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1-something quite unexpected-
22高塚くんが距離をつめてくる②
しおりを挟むちょっと困った顔をした莉乃に、高塚くんは頭を振ると気をとりなおしたようににこりと微笑んだ。
「いや。週末は最近忙しくて予定が見えにくいからギリギリになったこっちが悪いし。でも、できたら今度一緒に行きたい。遊園地のマスコットキーホルダーの話を友人に聞いて莉乃とずっと行きたいと思ってて。ペアもので可愛いって女子に人気らしいよ」
「それ、私も持ってるよ。人気があるのは知らなかったけど、確かに可愛いもんね。妙に垂れ目の部分が愛着湧くっていうか。磁石ついてるから対のやつとくっつけられるんだよね」
提案された場所と物に心当たりがあり深く考えずに返事をすると、にこにこと微笑んでいた顔がぴたっと止まった。
んん、なに? とこちらもぴたりと止まっていると、高塚くんがぐいっと腰を折って顔を寄せてくる。
端正な顔がさらに近くなり、密なまつ毛で縁取られたまぶたが瞬きもせずこちらを見た。
目を見開き驚いた莉乃を凝視しながら、少し早口になった高塚くんがようやく目を細めて口を開いた。
「はっ? りの持ってるの?」
「う、うん」
うわっ、び、びっくりした。
はっ? て声がすっごく低くてざわりと心臓が騒ぐ。
高塚くんって、たまに今みたいに口調も荒くなる。優しいのも嘘ではないだろうけど、こっちも素なんじゃないだろうか。
この人、本当に温厚なのかなって疑問に思うくらい圧を感じるときがあるから。
人より身長が高くて、やけに整った顔立ちだから迫力があるのも仕方がないとは思うのだけど。
それだけではなくて、一朝一夕のものではなく今まで過ごしてきたものから滲み出ているというか。ただただ、優しいだけの人が出せる威圧感じゃない。
「なんで? それ男女のカップルじゃないともらえないやつだよな」
「カップル? あー、なんかそんなこと言ってたかも。前に紘乃と、」
「ひろのって誰? 初めて聞いたんだけど呼び捨てにして男?」
食い気味で被せられた言葉は、今までにないくらいぐぅんと声音が低い。
さっきの『はっ?』は軽いジャブだったのかなって比べ物にならないくらい、高塚くんが危険な男の空気を漂わせてくる。
じっ、と上から無表情で見られているが、いつにも増して鋭さが増していて睨まれているように感じた。
やーめーてーー。心臓に悪い。
その表情がないの怖い。すんっ、と無機質美形が前面に出るとますます何を考えてるのかわからなくなって、莉乃はどうしていいのかわからなくなる。
ドドドドッと速くなる心臓が飛び出す前に、妙な勘違いをしているであろうことを訂正する。
「男? えっと、兄だけど」
「はあぁ~~、お兄さん……」
今度は大きな溜め息を吐いたかと思うと、急に黙り込んで止まった高塚くん。活動停止?
ずっと手を繋がれたままだから、莉乃も引っ張られるようにその場に止まる。
「高塚くん、どうしたの?」
「りのの口から男の名前出てびっくりしただけ」
「そ、そうなんだ」
「ああー、本当びびったぁ。信じられない。心臓イタイ。ほんとやめて」
大袈裟に胸を押さえてなぜか責められた。こっちの方が心臓やばいんだけど。今も鼓動がすごいことになってる。
でも、それを覆い潰すように、高塚くんの言葉に胸がもやもやしだした。
「なんか、」
「なに?」
「そんなに友だちいないように見える?」
信じられないって言われるほど、異性の知り合いがいないと思われてるのかな? 高校では個人的に連絡取る人はいないけど、グループではそれなりに話すしコミュニケーションは取れてるはずだ。
中学以前の友人は何人かいることはいるのだけどな。
よく考えるとちょっと失礼だよね。
自分は男女問わず人気あるから、それはもうあっちこっちから引く手数多なんだろうけど。それと比べると私なんて狭い世界なのだろうけど。
平凡な私の口から男の名前出ることは、すごく驚くほどのことなんだ。へぇー。
「なんか、気分悪い」
「…………」
この時、なんだかとてつもなくむっとして、むしゃくしゃした。
自分でもちょっと態度悪いかなと思うけど、そもそも先に相手が喜怒哀楽をぶつけてきたし、と思う。
言い捨てて視線をそらす。
黙ってしまった高塚くん。言い訳もないらしい。
なんかショックだ。
つまりそういう風に見てるってことだよね。
自分はいろいろ慣れててたくさん男女問わず友人知人、もしくはそれ以上の関係の人もいて、なのに莉乃はそういうのはいないだろうと思われているってことだ。
たった一人の男性の名前(兄のだったけど)が口から出ると、本気で驚くほど人として魅力ないって言われてるようだ。
それなのに、そんな相手と手を繋いでるんだ? どういうつもりなんだろう。
明らかに男っけないから慣れてないだろうし、反応見て楽しもうとか? もしくは施し?
そこまで高塚くんが性格悪いとは本当は思っていない。でも、ちらりとそんな考えが浮かんでしまう。
きっと男女のことで感覚の違いだとかで自分が卑屈になっちゃってるだけなのだろうけど、一度浮かんだ思考は取り消せない。
常々、持ってるものとか、色気込みの美貌だとか、人気だとか見せられて。
その隣に立つことの意味もわからず毎日一緒にいると、自分の中にそんなものがあったんだという劣等感が刺激される。
周囲の女子からの嫉妬の目だとか、なんでこいつみたいなのとか。
自分より綺麗な人に隠されもせず睨まれて、高塚くんに憧れてる男子とかも釣り合わないと思ってるような溜め息つかれたこともあるし。
それらを向けられることは気持ち良いものではないし、はっきり言って不快以外のなにものでもない。
たまに、じわじわと莉乃の首を絞めるように息苦しくなって、無性に違うんだって主張したくなる。
被害妄想もいいところだけど、そう感じるのは莉乃の中の事実で、こんな自分が嫌だなと思うけど止められない。
高塚くんといて、素直に楽しめない。
それが最近、ちょっとしんどい。
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