二度目の人生は離脱を目指します

橋本彩里(Ayari)

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紫と衝動

47.スキルの条件

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 彼女の声、表情を見過ごすまいと、私はじっと見つめ耳を澄ませた。

「奴隷商でスキルの話に触れていたけれど、実は私、教会の洗礼を受ける前に回復スキルを持っていて使えていたんです」
「そんなに早く?」
「ええ。だから、両親にはとても期待されていたんです。私は女だし兄弟姉妹が多いから、少しでも家族の役に立ちたくて。だから、有用なスキルを持てたこと、それが早くわかってとても嬉しかった」

 私と同じように、洗礼を受ける前からスキルを使えていたようだ。
 女だし、というのはきっと両親がずっと彼女に吐いてきた言葉だろう。ぐっと胸が詰まるが、そこには触れずに話を先に進める。

「それはすごいことだよね。でも、噂は聞かなかったわ」
「両親が教会の洗礼の時に華々しくデビューするほうがいいからと、周囲に内緒にしておくようにと言ったから黙っていたので。でも、洗礼儀式の少し前から急に使えなくなって、当然教会ではスキルは表示されませんでした」
「少し前から?」

 早くにスキル開花し、使い切ったとかではなくなくなるなんて聞いたことがない。

「ええ。それでも両親はたまたま調子が悪いだけだと待ってくれたのですけど、徐々に当たりがきつくなってきて……。学園に入るにはお金もかかるし、ならいらないと奴隷として売られちゃいました」

 諦めたように苦笑するロレッタはすでに涙が枯れてしまったのか、泣きたくても泣けないと顔を歪めて悲しげな顔をした。
 笑うことも泣くこともできない。

 あんな親でも信じたいと思っていた彼女は、最悪の形で心を踏みにじられてしまった。
 スキルだけではなく、家族も失ってしまったロレッタ。
 その心痛を思うと、私は平静でいられなかった。

 きっと彼女の心は、これ以上傷つきたくなくて精一杯虚勢を張っている。
 家族がそうすることは仕方なかったんだと思い込もうとしている。憎みたくなくて、縁が切れたと思いたくなくて。

 その一方で、家族に、両親に捨てられたこともわかっている。
 だから、泣けない。笑えない。感情を表に出すことができない。
 私は彼女の両手を掴んだ。

「ロレッタ。無理して笑わなくてもいいよ。家族のことはロレッタにしかわからないこともあるから、私は何も言わない。だけど、聞いてほしくなったらいつでも聞くから」
「ありがとう、ございます」

 泣き笑いのような表情をし、彼女はそこで顔を伏せた。
 短時間で吹っ切れる問題ではないと私はそのことに触れず、スキルの話に戻す。

「スキルだけど、私が知る限り一度与えられたスキルはその性質上、回数制限があるもの以外消えることはないと認識しているのだけど心当たりはある?」

 私の死に戻りスキルがそうだ。
 一度きりと制限があるものは、一度使えばもうスキルはなくなってしまう。

「回復スキルもレベルは高いものだったけれど特別な制限があるものではなかったので、使えなくなるまで変わったことをした覚えはありません」
「ものすごく難しい怪我や病気を治療したとかそういったものもないのね?」
「ええ。目立つことは禁じられていたので。そもそも私は身内のみにしか力を行使してきませんでした。本当に急にすっとスキルがなくなったって感じです」

 私は顎に手を当てて考え込んだ。
 スキルといえば、スキルを使用するために条件があることも多い。
 例えば、回復スキル持ちの中でも対象者に触れなければ使用できない人と、対象の近くにいるだけで回復魔法が使える人がいる。

 私は後者であるが、より魔法効果を限定するために絞るためよく触れることが多い。
 人によっては患部により近い場所に触れなければならない人、手を繋ぐだけでいい人など、同じスキル使用にもいろいろな条件があるが、やはり消えるという話は聞いたことがない。

「スキル使用の条件やレベルはどう?」
「スキルの条件は難しいものではなくて、複雑なものでなければ近くに行くだけで治癒することができました」

 私が記憶している彼女のスキルと一緒だ。
 死に戻り前でもスキルがなくなったという話は聞いたことがなく、なら何が問題なのかと彼女をじっと見つめ考える。

「いつもと違った行動をしたとか?」
「行動といえばスキルとは関係ないですが、ちょうどスタレット侯爵令嬢の屋敷に呼ばれた後だったので、両親の落ち込みがすごくて。余計にそれが堪えました」
「待って。スタレット侯爵令嬢に会ったの?」

 思わず興奮して立ち上がり、がたがたとテーブルが動く。
 私の反応に驚いたようにロレッタは瞬きを繰り返したが、当時を思い出すようにゆっくりと続けた。

「ええ。九歳の茶会でもうすぐ教会の洗礼があるねと、私だけじゃなくて何人か呼ばれました。茶会に行く前に弟が怪我して回復魔法を使ったので、帰ってきてから使えなくなったので時期ははっきり覚えてます」

 私はあまりの衝撃に口に手を当てて、ふらふらと再びソファに座った。

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