二度目の人生は離脱を目指します

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
18 / 105
白銀と元婚約者

17.開発区域

しおりを挟む
 
 ケビンたちオニール伯爵家と交流する日まで一週間を切った。
 両親にはケビンと婚約はしたくないとはっきりと意思を伝えてあり、了承を得ている。ひとまず気は楽であるが、正直死に戻り前のこともあるので顔を合わせるのは微妙だ。

 ――子供の時は遊んでいたし……

 まあ、なるようにしかならないので、その辺のことはまたその時に考えればいい。
 それよりも今は目の前のことだ。

 ベアティと一緒に囚われていた猫獣人の少年、ヒューたち一家がそろって子爵領に住むことになった。
 これまで住んでいた場所は住める状態ではなく、ランドール子爵家が統治するこの地なら信用できると判断したとのことだった。

 ロートニクス王国は獣人に厳しいが、ここならすぐに他国へ逃げやすいというのもあるらしい。
 その辺りまで考えてこの子爵領に住むことを決めたのなら、何も言うまい。

 子爵領こちらとしても、労働力はありがたい。
 なにせ無駄に広い領地なのですることも多く、やる気がある人は大歓迎だ。

 そういうわけで、私はインドラとベアティを連れて彼らに会うためにやってきた。
 足を運んでいる場所は、移民、特に獣人が多くなってきたため、急ピッチで開発が進んでいる区域だ。着手しだした当初は危ないからと両親から許可が出なかったのだが、ようやく降りた。

「ヒュー、久しぶりね!」
「エレナ様! ご無沙汰しております。あの時は本当にありがとうございます。ベアティもすっかり元気になったようでよかったよ」
「ああ。心配してくれてありがとう。おかげさまでよくしてもらっているし、エレナ様には助けてもらった恩を最大限に返していく予定だ」
「そうか。こっちに来て、エレナ様に拾ってもらったと聞いてとても安心した。もし行く場所がなければ、家族を説得しようと思っていたから」

 とても優しい少年だ。
 洞窟でも皆を守ろうとしていたし、責任感がある子なのだろう。
 よかったなぁとベアティの背中を叩く元気なヒューの姿に、じんわりと涙が溜まる。

「エレナ様、息子を助けていただきありがとうございます」
「正直、見つからないと諦めかけていました。ここに住むにあたって、当主様に便宜も図っていただき感謝しております」

 ヒューの両親がそろって頭を下げる。
 子供の誘拐監禁も同じ人間がしたことなのに、子供を抱きしめ泣きながら私たちに対して感謝の意を示す。
 正直複雑だとは思うけれど、私としても人族というくくりではなく、個人を見てもらえて嬉しい。
 この家族が無事再会できて本当によかった。

「ヒューが無事でご両親と再会できてよかったです。私たちの領地でこのようなことが起こり申し訳ありませんでした。今は徹底しておりますが、もし何か異変を感じましたらすぐに教えてください」
「もちろん、何かあったらいち早くエレナ様に報告する! 俺たちもここで過ごすからには少しでも恩返ししたい。な、父ちゃん、母ちゃん」

 ヒューが任せとけと、にかっと笑う。
 警戒心が解けると、とっつきやすいいい少年である。安心できる両親のそばというのも大きいだろう。

「ああ。恩には恩で返さないとな! それがエレナ様たちのためになるのでしたら、同胞のためでもありますし常に目を光らせておきます」
「ええ。仲間内でもしっかり見ておきます。奥様ネットワークはバカにできませんからね」

 力いっぱい頷いてくれる二人に、私は頭を下げた。
 同じ獣人だからこそ気づけることはきっとある。
 闇奴隷商をこの地から退けたが、またどのような形で問題が降りかかるかはわからない。この件に関して、気を抜くつもりはなかった。
 頼もしい伝手ができたと表情を緩め、そこで私はベアティとヒューへと視線を向けた。

「あと、二人ともそんな気張らないでね。私は私たちに関わった人たちが幸せに過ごしてくれたらそれでいいから」

 死に戻り前での事件から、特にヒューたちには人生を謳歌してもらいたいと思っている。
 その場所をここに選んでもらえたのは誇らしいし、私たち子爵家が領地を追い出されるようなことにならないよう、これからも対策はしていくつもりだ。

 それからヒューの両親がこの辺りの家を建て整備するのを主導してくれているというので、息子であるヒューに案内してもらう。
 建築途中の建物が多く、まだ不完全な状態だ。だが、全容が見え完成し人が定着すれば賑わっていくだろうことが想像できだいぶ形になっている。

「整備も含めここまで変わっているとは思わなかったわ」

 すっかり様変わりした一帯に目を白黒させていると、ヒューは若干胸を張った。

「獣人は人族のようにスキルは授からないけれど、もともと身体能力は高いし種族特有の能力もあるからそこはうまく活用している。同じ目標を持つとこれくらいあっという間だ」
「そっか。すごいねぇ」
「えへへっ。体力いるし疲れるけど、皆で作り上げていくのは楽しいんだ」

 褒めると、細く長いしっぽが嬉しそうに私の身体に触れてくる。
 その様子に目を細め、私たちはヒューの案内のもと開発区域を見て回った。

しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

初恋を諦めたあなたが、幸せでありますように

ぽんちゃん
恋愛
『あなたのヒーローをお返しします。末永くお幸せに』  運命の日。  ルキナは婚約者候補のロミオに、早く帰ってきてほしいとお願いしていた。 (私がどんなに足掻いても、この先の未来はわかってる。でも……)  今頃、ロミオは思い出の小屋で、初恋の人と偶然の再会を果たしているだろう。  ロミオが夕刻までに帰ってくれば、サプライズでルキナとの婚約発表をする。  もし帰ってこなければ、ある程度のお金と文を渡し、お別れするつもりだ。  そしてルキナは、両親が決めた相手と婚姻することになる。  ただ、ルキナとロミオは、友人以上、恋人未満のような関係。  ルキナは、ロミオの言葉を信じて帰りを待っていた。  でも、帰ってきたのは護衛のみ。  その後に知らされたのは、ロミオは初恋の相手であるブリトニーと、一夜を共にしたという報告だった――。 《登場人物》  ☆ルキナ(16) 公爵令嬢。  ☆ジークレイン(24) ルキナの兄。  ☆ロミオ(18) 男爵子息、公爵家で保護中。  ★ブリトニー(18) パン屋の娘。

白い結婚の行方

宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」 そう告げられたのは、まだ十二歳だった。 名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。 愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。 この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。 冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。 誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。 結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。 これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。 偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。 交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。 真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。 ──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?  

【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない

あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。 王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。 だがある日、 誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。 奇跡は、止まった。 城は動揺し、事実を隠し、 責任を聖女ひとりに押しつけようとする。 民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。 一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、 奇跡が失われる“その日”に備え、 治癒に頼らない世界を着々と整えていた。 聖女は象徴となり、城は主導権を失う。 奇跡に縋った者たちは、 何も奪われず、ただ立場を失った。 選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。 ――これは、 聖女でも、英雄でもない 「悪役令嬢」が勝ち残る物語。

【完結】わたしの婚約者には愛する人がいる

春野オカリナ
恋愛
 母は私を「なんて彼ににているのかしら、髪と瞳の色が同じならまるで生き写しだわ」そう言って赤い長い爪で私の顔をなぞる仕種をしている。  父は私に「お前さえいなければ、私は自由でいられるのだ」そう言って詰る。  私は両親に愛されていない。生まれてきてはいけない存在なのだから。  だから、屋敷でも息をひそめる様に生きるしかなかった。  父は私が生まれると直ぐに家を出て、愛人と暮らしている。いや、彼の言い分だと愛人が本当の妻なのだと言っている。  母は父に恋人がいるのを知っていて、結婚したのだから…  父の愛人は平民だった。そして二人の間には私の一つ下の異母妹がいる。父は彼女を溺愛していた。  異母妹は平民の母親そっくりな顔立ちをしている。明るく天使の様な彼女に惹かれる男性は多い。私の婚約者もその一人だった。  母が死んで3か月後に彼らは、公爵家にやって来た。はっきり言って煩わしい事この上ない。  家族に愛されずに育った主人公が愛し愛される事に臆病で、地味な風貌に変装して、学園生活を送りながら成長していく物語です。  ※旧「先生、私を悪い女にしてください」の改訂版です。

婚約辞退いたします。だってこの国、沈みますもの

鍛高譚
恋愛
「婚約はお断りいたします――この国は近い将来、崩壊しますので」 そう言い放ったのは、社交界でも目立たない子爵令嬢、マリン・アクアリウム。 ある日、とある舞踏会に突如現れた王太子ガイア殿下。 誰もが驚く中、なんと彼はマリンに婚約を申し出る。 周囲は騒然。「子爵令嬢が王太子妃!?」「断る理由などないはず!」 ――だが、彼女は断った。「この国は、もうすぐ滅びます」――と。 そんな不吉な言葉を口にしたことで、彼女は“狂言癖のある嘘つき令嬢”と噂され、 家族にさえ見放され、ついには国外追放の身に。 だが、彼女の予言は本物だった―― 数年後、王国に未曾有の大災厄が迫る。 国土が崩れ、海に沈む都市。人々が絶望する中、思い出されるのは、 あの舞踏会でただひとり“滅び”を告げた少女の名。 「彼女なら、この国を救えるかもしれない……」 皮肉にも“追放令嬢”マリンは、再び王都に呼び戻され、 滅びゆく国で最後の希望として担ぎ上げられる。 信じてもらえなかった過去。 それでも人々の命を守ろうと奔走するマリン。 そして、王子ガイアが差し伸べた、あの日と変わらぬ手。 ――たとえ国が滅んでも、あなたとともに歩んでいきたい。

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

処理中です...