二度目の人生は離脱を目指します

橋本彩里(Ayari)

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紫と衝動

46.失ったもの

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 ――まさか、そんな!?

 いつからこんなことに?
 彼女のスキルについて話題はなかったが、マリアンヌの話題に埋もれているだけだと思っていた。
 死に戻り前の時のように目立たず役に立てたらいいと、家族が喜んでくれればそれでいいとしたであろう彼女の考えを尊重するべきだと思っていた。

 こんなことになっているのなら、もっと早くに彼女の現在の境遇について確認するべきだった。
 彼女はマリアンヌと関わりのない人物だったので、彼女にも変化があるなんて考えもしなかった。

「大丈夫ですか?」
「ええ。大丈夫」

 ぐるぐると考え込んでいると、ベアティに腰に手を当てられ声をかけられる。私が答えると、ベアティは頷きぴたりと私にくっついた。
 力強い手で当然のように支えられ、ものすごく安心する。ほっと息をつき、私は改めてロレッタを見た。

 ――どうすべきだろうか。

 彼女はきっと私に買われることは望んでいない。
 そもそも私もここに奴隷を買いにきたわけではない。
 だけど、どうしても放っておけなかった。

「彼女がいいわ」
「わかりました」

 かつての友人を契約魔法で従えるなんてしたくない。
 だけど、ここで私が買わなければ彼女は誰かに買われてしまう。どのような契約がなされ、どのように扱われるかわからない。
 なら、ここで私が動くのが一番だ。

 事情を聞くにもここでは詳しく話せないし、とにかくここから離れてゆっくり話せる場を設けるしかない。
 彼女の両親がいらないというならば、私のもとで保護することが最善である。

 ほかも見せてもらえるだけ見せてもらったが、精神干渉を受けている様子の人物はいなかった。
 いるとしたらすでにマリアンヌのもとにいるかとは思ったが、もしかしたら商人にかけてという可能性だってあった。

 いろいろな可能性を考え確認するのが手っ取り早いと思いやってきたが、思わぬ人物と再会した。
 手続きを終え、落ち込んだ様子のロレッタとともに私たちは屋敷に戻った。

「彼女はロレッタ。ここで、インドラの仕事の手伝いをしてもらおうと思って」

 出迎えたインドラとシリル、王都の使用人たちに紹介する。
 代表して、インドラが誰しも思っている疑問をぶつけてくれた。

「そもそも奴隷は必要としていなかったのでは?」
「そうなのだけど、ロレッタをどうしてもあのままにしておけなくて」

 私はロレッタに一度視線をやり、苦笑する。

「そうですか。エレナお嬢様がお決めになったのなら私たちは構いません。彼女はここでどのようなことをさせるつもりでしょうか?」
「彼女は私が学園に通っている間の契約。その後は解放するつもりよ。そのつもりで仕事内容も割り振ってくれたらいいわ」
「わかりました」

 こう言えば、敏いインドラなので仕事内容も調整してくれるだろう。

「彼女に確認したいことがあるの。リラックスできるようにセッティングしてくれるかしら」
「すぐにご用意します」

 それから私たちは応接室で向かい合った。
 客人のように扱われ、ロレッタは戸惑いながらソファに座る。

「ロレッタ。ここで仕事をしてもらうけれど、奴隷だからといってほかの人たちと差をつけるつもりはないわ。私が望むのはお金で買った分、しっかり働いてくれること。そして、これから質問することに答えてくれること。それさえ守ってくれれば、私が学園を卒業する三年後に解放することに偽りはないわ」
「それはありがたいですが、どうしてそこまで?」

 あそこまで大金を払ってということだろうか。

「私、お茶会であなたを見たことがあるわ。あまり話したことはないけれど、笑顔がとてもチャーミングだと思っていたから。本来なら学園に一緒に行っていた相手がと思うと、あのまま立ち去ることはできなかったの」
「ランドール子爵令嬢……」

 ロレッタは目を見張り、弱々しい声を出した。
 まだ不安が拭いきれず、こちらを見る視線は戸惑いに揺れる。

「エレナでいいわ」
「エレナ様、ありがとうございます。私、まだ受け入れられなくて、貴族として同じ茶会に参加していたあなたにこの姿を見られたことが恥ずかしかった。今もまだ気持ちの整理はできていないけれど、しっかり働きます」

 最後は前向きな言葉が出る。
 本当はお金のことを持ち出したくなかった。
 けれど、同情を強調されるより具体的なものを提示するほうがロレッタの心情的にはいいかと思ってだったが、それでよかったようだ。
 彼女らしさが垣間見え、私は大きく頷いた。

「言いにくいとは思うけど、ここまで何があったか教えてくれる?」

 死に戻り前と彼女が変わった現状には、きっと理由があるはずだ。
 普通に過ごしていれば、見落とし気づかない何か。
 必ず理由を突き止めてみせると質問すると、ロレッタは神妙に頷き口を開いた。

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