私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!

近藤アリス

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解けぬ誤解

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 しばらくすると、寝室のドアが静かに開いた。コルネリアが寝ているかもしれない、とヴァルターが起こさないようにゆっくりドアを開けていた。

 まだ考えがまとまっていないコルネリアは、ベッドから起き上がり入室したヴァルターを見つめた。たたむ余裕もなく、ガウンがベッド横に脱ぎ捨てられている。

「起きていたのか?」

 ヴァルターは濡れた髪をタオルでこすりながら、嬉しそうに言った。そして、ベッドに腰掛けてコルネリアを見つめる。

【聞きたいことがあります】

「ん?どうした?なんでも聞いていいぞ」

 午前中のキスに浮かれているのか、ヴァルターが微笑んで言う。

【キァラさんと、どんな話をしたんですか?】

 コルネリアが正面からヴァルターを見つめると、彼はさっと目線を外した。

「いや。……相談だった。仕事についての」

 嘘をつくのが下手なんだろう。ヴァルターは頭を拭いていた手を止め、視線を逸らしたままそう言う。

【なんでそんな、わかりやすい嘘を言うのですか】

 コルネリアは紙にそう書くと、ヴァルターに見せようとして、やめた。くしゃくしゃにして、ゴミ箱へ投げ入れる。

(――ダメだわ。話せば話すほど揉めちゃいそう。そんなの、それこそキァラさんの思うつぼな気がする)

【今日はもう寝ますわ。おやすみなさい】

 そう紙に書き、ヴァルターに見せると布団に潜り込む。できるだけベッドの端で、ヴァルターとは反対側を向いて掛け布団を頭までかぶった。

「コルネリア」

 ヴァルターが名前を呼ぶが、布団に潜ったコルネリアは反応を返さない。

「おやすみ」

 何が悪かったのか分からないのだろう、ヴァルターは困惑した表情でそう呟くと、乾いていない髪の毛をタオルで拭った。









 すうすう。布団の中から吐息が聞こえ、ヴァルターはそっとコルネリアの掛け布団をめくった。

 ぷはっとコルネリアがひとつ息をし、また健やかな寝息をたてる。

(――何が悪かったんだろうか。何も言わずに、寝るのが遅くなったことか?)

 悲しげな表情を浮かべておやすみ、と伝えたコルネリアがヴァルターの脳裏に浮かぶ。悲しみではなく怒りの感情が正しいのだが、ヴァルターは気がついてない。

 頬にそっと口づけをすると、部屋のろうそくを吹き消す。コルネリアを起こさないように横になると、先ほどのキァラとの出来事を思い出した。

「まさか。あんなこと考えていたなんてな」

 ぽつり、と呟いて、ヴァルターは自分の顔を手で覆うと、大きなため息をついた。

 時は、ほんの数時間遡る。

 後で相談をしたい、と言ったキァラを待ちながらヴァルターは仕事をしていたが、中々彼女が現れなかった。そのため、入浴も遅くなったのだ。

 来ないなら仕方がない、と浴室に向かったところで、キァラと会った。彼女は二人で話したい、と言って浴室の中まで入ってきたのだ。

「ヴァル様。私、ヴァル様のことを思うと胸が苦しいんです」

 そう言って胸元のボタンをキァラが外していく。徐々にあらわになるデコルテや胸に、びっくりしてヴァルターは後ろに下がった。

「ヴァル様」

 うるうるとした瞳で、ヴァルターにキァラがくっつく。わざと胸が当たるようにくっついたため、その柔らかさをヴァルターはしっかり感じた。

「待て。俺は既婚者だぞ」

 すぐに我に返り、キァラの肩を掴んで引き離す。キァラは上目遣いのまま、ヴァルターの胸元に手をはわせた。

「分かってます。私、二番目でもいいです。ヴァル様のそばに居られるなら」

 そう言うと、キァラがそっと背伸びをしてヴァルターに口づけを……する寸前で、ヴァルターが手のひらでキァラの唇を受け止めた。

「それは、俺のこと好きという意味だろうか?」

「はい」

 脈あり、と感じたのか、キァラがぱぁっと嬉しそうに笑って、抱きついてくる。

「離れろ。すまないキァラ。俺はお前のことをそういう目では見れないんだ」

 抱きついてきたキァラを離すと、申し訳なさそうにヴァルターが言った。妹のようには思っていたが、恋愛対象として見たことは一度もなかった。

「私のこと好きじゃなくてもいいから、そばに置いてください」

「なぜだ?」

「え?」

「なぜコルネリアが居るのに、好きでもない女をそばに置かないといけないんだ?」

 嫌味でもなく真剣にヴァルターが言うと、キァラの目にじわじわと涙が浮かぶ。幼馴染であり、大切な友の妹でもあるキァラを泣かせてしまい、ヴァルターは慌てたように口を開く。

「どうかしたか?」

 キァラは涙をぽろ、と一筋こぼすと、浴室から出で行った。

 その後、キァラとコルネリアが会ったことは、ヴァルターは気が付いていない。




(――マルコにも未婚女性と親しくしたら嫌われる、と言われたからな。告白されたと知れば、より嫌われる可能性が高かっただろう)

 コルネリアに嘘をつくのは心苦しかったが、中々いい機転だった。とヴァルターは一人で頷いた。

(――明日になったら、少しはコルネリアの機嫌も良くなっているだろう。そうだ。花壇の花を一緒に選んだら喜ぶかも知れない)

 コルネリアがにっこり笑う姿を想像し、ヴァルターの気分が良くなる。コルネリアと過ごす内容を考えながら、ヴァルターは眠りについた。

 この日を境に、夫婦の仲が気まずくなるとは想像もしていないヴァルターは、幸せそうに寝息をたてた。
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