二度目の人生は離脱を目指します

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
62 / 65
紫と衝動

48.奪われたスキル

しおりを挟む
 
 ――ちょっと待って!

 頭が混乱する。
 脳内がにわかに騒ぎ出し、胸中に不安が広がっていく。

 ここでもマリアンヌの名前。
 ロレッタには黒い靄がかかっていない。精神干渉がされているわけではなかったため、マリアンヌと繋げていなかった。

 だけど、はっきりとマリアンヌと出会った前後で、スキルが使えなくなったと言っている。
 マリアンヌといえば回復のほかに精神干渉系のスキルがあるのではと疑っているが、ほかにもスキルを持っている可能性があるのだろうか。

 これだけの話では、マリアンヌだと断定するには早計だ。だけど、スキルがなくなったのはもしかしたら人為的な可能性はあるのではないか。
 そこで私ははっとした。

 ――そうよっ!!

 スキルは勝手になくなることはないけれど、なくなったとしたら盗まれたと考えることが妥当ではないだろうか。
 人のスキルを盗むようなスキルが、この世にあるのかもしれない。
 そういった後ろめたいスキルは皆隠そうとするだろうし、九歳で洗礼前というのも大きなポイントのような気がしてくる。

 例えば、人のスキルを奪えるようなスキルをマリアンヌが持っていたとして、教会の洗礼で大々的に告げることのでき誇れるスキルを奪おうと探していたとしたら?
 その茶会では目ぼしい人たちも集められていて、最終的にロレッタのスキルを奪うことにしたとしたら?

 もしそのようなスキルがあるのなら、マリアンヌが今持っている回復スキルはロレッタから奪ったものになるのではないだろうか。
 そこまで考えて、眩暈がした。

 ――えっ、待って待って……。

 私はひゅっと魂が抜けだしそうなほどの衝撃に、再び口を押えた。
 まさかという思いと、マリアンヌならありえそうだという確信的な思い。

「教会の洗礼でスキルはどのように見えた? 例えば、もともとあっただろうところが空欄みたいになっていたとか。全く何もない感じだったとか」
「空欄みたいでした。だから、能力を失ってしまったのだと思っていました」

 すでにスキルがわかり外部には内緒で使用していたロレッタが、そう考えるのも当然だ。それが人為的なものなどと考えもしない。
 スキルに関してはわからないことも多く、それならそういうものとして大抵の人は受け入れるはずだ。

「もし、その空欄があったものがなくなった、つまり誰かによって盗まれた跡だとしたら?」
「盗まれ……。まさか!?」

 そこでロレッタがぶんぶんと首を振り、「えっ、でも……」と戸惑いの声を最後にぴたりと固まってしまった。
 その様子を眺めながら、私は思考を整理する。

 私は死に戻り前、私の聖女スキルがあった場所が空欄になっていた。
 ずっと不思議だったが、その理由が私のスキルを奪ったからだとしたらどうだろうか。

 私も七歳からずっとマリアンヌと仲良くしていた。奪おうと思えば、私からスキルを奪える機会はいくらでもあった。
 死に戻り前の私は洗礼を受けるまで、どのようなスキルがあるかわからなかったため、知らない間に奪われていたら気づけない。
 そこで顎に手をやっていたインドラが、軽く手を上げて考えを述べる。

「もしかして、強奪スキルじゃないですか?」
「インドラ、知っているの?」
「はい。スキルについて勉強するためにたくさん文献を読みました。過去の犯罪者に強奪スキル持ちの者がおり、その人物は他人から三つスキルを奪い、仲違いした親友をはめたと書いていました。強奪スキルはどうやら回数制限があり最高三回であるようです」

 私が王都に来る前に本来のスキルを告白し、聖女スキルが珍しいものであったため、今後の対策のためにいろいろ調べてくれたのだろう。
 とてもありがたく、死に戻り前との違いをこのように感じるたびに負けてはならないという気持ちが強くなる。

 そのようなスキルが実際あるのだとしたら、マリアンヌが持っていたのはその強奪スキルだろう。
 過去、犯罪に使われるようなスキルを侯爵令嬢として発表するわけにはいかず、洗礼を受ける十歳までに代わりになるものを探していた。

 おそらく、身近に他人のスキルを見ることができる人物がいるはずだ。
 そしてその人物から自身のスキルを洗礼までに知り得ていたマリアンヌは、欲しいスキルを吟味し洗礼前にそのスキルを持っていることを知られないために実行した。

「もし強奪スキルを持ち、身近に他人のスキルを見る人物がマリアンヌのそばにいるとすればあり得ない話ではないわね」
「回復スキルと精神干渉できるスキル、ほかにもう一つ持っている可能性もある」
「回復スキルは公向け。精神干渉は人を支配するため。もう一つあったとしてもろくなものではないんだろう」

 ベアティとシリルが嫌そうに顔をしかめ、実際、行使されたことのある二人は嫌悪感たっぷり吐き捨てた。
 そして、彼らの言葉にロレッタが「ああ……」と魂が抜けたように崩れ落ちた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢ルチアが幸せになる二つの方法

ごろごろみかん。
恋愛
公爵令嬢のルチアは、ある日知ってしまう。 婚約者のブライアンには、妻子がいた。彼は、ルチアの侍女に恋をしていたのだ。 ルチアは長年、婚約者に毒を飲ませられていた。近年の魔力低下は、そのせいだったのだ。 (私は、彼の幸せを邪魔する障害物に過ぎなかったのね) 魔力不足に陥った彼女の余命は、あと一年だという。 それを知った彼女は自身の幸せを探すことにした。

私は本当に望まれているのですか?

まるねこ
恋愛
この日は辺境伯家の令嬢ジネット・ベルジエは、親友である公爵令嬢マリーズの招待を受け、久々に領地を離れてお茶会に参加していた。 穏やかな社交の場―になるはずだったその日、突然、会場のど真ん中でジネットは公開プロポーズをされる。 「君の神秘的な美しさに心を奪われた。どうか、私の伴侶に……」 果たしてこの出会いは、運命の始まりなのか、それとも――? 感想欄…やっぱり開けました! Copyright©︎2025-まるねこ

攻略対象者の婚約者を持つ姉の代わりに、エンディングを見てきました

犬野きらり
恋愛
攻略対象者の婚約者を持つ姉の代わりに、エンディングを見てきました… というタイトルそのままの話です。 妹視点では、乙女ゲームも異世界転生も関係ありません。 特に私(主人公)は出しゃ張たりしません。 私をアピールするわけでもありません。 ジャンルは恋愛ですが、主人公は恋愛していません、ご注意下さい

愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……

ミィタソ
恋愛
伯爵家の次女——エミリア・ミーティアは、優秀な姉のマリーザと比較され、アレと呼ばれて馬鹿にされていた。 ある日のパーティで、両親に連れられて行った先で出会ったのは、アグナバル侯爵家の一人息子レオン。 そこで両親に告げられたのは、婚約という衝撃の二文字だった。

愛する人は、貴方だけ

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。 天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。 公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。 平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。 やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。

この世で彼女ひとり

豆狸
恋愛
──殿下。これを最後のお手紙にしたいと思っています。 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

「ばっかじゃないの」とつぶやいた

吉田ルネ
恋愛
少々貞操観念のバグったイケメン夫がやらかした

弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。  彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。  彼女は思った。 (今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。  今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

処理中です...