンとカップを落とした。
 その拍子に中の紅茶が零れてしまったが、それに構わず私に詰め寄る。

「本当ですか? エレナ様は婚約されるのですか?」
「私も初耳でお母様たちが言っているだけよ。それにまだ候補の段階のようだし、私にその気はないからお母様にも事前に話しておくわ」

 そう告げると、ベアティはあからさまにほっと息をついた。
 私という安定剤を取られると思って焦ったのだろう。
 安心すると、慌てて落としたカップの片づけをし出す。

 その様子を見ながら、今の今まで忘れていた存在を思い、私は苦笑した。
 貴族である以上、政略婚の可能性もあるけれど、私の相手は貴族でなければならないわけではない。
 両親は嫁にやるなら強い相手だと私が赤子の頃からずっと言っているらしいので、同じ辺境男子なら強くて私を守ってくれるだろう程度の判断なのだろうが、浮気男のケビンは眼中外だ。

 確か死に戻り前の婚約は、領地が近いし関係が良好な家同士のため進んだ話だ。
 オニール領までは、ここから馬車で半日以上かかる。それでもまだ近いほうだ。
 そもそも子爵家は山々に囲まれて、どこに行くのも山越えしなくてはならず、隣の領と親交を深めるのも一苦労なほど辺境の地だ。

 死に戻り前、私自身も嫁いでも通える距離で、互いに協力できるのではないかと思い了承した。だが、約束を反故にし裏切るような男は断固拒否する。
 両親たちがケビンを薦めるのも領地から近いのも理由に入っていたし、今回も同じなら私の意見を聞いてくれるはずだ。

「エレナ様が決めたなら、私は意思を尊重します」
「意思って。でもそうね。彼とは絶対ないから、もし今後もそういう話が出ても私はないってことは覚えてくれたら。帰ったらいつどちらの領地で会うのか確認しないと」

 毎年のことだからそんなに前もって話をすることではなかったので、すっかり忘れていた。
 カップを片付けたベアティが、眉を寄せながら聞いてくる。

「エレナ様はそのような方とお会いになるのですか?」
「そのような? 警戒するような人じゃないのよ。むしろ大切にすべき隣人だから」
「大切、ですか」

 インドラは辺境を治めるということがどういうことかわかっているが、ベアティはここにきて他家と交流しているところを見せてこなかったので、降ってわいたような交流に気持ちが落ち着かないようだった。
 原因に心当たりもあり、私はわかりやすく説明をする。

「そうよ。王都からの援軍は距離的に期待できず、辺境の地は何かあっても自力で守るしかないの。そのため、辺境に住む者同士情報交換は欠かせない。今は両親たちがその辺やってくれているけれど、将来を見据えて子供である私たちも交流を積極的にしなければならないの」
「領地経営について少し習いました。確かに情報は大事です。エレナ様は子爵領のためにお会いになるということですね」
「ええ。そう。同じ歳ということもあって今後通う学園も一緒で付き合いはでてくるし、良好な関係は築いておくべき相手の一人。だけど、それ以上は望んでいないから変な気は回さないでね」

 さっきも言ったが、婚約は絶対しない。
 ケビンに思うところはあっても、子爵領のためにオニール伯爵家とは友好関係を築いていたいので、交流中はなるべくお利口に過ごすつもりだ。

「あくまで隣人としての良好な関係のみ。それ以上のことは望んでいないとのエレナ様のお心を理解いたしました。当日も含め、今後のことはお任せください」 

 予防線を張って再度考えを述べると、ベアティは意気込みやけにいい笑顔で宣言した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

公爵令嬢ルチアが幸せになる二つの方法

ごろごろみかん。
恋愛
公爵令嬢のルチアは、ある日知ってしまう。 婚約者のブライアンには、妻子がいた。彼は、ルチアの侍女に恋をしていたのだ。 ルチアは長年、婚約者に毒を飲ませられていた。近年の魔力低下は、そのせいだったのだ。 (私は、彼の幸せを邪魔する障害物に過ぎなかったのね) 魔力不足に陥った彼女の余命は、あと一年だという。 それを知った彼女は自身の幸せを探すことにした。

四の五の言わず離婚届にサインをしてくれません?

白雲八鈴
恋愛
アルディーラ公爵夫人であるミレーネは、他の人からみれば羨ましいと思える立場にいた。 王妹の母譲りの美人の顔立ち、公爵夫人として注目を集める立場、そして領地の運営は革命と言えるほど領地に潤いを与えていた。 だが、そんなミレーネの心の中にあるのは『早く離婚したい』だった。 順風満帆と言えるミレーネは何が不満なのか。その原因は何か。何故離婚できないのか。 そこから始まる物語である。

弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。  彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。  彼女は思った。 (今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。  今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない

春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。 願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。 そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。 ※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

私は本当に望まれているのですか?

まるねこ
恋愛
この日は辺境伯家の令嬢ジネット・ベルジエは、親友である公爵令嬢マリーズの招待を受け、久々に領地を離れてお茶会に参加していた。 穏やかな社交の場―になるはずだったその日、突然、会場のど真ん中でジネットは公開プロポーズをされる。 「君の神秘的な美しさに心を奪われた。どうか、私の伴侶に……」 果たしてこの出会いは、運命の始まりなのか、それとも――? 感想欄…やっぱり開けました! Copyright©︎2025-まるねこ

第二王女と次期公爵の仲は冷え切っている

山法師
恋愛
 グレイフォアガウス王国の第二王女、シャーロット。  フォーサイス公爵家の次期公爵、セオドア。  二人は婚約者であるけれど、婚約者であるだけだった。  形だけの婚約者。二人の仲は冷め切っているし冷え切っている。  そもそも温度など、最初から存在していない。愛も恋も、友情も親しみも、二人の間には存在しない。  周知の事実のようなそれを、シャーロットもセオドアも否定しない。  お互いにほとんど関わりを持とうとしない、交流しようとしない、シャーロットとセオドアは。  婚約者としての親睦を深める茶会でだけ、顔を合わせる。  親睦を深める茶会だというのに、親睦は全く深まらない。親睦を深めるつもりも深める意味も、二人にはない。  形だけの婚約者との、形だけの親睦を深める茶会。  今日もまた、同じように。 「久しぶりに見る君が、いつにも増して愛らしく見えるし愛おしく思えて、僕は今にも天に召されそうなほどの幸福を味わっている。──?!」 「あたしのほうこそセオ様とお顔を合わせること、夢みたいに思ってるんですからね。大好きなセオ様を独り占めしているみたいに思えるんですよ。はっ?!」  顔を合わせて確認事項を本当に『確認』するだけの茶会が始まるはずが、それどころじゃない事態に陥った。  

【完結】恋人にしたい人と結婚したい人とは別だよね?―――激しく同意するので別れましょう

冬馬亮
恋愛
「恋人にしたい人と結婚したい人とは別だよね?」 セシリエの婚約者、イアーゴはそう言った。 少し離れた後ろの席で、婚約者にその台詞を聞かれているとも知らずに。 ※たぶん全部で15〜20話くらいの予定です。 さくさく進みます。

処理中です...