この歌声が届くまで

蒼村 咲

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9月2日 火曜日

第16話 解散命令

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 新垣くんの緊急招集を受け、合唱祭実行委員会の委員たちが集う。
 今日は「うちのクラス、放課後は即人いなくなりますよ」という中村くんの提案で、二年一組のホームルーム教室が会場になっていた。これなら塚本くんも余計なハードルを感じずに済むだろう。
 現メンバーの五人が揃うや否や、新垣くんが口を開いた。

「まず謝らないといけないんだ……ちょっと、まずいことになったかもしれない」

 いつになく神妙な調子だ。まずいことって、いったい何があったのだろう。
 みんな心配そうな顔をするだけで何も言わないので、私が口火を切った。

「どういうこと?」

 すると新垣くんは、カバンから一枚のプリントを取り出した。そしてそれをみんなが見やすいように机の真ん中に置く。

〈生徒集団解散命令〉

「え? 何これ?」

 思ったことがそのまま口をついて出る。

「書いてある通りだよ。『不適切な目的で結成された生徒の集団は活動の継続を許されない』──僕たちは活動を禁止されたんだ。生徒会執行部から直々に」

 新垣くんの説明に、私は言葉を失った。昨日会ったばかりの桐山会長の顔を思い浮かべる。あの彼が、本気で合唱祭実行委員会を潰しにきたということなのだろうか。

「……あの、すいません。この『生徒集団解散命令』って、そもそも何なんですか?」

 塚本くんの声ではっと我に返る。

「ああ、一昔前で言うところの風紀委員というか……いや、たとえばだけど、ただたまり場が欲しいってだけで同好会を結成して活動場所を申請する、みたいなことができないように、みたいな規制が目的のやつだよな?」

 乾の確認に、新垣くんがうなずく。

「もともとは生徒の運動というか反抗……サボとかストを防止するのが目的だったのかもしれないけど、今では実質、不良グループに対する規制としてしか機能していないだろうね」

 新垣くんはため息をついた。が、今の話は聞き捨てならない。

「ちょっと待ってよ。それじゃまるで合唱祭実行委員会が『不適切な目的』で結成された不良グループって言われてるみたいじゃない」

 私が憤ると、腕を組んだ乾がはっきりと顔をしかめた。

「みたい、じゃなくてそう言われてんだよ」

「嘘でしょ!?」

 愕然とする。だって、正式な学校行事である合唱祭のために結成された純然たる委員会なのに。
 私は最後の希望とばかりに新垣くんに目を向ける。けれど彼は悔しそうに、かつ静かに首を振った。

「残念だけど、合唱祭が中止ってことになってる現状では、実行委員会が活動する正当な理由はないよ」

「そんな……」

 ひどすぎる。なんでこんなことになってしまったのだろう。

(……「なんで」?)

 自分が抱いた疑問に、自分で引っかかりを覚える。そう、つい昨日だって、嘆いてばかりいないで考えろと諭されたばかりだ。

「ちなみに、こうして集まってることを咎め立てされることはないんですか?」

 塚本くんが心配そうに尋ねる。それにいち早く反応したのは中村くんだった。

「大丈夫でしょ。ただの友達同士ですって言ってしまえば、それが嘘だとか本当だとかなんて証明のしようがないんだし」

 例によって何でもないように言ってのける。おかげで塚本くんの顔にはかすかに安堵の表情が戻った。
 けれど、新垣くんの眉間にはしわが寄ったままだ。

「違うんですか?」

 新垣くんの表情に気づいたらしい中村くんが尋ねた。

「いや、中村くんが言ったことはたしかにその通りだよ。それに執行部だって、そんなことのためにパトロールまではしないと思う。さすがにそこまで暇じゃないだろうし。ただ、もっと実際的な問題がある」

 新垣くんの落ち着いた口調が逆に不安を煽る。
 私たちが黙ったまま続きを待っていると、彼は小さく息をつき、そしてはっきりと言った。

「……僕たちは今後『合唱祭実行委員会』を名乗れない」

「──!」

 誰も、何も言えなかった。合唱祭実行委員会という名前を取り上げられてしまったら、私たちはいったい「何」なのだろう?
 何のために集まって、何を目指して、何をしている集団なのだろう?

「執行部は……敵だったってこと?」

 私が力なくつぶやくと、新垣くんがふっと息をついた。

「少なくとも今はそう考えるしかないよね」

 ただの敵ではない──向こうの方がずっと「上」の立場なのだ。

「当然のように学校側につくって……「生徒会」なんて名ばかりだな」

 あえて感情を抑えたような声で、乾が言った。


 解散後、昇降口へ向かう道すがら、私はさりげなく新垣くんの隣に並んだ。

「……新垣くん。何か執行部──というか桐山会長に嫌がられそうなことしてない?」

 一応、他の人には聞こえないくらいのボリュームまで声を落とす。

「嫌われること? たとえばどんな?」

 新垣くんが訝しげに聞き返してくる。本当に何もしていないのか、わかっていてとぼけているだけなのか、あるいは自覚がないのか。
 いずれにしても、今の彼には何かを話すつもりはないということはわかった。
 私は慌てて首を振る。

「心当たりがないならいいの。ごめん、忘れて」

 新垣くんが何かを隠しているとしても、私にそれを暴けるだけの力はないのだ。

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