二度目の人生は離脱を目指します

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
32 / 105
赤と青の遊戯

28.王都

しおりを挟む
 
 とうとうこの時がやってきた。
 何かと理由をつけて避けてきたため、七歳の茶会以降、実に七年ぶりの王都となる。

 ここに来るまで、本当にいろいろあった。
 何が一番驚きかと聞かれれば、マリアンヌの取り巻きだった黒と白銀――ベアティとシリルと知り合ったことだろう。

 当初、二人が生きていける場を見つけるまで見守ろうくらいの感じだったのだが、結局この歳まで一緒にいる。
 十分に独り立ちできる力を得た彼らだが、いまだに出ていく気配はない。

 領地のほうは順調だ。
 違法奴隷の件、ベアティをさらった黒幕はまだわからないままだが、領地では特に問題となるようなこともなく、我が領は種族関係なく力を合わせて発展中だ。

 私自身も、引きこもっている期間で精力的に動いてきた。
 あちこちでこっそり聖女スキルを利用していたら、今では実りのある領地に変わり、あの金のなる実もしっかり育てることができた。
 すぐさましかるべき手順を踏んで報告したおかげで、ランドール子爵家が発見し私たちのものであると認められた。

 そして先ほど、それらを使った製品の一つ、ランドール産回復ポーションの最終段階の確認のため商会に赴き、取引の商談を無事終えたところだ。
 つまり、マリアンヌに目をつけられる前に、この度無事領地に還元できるシステムを確立することができたのだ。

 死に戻り前の時のように奪われることなく一つ守りきることができ、少しだけ気持ちに余裕が出る。
 マリアンヌやほかの取り巻きに出会うことを考えると憂鬱になるが、成果が目に見える形であるのでこれからも頑張れそうだ。

 だが、目下、別の悩みに私は眉を寄せる。
 せっかくだから散策しようと勧められるまま宝飾店に入ったのはいいが、なかなか解放されず私は音を上げた。

「絶対こっち」
「こっちのほうがよく似合うよ」
「ベアティもシリルもいい加減にして!」

 目の前で言い争う二人に苦言を呈すると、二人は同時に見惚れるような笑みを浮かべ、各々熱弁する。

「シンプルでいいと言うに決まってるので、こればかりはエレナ様の意見は聞けない。ここは王都。どこで誰に見られているかわからない以上、それなりの物を身に着けていたほうがいい。――うん。俺のエレナ様は何を身に着けても似合うけど、これはとても似合っている」
「ベアティのエレナお嬢様じゃないけどね。でも、それなりの物を身に着ける意見には僕も賛成。せっかく商談も決まったし資産家でもあるのだから、王都ではそれなりの物を身に着けるのはありだよ。今やランドール子爵領は超有名だからね。娘であるエレナお嬢様も自然と視線が集まるから。ほら、見て! エレナお嬢様のミルクティー色の柔らかでくせのある髪と、晴れた昼の空のような綺麗な瞳にも似合っている」

 まず、私の頬を触れるか触れないかの距離まですっと手を差し出したベアティは、私の耳に髪をかけると、彼が推すイヤリングをかざして満足そうに頷いた。
 続いて、ほわほわと柔らかな笑みを浮かべながら、これなんかどうかなとブローチを見せてくるシリル。

 どちらの視線も熱がこもり、本気度がうかがえ私はたじろいた。
 でも、と反論する前に私を挟んで二人が対立する。

「何度言わせる? こっちのほうがエレナ様に似合っているから絶対こっちだ」
「それ、ベアティの瞳の色っぽいじゃないか。却下」
「それを言うなら、シリルの髪色の白銀が入っている。それこそ却下だ」

 互いに持っている装飾品を見下ろし、私に微笑んではまた睨み合う。

「却下を却下。エレナお嬢様には絶対この色のほうが似合う」
「いいや。こっちのほうがアクセントになってよりエレナ様の魅力が上がる。それだと可愛すぎて余計な男が引っかかるかもしれない。少し強い印象を持ってもらうにはこれはもってこいだ」
「なるほど……。いや、違うから! そこは考え方変えたほうがいいよ。男が寄ってきたら僕たちが守ればいいだけだから、似合う色を身に着けるほうがいいに決まっている」

 続く言い争いに私は嘆息した。
 こうなった二人は長い。いつもは仲裁に入ってくれるインドラが今はいないので、ここは踏ん張りどころ。

 私はベアティとシリルの手をそれぞれ掴んだ。
 すると、二人はぴたりと争いをやめる。
 それから餌を前に待て状態のわんこのように、どこか期待する目で私を見た。

 ――こういうところ、素直で可愛いんだけどな……

 生い立ちからか寂しさを感じやすい彼らはスキンシップが大好きで、こうすると一番効果がある。
 あるのだが、王都に来てすぐにこんなことになるとはと顔を若干引きつらせた。

しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

知らぬはヒロインだけ

ネコフク
恋愛
「クエス様好きです!」婚約者が隣にいるのに告白する令嬢に唖然とするシスティアとクエスフィール。 告白してきた令嬢アリサは見目の良い高位貴族の子息ばかり粉をかけて回っていると有名な人物だった。 しかも「イベント」「システム」など訳が分からない事を言っているらしい。 そう、アリサは転生者。ここが乙女ゲームの世界で自分はヒロインだと思っている。 しかし彼女は知らない。他にも転生者がいることを。 ※不定期連載です。毎日投稿する時もあれば日が開く事もあります。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

初恋を諦めたあなたが、幸せでありますように

ぽんちゃん
恋愛
『あなたのヒーローをお返しします。末永くお幸せに』  運命の日。  ルキナは婚約者候補のロミオに、早く帰ってきてほしいとお願いしていた。 (私がどんなに足掻いても、この先の未来はわかってる。でも……)  今頃、ロミオは思い出の小屋で、初恋の人と偶然の再会を果たしているだろう。  ロミオが夕刻までに帰ってくれば、サプライズでルキナとの婚約発表をする。  もし帰ってこなければ、ある程度のお金と文を渡し、お別れするつもりだ。  そしてルキナは、両親が決めた相手と婚姻することになる。  ただ、ルキナとロミオは、友人以上、恋人未満のような関係。  ルキナは、ロミオの言葉を信じて帰りを待っていた。  でも、帰ってきたのは護衛のみ。  その後に知らされたのは、ロミオは初恋の相手であるブリトニーと、一夜を共にしたという報告だった――。 《登場人物》  ☆ルキナ(16) 公爵令嬢。  ☆ジークレイン(24) ルキナの兄。  ☆ロミオ(18) 男爵子息、公爵家で保護中。  ★ブリトニー(18) パン屋の娘。

白い結婚は終わりました。――崩れない家を築くまで

しおしお
恋愛
「干渉しないでくださいませ。その代わり、私も干渉いたしません」 崩れかけた侯爵家に嫁いだ私は、夫と“白い結婚”を結んだ。 助けない。口を出さない。責任は当主が負う――それが条件。 焦りと慢心から無謀な契約を重ね、家を傾かせていく夫。 私は隣に立ちながら、ただ見ているだけ。 放置された結果、彼は初めて自分の判断と向き合うことになる。 そして―― 一度崩れかけた侯爵家は、「選び直す力」を手に入れた。 無理な拡張はしない。 甘い条件には飛びつかない。 不利な契約は、きっぱり拒絶する。 やがてその姿勢は王宮にも波及し、 高利契約に歪められた制度そのものを立て直すことに――。 ざまあは派手ではない。 けれど確実。 焦らせた者も、慢心した者も、 気づけば“選ばれない側”になっている。 これは、干渉しない約束から始まる静かな逆転劇。 そして、白い結婚を終え、信頼で立つ家へと変わっていく物語。 隣に立つという選択こそが、最大のざまあでした。

満場一致で削除されましたが、世界は問題なく回っております』

鷹 綾
恋愛
王太子アルベルトは、ある日、貴族全会の満場一致によって廃嫡された。 断罪もなければ、処刑もない。 血も流れず、罪状も曖昧。 ただ「順序を飛ばした」という一点だけで、彼は王位継承の座から静かに削除される。 婚約者だった公爵令嬢エリシアは、婚約破棄の時点で王都の構造から距離を取り、隣国との長期協定を進めていく。 彼女の世界は合理で動き、感情に振り回されることはない。 一方、王太子が選んだ“新たな聖女”は、どこまでも従順で、どこまでも寄り添う存在だった。 「殿下に従わない者は、私が処理しておきます」 その甘い囁きの裏で、王都では“偶然”が重なり始める。 だが真実は語られない。 急病も、辞任も、転任も、すべては記録上の出来事。 証拠はない。 ただ王太子だけが、血に濡れた笑顔の悪夢を見る。 そして気づく。 自分のざまあは、罰ではない。 「中心ではなくなること」だと。 王都は安定し、新王は即位し、歴史は何事もなかったかのように進む。 旧王太子の名は、ただ一行の記録として残るのみ。 婚約破棄のその後に始まる、静かな因果応報。 激情ではなく“構造”が裁く、最強レベルの心理ざまあ。 これは―― 満場一致で削除された男と、最初から無関係な位置に立っていた令嬢の物語。

白い結婚の行方

宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」 そう告げられたのは、まだ十二歳だった。 名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。 愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。 この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。 冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。 誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。 結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。 これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。 偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。 交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。 真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。 ──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?  

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

処理中です...