31 / 51
白銀と元婚約者
お気に入り sideマリアンヌ
しおりを挟む十四歳になったマリアンヌは、ほぅっと息をついた。
「モテるのも困ったものよね」
誘いの手紙を並べ、贈られた赤いバラに目を細めた。
自分の利になる者、お気に入り以外は断るリストに入れてにんまりと笑みを浮かべる。
「同世代で私が一番!」
身分も容姿も教養も、そしてスキルも。
困った顔で頼れば、男性はすぐにマリアンヌの要望に応えてくれる。その成果が目の前に並ぶ。
だが、どうしても一つの失敗が忘れられず、その失敗の原因となったエレナ・ランドールの名を聞くたびにマリアンヌの気持ちに影が差した。
十歳になり教会で洗礼を受け、マリアンヌはそれまでに予定通り二つのスキルを獲得した。
そのうちの一つ、男爵家の令嬢から奪った回復スキルを予定通り公表した。もう一つは平民から奪ったものだ。
本来なら三つ得ていたはずだと考えると、怒りの矛先はエレナに向かう。
彼女は社交界に興味がないのか、彼女が住む辺境の周辺との交流のみで積極的に広げるつもりはないようだった。
スキルを奪うのに失敗し互いに倒れてから、エレナは領地に引っ込みしばらくは何もなかった。体調が悪く遠出をしなくなったと聞き、目障りだからそのまま出てくるなとさえ思っていた。
だが、数年経ったある時期から彼女の噂を聞くことが増えるようになった。
美形の従者を侍らせ、とても大事にされているだとか。
彼女の回復スキルはかなりレベルが高く、人の治療に限定しないようだとか。
その証拠に、ランドールから出荷される品物は軒並みに価値が高くなっている。
極めつけは、柔らかな雰囲気の可愛さは守ってあげたくなるようだと男性陣が話していたことだ。
十分な経済力を身につけ、それらが彼女の能力のおかげなのかまではあくまで疑惑の段階だが、彼女のステータスが上がっていることは確かだ。
本来ならマリアンヌがもらい受けるべきスキルによって、社交にろくに参加していないのにその知名度はマリアンヌ並みにあるところが気に食わない。
しかも、誰もが認める美形を従えているとか我慢ならない。
「むかつくわね」
ちやほやされていたのが気に入らず、いいスキルを持っていたのでその場で奪おうとしたのがそもそもの発端だ。
マリアンヌにとっては、最初から気に食わない存在。
エレナのそばにいる一人は黒髪で、性別問わず誰もが認める美貌。
そして、もう一人は大層美しい白銀髪をしており、こちらも整った容姿だと聞く。
両親の奴隷に白銀髪の夫婦がおり、彼らの容姿と珍しい髪色は観賞に値する。
両親は彼らを表に出そうとしないほど、大層気に入っている。
「私も欲しいのに……」
自分にも美しく自慢できる容姿の奴隷が欲しいと、定期的に奴隷商に通っているがいまだに気に入るものを見つけられていない。
「そうだわ。噂通り美しかったら私の物にしてしまえばいいのよ」
奪い損ねスキルはもう手に入れることはできない。ならば、別の物を奪えばいいだけだ。
本来なら彼女の物は自分の物。
半年後、学園に入学することが決まっており、一か月後は第三王子の茶会が控えている。
さすがに今回は参加すると聞いており、ようやくこの目で現状を確かめることができる。
エレナのせいで使えるはずのスキルが一つ無駄になったのだから、奪うことに躊躇いはない。
むしろ、彼女の自慢の従者を奪って惨めな思いにさせるくらいがちょうどいい。
マリアンヌは荒れかけた気持ちを鎮めた。
「お嬢様、サンドフォード伯爵家のご子息たちがお見えになりました」
「入ってもらって」
一通の返事を書き上げたところで、従者のステファンの声とともにノックの音がする。
マリアンヌは表情を改め、微笑みを浮かべた。
「こんにちは~。マリアンヌちゃん元気だった~? いつ見ても綺麗だね」
「僕たちが知る中でマリアンヌ嬢が一番だな。僕としては噂の辺境の子爵令嬢も気になるところだけど」
「あははっ。マリアンヌちゃんに敵うわけがないじゃない」
現れたのは、今一番のお気に入りの双子。
ステファンとともに入ってきたのは、サンドフォード伯爵家の双子の兄ミイルズと弟アベラルドだ。
愛想のよい赤髪が兄で、冷静に返すのが青髪の弟だ。
顔は似ているが、髪の色が違うので間違うことはない。容姿が整っているのはもちろんだが、それが二人という希少性がとてもいい。
何より、マリアンヌの美しさを崇め褒められると気持ちよく、こうして彼らの屋敷の出入りを許可していた。
「私なんてまだまだですわ」
「マリアンヌちゃんがまだまだなら僕たちとかどうなるのかなぁ。僕ら、二人で一人前って言われているしね~」
「マリアンヌ嬢と僕らは今関係ないだろ。僕が言いたいのは、話題の田舎娘の容姿や性格次第で、学園での生活も影響するもしれないから気になるねってこと。マリアンヌ嬢も気になるでしょ?」
ここまで積み上げてきたものをそう簡単に崩されるわけがないとは思うが、顔を見せないくせに彼女の話題はここ最近増えており、楽観視できるものではなかった。
だが、気にしていることをおくびにも出さずに、マリアンヌはにっこりと微笑んだ。
「いえ。私は辺境から出てこられるランドール子爵令嬢と会えるのを楽しみにしているんです。体調を崩されてから長く領地から出ておられないと聞いていますし、仲良くなれそうなら私たちの陣営にお誘いしてもと思っています」
「やっさし~。そうだ! 僕らがその子、どんな子か見極めてあげる」
「それはいいね。マリアンヌ嬢の憂いとなる存在にならないかまず観察してみよう」
思惑通りの彼らの発言に、マリアンヌは心の中でほくそ笑んだ。
✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.
次章は赤と青の遊戯
年齢が上がり場所が王都ということでようやく動きが増えるかなぁっと。
ここまで見守っていただきありがとうございます!
お気に入り登録、いいねやエール、本当に嬉しいです。
ストック切れましたので更新できない日があるかもしれませんが、これからもお付き合いいただけたら幸いです。
361
あなたにおすすめの小説
国王一家は堅実です
satomi
恋愛
オスメーモ王国…そこは国王一家は麗しくいつも輝かんばかりのドレスなどを身につけている。
その実態は、国王一家は国民と共に畑を耕したり、国民(子供)に読み書きを教えたり庶民的な生活をしている。
国王には現在愛する妻と双子の男女の子に恵まれ、幸せに生活している。
外部に行くときは着飾るが、領地に戻れば庶民的で非常に無駄遣いをしない王族である。
国庫は大事に。何故か、厨房担当のワーグが王家の子どもたちからの支持を得ている。
【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます
22時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。
エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。
悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。
初恋の人と再会したら、妹の取り巻きになっていました
山科ひさき
恋愛
物心ついた頃から美しい双子の妹の陰に隠れ、実の両親にすら愛されることのなかったエミリー。彼女は妹のみの誕生日会を開いている最中の家から抜け出し、その先で出会った少年に恋をする。
だが再会した彼は美しい妹の言葉を信じ、エミリーを「妹を執拗にいじめる最低な姉」だと思い込んでいた。
なろうにも投稿しています。
【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢
美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」
かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。
誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。
そこで彼女はある1人の人物と出会う。
彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。
ーー蜂蜜みたい。
これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。
【完結】ずっとやっていれば良いわ。※暗い復讐、注意。
BBやっこ
恋愛
幼い頃は、誰かに守られたかった。
後妻の連れ子。家も食事も教育も与えられたけど。
新しい兄は最悪だった。
事あるごとにちょっかいをかけ、物を壊し嫌がらせ。
それくらい社交界でよくあるとは、家であって良い事なのか?
本当に嫌。だけどもう我慢しなくて良い
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
私の妹…ではなく弟がいいんですか?!
しがついつか
恋愛
スアマシティで一番の大富豪であるマックス・ローズクラウンには娘が2人と息子が1人いる。
長女のラランナ・ローズクラウンは、ある日婚約者のロミオ・シーサイドから婚約解消についての相談を受けた。
何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。
自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。
彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。
そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。
大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる