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1-something quite unexpected-
21高塚くんが距離をつめてくる①
しおりを挟む水曜日。今日も高塚くんと帰宅中。
相変わらず、鞄は高塚くんの右手、莉乃の右手は高塚くんの左手にがっちりキープされている。
長い指に絡め包み込まれるようにして感じる高塚くんの少し低い体温も、手の大きさも、今では慣れてしまった。
握られた手にきゅっと力が込められ、莉乃は視線だけで「なに?」と問いかけた。これは高塚くんが話すちょっとした合図。
毎回そうなるわけではないけれど、こういったときは真面目な話題が多いので莉乃もいつもより真剣に耳を傾けるようにしている。
「りの、今週末は空いてる?」
「週末? 用事が入ってるけど」
「……どっちも?」
「うん。どっちも」
「……予定はずらせない?」
「結構前から約束していたし」
「…………誰と?」
沈黙のあと、そう訊ねた時のぎゅっと掴まれた手がいつもより力強い。痛くはないけれど、簡単に外せそうになかった。
莉乃は急にどうしたのかと戸惑いながら、高塚くんを見上げた。
予定は変えられないし、莉乃自身が楽しみにしていたことなので変える気もないのだけど、週末の予定を聞かれたのは初めてだったので気になった。
少しばかり、何の予定かではなく誰と聞いてくることに訝しみながら、答えることに問題がないので素直に答える。
「志穂たちと」
「山内さんとか……」
「うん。最近あまり遊べてないし、週末買い物がてら遊ぼうって前から約束してた」
そろそろ夏に向けて服を新調したい。気になるデザインのトップスがあるから、絶対いいの見つけてゲットしたいと考えている。できたらそれに合ったサンダルも欲しい。
サンダルも揃えたら、やっぱりカバンも欲しいしと、一気に揃えなくてもいいのだけどいつかは揃えるつもりだからいろいろ見ておきたい。
気心知れた友人とのショッピングは楽しみでしかない。あと、スイーツもシェアできるしで、すでに気になるお店の下調べもしている。
思わず楽しみでくふっと笑みを漏らすと、莉乃とは反対に高塚くんは見るからにどよーんと肩を落とした。
「……そうか」
「高塚くん?」
「ああ~、それは二日とも?」
「日曜は家族と出かけるから」
「…………家族と」
莉乃が答えると、さらに高塚くんがずぅーんと肩を落とした。若干、丸くなった背が哀愁を漂わせている。餌をもらえずしょぼんとする猛獣みたいだ。
明らかにショックを受けて落ち込んでいる高塚くんに、まさかと及んだ考えに一度否定したが目の前の高塚くんはまさしくそれで、莉乃は信じられないとじっと見つめた。
予定を聞かれるということは、莉乃に用事があったのだろう。
それだけ、休日の予定を聞かれるってことは予想外であり平静であろうという心を浮きだたせた。
メールや電話はしても一緒にいるのは学校帰り、制服を着ている時だけだったから、噂のこともあって、今まで休日は高塚くんにとっては別枠の時間、つまりプライベートで貴重な時間なのかと思っていた。
そこまではっきりと考えていたわけではないけれど、なんとなく今までの高塚くんの行動で休日に誘われることはないと決めつけていたというか。
「急にどうしたの?」
だから、思わず聞いていた。普段の莉乃だったら、こういった高塚くんの行動に対して追求しない。
それだけ、休日の予定を聞かれるってことは予想外であり嬉しかったのだ。
「やっと週末空いたからりのと出掛けたいと思って。ほら、昨年オープンした遊園地一緒にどうかと思って。ペアチケットももらってるし」
週末が空いた……。
そう高塚くんは言った。
ふーん。忙しかったのか。
何をして忙しいのかは知らないが、空いてたら誘う気ではいてくれたようだ。
もごもごと言いにくそうに告げる高塚くん。断られたことがよほどショックだったのか、聞いてもいないのに具体的な理由も付け加えられる。
いつもの強引で優雅な彼はどこいった? 気まずそうに、こっちの反応をうかがうように莉乃をちらちらと見る。
気のせいだとは思うけど、迷子になったような寂しげな眼差しに、莉乃の胸がチクチク痛む。
うーん、普通にその反応可愛い。
女心くすぐるといというか。かまってあげないとって思ってしまう。
がっかりだと落ち込む姿を見せられると、ついつい手を差し伸べたくなる。本当にタチが悪い。
こういう姿を見ると、普段の強引さも許してしまう。つい一緒になって笑ってしまう。楽しんでしまう。
たまに気持ちは苦しいのに、それでも高塚くんといることに、一緒に過ごすことに喜びを覚えてしまう。
深入りしないように注意しながらも、気づいたらそんな戒めを忘れるくらい高塚くんとの会話を楽しんでいる。うー、ループだ。
つまり、今回のことではっきりとしたのは、学校って枠の延長上(放課後)ではなくても会う気でいてくれたということ。
そんなちょっとしたことに気づいて嬉しいって思う自分を見ない振りして、高塚くんに謝罪を告げる。
「そうなんだ。せっかく誘ってくれたのにごめんね」
むしろ、予定あってよかったかもしれないと、頭の隅で思ってしまう自分は可愛くない。
これで週末も一緒に過ごすとなると、境界線が曖昧で、初心な莉乃はあっという間に高塚くんに引っ張られそうだ。
高校生だから。制服を着てるっていう枠がはっきりしているから、その中での期間限定の特別扱い。
そう思っておかないと、この曖昧で甘い関係を受け入れられない。
だって、一緒にいる時間が増えれば増えるほど、高塚くんの交友関係は広そうだということぐらい、噂でなくてもわかる。
高塚くんは莉乃といる時にスマホはあまり見ない。でも、たまに見る時に早いスクロールで画面を見ては、気になったものをタップしているので、連絡がたくさんあるっぽいのだ。
そのたまたま見ている時に連絡きていることも何度もあったし、人気者なんだなって。
気を遣ってサイレンスにしてくれているようだけど、それでもたまに見ないといけないくらい忙しいのが高塚くんの様子で伝わってくる。
それでいて、自分との時間を優先してくれているらしいこともわかるので、莉乃はいつも複雑だった。
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