二度目の人生は離脱を目指します

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
62 / 105
紫と衝動

48.奪われたスキル

しおりを挟む
 
 ――ちょっと待って!

 頭が混乱する。
 脳内がにわかに騒ぎ出し、胸中に不安が広がっていく。

 ここでもマリアンヌの名前。
 ロレッタには黒い靄がかかっていない。精神干渉がされているわけではなかったため、マリアンヌと繋げていなかった。

 だけど、はっきりとマリアンヌと出会った前後で、スキルが使えなくなったと言っている。
 マリアンヌといえば回復のほかに精神干渉系のスキルがあるのではと疑っているが、ほかにもスキルを持っている可能性があるのだろうか。

 これだけの話では、マリアンヌだと断定するには早計だ。だけど、スキルがなくなったのはもしかしたら人為的な可能性はあるのではないか。
 そこで私ははっとした。

 ――そうよっ!!

 スキルは勝手になくなることはないけれど、なくなったとしたら盗まれたと考えることが妥当ではないだろうか。
 人のスキルを盗むようなスキルが、この世にあるのかもしれない。
 そういった後ろめたいスキルは皆隠そうとするだろうし、九歳で洗礼前というのも大きなポイントのような気がしてくる。

 例えば、人のスキルを奪えるようなスキルをマリアンヌが持っていたとして、教会の洗礼で大々的に告げることのでき誇れるスキルを奪おうと探していたとしたら?
 その茶会では目ぼしい人たちも集められていて、最終的にロレッタのスキルを奪うことにしたとしたら?

 もしそのようなスキルがあるのなら、マリアンヌが今持っている回復スキルはロレッタから奪ったものになるのではないだろうか。
 そこまで考えて、眩暈がした。

 ――えっ、待って待って……。

 私はひゅっと魂が抜けだしそうなほどの衝撃に、再び口を押えた。
 まさかという思いと、マリアンヌならありえそうだという確信的な思い。

「教会の洗礼でスキルはどのように見えた? 例えば、もともとあっただろうところが空欄みたいになっていたとか。全く何もない感じだったとか」
「空欄みたいでした。だから、能力を失ってしまったのだと思っていました」

 すでにスキルがわかり外部には内緒で使用していたロレッタが、そう考えるのも当然だ。それが人為的なものなどと考えもしない。
 スキルに関してはわからないことも多く、それならそういうものとして大抵の人は受け入れるはずだ。

「もし、その空欄があったものがなくなった、つまり誰かによって盗まれた跡だとしたら?」
「盗まれ……。まさか!?」

 そこでロレッタがぶんぶんと首を振り、「えっ、でも……」と戸惑いの声を最後にぴたりと固まってしまった。
 その様子を眺めながら、私は思考を整理する。

 私は死に戻り前、私の聖女スキルがあった場所が空欄になっていた。
 ずっと不思議だったが、その理由が私のスキルを奪ったからだとしたらどうだろうか。

 私も七歳からずっとマリアンヌと仲良くしていた。奪おうと思えば、私からスキルを奪える機会はいくらでもあった。
 死に戻り前の私は洗礼を受けるまで、どのようなスキルがあるかわからなかったため、知らない間に奪われていたら気づけない。
 そこで顎に手をやっていたインドラが、軽く手を上げて考えを述べる。

「もしかして、強奪スキルじゃないですか?」
「インドラ、知っているの?」
「はい。スキルについて勉強するためにたくさん文献を読みました。過去の犯罪者に強奪スキル持ちの者がおり、その人物は他人から三つスキルを奪い、仲違いした親友をはめたと書いていました。強奪スキルはどうやら回数制限があり最高三回であるようです」

 私が王都に来る前に本来のスキルを告白し、聖女スキルが珍しいものであったため、今後の対策のためにいろいろ調べてくれたのだろう。
 とてもありがたく、死に戻り前との違いをこのように感じるたびに負けてはならないという気持ちが強くなる。

 そのようなスキルが実際あるのだとしたら、マリアンヌが持っていたのはその強奪スキルだろう。
 過去、犯罪に使われるようなスキルを侯爵令嬢として発表するわけにはいかず、洗礼を受ける十歳までに代わりになるものを探していた。

 おそらく、身近に他人のスキルを見ることができる人物がいるはずだ。
 そしてその人物から自身のスキルを洗礼までに知り得ていたマリアンヌは、欲しいスキルを吟味し洗礼前にそのスキルを持っていることを知られないために実行した。

「もし強奪スキルを持ち、身近に他人のスキルを見る人物がマリアンヌのそばにいるとすればあり得ない話ではないわね」
「回復スキルと精神干渉できるスキル、ほかにもう一つ持っている可能性もある」
「回復スキルは公向け。精神干渉は人を支配するため。もう一つあったとしてもろくなものではないんだろう」

 ベアティとシリルが嫌そうに顔をしかめ、実際、行使されたことのある二人は嫌悪感たっぷり吐き捨てた。
 そして、彼らの言葉にロレッタが「ああ……」と魂が抜けたように崩れ落ちた。

しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

悪役令嬢なので最初から愛されないことはわかっていましたが、これはさすがに想定外でした。

ふまさ
恋愛
 ──こうなることがわかっていれば、はじめから好きになんてならなかったのに。  彩香だったときの思いが、ふと蘇り、フェリシアはくすりと笑ってしまった。  ありがとう、前世の記憶。おかげでわたしは、クライブ殿下を好きにならずにすんだわ。  だからあるのは、呆れと、怒りだけだった。 ※『乙女ゲームのヒロインの顔が、わたしから好きな人を奪い続けた幼なじみとそっくりでした』の、ifストーリーです。重なる文章があるため、前作は非公開とさせていただきました。読んでくれたみなさま、ありがとうございました。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない

あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。 王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。 だがある日、 誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。 奇跡は、止まった。 城は動揺し、事実を隠し、 責任を聖女ひとりに押しつけようとする。 民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。 一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、 奇跡が失われる“その日”に備え、 治癒に頼らない世界を着々と整えていた。 聖女は象徴となり、城は主導権を失う。 奇跡に縋った者たちは、 何も奪われず、ただ立場を失った。 選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。 ――これは、 聖女でも、英雄でもない 「悪役令嬢」が勝ち残る物語。

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

初恋を諦めたあなたが、幸せでありますように

ぽんちゃん
恋愛
『あなたのヒーローをお返しします。末永くお幸せに』  運命の日。  ルキナは婚約者候補のロミオに、早く帰ってきてほしいとお願いしていた。 (私がどんなに足掻いても、この先の未来はわかってる。でも……)  今頃、ロミオは思い出の小屋で、初恋の人と偶然の再会を果たしているだろう。  ロミオが夕刻までに帰ってくれば、サプライズでルキナとの婚約発表をする。  もし帰ってこなければ、ある程度のお金と文を渡し、お別れするつもりだ。  そしてルキナは、両親が決めた相手と婚姻することになる。  ただ、ルキナとロミオは、友人以上、恋人未満のような関係。  ルキナは、ロミオの言葉を信じて帰りを待っていた。  でも、帰ってきたのは護衛のみ。  その後に知らされたのは、ロミオは初恋の相手であるブリトニーと、一夜を共にしたという報告だった――。 《登場人物》  ☆ルキナ(16) 公爵令嬢。  ☆ジークレイン(24) ルキナの兄。  ☆ロミオ(18) 男爵子息、公爵家で保護中。  ★ブリトニー(18) パン屋の娘。

処理中です...