私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!

近藤アリス

文字の大きさ
18 / 42

聖女の居ぬ間に

しおりを挟む
「なんだと?」

 ヴァルターの前に立つ青年は、自分がかぶっていた帽子を胸元でぎゅっと握りしめる。強い口調と眼力に完全に怯えていた。

「ヴァルター様。彼は伝えてきてくれただけですよ」

 そばに控えていたマルコがそう言うと、ヴァルターがはっと我に返る。すまない、と一言呟き、目の前の青年を見つめる。

 今日こそはコルネリアと話し合おう、そう思い急いで仕事をこなしていたヴァルター。そんな彼のもとへ現れた村の青年は、コルネリアが治療のために村に泊まるという報告をした。

「クルトから他に何も言われていないか?」

 なるべく怒りを抑えよう、とヴァルターがこめかみに手を当てる。青年はさらに身を縮めて言った。

「国王様が怒ってらっしゃったら、せいじょ。王妃様が言うことに反対できなかったから許してほしい。今日は寝ずに護衛の役目を果たす。と伝えるように言われました」

 国民としては王妃、というよりも聖女としての印象の方が強い。青年もそのようで、王妃と言い直していた。

「そうか。ここまで疲れただろう。もう下がっていい」

 ヴァルターの言葉に青年はほっと息をつくと、部屋から出ていった。ヴァルターはマルコに報酬を渡すように伝え、椅子の背もたれにもたれかかって目を閉じる。

(――よりによって護衛がクルトだけか。まぁ、あいつことだ。本当に寝ずの番をするだろうし、身の危険はないだろう)

「……とりあえず、終わらせるか」

 早く終わらせる必要は無くなったが、目の前の仕事を終わらせないといけないのも事実だ。ヴァルターはため息をついて、書類へと向き直った。











「いったい何に怒っているのか」

 寝室のドアを開けながらも、ヴァルターはコルネリアのことを考えていた。明日帰ってきてから、じっくりと話をするつもりだ。

「ん?」

 寝室の中は真っ暗で、カーテンの間窓から月の光が微かに差し込むだけだ。

 いつもであれば、ヴァルターの部屋は真っ暗にはならないように使用人が明かりをつけている。訝しげに部屋の中を見ると、ベッドの中が少し膨らんでいた。

「コルネリア?」

 もしかして帰ってきたのだろうか?そう思ったヴァルターが、ベッドに近寄る。そして、ベッドに腰掛けると、そっと掛け布団をめくった。

「ヴァル様」

「うわ!」

 ベッドの中には下着姿のキァラがおり、ヴァルターが驚いたように声を上げて後ろに下がる。

「そんな反応ひどいですよ。せっかく勇気を出してきたのに」

 下着姿を隠そうともせず、キァラがベッドの上に座る。首や、おへそや、太もも。全てがあらわになっているので、ヴァルターは目線を逸らした。

「ずっと好きだったんです。コルネリアさんがいない今だけでいいので」

「誰かいるか!」

 キァラが潤んだ瞳でそう言うと、ヴァルターは扉の方へ使用人を呼びながら歩く。

「そろそろお休みの時間をいただきますが。……おや、まぁ」

 主人の声に反応したマルコが扉を開けて、ベッド上のキァラを見て首を振った。

「奥様がいない日を狙って浮気とは。私は悲しいですぞ」

「早く彼女を連れ出してくれ。俺はもう一度湯浴みをしてくる」

 冗談を言うマルコに、ヴァルターは頭をおさえたまま言って部屋から出ようとする。

「ヴァル様!待って!」

 慌ててベッドから降りようとするキァラが、よろけてその場に転んだ。

「正直、気分が悪い。俺の許可なく寝室に侵入した罪については、クルトが帰ってきたら話そう」

 妹同然に思っていた女性が、夫婦のベッドに裸で入っていた衝撃は大きかった。裸に近い格好で迫られていながらも、ヴァルターはキァラの好きが兄のような存在を勘違いしている、と信じたかった。

(――こんなことがあった以上、もうここには置いておくことはできん。夫婦の寝室に勝手に入るなんて。……ん?もしかすると、コルネリアにもキァラが何かしたのか?)

 突然浴室に入って迫ってきたり、夫婦の寝室に無断で入室した挙句、下着姿で待機をしたりする。

 そんな無茶苦茶な行動をするキァラが、コルネリアに何か嫌なことをしたのかもしれない。そうヴァルターは思った。

「やはり。明日コルネリアが帰ってきたら話そう」

 脳裏に下着姿のキァラが浮かび、そして見たこともないコルネリアの下着姿が浮かんだ。

「コルネリアなら大歓迎なのにな」

 思わず心の声が漏れ、はっと口を手で覆う。廊下を歩いていた使用人は、聞こえなかったふりをして通り過ぎた。








「なんでよ!」

 自室に帰ったキァラは、壁に向かってまくらを思いっきり投げ、叫んだ。

 自分の見た目や身体に自信があったキァラは、下着姿を見ても手を出さなかったヴァルターが信じられなかった。

「せっかく、あの女も邪魔する兄様もいなかったのに」
 
 がじがじ、と爪を噛みながら考える。

 キァラに用意された部屋はこじんまりとしている
が、部屋中物が散乱しており足の踏み場がない。

「全員があの女をよくいうのが許せない……そうだ」

 爪を噛むのやめて、キァラがにたりと笑う。

「加害者にしてやればいいのよ。屋敷のみんなからも嫌われればいいんだ」

 キァラの脳内ではヴァルターに受け入れられなかったことも、コルネリアに原因があると考えていた。

 そして、元凶であるコルネリアがいなくなれば、ヴァルターが振り向いてくれると本気で思っていたのだ。

「聖女っていっても、所詮気弱で話すこともできない私生児じゃない。周りを丸め込むなんて簡単よ」

 コルネリアはそんなにおとなしい性格ではないが、ほとんど関わったことがないキァラは気弱だと信じ込んでいた。

 紙とペンを床に散乱する物から引っ張り出すと、コルネリアの性格を勘違いしたまま、計画を立て始めた。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

【完結】アラフォー聖女、辺境で愛されます。~用済みと追放されましたが私はここで充実しています~

猫燕
恋愛
聖女エレナは、20年間教会で酷使された末、若い新聖女に取って代わられ冷淡に追放される。「私の人生、何だったの?」と疲れ果てた彼女が流れ着いたのは、魔物の呪いに苦しむ辺境の村。咄嗟に使った治癒魔法で村人を救うと、村の若者たちに「聖女様!」とチヤホヤされる。エレナの力はまだ輝いていた――。追放されたアラフォー聖女が、新たな居場所で自信と愛を取り戻す、癒やしと逆転の物語。

本物聖女の力は無力でした ――見世物レベルの聖女のおかげで婚約破棄されました――**

鷹 綾
恋愛
魔法が存在しないと信じられていた世界に、 突如として現れた「本物の聖女」。 空中浮遊、瞬間移動、念動力―― 奇跡を披露した平民の少女は、たちまち市民の熱狂を集め、 王太子はその力に目を奪われる。 その結果、 王太子の婚約者だった公爵令嬢アストリアは、 一方的に婚約を破棄されてしまった。 だが、聖女の力は―― ・空中浮遊は、地上三十センチ ・瞬間移動は、秒速一メートル ・念動力は、手で持てる重さまで 派手ではあるが、実用性は乏しい。 聖女の力は、見世物レベル。 少なくとも、誰もがそう判断していた。 それでも人々は喝采し、 権威は少女を縛り、 「聖女」という立場だけが一人歩きしていく。 そんな中、婚約破棄された公爵令嬢アストリアは、 ある違和感に気づき始める。 ――奇跡よりも、奪われているものがあることに。 派手な復讐はない。 怒鳴り返しもしない。 けれど静かに、確実に、 “正しさ”は明らかになっていく。 見世物にされた奇跡と、 尊厳を取り戻す少女たちの物語。 ---

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

『義妹に婚約者を譲ったら、貧乏鉄面皮伯爵に溺愛されました』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「お姉さまの婚約者が、欲しくなっちゃって」 そう言って、義妹は私から婚約者を奪っていった。 代わりに与えられたのは、“貧乏で無口な鉄面皮伯爵”。 世間は笑った。けれど、私は知っている。 ――この人こそが、誰よりも強く、優しく、私を守る人、 ざまぁ逆転から始まる、最強の令嬢ごはん婚! 鉄面皮伯爵様の溺愛は、もう止まらない……!

大好きだった旦那様に離縁され家を追い出されましたが、騎士団長様に拾われ溺愛されました

Karamimi
恋愛
2年前に両親を亡くしたスカーレットは、1年前幼馴染で3つ年上のデビッドと結婚した。両親が亡くなった時もずっと寄り添ってくれていたデビッドの為に、毎日家事や仕事をこなすスカーレット。 そんな中迎えた結婚1年記念の日。この日はデビッドの為に、沢山のご馳走を作って待っていた。そしていつもの様に帰ってくるデビッド。でもデビッドの隣には、美しい女性の姿が。 「俺は彼女の事を心から愛している。悪いがスカーレット、どうか俺と離縁して欲しい。そして今すぐ、この家から出て行ってくれるか?」 そうスカーレットに言い放ったのだ。何とか考え直して欲しいと訴えたが、全く聞く耳を持たないデビッド。それどころか、スカーレットに数々の暴言を吐き、ついにはスカーレットの荷物と共に、彼女を追い出してしまった。 荷物を持ち、泣きながら街を歩くスカーレットに声をかけて来たのは、この街の騎士団長だ。一旦騎士団長の家に保護してもらったスカーレットは、さっき起こった出来事を騎士団長に話した。 「なんてひどい男だ!とにかく落ち着くまで、ここにいるといい」 行く当てもないスカーレットは結局騎士団長の家にお世話になる事に ※他サイトにも投稿しています よろしくお願いします

幸せじゃないのは聖女が祈りを怠けたせい? でしたら、本当に怠けてみますね

柚木ゆず
恋愛
『最近俺達に不幸が多いのは、お前が祈りを怠けているからだ』  王太子レオンとその家族によって理不尽に疑われ、沢山の暴言を吐かれた上で監視をつけられてしまった聖女エリーナ。そんなエリーナとレオン達の人生は、この出来事を切っ掛けに一変することになるのでした――

【完結】異世界から来た聖女ではありません!

五色ひわ
恋愛
 ミシュリーヌは、第四王子オーギュストの妃としてフルーナ王国の王宮で暮らしている。しかし、夫であるオーギュストがミシュリーヌの寝室に訪れることはない。ミシュリーヌは聖女の力を持っていたため、妻に望まれただけなのだ。それでも、ミシュリーヌはオーギュストとの関係を改善したいと考えている。  どうすれば良いのかしら?  ミシュリーヌは焦っていた。七年間かけて国中の水晶を浄化したことにより、フルーナ王国は平穏を取り戻しつつある。それは同時に聖女の力がこの国に必要なくなったことを意味していた。  このまま、オーギュストの優しさに縋ってお飾りの妻を続けるしかないのだろうか。思い悩むミシュリーヌの前に現れたのは、オーギュストの恋人を名乗る女性だった。 ・本編141話 ・おまけの短編 ①9話②1話③5話

現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。

和泉鷹央
恋愛
 聖女は十年しか生きられない。  この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。  それは期間満了後に始まる約束だったけど――  一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。  二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。  ライラはこの契約を承諾する。  十年後。  あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。  そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。  こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。  そう思い、ライラは聖女をやめることにした。  他の投稿サイトでも掲載しています。

処理中です...