61 / 64
紫と衝動
47.スキルの条件
しおりを挟む彼女の声、表情を見過ごすまいと、私はじっと見つめ耳を澄ませた。
「奴隷商でスキルの話に触れていたけれど、実は私、教会の洗礼を受ける前に回復スキルを持っていて使えていたんです」
「そんなに早く?」
「ええ。だから、両親にはとても期待されていたんです。私は女だし兄弟姉妹が多いから、少しでも家族の役に立ちたくて。だから、有用なスキルを持てたこと、それが早くわかってとても嬉しかった」
私と同じように、洗礼を受ける前からスキルを使えていたようだ。
女だし、というのはきっと両親がずっと彼女に吐いてきた言葉だろう。ぐっと胸が詰まるが、そこには触れずに話を先に進める。
「それはすごいことだよね。でも、噂は聞かなかったわ」
「両親が教会の洗礼の時に華々しくデビューするほうがいいからと、周囲に内緒にしておくようにと言ったから黙っていたので。でも、洗礼儀式の少し前から急に使えなくなって、当然教会ではスキルは表示されませんでした」
「少し前から?」
早くにスキル開花し、使い切ったとかではなくなくなるなんて聞いたことがない。
「ええ。それでも両親はたまたま調子が悪いだけだと待ってくれたのですけど、徐々に当たりがきつくなってきて……。学園に入るにはお金もかかるし、ならいらないと奴隷として売られちゃいました」
諦めたように苦笑するロレッタはすでに涙が枯れてしまったのか、泣きたくても泣けないと顔を歪めて悲しげな顔をした。
笑うことも泣くこともできない。
あんな親でも信じたいと思っていた彼女は、最悪の形で心を踏みにじられてしまった。
スキルだけではなく、家族も失ってしまったロレッタ。
その心痛を思うと、私は平静でいられなかった。
きっと彼女の心は、これ以上傷つきたくなくて精一杯虚勢を張っている。
家族がそうすることは仕方なかったんだと思い込もうとしている。憎みたくなくて、縁が切れたと思いたくなくて。
その一方で、家族に、両親に捨てられたこともわかっている。
だから、泣けない。笑えない。感情を表に出すことができない。
私は彼女の両手を掴んだ。
「ロレッタ。無理して笑わなくてもいいよ。家族のことはロレッタにしかわからないこともあるから、私は何も言わない。だけど、聞いてほしくなったらいつでも聞くから」
「ありがとう、ございます」
泣き笑いのような表情をし、彼女はそこで顔を伏せた。
短時間で吹っ切れる問題ではないと私はそのことに触れず、スキルの話に戻す。
「スキルだけど、私が知る限り一度与えられたスキルはその性質上、回数制限があるもの以外消えることはないと認識しているのだけど心当たりはある?」
私の死に戻りスキルがそうだ。
一度きりと制限があるものは、一度使えばもうスキルはなくなってしまう。
「回復スキルもレベルは高いものだったけれど特別な制限があるものではなかったので、使えなくなるまで変わったことをした覚えはありません」
「ものすごく難しい怪我や病気を治療したとかそういったものもないのね?」
「ええ。目立つことは禁じられていたので。そもそも私は身内のみにしか力を行使してきませんでした。本当に急にすっとスキルがなくなったって感じです」
私は顎に手を当てて考え込んだ。
スキルといえば、スキルを使用するために条件があることも多い。
例えば、回復スキル持ちの中でも対象者に触れなければ使用できない人と、対象の近くにいるだけで回復魔法が使える人がいる。
私は後者であるが、より魔法効果を限定するために絞るためよく触れることが多い。
人によっては患部により近い場所に触れなければならない人、手を繋ぐだけでいい人など、同じスキル使用にもいろいろな条件があるが、やはり消えるという話は聞いたことがない。
「スキル使用の条件やレベルはどう?」
「スキルの条件は難しいものではなくて、複雑なものでなければ近くに行くだけで治癒することができました」
私が記憶している彼女のスキルと一緒だ。
死に戻り前でもスキルがなくなったという話は聞いたことがなく、なら何が問題なのかと彼女をじっと見つめ考える。
「いつもと違った行動をしたとか?」
「行動といえばスキルとは関係ないですが、ちょうどスタレット侯爵令嬢の屋敷に呼ばれた後だったので、両親の落ち込みがすごくて。余計にそれが堪えました」
「待って。スタレット侯爵令嬢に会ったの?」
思わず興奮して立ち上がり、がたがたとテーブルが動く。
私の反応に驚いたようにロレッタは瞬きを繰り返したが、当時を思い出すようにゆっくりと続けた。
「ええ。九歳の茶会でもうすぐ教会の洗礼があるねと、私だけじゃなくて何人か呼ばれました。茶会に行く前に弟が怪我して回復魔法を使ったので、帰ってきてから使えなくなったので時期ははっきり覚えてます」
私はあまりの衝撃に口に手を当てて、ふらふらと再びソファに座った。
291
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
四の五の言わず離婚届にサインをしてくれません?
白雲八鈴
恋愛
アルディーラ公爵夫人であるミレーネは、他の人からみれば羨ましいと思える立場にいた。
王妹の母譲りの美人の顔立ち、公爵夫人として注目を集める立場、そして領地の運営は革命と言えるほど領地に潤いを与えていた。
だが、そんなミレーネの心の中にあるのは『早く離婚したい』だった。
順風満帆と言えるミレーネは何が不満なのか。その原因は何か。何故離婚できないのか。
そこから始まる物語である。
公爵令嬢ルチアが幸せになる二つの方法
ごろごろみかん。
恋愛
公爵令嬢のルチアは、ある日知ってしまう。
婚約者のブライアンには、妻子がいた。彼は、ルチアの侍女に恋をしていたのだ。
ルチアは長年、婚約者に毒を飲ませられていた。近年の魔力低下は、そのせいだったのだ。
(私は、彼の幸せを邪魔する障害物に過ぎなかったのね)
魔力不足に陥った彼女の余命は、あと一年だという。
それを知った彼女は自身の幸せを探すことにした。
弁えすぎた令嬢
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。
彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。
彼女は思った。
(今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。
今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。
小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。
第二王女と次期公爵の仲は冷え切っている
山法師
恋愛
グレイフォアガウス王国の第二王女、シャーロット。
フォーサイス公爵家の次期公爵、セオドア。
二人は婚約者であるけれど、婚約者であるだけだった。
形だけの婚約者。二人の仲は冷め切っているし冷え切っている。
そもそも温度など、最初から存在していない。愛も恋も、友情も親しみも、二人の間には存在しない。
周知の事実のようなそれを、シャーロットもセオドアも否定しない。
お互いにほとんど関わりを持とうとしない、交流しようとしない、シャーロットとセオドアは。
婚約者としての親睦を深める茶会でだけ、顔を合わせる。
親睦を深める茶会だというのに、親睦は全く深まらない。親睦を深めるつもりも深める意味も、二人にはない。
形だけの婚約者との、形だけの親睦を深める茶会。
今日もまた、同じように。
「久しぶりに見る君が、いつにも増して愛らしく見えるし愛おしく思えて、僕は今にも天に召されそうなほどの幸福を味わっている。──?!」
「あたしのほうこそセオ様とお顔を合わせること、夢みたいに思ってるんですからね。大好きなセオ様を独り占めしているみたいに思えるんですよ。はっ?!」
顔を合わせて確認事項を本当に『確認』するだけの茶会が始まるはずが、それどころじゃない事態に陥った。
【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない
春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。
願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。
そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。
※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
私は本当に望まれているのですか?
まるねこ
恋愛
この日は辺境伯家の令嬢ジネット・ベルジエは、親友である公爵令嬢マリーズの招待を受け、久々に領地を離れてお茶会に参加していた。
穏やかな社交の場―になるはずだったその日、突然、会場のど真ん中でジネットは公開プロポーズをされる。
「君の神秘的な美しさに心を奪われた。どうか、私の伴侶に……」
果たしてこの出会いは、運命の始まりなのか、それとも――?
感想欄…やっぱり開けました!
Copyright©︎2025-まるねこ
【完結】恋人にしたい人と結婚したい人とは別だよね?―――激しく同意するので別れましょう
冬馬亮
恋愛
「恋人にしたい人と結婚したい人とは別だよね?」
セシリエの婚約者、イアーゴはそう言った。
少し離れた後ろの席で、婚約者にその台詞を聞かれているとも知らずに。
※たぶん全部で15〜20話くらいの予定です。
さくさく進みます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる