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妻として聖女として

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 コルネリアがヴァルターに背を向けて寝た日から、今日で一週間となる。ヴァルターは次の日には機嫌が良くなっていることを期待していたが、その通りにはなっていなかった。

 コルネリアはカリンとクルトの3人で馬車に乗り、近隣の村にある協会へ向かっていた。

 負傷兵たちの多くを治すことができたため、各村へ直接出向いて国民へ治療を施すようになったのだ。これはコルネリアの希望でもあった。

 コルネリアの出向く教会は前もって知らされており、その村のみならず周辺の国民たちが集まっていた。移動ができない人たちをどうするか、そこがコルネリアの悩みだった。

(――屋敷から近い人たちの治療が終わった後に、泊まりの許可が降りれば遠くに住む人たちも治してあげられるわ)

 ヴァルターは許してくれるだろうか、そう考えてコルネリアは眉をひそめる。

(――結局あの日から、一言も話してないのよね。話してない時間が伸びれば伸びるほど気まずくなるのは分かってるのに)

 コルネリアも仲直りをしたくないわけではない、わけではないのだが。ヴァルターの顔を見ると何も伝えられなくなり、結果的に無視するかたちになってしまっている。

 ヴァルターもどう接していいか分からない様子で、結果として二人は全くコミュニケーションを取ることができていなかった。

 ふぅ、と窓の外を見つめる。物思いにふける様子のコルネリアに、カリンがぎっとクルトを睨む。

 夫婦が喧嘩をしていることは、屋敷の人間は全員知っていた。その理由がキァラではないか、と考えている人間も多い。

「クルト様。キァラ様はいつお帰りになるのですか?」

 カリンが刺々しく言うと、クルトは苦笑する。

「一応仕事はできているから。本人も当分は屋敷で働く予定らしい」

 コルネリアには無礼な態度を取るキァラだが、領主の娘として一定の教育は受けている。屋敷では客への対応を中心としており、文句なしの働きをしていた。

「確かにあいつが来てから、屋敷の雰囲気が悪いのは事実だな。すまん。俺からも注意しておくから」

 大きな身体を少し丸め、クルトが申し訳なさそうに言う。その姿にカリンは何も言えなくなり、ぶすっとした表情で黙り込んだ。

(――私のせいだわ。帰ったら、きちんとヴァルター様と話をしよう)

 コルネリアは思わずため息をつきかけて、ぐっと堪えた。ここでため息をつけば、さらに馬車内の空気が悪くなってしまうだろう。

(――切り替えるわ。私は聖女。国民としては王の妻としてではなく、聖女として来てくれる方が嬉しいに決まってる。ヴァルター様のことは一度忘れよう)

 コルネリアはそう頭の中で呟き、穏やかな笑みを浮かべる。馬車の窓から差し込む光が顔を照らし、神々しく美しい。

 思わずぼうっとカリンとクルトが見惚れる。そんな二人に視線を向けて、安心させるように笑みを深めた。









「着きました」

 クルトが先に馬車をさっと降りると、コルネリアへ手を差し出す。その手を借りてコルネリアが降りると、わあっと歓声がわいた。

「聖女様!」

 怪我人や病人が集まる教会の前、多くの人々が集まっていた。コルネリアはそんな人々に微笑み、手を優しく振る。

 信仰深い年配の女性は、コルネリアの方へ跪いてこうべを垂れている。

 帰りの馬車の時間を考えると、この村に滞在できる時間は限りがある。コルネリアは再度手を振ると、一度だけ頭を下げて教会の中に入った。

 小さな教会の中には、みっちりと怪我人や病人が集まっている。

(――今日中に終わるかしら?でも、こんなに密集していたら、悪い病気をもらってしまうわ。全員治してあげないと)

 想定よりも数が多かったため、コルネリアは内心動揺しているが表情には出さない。穏やかな笑みを絶やさずに、近くの人から癒しの力を使っていった。



 
 しかし、結局1日では全員を治すことは叶わなかった。コルネリアの額に玉のような汗が噴き出し、そっとカリンがハンカチで拭う。

「コルネリア様。そろそろ帰らなければ」

【この状態で帰ることはできません。明日の朝にも治療をして、その後に帰りますわ】

 首を振りながらコルネリアが紙に書いて見せる。クルトが考え直すように伝えても、コルネリアの意志は固い。

「私はコルネリア様が泊まれそうな場所がないか、聞いてきます」

 カリンはそう言って立ち上がり、教会から出ていった。

「本当にこの村に泊まるおつもりですか?」

 その問いにコルネリアが首を縦に振って答えると、クルトがため息をついた。

「分かりました。それなら村人に使いを頼んで、ヴァルター様に伝えておきますよ」

 コルネリアの意志の固さに折れたクルトがそう言うと、彼女は嬉しそうに笑みを浮かべた。
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